三菱重工業 様の導入事例

三菱重工業

【業務内容】
機械、建設機械、航空機、船舶、防衛機器の製造・販売
【利用用途】
社内ポータル、案件管理、問い合わせ管理、台帳管理、備品管理、コミュニケーション
  • 顧客体験向上を目指すデジタルエクスペリエンスデザインを強力に推進
  • 三菱重工のスピーディーな業務システムの開発・業務改善に貢献するkintone

エンジニアリングとものづくりのグローバルリーダーとして、 民間航空や輸送、発電所、ガスタービン、機械、インフラなどさまざまな事業を展開している三菱重工業株式会社では、カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)の高度化を目指すデジタルエクスペリエンスデザインを強力に推進するための環境づくりにkintoneを活用している。そんなkintone採用の経緯や具体的な取り組みについて、成長推進室 デジタルエクスペリエンス推進室 室長 川口 賢太郎氏、同室 CRMグループ グループ長 山本 浩道氏および同グループ 大城 薫氏にお話を伺った。

【課題】事業の収益性を上げるためのデジタル化が必要に

事業会社におけるデジタル化を加速させる、デジタルエクスペリエンス推進室の試み

三菱の創業となる九十九商会が政府から工部省長崎造船局を借り受けた1884年に創立、重厚長大産業のリーディングカンパニーとして日本経済を大きくけん引している三菱重工業株式会社。世界の顧客や地域社会とともに、持続可能な社会の発展に向けて、世界を着実に前に進めていくことを標榜する「Move the world forward」をタグラインに、エンジニアリングとものづくりのグローバルリーダーとして、人々の豊かな暮らしを実現するためのさまざまな環境づくりに取り組んでいる。

そんな同社で事業会社におけるデジタル化の加速を支援するために2018年に立ち上がったのが、成長推進室 デジタルエクスペリエンス推進室だ。「IoTやAIなど新たな技術の重要性が高まるなか、各事業会社のデジタル化に向けたリソースが十分に確保できないという経営課題に応えるべく、我々の部署が設置されました。」と説明するのは川口氏だ。

三菱重工グループでは、TOP(Triple One Proportion)という経営目標を掲げ、売上高、総資産、時価総額の比率が1:1:1の均等なバランスになることを目指している。ところが、総資産と比べて、時価総額の比率が低い。そこで、デジタルエクスペリエンス推進室では、時価総額の比率の向上に貢献できるように事業の収益性を上げることがミッションとなっている。

成長推進室 デジタルエクスペリエンス推進室 室長 川口 賢太郎 氏

デジタル化に向け、迅速かつ負担なく業務基盤が整備できる仕組みを求めた

ライフサイクルの長いプロダクトを数多く手掛けている同社だけに、長期的な事業の収益性を高めていくためには、カスタマーエクスペリエンスの向上が重要になってくる。そこで同室では、カスタマーエクスペリエンス向上を目指すためのデジタルエクスペリエンスデザインを強力に推進している。「デジタルエクスペリエンスデザインを推進するために、活動の対象を3つの領域に分けています。従業員の業務改善に貢献するEmployee eXperience(EX)、顧客エンゲージメント向上を目的としたCustomer eXperience(CX)、そしてデジタル化起点での製品開発を目指したProduct Transformation(PX)です。この3つのなかで短期的なROIとして収益に貢献できるEXやCXの領域に対する新たなプロジェクトが始まったのです。」と川口氏は説明する。

mitsubishi-hi_1.png

具体的に、従業員およびお客さま双方のエンゲージメント改善に向けて、それぞれ抱える課題を解消していくことになるが、そのプロセスをできる限り負担なく迅速に実施できるアプローチが求められていたという。「従来は業務上の課題が顕在化していても、改善に向けた取り組みに踏み出すまでの負担が大きく、我慢を強いられることで前に進まなかった状況も散見されていました。そんな負の連鎖を断ち切れるような環境づくりが、ユーザのエンゲージメント改善には必要不可欠だったのです」と山本氏は説明する。

また、このような改善を迅速に展開していくための組織作りにも特徴がある。「各事業部門が抱える多種多様な業務の改善に迅速に取り組んでいくためには、現場に安心感・信頼感を与えて、現場に寄り添っていく必要があります。そこで、デジタルエクスペリエンス推進室は、事業部門から異動してきてもらうなどして、ITの専門集団ではない、さまざまなスキルを持った混成集団を目指しました。」と川口氏は説明する。

成長推進室 デジタルエクスペリエンス推進室 CRMグループ グループ長 山本 浩道 氏

【選定】UXはもちろん、開発のしやすさも高評価だったaPaaSのkintone

まずは顧客のエンゲージメント改善に向けて、以前からデジタル化のロードマップ策定が進んでいたグループ会社の産業機械系事業本部で環境づくりを進めることに。ここで注目したのが、サイボウズが提供するkintoneだった。「事業本部ではERP的な業務基盤として有名な海外CRMシステムを利用していたため、既定路線であれば同システムがそのまま採用されていたはず。しかし、あるべき姿を実現するための手段が限定されてしまうことは決して望ましいものではありません。そこで、SaaSとしての同システム以外の手法も模索するなかで出会ったのが、aPaaSとして利用できるkintoneだったのです」と川口氏。

