
artience
- 【業務内容】
- 色材・機能材関連事業/ポリマー・塗加工関連事業/パッケージ関連事業/印刷・情報関連事業
- 【利用用途】
- ワークフロー、SFA、売価管理、原料調査管理、その他グループ全体の業務改善
2024年1月に東洋インキSCホールディングスから社名を変更、新たなスタートを切ったartience株式会社では、事業会社が個別に利用していたkintoneをグループ全体のDXを強力に推進するためのプラットフォームとして展開、現在は1400名を超えるユーザーが現場の業務改善に役立てている。その経緯について、カンパニーオフィサー グループ情報システム部長 中野 仁貴氏および同部 DX推進グループ 髙橋 純平氏にお話を伺った。
1896年創業のファインケミカル素材の開発、提案を行う化学メーカーとして市場を牽引してきた東洋インキSCホールディングスが2024年1月に社名変更し、「art」と「science」を組み合わせた新たな社名でこれまでにない価値創造を目指しているartience株式会社。色材やポリマーなどの素材設計技術と、分散や塗加工といったプロセス技術に耐久性や電気特性といったさまざまな機能を付与することで、付加価値の高い製品をグローバル市場に提供し続けている。現在は2030年をゴールとする経営計画artience2027/2030“GROWTH”を推進しており、その実現に向けた中期経営計画 artience2027では、「高収益既存事業群への変革」「戦略的重点事業群の創出」「経営基盤の変革」という基本方針のもと、さまざまな施策に取り組んでいる。
なかでも経営基盤の変革における1つのテーマとなっているのが「情報/DX」だ。具体的にはデジタル変革とともにグローバルに展開するERPの最大活用を軸にIT技術を活用したDX推進を行っている。「特に基盤となる仕組みづくりと、蓄積されたデータをうまく活用できる環境整備を進めるとともに、その最大活用による効率化、価値創造に注力しています。同時に、セキュリティやガバナンス強化にも注力しながらデジタルイノベーションを推進しています」と語るのは中野氏だ。
カンパニーオフィサー グループ情報システム部長 中野 仁貴氏
同社におけるDXの取り組みは、現中経以前から進められてきた経緯がある。2021年にはDXタスクフォースを立ち上げ、管理部会、技術部会、生産部会、営業・マーケティング部会という機能領域ごとに4つの部会を設置しデジタル化に向けた環境整備を行ってきた。この4つの部会の1つである管理部会では、申請業務のペーパーレス化に寄与する環境づくりを念頭にプロジェクトを推進していたと髙橋氏は当時を振り返る。「グループ会社の垣根を超えて情報共有できる環境を整備しながら、紙で行われていた各種申請業務のペーパーレス化を進め、テレワークでも円滑に業務が推進できる仕組みづくりが求められたのです」。
実は、先行して一部の事業会社において営業事務の業務効率化のための基盤づくりが進められており、その業務プラットフォームとして採用されたのがkintoneだった。具体的には、営業部門内および営業-バックオフィス間での営業業務系ワークフローの電子化基盤整備を通じ、テレワークや外出先でも申請・承認が行える環境づくりを目指していた。そこで、ノーコードツールのkintoneが採用され、35名ほどの小規模で活用がスタートしていた。
そんな折、DXタスクフォースにてグループ全体で横断的に活用可能なワークフローの基盤づくりが検討されることに。「事業会社での利用状況を聞いていたことはもちろん、DXタスクフォースの管理系業務に関わるメンバーからの提案もあり、kintoneも全社的な基盤として候補の1つに挙がったのです」と髙橋氏は説明する。
グループ情報システム部 DX推進グループ 髙橋 純平氏
基盤選定においては、化学メーカーである同社だけに、システムに精通したメンバーが現場に多く在籍しているわけではないため、簡便なUIでアプリ作成できる仕組みが望まれたという。「価格と利便性を意識しつつ、重要なのは現場の利用者に使いやすいと感じてもらえるかどうか。すでに社内利用していたワークフローシステムなどと比較検討しましたが、ほかのソリューションと比べてもkintoneは使いやすく、現場でも開発しやすいという点は価格以上に価値があると感じています」と髙橋氏は評価する。
グループ情報システム部としては、セキュリティやガバナンスの観点から評価したうえで、事業会社での実績を前提に蓄積されたデータをグループ会社全体で活用できる点からもkintoneが有用であると判断。「当初から共通基盤を活用し、グループ全体でデータ活用につなげていきたいという思いがありました。すでに事業会社で活用が始まっていたkintoneは現場での評価も上々であり、業務改善の基盤として運用していくという判断になりました」と中野氏。
結果として、DXタスクフォースが目指す業務効率化やペーパーレス化に資する環境づくりのツールの1つとしてkintoneを選択。その後、事業会社で利用されていたkintoneとのドメイン統合を経て、取り扱う業務範囲も拡大、グループ全体での業務改善プラットフォームとしてkintoneが現場に浸透していった。
