東京都森林組合 様の導入事例

東京都森林組合

【業務内容】
森林整備事業や材木加工・販売事業
【利用用途】
施業管理、請求・支払管理、加工・販売管理業務、組合員台帳
  • 林業のクラウド化推進に貢献するkintone
  • 環境を守るために欠かせない森林の情報管理基盤を整備

※本事例は2018年6月 取材しております。

意外にも東京都の面積の約4割が森林。その森林を所有する森林所有者を組合員として、森林を整備する事業などを行っている東京都森林組合では、これまで業務基盤として利用してきたExcelから脱却し、ワンオペレーションで完結できる新たな業務基盤の整備を実施し、その環境としてkintoneを利用している。
kintoneを導入した背景や将来目指す姿について、東京都森林組合 代表理事組合長 木村 康雄氏および専務理事 齋藤 孝氏、森づくり推進部 事業企画グループ 野口 茂樹氏、そして、kintone導入の支援を行った株式会社クラウドデザインラボラトリー 代表取締役 荻矢 隆雄氏および取締役 渡邊 純一氏にお話を伺った。

【課題】業務改善を前提とした森林管理業務の基盤づくり

新体制の下で踏み出した業務改善プロジェクト

2002年に東京都の多摩地区にあった6つの森林組合が広域合併し、新たに誕生した東京都森林組合。「組合員・地域とともに、森林とともに」を経営方針に掲げ、国の森林林業基本法に基づいた森林計画計画の策定をはじめ、スギ花粉発生源対策などの森林循環促進事業や集約化施業・保育施業などを行う森林整備事業や多摩産材の利用拡大を目指した加工・販売事業など、さまざまな事業を手掛けている。

そんな同組合では、2015年5月に木村氏が新たな組合長に就任したが、その折に現場を見たうえで業務改善の必要性を感じたと当時を振り返る。

「複雑な業務は確かにありますが、情報の重複入力など無駄な業務も数多く見受けられました。業務自体がワンオペレーションで完結できるような仕組みにすることで、省力化を図るべきだと考えたのです」

そこで以前から仕事でお付き合いのある荻矢氏に業務改善に向けたコンサルティングを依頼し、全ての業務を棚卸したうえで業務改善プロジェクトをスタートさせることになる。

その中で、まず着手することになったのが、組合員や取引先との業務における施業管理や請求・支払管理などの森林管理業務と、木材を加工して販売する加工・販売管理業務に関するシステム化だった。

「現場の業務改善だけでなく、数十年単位で行う森林業務において必要になってくる森林情報のデジタル化、施業実績の蓄積を含めたデータベース化への取り組みも、森林組合の今後という意味では重要だったのです」と木村氏は振り返る。

東京都森林組合 代表理事組合長 木村 康雄氏

株式会社クラウドデザインラボラトリー 代表取締役 荻矢 隆雄氏

紙や巨大なExcelによる管理からの脱却を目指す

まず取り組んだのが、木の伐採やメンテナンスなど年間900を超える施業プロジェクトの管理に利用してきたExcelの刷新だった。

「およそ1年間で900ほどのプロジェクトがあり、それらを全て1つのExcelで管理していました。この巨大サイズのExcelはファイルサーバーに置かれ、20人ほどの担当者が適宜入力を行っていたのです」と野口氏は語る。

1つのExcelで管理していたため、一人がファイルを使用していると他の担当者はデータの入力待ちとなり、その待ち時間のために残業せざるを得ないことも。担当者にストレスを与えるだけでなく、Excelファイルの破損などのリスクも抱えながらの運用が続いていたのだ。

東京都森林組合 森づくり推進部 事業企画グループ 野口 茂樹氏

並行して着手したのが、加工・販売管理業務におけるプロセス改善だ。「見積から請求書に至るすべてのプロセスが手書きの伝票にて行われていました。最終的にはExcelで台帳管理されていましたが、同じことを何度も入力するなど業務の無駄が数多く発生していたのです」と齋藤氏は当時を振り返る。

