記録するだけのお客様の声を製品改善につなげる ── kintone×AI によるVOC分析の始め方
はじめに
「クレームやお客様の声は、きちんと記録している」。多くの企業はそう答えますが、たいてい次のひと言が続きます。「でも、件数が多すぎて、分析まで手が回らないんですよね」と。日々寄せられる問い合わせや要望、クレームに、一件ずつ丁寧に対応している。それなのに、それらが束ねられて「全社の傾向」として見えてくることはなく、気づけば同じようなクレームが別の顧客で繰り返されている──。重要だと分かっているのに、活かしきれていない。多くの企業が直面しているこのギャップこそが本記事のテーマです。
この記事では、kintoneとAIを組み合わせて「埋もれたお客様の声を製品改善に活かせる仕組み」を作る方法について、具体的にご紹介します。
目次
1. 顧客の声の分析は「データ化の入口」と「傾向把握」を分けて考えると前に進む
2. クレームは記録しているのに、分析が追いつかず対応が後手に回る
3. 具体例で見る kintone×AI の実現方法
4. まずはここから
5. よくある質問
1. 顧客の声の分析は「データ化の入口」と「傾向把握」を分けて考えると前に進む
VOC・クレーム分析がうまく進まない最大の理由は、「会話をデータに変えて溜める段階」と「溜めたデータから傾向を読む段階」を、ひとまとめに考えてしまうことにあります。この2つを切り分けて、まずは会話をデータとして蓄積し、そのうえで傾向を読む----という順番で考えれば、「何から手をつければいいか分からない」状態から抜け出せます。
これまで雑多に記録するだけだった電話やWeb会議などの会話を、kintoneに分析できるデータとして集約し、AIで分析する----この仕組みが整えば、埋もれていた顧客の声から「どんな不満やテーマが増えているか」を把握し、製品改善や対応品質の向上につなげられるようになります。2. クレームは記録しているのに、分析が追いつかず対応が後手に回る
「お客様の声」と一括りにされがちですが、実際にはクレーム・要望・問い合わせ・評価の声など、性質の異なる情報が混ざり合っています。記録はしていても分析が進まない----という状況は、現場でよく聞きます。実際、ある調査では、「顧客の声(VOC)を重要」と認識する企業は84.6%にのぼる一方、「十分に活用できている」と答えた企業はわずか14.2%にとどまっており、重要だと分かっていながら、活かしきれていないのが実情です。具体的には、次のような課題が発生しています。(出典)シナジーマーケティング「BtoB企業における顧客アンケート活用実態調査2026」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000280.000045892.html顧客の声が担当者のメモ・個別対応履歴に分散し、全社の傾向が見えない
電話・Web会議・対面の会話は、その場のやり取りで終わるか、要約メモ程度しか残りません。残っても担当者ごとのメモや案件単位のコメントに書かれ、クレームも要望も同じ欄に混ざります。さらにチャネルやツールごとに記録場所が分かれ、「どの顧客の・どの製品の・どんな種類の声か」を横断して束ねる切り口がありません。実際、VOCのデータを「CRM等と自動連携」で管理できている企業は25.6%にとどまり、Excelでの単体管理や手作業での登録、体系的な管理なしを合わせると、約66%が自動連携以外という調査結果もあります。(出典)同調査「BtoB企業における顧客アンケート活用実態調査2026」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000280.000045892.html件数が多く、目視での分類・集計に手が回らない
声が分類されないまま溜まっていくと、件数が増えるほど人の目では追えなくなります。「分析した方がいいのは分かっているが、日々の対応で精一杯」という状態に陥り、データは貯まる一方で、活用されないまま眠ってしまいます。重大なトレンド変化に気づくのが遅れる
集計・分類されていないため、特定の製品への不満がじわじわ増えるといった"重大な変化"に気づけません。気づいたときには、同じ原因のクレームが別の顧客・別の担当で繰り返されていた、ということが起こります。声を上げにくい顧客の不満ほど記録に残りにくく、知らないうちに離反につながるリスクもあります。
突き詰めると、これらに共通する原因はひとつです。"何を分析したいか"と"そのためにどう分類するか"という設計がないまま、声だけが溜まっていること。逆に言えば、目的を決めて構造化すれば、同じデータが資産に変わります。
