京王グループ 様の導入事例

京王グループ

【業務内容】
運輸業、流通業、不動産業、レジャー・サービス業など
【利用用途】
全社共通業務を含む、グループ内での幅広い業務
  • ネガティブな意見もスピード感ある対応で払しょく。業務改革の武器となるkintoneを京王グループの様々な場面で展開開始。

運輸業をはじめ、流通業、不動産業、レジャー・サービス業など大きく5つの事業グループでビジネス展開している京王グループにおいて、業務改革を成し遂げるための武器としてkintoneを積極的に活用し、今ではグループ全体に波及しつつある状況を作り出した、京王電鉄株式会社 経営統括本部 デジタル戦略推進部長 虻川 勝彦氏。kintone導入に至る経緯からその展開に向けた工夫、そしてグループ全体に広げていくために注意しなければならないことなど、社内展開に向けての勘所について尋ねました。

全てはバスから始まった、kintoneとの出会いから導入まで

どのような経緯からkintoneを導入することになったのでしょうか。

8年前に京王電鉄の経営企画部から京王電鉄バス(以下、京王バス)にシステム担当課長として異動し、部署名を「システム業務推進担当」と変えてITを駆使して業務改善に取り組んでいく事となったことが、kintone導入のきっかけとなりました。当時は個別最適化されたシステムや、作った本人しかわからない“お化けExcel”が多数存在していました。早急な改善が必要だと思いましたが、目の前で行われている業務に新たに予算をつけることが難しく、マンパワーで乗り切っている感じが強かったです。この環境をkintoneによって打開しようと考えたのです。

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京王電鉄株式会社 経営統括本部 デジタル戦略推進部長 虻川 勝彦氏

業務改善をしたいというモチベーションの源泉はどこにあったのでしょうか

現場や各部門を見渡した時に、紙の台帳を使った生産性の低い業務や、システムを使っていても複数のシステムやExcelに重複入力していたり、不要なデータを入力しなければいけない業務が点在していました。現場スタッフの負担だけでなく、お問合せをいただいたお客様への対応が遅れるなど様々な影響が見受けられていました。私たちはシステム開発の経験があるメンバーばかりではありませんでしたので、システムのプロではなく“業務改善のプロ”を目指そうと取組んでいきました。

その視点に立つとユーザの業務がこう変わり何ができるようになったとか、お客様への対応がこう変わったなどが明確に見えてきて、喜んでもらえていることが分かち合えます。最終的に顧客満足度・従業員満足度を上げていく支援をすることが我々のミッションだと考えていましたので、kintoneの高い生産性のおかけで次々と新しい目に見える改善ができていく充実感や嬉しさがモチベーションアップにつながっているのではないでしょうか。

kintoneを使うことに対して現場から反発はありませんでしたか  

社内の会議でkintoneを紹介する場面では、そんなわけのわからないもので大丈夫なのかといった声もありましたし、システム部内でも細かい設定ができない、帳票が見づらいなど機能的に十分ではない部分を指摘し「こんなこともできないのであれば採用したくない」とネガティブな声もありました。確かにスクラッチで時間とお金をかければいいものができるのは当然です。そこでkintoneでは正直100点満点のシステムは目指せないとまずはっきりと説明しました。その代わり、デモを交えながら構築のスピードやコスト感、改修の迅速さなど、スクラッチの仕組みに比べて“オイシイ”部分をアピールしていきました。

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例えばコスト感であれば、1つのアプリしか使わないなら1ユーザ月額1,500円だけど、100アプリ使ったら1アプリあたり15円という金額で使えることを伝えてきました。そんなに安いサービスは他にないですよね。また、特にスピード感は重視したポイントで、要件をヒアリングする打合せで、話を聞きながら打合せ中にアプリを作っていき、打合せの終盤で「こんな感じですかね?」とその場でアプリを見せる。ユーザは「もうできてるの!?」って驚くわけです。100点満点の仕組みではないものの、使えるものがすぐにできる、簡単に改修できるということをその場で見せていくことはとても効果があります。