製品選定では、2週間という短期間でそれぞれプロトタイプを作成し、事業本部のメンバーに触れてもらいながら検討を重ねることに。「プロトタイプの作成は、使い勝手を確認するだけでなく、開発のしやすさの確認も兼ねていました」と川口氏。そのなかで、柔軟に開発できるkintoneの魅力について、現場も含めて納得感が得られたことが大きなポイントだった。「SaaSとしての海外CRMシステムは最初から機能が備わっており、それでいいのではという意見もあったのが正直なところです。しかし、kintoneでも十分実現できることがわかった段階で、コストを比べてみると雲泥の差がありました。現場と話をしながら短期間のうちに改善していけるというメリットも考慮し、事業本部側でも納得した形でkintoneを採用する決断をしたのです」と山本氏。

mitsubishi-hi_2.png


		

【効果】内製化を推進し、顧客および従業員とのエンゲージメント改善を実現

わずか3か月でポータルサイト構築、問い合わせ管理の一元化を実現

顧客との接点を強化して、顧客による自己解決を促すためのポータルサイトは、kintoneを導入してからわずか3か月で構築された。日々改善を続けながらも、問い合わせ管理の一元化と顧客接点強化、顧客による自己解決につながる環境を整備することに成功している。
また、ポータルサイトには、問い合わせチケットの一覧や問い合わせフォームなどが用意され、すでに約2000件のチケットが発行されている状況だ。「以前は紙やFAXでやり取りされていた製品に関する問い合わせが一元的に蓄積でき、管理者はチケットの処理状況を簡単に確認できるようになりました」と山本氏。

mitsubishi-hi_3-1.png

よくある質問がまとまったFAQ情報も400件を超える数が登録されており、現在は社内メンバーの自己解決手段のコンテンツとして活用しているが、いずれは顧客にも公開していくことで問い合わせ業務の効率化や顧客の満足度向上につなげていきたいという。「問い合わせ時間をKPIとして設定しており、容易に集計できるようになっています。この遷移を見ながら今後の改善につなげて行く計画です。問い合わせの状況が一元管理でき、コメント機能を使って詳細なコミュニケーションも実現できるなど、業務効率化という意味でも現場から好評です」と川口氏は説明する。

コストパフォーマンスの高さからkintoneに注目した川口氏だが、実際に使ってみると現場でも改善に向けたシステムづくりの民主化が可能な点が本質的な価値だと力説する。そんなkintoneが、今では同室が進めるデジタルエクスペリエンスデザインを推進する強力な武器として活用されている。

業務改善領域と顧客エンゲージメント改善領域にkintoneを適用

"カスタマーポータル"や"問い合わせ管理"といった社員と顧客に対する事業の付加価値を創出して社員・顧客満足度を改善するための取り組みだけでなく、現在は、社員の業務のムダ・ムラを排除して業務改善にもkintoneを活用している。

これらの「業務改善」と「業務システム構築」をそれぞれ利用用途などに応じてレベル分けし、どのレベルの課題に取り組んでいるのか理解しやすくしている。必ずしもレベル1から取り組み始めなければならないわけではないため、デジタルエクスペリエンス推進室では、レベル4を取り組みながらレベル1も同時に取り組んでいる。

mitsubishi-hi_4.png

1.5日で1アプリ開発のスピード感、事業部と近い距離で身近な業務改善を繰り返す

業務改善領域では、kintoneを使って身近にできる業務改善を進めていくべく、案件管理や台帳管理、機器/備品 予約・貸出管理などさまざまなアプリを”まかないアプリ”という形で、構築している。国内の拠点から始めているものの、海外で稼働している製品も数多くあるため、アメリカなどの海外を担当する事業部側にも活用が広がり始めている。

mitsubishi-hi_5-1.pngmitsubishi-hi_6-1.pngmitsubishi-hi_7-1.pngmitsubishi-hi_8-1.png

また、同社では事前にkintone導入企業に現場へ浸透させていくためのアプリ作成のコツをヒアリングして、3つのポイントを意識したアプリ開発に取り組んでいる。

一点目は、同推進室が、各部門からニーズを吸い上げること。現場が自由にアプリ作成すると、利用されないアプリが増えてしまうため、要望は同推進室で集めるようにしている。

二点目は、開発スピードを重視すること。同推進室では、経営改革や大掛かりな業務改善ではなく、今ある業務をそのままデジタル化し、デジタルという道具を現場に展開しながら改善している。そのため、完成度100%をじっくり時間をかけて目指すのではなく、完成度50~60%のものを数日で作成し、とにかく早く改善する。そして、触ってもらったり、利用してもらいながら改善する。「既存業務を我々の方でデジタル化し、すぐに現場に使ってもらう進め方をしています。最初からデジタル化された環境を提供することになるわけで、いわば“ビルド&スクラップ&ビルド”を繰り返すものです」と川口氏。

