双愛会 様の導入事例

双愛会

【業務内容】
訪問医療
【利用用途】
地域と連携した活動履歴
  • kintoneで加速した訪問診療のチームワーク
  • 安心できる仕組みづくりでお看取り数は前年比170%
  • 現場主導で改善を重ねた2年の軌跡

東京都大田区を中心として訪問医療を専門に展開する医療法人双愛会。「医療を通じて安心して生活できる社会を創造する」を理念として、2005年に理事長 伊谷野氏が開業した。当時、訪問診療を専門とする医療法人が少ないなか、地域に根差し、24時間365日患者の求めに応じて対応してきた。2021年現在、拠点が4つ、従業員は100人に達するという。そこでシステム担当も兼任している 双愛会 ファミリークリニックグループ 事務局長の 清水 雄司 氏にお話を伺った。

訪問医療に重要な関係事業所との連携。管理するシステムの課題をどうにかしたかった

訪問医療では、一人の患者と家族に対し、医師、歯科医師、薬剤師、ケアマネージャー、ヘルパーなど多数の関係事業所・事業者が存在し、患者をどう支えていくか、情報共有が常に必要とされる。双愛会では、その情報をシステム管理し、関係事業所とスムーズに連携しようという方針で、2017年にとある外資系のシステムが導入されていた。システム選定の際、当時別の医療系企業に勤めていた清水氏が、伊谷野理事長から相談を受け、紹介したものが採用されていた。その後、清水氏は縁あって2018年に双愛会に転職する。しかしそのシステムはなかなか定着せず、導入から2年経った2019年、継続するかどうかの決断を迫られていた。

「関係事業所ごとに実績一覧を表示したいという要望があったのですが、当時のシステムでは設計上難しく、『改修するには多額の追加費用がかかる』と言われました。私は紹介した立場だったので非常に責任を感じました。前職のエンジニアの方に相談したところ『要望に応じて柔軟にシステムを作り変えていきたいなら、アジャイル開発に向いているものを選定した方がいい。そしてアジャイル開発するならkintoneがおすすめ』と教えてもらったんです。調べてみたら当時課題を抱えていたシステムとは、比べ物にならないくらい自由度が高いことが分かり、知れば知るほどワクワクしてきて、とても魅力を感じました」(清水氏)

双愛会 清水氏

当時のシステムを継続・改修するのか、他のツールに移行するかを1ヶ月以内に決める必要があった。そこで清水氏はすぐにkintone導入検討に着手する。システム開発経験はなく、もちろんプログラミングもわからない。しかも各店舗の事務長業務と兼任という状況だった。清水氏はまずサイボウズの導入相談カフェ(※ 導入相談カフェは、2022年6月より「キントーン相談窓口」に名称が変更になりました)に申し込み、対面で2時間みっちり相談した。その後もわからないことは何度も電話サポート窓口に問い合わせしながらアプリを構築していったという。そうして患者と関係者、事業所、活動履歴がつながる地域連携アプリが完成した。項目を削ぎ落として最低限必要なものに絞るなどの工夫はしたものの、それまでのシステムでは2ヶ月かかってもできなかったことがなんと3日で完成した。理事長からも「早く構築できていいね!」と好評で、kintone導入が決まった。

一方、双愛会ではすでに様々なシステムが導入されており、現場の職員は新しいシステムに移行することに慎重になっていた。そこで清水氏は自ら率先してkintoneへのデータ入力を行った。次に職員と一緒に入力し、こまめに声がけをしながら、徐々に職員自身で入力できるように働きかけていったという。小さく素早くアプリ構築し、現場職員の声に寄り添いながら徐々に改善を重ねていくことを心がけた。

「現場職員に自分の意見が反映されたアプリだ、と思って欲しかったんです。だから要望を聞いて回ってアプリを改善していきました。要望が出てこなくなると、次は現場をひたすら観察しました。例えば業務中にメモ帳を使っているスタッフを見かけると、どんなことが書いてあるのか見せてもらい、その内容を元にアプリの項目を追加する、といった具合です。現場には改善のヒントがたくさん潜んでいて、会議やヒアリングでは出てこなかった“お宝”が見つかるので、宝探し感覚で観察していました」