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導入後、kintoneを浸透させていく上で何か工夫したことはありましたか  

kintoneで作ったアプリのマニュアルは基本ユーザに作成いただいたことですね。これをすることで、ユーザにその業務アプリの専門家が育成され自分事の業務として捉えてもらえます。まるで業務アプリを自分の子供のように感じてもらえている人もいました。そうすれば、もっとこうしたほうがいいというアイデアもどんどん出てきますし、問合せもその方がほとんど受けてくれてシステム部門への問合せはほとんどありませんでした(笑)。新たな課題が生まれたときにはkintoneで改善できるのではという発想につながるようになりファンが増えていきました。

結果として京王バスはどんなふうに環境が変わりましたか

kintoneという武器をフル活用することで、いろいろな要望に迅速かつ真摯に応えていくことが可能になり、“あいつらなら何とかしてくれるだろう”と言ってもらえるようになってきました。これまで可視化できていなかった現場のノウハウもしっかり共有できるようになっていくなど、いいスパイラルで業務が回っていると思います。

キラーコンテンツからシステム化!社内展開の勘所

京王バスではkintoneが業務改革の武器として機能しているようですが、グループへの展開も行っていると聞いています

最初に取組んだのは、グループ内で起きたセキュリティインシデントを検知した時に対応方法の提供や情報連携をするセキュリティポータルへの展開です。グループにおけるシステム部門やホームページ担当との全社共通業務として運用しているもので、以前は別のソリューションで構築されて一部の会社に展開していました。しかし、ライセンス費用が高かったことで全社への展開は難しかったため、kintoneを使って構築し直したのがグループ全体へ横串に展開した第一歩となります。現在ではいろいろな業務に応用されており、グループ全体に増殖しつつあるところです。

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なぜセキュリティポータルから始めようと思われたのでしょうか

京王電鉄での展開を始めたばかりでしたので、自部門で管轄している全社共通業務であれば展開も早いと考えたからです。既存コストよりも安価になり、かつ全社に行きわたるように範囲を広げてられたのでとても進めやすかったです。今後は、このセキュリティポータル上に京王電鉄で活用しているセキュリティ関連の教育コンテンツを載せるなど、いろいろな情報を増やして使ってもらい、自分達ならこんな使い方ができるかもと想像してもらって各社の業務改革にも活用してもらえると嬉しいですね。

グループ各社にkintoneが広がっていった大きなきっかけはどんなところにありますか

セキュリティポータルを通じて水面下でじわじわ浸透していったことはもちろんですが、2万部ほど発行されているグループの広報誌で紹介されたことの効果は大きかったと思います。京王電鉄の社長以下グループ会社から数人に集まってもらいIT活用のディスカッションをする記事だったのですが、私がCEOを務める「感性AI株式会社」のシステム開発経験の全くない管理部長に、その場でkintoneアプリを作ってもらいました。

簡単に業務アプリが作れることを紹介してもらったことが契機となり、他部署やグループ会社の方からも、「うちでもこういうのやりたいんだよね」「今までメールだったものをkintoneでアプリ化して情報をしっかり管理したい」というご相談をいただく機会が増えてきています。自社やグループ各社で「この仕組み、意外とよくない?」という話がじわじわと出てきて、kintoneがグループ内で増殖していっているのです。

社内へkintoneを展開させていくためには、どんなことから始めるべきだとお考えでしょうか

例えばグループ会社を統括する部署では、グループ各社の計画を取りまとめているのですが、以前は全てメールでやり取りをしていました。このコミュニケーション部分をkintoneに置き換えることで、情報が集めやすく確認もしやすい、かつ見たかどうかのログも残すことができます。グループ全体の業務のなかで、いわゆる必ずやらないといけない業務、つまり“キラーコンテンツ”をkintoneにて提供していくことが有効ではないでしょうか。とっかかりとしてはシステム部が管理するセキュリティポータルからでしたが、各社の管理部門の中心になっている人たちが関わる業務からシステム化していくことで、普段ITという発想に思い至らないところにうまく広げていくいことができます。そんなケースで積極的に導入していくと波及効果が出やすいはずです。