この加工・販売管理業務についても、1度入力した情報が活用できるようワンオペレーションで業務が進められるよう改善が求められていたのだ。さらに、市町村ごとに求められる森づくり事業に関する提出書類がトータルで200種類ほどあり、自治体によって全てフォーマットが異なっているため、これもワンオペレーションで各帳票が簡単に出力できる仕組みが求められた。

他にも、組合員などのデータベースも別の部署で管理されており、アクセスしにくい状況にあった。「権限はしっかりと担保した状態で、共通基盤のなかでオープンに利用できる仕組みが必要だったのです」と齋藤氏は説明する。

東京都森林組合 専務理事 齋藤 孝氏

【導入】クラウドによる情報基盤構築を推進

プロトタイプを見せることで具体的なイメージを喚起

新たな基盤づくりについては、情報管理のルールやセキュリティポリシー作りを事前に行ったうえで、クラウドの利活用を進める荻矢氏が新たな環境を提案することに。

前提としては、ITに詳しくない人にも入力しやすいインターフェースであること、そしてデータベースとして活用できる基盤であることだった。そこで注目したのが、サイボウズが提供するkintoneだった。

「我々が起業したタイミングで社内の基盤としてkintoneを活用しており、その利便性の高さは実感していました。我々のほうで事前にプロトタイプとなるアプリを作成し、その場でイメージを共有いただくなど、すぐに動くものがお見せできるという利便性の高さもkintoneをお勧めしたポイントの1つです」と渡邊氏は説明する。

株式会社クラウドデザインラボラトリー 取締役 渡邊 純一氏

画像も含めた情報管理の基盤にkintoneが最適

特に施業プロジェクトの管理に課題を持っていた野口氏は、施業した時点で撮影した山林の画像がプロジェクト情報と一緒に管理でき、タブレットなどで気軽に閲覧できる仕組みを希望していた。

「数十年単位で山は成長するため、目印を木につけることはもちろん、写真を撮影することで記録としてしっかり残しています。いずれは組合員である山主の方へのサービス向上にもつながるよう情報管理したいと考えていました。kintoneであれば、プロジェクトごとに写真も一覧で管理でき、いつでも閲覧しやすい基盤になり得ると考えたのです」と野口氏は評価する。

実際にkintoneで基盤を構築した渡邊氏は「データベースとして活用でき、業務基盤として活用できるPaaSという意味ではkintoneは使いやすい。Salesforceでは柔軟性に欠ける部分がどうしても出てきます。職員の方でも負担なくメンテナンスができるような仕組みという点も考慮し、kintoneが最適だと考えたのです」と評価する。

結果として、同組合が抱えていた業務の無駄を解消するための基盤としてkintoneが採用されることになる。

【効果】林業におけるIT化推進の基盤として幅広く活用

コメント機能も活用、標準機能で各種業務を支援

現在は、大きく分けて森林管理業務と加工・販売管理業務、そして各種マスターとなる共通管理業務の主に3つの業務でkintoneが活用されている。

森林管理については、実際の現場作業における施業管理を中心に、契約管理や請求・入金管理、作業に利用する工具など購入費や外注費などの支払管理が行われており、請求書そのものもkintoneにて帳票出力し、別途会計システムへデータ連携する形だ。

加工・販売管理についても、これまで紙で行われてきた受注処理から請求までの一連のフローがkintoneにて行われており、各部門を含めて50名ほどの職員がkintoneを使って各種管理を行っている。

施業管理アプリ

レコードごとのコメント機能

さらに共通管理業務については、職員や取引先、組合員台帳、販売加工に関する品目など各種マスター管理から、組合員となる山主からの会費にあたる賦課金の請求管理などもkintone上で実施されている。これら基本的な機能はすべて標準機能で作成されており、メンテナンスも考慮したうえでJavaScriptは使わないことを基本方針にアプリ開発が行われている。