三点目は、基本機能とプラグインの活用だ。kintone導入当初は、複数のSIerに委託しながら開発を進めるなかで知見を獲得してきたが、現在は、内製化に向けた環境づくりに取り組んでいる。その際、個別のカスタマイズは後々のメンテナンスが属人化してしまうため、帳票出力を行う「RepotoneU」やweb上のフォームからkintoneに情報登録できる「FormBridge」、kintone内のデータを活用したメール通知を実現する「kMailer」、Excel感覚でkintoneが操作できる「krewSheet」、スマートフォンからオフラインでkintone利用が可能な「AppsME」など、数多くのkintoneプラグインを活用している。

mitsubishi-hi_9.png

ほか、現場にkintoneを浸透させるため、事業部と近い距離で取り組むための工夫も実施している。グループ会社の産業機械系事業本部の業務改善では、事業本部の事業所内の会議室を借り切り、1か月ほど常駐して進めていった。「ユーザの声を直接聞いて、欲しい機能をパッと作り、改良を重ねていきました。その場で開発することでkintone理解が利用者の間で進み、コメント機能で相談や依頼も次々と舞い込むようになりました。現場との信頼関係も構築できるなど、相乗効果が生まれています。kintoneはコミュニケーションにも長けたツールだと実感しています」と山本氏は評価する。

mitsubishi-hi_10.png

複数の国内サービス拠点にも足を運んで実際に触ってもらって改善を進め、わずか2か月で40弱、1.5日に1つのアプリを作成するというスピード感で現場に浸透させていくことに成功している。「似通った課題を持っている拠点が多く、1つのアプリを簡単にコピーしながら現場に合わせていくことができています。使われなくなったアプリも当然ありますが、その理由もフィードバックしていくことで知見を獲得することができました」と山本氏。業務理解から始めざるを得ないシステム部門よりも、現場をよく知るメンバーが直接アプリ作成を行うため、現場がストレスを感じることなく機能改善を進めていくことができているという。

mitsubishi-hi_11.png

先ほどの、顧客エンゲージメント改善領域ではカスタマイズを多用しているが、業務改善領域では可能な限り基本機能とプラグインで進めている。「業務システム側はしっかりフローを動かすことが必要になるため、基本機能だけでは実現できない部分をフォローするためにカスタマイズを行っています。一方で、社内の業務改善に資するアプリについては、できる限りカスタマイズせずに進めています」と山本氏。

学びの機会を活用し、業務改善メンバーを増やしていく

立ち上げ当時は数名だったデジタルエクスペリエンス推進室が、現在は約30名になっている。三菱重工グループ8万人に対するデジタル化を推進するために、今後もさらなる人員増加を目指している。

以前は事業部側で10年ほど蒸気タービンの機械保守を担当していた大城氏は、社内応募制度を契機に同室に2020年から参加している。まさにレンチやスパナをkintoneという道具に持ち替え、アプリケーション開発の経験がないなかで現場の業務改善に取り組んでいる。「直感的に触りやすく、学習コストが低いのが、kintoneの第一印象です。ユーザ数が多いkintoneだけに、不明なことはインターネットからすぐに情報が得られるため、開発未経験の私でも十分開発できます」と使い勝手の面で大城氏の評価は高い。

成長推進室 デジタルエクスペリエンス推進室 CRMグループ 大城 薫 氏

パートナー企業のサポートを受けながら内製化による開発を進めているが、cybozu developer networkをはじめ、サイボウズからの情報提供がさまざまな形で行われていることから、学びの機会が得やすいという。

他事業本部への展開も視野に、ワークフロー系の環境づくりも推進

今後は、海外へのさらなる展開とともに、他事業本部への展開を進めていきながら、業務改善および顧客エンゲージメント改善領域でそれぞれ設定しているKPI達成に向けて業務拡張を進めていく計画だ。「業務基盤がパブリッククラウド上に展開しているということもあり、防衛や原子力といった事業部よりも、発電設備や民生機械を扱う産業機械系の事業部に展開していくことを検討しています」と川口氏。

特に業務改善に資する環境づくりに向けては、汎用的なワークフローシステムとしての申請承認業務をはじめ、管理簿の多い業務などへの展開が期待できるという。「アプリを作れば作るほど、1アプリの利用料はどんどん下がっていきます。業務改善に役立つアプリを作っていくことで、実質的な費用を限りなくゼロに近づけていきたい」と川口氏。なお、今後も業務改善の中心的な基盤として活用できるよう、kintoneの基本機能でエンタープライズ系の機能拡充に期待を寄せていると最後に語っていただいた。(2021年3月取材)