広く展開していくときに注意すべきことはありますか

誰でも簡単にアプリが作成できるkintoneだけに、きちんと整合性の取れたデータ、システムにしていくことを意識しなければなりません。野良アプリなどが蔓延してくると、きちんと運用されなくなってしまい、結果として誰も更新しないことでデータの鮮度が落ちてきます。そんな状態でアプリを使い “kintoneは使えない”と思われてしまうことは避けなければなりません。

簡単な例をあげると、全組織にkinetoneが導入されていない場合などでは、各アプリで使う会社名や部署名などはきちんと統一されたマスターを参照するように徹底してください。個別のアプリ上にデータを持ってしまうと古い情報がそのまま残ってしまいがちで運用も大変です。アプリを触った人が不信感を招かないように、全体のデータ設計はしっかりと行う必要があります。その意味で、データ不整合・重複入力の防止をするためにも全体的なデータ管理をする人はしっかりと置くべきです。運用工数を抑えて継続的に使っていくためには、データの整合性が担保された環境づくりを意識することが重要となります。

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体制づくりも重要ですね

まだ当社ではアプリづくりをユーザに全面的に開放していません。各事業担当者からみると当然自分の業務を実現できればいいので個別最適な仕組みになります。短期的にはそれでよいのですが、長い目でみると先ほど言ったように相当の運用工数をかけないとデータ不整合や鮮度低下が発生していきます。全社的にみるとあちこちの部署で同じデータを入力するなんてことも起きてきます。ここはシステム部門がきちんと全社を俯瞰して全体最適な仕組みを構築していかなければなりません。その意味でも、マスター系は絶対に我々が維持していく必要がありますし、アプリの作り方も最適化されている必要はあります。そうすることで、グループ内でも情報鮮度が保たれます。

もし新しい業務がどこかで生まれたり情報が変わったりした場合も、最初の一人が更新されていないことに気づいて対応すれば、それが全社的に反映されていくので、みんなで補完し合いながらkintone全体の精度を上げていくことができます。グループ全体で見ればまだこれからの部分もありますが、個社が持っている情報で共有されるべきデータは、EAIツールで自動的に集めて、kintoneを見れば常に最新の情報があるとような環境は、今後も推し進めていきたいですね。

継続性を担保していくためには、データの整合性のほかにも必要なことはありますか

kintoneを使う際には、カスタマイズは本当に最後の手段として考えており、実際にカスタマイズしているアプリは1つしかありません。作り込んでしまうと誰でもメンテナンスできるものではなくなります。また、カスタマイズしないことでアプリの設定画面そのものが仕様書のように活用できるものも多いです。データ設計は別のツールで可視化していますが、生産性向上には不要なドキュメントを無くすというのも非常に効果的です。

使い勝手向上という面では、プラグインの活用で大きく助けられています。最近は使い勝手の良いプラグインが多く出ているので、JavaScriptを利用したカスタマイズは避けますがプラグインは積極的に使っているとも言えます。

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最後に、今後について教えてください

グループで情報を活用する基盤としてkintoneはとても有効だと考えており、今はどこにいても最新の情報が入手できて活用できる形にもっていくことを目指しているところです。また、遅ればせながら働き方改革を実現するための環境整備についても進めている段階にあり、kintoneも大きな柱の1つになっていくと思います。まだ残っているアナログな業務はkintoneで積極的にデジタル化して可視化、共有化していき、そのうえで自動化できるものはRPAを使っていく。そんな流れでkintoneをさらに活用していきたいですね。

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(2019年4月取材)