月次締めの期日案内や取引先のコード重複といった訂正が必要な情報を利用者に対して通知する場合は、スペースの機能を使って周知徹底していると野口氏。

「相続で代替わりしたといった組合員の情報更新が発生した場合は、レコードごとのコメント機能を活用してやり取りしています。開発いただいているクラウドデザインラボラトリーへの指示もコメント機能を使っています」とkintoneにおけるコミュニケーション機能の使い方を説明する。

待ち時間の解消でストレスを軽減、200帳票も簡単出力可能に

kintoneを導入したことで、これまでの二重入力によって起こりうるミスの撲滅やExcel入力待ちといった時間的な負担が軽減できていると野口氏は評価する。

「クラウド環境にアクセスすればいつでも自由に入力できるようになり、利用者のストレスは大きく軽減できているのは間違いない」。

今は部署ごとにクラウドチームを結成しており、新機能への要求や既存機能の改善要望などが日々寄せられるなど、多くの職員が積極的に利用している状況にある。すでにアプリのメンテナンスも一部野口氏自身が手掛けるなど、自分たちでアプリ改修できるという手軽さも評価の1つに挙げている。

また、200種類もある自治体向けの帳票も、すべて手作りしていた環境から脱却し、kintone連携サービスのプリントクリエイターを使ってボタン1つで帳票作成できるようになった。

「以前はすべて手作業で作り込んでいたため、入力ミスなどで提出し直すこともありましたが、今はkintone上にある元データを活用し、ボタンを押すだけで帳票作成できます。おそらく工数的には7割減といった効果にはつながっているはずです」とワンオペレーションの効能を野口氏は力説する。

kintoneについては、ITに不慣れな人にもとっつきやすいソリューションだと野口氏は表現する。「我々の業務に合わせて開発いただいたことで仕様書的なものがない割には、特に文句もなく、すんなり利用いただいています」と直感的に理解できるkitnoneのインターフェースを評価する。

なお、業務改善プロジェクトを推進しているクラウドデザインラボラトリーに関しては、「意見が現場によってまちまちで仕様がはっきりしない中でも、うまく意見をくみ取って形にしていただけて大変感謝しています。我々の業務をしっかり理解いただけたことが、結果としていい基盤づくりにつながったと思っています」と野口氏は評価する。

森林情報のデジタル化に向けた基盤づくりを強力に推し進める

今後については、森林情報のデジタル化を進めていくことで、変化にも柔軟に対応できる基盤に育てていきたいという。

「森林を守っていくための森林環境税や森林環境譲与税などの導入が検討されていますが、面積や整備状況などのデータベースを整備することで、自治体からの要請にも対応でき、我々からも今の森林の状況を踏まえたプレゼンができるようになります。まさにkintoneを基盤にその情報源として活用していきたい」と齋藤氏は語る。

森林簿や林地台帳など自治体が持つ情報ともAPIで連携していくなど、kintoneを軸に情報基盤としてさらに活用していきたい考えだ。

また、組合員に対するサービス向上の一環として、画像を使って施業時の状況を視覚的に見せることや、ドローンを使って動画を撮影し、高齢化が進む組合員にも状況把握してもらいやすい環境を作りたいと野口氏。

実際には山林の図面や測量データなども境界明確化と呼ばれるアプリで管理していくことが計画されており、GPSの情報も含めた情報管理にもkintoneを役立てていきたいという。

また視覚的に色分けして表示するものやスケジュール調整しやすいガントチャートといった、各種プラグインを柔軟に使い分けていきたいと野口氏は語る。

最後に組合長の立場から木村氏は、「限りある予算を最適な配分で執行していくためにも、予算統制をしっかり図っていきたい。同時に部署ごとの予算に対する意識も醸成させていくことも必要です。そのための基盤としてもkintoneに期待しています」と語っていただいた。