現場の要望をもとにアプリを改善。壁に突き当たったモヤモヤ期、Cybozu Daysに参加したことで転機を迎えた

双愛会のkintoneプロジェクトは順調に進んだ。しかし導入から半年が経ったころ、現場の要望に対して、解決できないことが増えてきた。例えば「フィールドに色を付けたい」「文字を大きくしたい」「ルックアップで連携しているアプリを自動更新したい」などだ。理事長からの要望も増えていた。それらの多くは当時契約していたライトコースで解決するのは難しく、スタンダードコースへ契約変更する必要があった。しかし清水氏は、理事長にスタンダードコースへの契約変更を提案できずにいた。「本当にこのまま進めていいのだろうか?」「他に手段はないのだろうか?」「このモヤモヤを誰かに共有したい」そう悩んでいたころ、サイボウズが主催するイベントCybozu Daysが開催されることを知り、理事長と一緒に参加することにした。

Cybozu Daysというイベントの雰囲気に圧倒されて率直に『サイボウズってすごい』と思いました。そしてちょうど医療業界でのkintone活用事例セッションがあり、うちの数歩先を行く在宅医療の活用事例を聞くことができました。まさにこれからやりたいと思っていたことが実現されていて、我々にもできそうだと自信が持てたんです。ここでスタンダードコースに切り替えて、kintone活用をさらに進めていく覚悟ができました」

セッション終了後、清水氏は登壇していたユーザーの方々と連絡先を交換したり、直後に開催されたkintone Café 神奈川に参加したりして、つながりを広げていった。交流の機会や情報源を得ることで清水氏のkintone理解が深まり、できることの引き出しも増えていった。スタンダードコースへの変更と連携サービスを活用することで、未解決・保留状態だった現場の要望が解決していったという。

特に取り組みが進んだのが緊急往診業務だ。緊急往診は、患者の急変に対応して、24時間365日体制で出動することが求められる。医師・出動担当・緊急受付担当の間で専用の連絡ルートを確保し、チームで対応する。緊急時だからこそ重要となるのが正確性と効率性だ。もともとGoogleスプレッドシートに、救急入電・緊急出動・対応後の振り返りなど、複数にわたるファイルがあり、情報を入力していた。クラウド上で共有されているものの、それぞれのファイルにアクセスして該当の案件を探しだすのに時間がかかっていた。これをkintoneアプリでカルテIDを入力すると関連レコードで他のアプリに登録されている情報が自動的に表示されるようにした。また業務フロー順に項目をタブ表示にし、必要な画面を見やすくした。

「その他にも担当者が迷わず入力できるよう入力補助のカスタマイズを入れました。すると入力データのバラツキも防げるようになりました。入力画面で使い方がわかるようになったのでマニュアル作成・更新が不要になり、より柔軟にアプリの改善を進められるようになったんです。また以前からGoogle Chatが浸透しており、情報が更新された通知はそちらで受け取りたいという要望もありました。ちょうど連携サービスの“CUSTOMINE”でGoogle Chatとの連携機能がリリースされ、通知はGoogle Chat、情報の蓄積はkintoneと役割を分けて活用できるようになったのもよかったです」

このような取り組みを積み重ねた結果、緊急受付一人あたり月32時間かかっていた作業時間が月10時間に削減された。そして患者とその家族に安心していただけたかどうかの目安として双愛会が大切にしている指標「ご自宅でのお看取り数」はなんと前年比170%に増えた。

「『最後まで自宅が過ごしたい』と希望される患者さんや『自宅で看取りたい』というご家族は非常に増えていて、私たちもできるかぎりサポートしたいと考えています。ただ、努力・根性だけでそれを継続することは難しい。そのためには仕組みが必要だと考えました。日中の担当医と夜間の担当医が安心して引き継げるようにするために、スムーズに情報共有できる仕組みをつくりたかった。それがkintoneで実現できたんです」

劇的な成果を出した双愛会のkintone活用を医療全体の業務改善につなげたい

現場からも「情報が見やすくなった」「何度も入力しなくて済むので助かる」といった声が寄せられるようになり、最近は「kintoneでこういうことできませんか?」といった相談も増えたという。

「院内で帳票管理をしているものをどんどんkintone化していきたいですね。また医療は地域課題でもあります。関係事業所との情報共有をさらに強化して、お互いの業務に無駄がなくなっていくといいなと思います。地域のクリニックとタスクを共有するなどして、医療全体の業務改善につなげていきたいです」

双愛会の目指す「医療を通じて”安心”して生活できる社会」が実現する日も近そうだ。