たとえば、ある製造業のお客様では、特定の商品への問い合わせ・クレーム対応が一部の優秀な営業に属人化し、他の営業はうまく打ち返せず、組織として機会を取りこぼしていました。そこでその営業の会話を蓄積・解析し、「商品/問い合わせ・クレームの種類」という観点でラベル分けしてマニュアル化したところ、他の営業でも同水準で対応できるようになったといいます。"とにかく溜める"のではなく、"どの商品の・どんな課題を解決したいか"を先に決めて構造化したからこそ、不利益が成果に転じた例です。3. 具体例で見る kintone×AI の実現方法
kintone AI とUmee Technologies株式会社が提供する「Front Agent」を組み合わせることで、会話をデータとして蓄積し、そのうえで傾向を読むことが可能になります。
この仕組みでは、会話をデータにする「入口」と、その中身を深く読み解く「インサイト解析」を「Front Agent」が担います。そのうえで、kintone AI を使って、kintoneに蓄積されたレコードをもとに、どのテーマが多いのか、どの不満が増えているのかといった「傾向把握」を対話的に行えます。「傾向把握」は"どんなテーマが多いか"という全体像をつかむ工程、「インサイト解析」は"なぜそうなっているのか"を会話の中身まで踏み込んで読み解く工程、とイメージすると分かりやすいかもしれません。まずは全体像を図で見てみましょう。会話のデータ化(入口)→傾向把握→インサイト解析という順に進みます。![]()
会話データがkintoneに蓄積され、傾向把握・深掘り解析されるまでの全体像。
前章で触れた「ある商品への問い合わせ・クレームが特定の営業に属人化している」という、よくあるケースを題材に、この流れの詳細を順番にご紹介します。ここでは精密温度計「X-200」という架空の商品を例にしています。入口:会話を漏れなくデータ化し、kintoneに自動で集約する
まず入口を担うのが、Front Agentです。電話・Web会議・対面の会話を録音し、テキスト化して、kintoneのレコードへ蓄積します。これにより、これまで"その場で消えていた"会話が、検索・分析できるデータに変わります。
たとえば、ベテラン営業の佐藤さんが受けた、ある顧客との電話を見てみましょう。顧客:「X-200の表示が、実際より2度くらい高く出るんですが、不良品でしょうか」
佐藤:「それはおそらく校正がずれています。CALボタンを長押しで校正モードに入り、氷水で基準を取り直すと直ることが多いです。環境温度の影響も受けやすいので、安定した場所で校正してください」この会話が録音・文字起こしされ、kintoneのレコードに蓄積されます。重要なのは、会話テキストに加えて、後から「声の種類」や「テーマ」などの観点で整理・分析できる状態にしておくことです。![]()
会話を録音・文字起こしし、「声の種類」「テーマ」などのラベル付きでkintoneのレコードに蓄積。
この整理の観点が、次の傾向把握の工程で効いてきます。ここまでがFront Agentが担う入口の役割です。傾向把握:kintoneのレコード一覧分析AIで、頻出テーマを対話的につかむ
会話がラベル付きでkintoneに溜まったら、次はkintone AIの出番です。kintoneの「レコード一覧分析AI」に対して、溜めたレコードの傾向を対話的に問いかけられます。![]()
kintoneのレコード一覧分析AIの画面。蓄積された会話データから、テーマ別のクレーム件数が自動で集計され、再クレームやフォロー漏れといった注目ポイントまで対話的に示される。
上の画面のように、ただ件数を数えるだけでなく、「測定誤差のクレームが最多で、しかも同じ顧客から再発している」といった一歩踏み込んだ気づきまで、kintone上の対話で得られます。人の目では追いきれなかった全体傾向が、対話から可視化することができ、これまで担当者の感覚に頼っていた"傾向の把握"が、誰でも同じ精度で行えるようなります。インサイト解析:不満の内容・対応品質まで踏み込んでVOCを解析する
傾向がつかめたら、「では、なぜそうなっているのか」をもう一段深く知りたくなります。ここで再びFront Agentを活用することで、蓄積された会話データをもとに、不満や要望がどのように伝えられ、担当者がどのように対応したのかまで踏み込んで確認できます。
たとえば先ほどのX-200のケースでは、こんなことが見えてきます。ベテランの佐藤さんは「CALボタンを長押しして、氷水で校正する」という具体的な解決手順まで案内できているのに対し、他の担当者は「確認して折り返します」で止まり、フォロー漏れや再クレームにつながっている。つまり、対応品質が担当者によってばらついている、という構造的な課題まで可視化できるのです。
この一連の流れ「会話のデータ化(Front Agent)→ 傾向把握(kintone AI)→ インサイト解析(Front Agent)」が揃うことで、ただ記録するだけだったクレーム情報が、製品改善や対応品質向上のための"使える資産"に変わります。4. まずはここから
最後に、明日から踏み出せる最初の一歩をお伝えします。
まず始めに手をつけるのは、「分析の観点を整理する」ことです。VOC・クレーム分析に限らず、「どんな分析がしたいのか」「それは何のためか」という整理がないまま始めると、ただ分析しているだけで改善アクションにつながりません。まずは「どの顧客接点の声を、どのアプリに、どの粒度で集めるか」を決めるところからで十分です。
進めるうえでの心構えも、2つだけ覚えておいてください。ひとつは、最初からすべての顧客接点を対象にしないこと。もうひとつは、完璧な分類を最初から目指さないことです。分析やそこから得られる示唆は、あくまで正解でも完璧でもありません。大切なのは、そこから「次に何をすべきか」を議論することです。
目的を絞って小さく始め、分析を行動につなげる。この繰り返しが、記録するだけだった顧客の声を、製品改善という成果に変えていきます。まずは、自社で「いちばん声が多く集まっている顧客接点」をひとつ選ぶところから、始めてみてはいかがでしょうか。よくある質問
Q1. 電話やWeb会議以外(メール・対面でのメモ書きなど)の顧客の声も分析対象にできますか?
A. 対面での会話は対象にできます。メールやチャットといったテキストデータについては、将来的に解析できるようにする構想があります。まずは会話量の多い顧客接点から始めることをおすすめします。Q2. 分析を始めてから傾向が見えてくるまで、どのくらいの期間・データ量が必要ですか?
A. お客様の状況や、見たい解析の観点によって変わります。ひとつの目安として、見たい観点に沿ったデータが10件ほどあれば、何かしらの示唆は得られると考えられます。最初から大量のデータを揃える必要はなく、小さく始めて構いません。Q3. すでにkintoneに蓄積している過去の対応履歴やクレーム記録も、Front Agentで解析できますか?
A. Front Agentは会話データを解析する仕組みのため、kintoneに文字情報として残っている過去の対応履歴やクレーム記録だけを、Front Agent側でそのまま解析することはできません。ただし、導入前の音声データが残っている場合は、その音声をFront Agentにアップロードして解析できる可能性があります。さらに、解析結果をkintone側のラベルや顧客・案件情報と紐づけられれば、過去分も含めて傾向把握や深掘り分析に活用できる可能性があります。Q4. 録音・会話解析に対する現場や顧客の抵抗感には、どう向き合えばよいですか?
A. 会話データ活用の導入時に、最も多い心理的なハードルがここです。大切なのは、目的が「個人の評価」ではなく「対応品質の改善」であることを事前に共有すること、そして録音に関する顧客へのアナウンスを整えておくことです。実際の支援しているお客様でも、録音・録画は現場任せにせず、トップやマネージャーから業務として明確に位置づけてもらうことが、定着のカギになっています。Q5. 分析して終わりにせず、製品改善や対応品質向上のアクションにつなげるには何が必要ですか?
A. 失敗する多くのケースは、まさに「分析して終わり」になることです。結果を定期的に振り返る運用を組み込み、具体的なアクションに落として、ステークホルダーに実践してもらうこと。地道ですが、これが一番重要です。なお、時系列での比較分析も可能です。たとえば1〜6月の分析結果をもとに改善策を7〜12月に実施し、両期間を比較すれば、施策の効果を検証しながら運用の精度を高めていけます。監修者プロフィール
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Umee Technologies株式会社 事業開発
中川 恵介
メガベンチャー、大手通信キャリアグループ、AIスタートアップを経て現職。事業開発として全社におけるAI活用推進、営業改善、VOC分析など幅広く支援に携わっている。kintoneをご利用のお客様の支援実績も多数。
※本記事の内容は、2026年7月時点での情報です。最新情報は各製品サイトをご確認ください。