当初は事業会社でも35名ほど、タスクフォースでも10名ほどの規模でPoC的にkintone活用がスタートしたが、現在は同社含めて10ほどのグループ会社で1400名超のユーザーがkintoneを活用している。また、kintoneの普及を第一義に自由にアプリ作成可能な権限を現場に付与したことで、作成されたアプリ数は試作品も含め、計1380を超えている。当初に比べてアプリの数は10倍強、利用者数では20倍を超える規模にまで広がっている状況だ。実際の運用では、システム部門であるDX推進グループがkintone全体を管理するシステム管理者となり、組織ごとに50名ほどの管理権限を持つメンバーを事業会社から設定する運用体制を基本とした。これは、事業部門‐システム部門の組織間での情報共有を円滑に進めることと、グループ全体のITリテラシーを高める事を狙いとしている。「アプリを本番稼働させる際には事前申請を経たうえでリリースしてもらう運用で、現状承認されて稼働している本番アプリは530を超える数になっています」と髙橋氏。
基本的には自由にアプリ作成が可能だが、販売管理や生産管理など基幹システムに対してデータを書き込みする際にはDX推進グループが介在し、RPAを通じて連携する流れをとっている。また基幹システム内のデータを参照したり活用したりする場合は、各ユーザーが用意された社内BIツールを用いることが可能で、それらの情報をkintoneアプリに展開している。加えて、利用頻度の多いものについても、DX推進グループがマスタデータを準備し、kitnone上にアプリとして設置している。kintoneに展開した情報は、kintoneが持つルックアップ機能やRPAを活用し、現場のレベルに応じた多様なアプローチでデータ活用が行われている。
kintoneアプリとしては、申請承認のためのワークフローアプリや案件管理などSFA的なアプリ、日報月報管理や議事録共有、FAQアプリなどその用途は多岐にわたっている。基本的には営業部門に関連した業務アプリが多くを占めているが、最近は営業と生産現場をつなぐアプリなどもPoC的に作成されているという。
kintoneのアカウント数が大きく広がった使い方の一例が、基幹システムとkintoneを連携させて商品の売価を記録する「価格登録アプリ」だ。「業務自動化を目指したもので、基幹システムから商品情報をCSVで出力し、そのデータをRPAにてkintoneに投入します。現場で営業担当者が金額をkintoneに登録した後、再びRPAを用いてkintoneのデータを取り込んで基幹システムに戻しています。営業担当者の業務を時短化・省力化できる仕組みとして、複数の事業会社で一気に導入され、これを契機にkintone活用が広がりました」と髙橋氏は説明する。
また、グループ情報システム部が主導して作成したアプリの一例が、原料の仕入先となるサプライヤーに対して行う規制物質の使用有無などの確認を行う「原料調査アプリ」だ。webフォームの作成ができるプラグインである「FormBridge」にて入力フォームを用意し、kintoneからメール配信ができる「kMailer」にてサプライヤーに対して通知、kintone内に格納された回答内容は、kintone内の情報を外部公開できる「kViewer」にて確認してもらうなど、情報収集の半自動化によって省力化を実現している。なお、同じプラグインを駆使して外部への情報提供依頼などを行っており、例えば営業担当が顧客に提供するサンプルを仕入先に依頼するアプリをはじめ、製品に関する報告書類や実験依頼を行う技術依頼アプリなど、kintoneとプラグインで作成された一連のフローが複数の業務に展開されている。
実際にkintoneをベースに進められてきたDXタスクフォースの取り組みによって、2024年4月から10月までの実績で1万1000時間の削減を実現しており、個別システムを構築した場合に比べて4000万円ほどのコスト圧縮効果が見込まれている。当初のペーパーレスという目的に対しても、通期で6万枚ほどの紙削減につながることが期待されるなど、定量的な効果が各所に出ているという。「効率化効果の高いアプリ群をグループ全体に横展開できていることもあって、定量的な効果をうまく積み上げることができています」と髙橋氏は評価する。
また、自分の業務を変えることができるという意識変革のツールとしても、kintoneが大きく寄与している。例えば現場ユーザーからの改善要望として、システムとkintoneを連携させて自動化したいといった声が現場から寄せられるなど、要望の質も大きく向上している状況にある。「我々のような化学会社ではITに詳しい人が多くいるわけではないなか、デジタル活用の意識はどんどん広がっています。RPAはもちろん、kintoneが現場のデジタル活用に向けた風土改革に役立っていることは間違いない」と中野氏の評価も高い。
さらに、kintoneは今ではグループにおける業務基盤としてスタンダードの1つになっていると中野氏は力説する。「もともと基幹システムとしてERPをトップダウンでグローバルに展開していました。そんなERPとは異なり、現場主導のボトムアップ型で拡大し続けているkintoneも、今ではグループ内でデファクトスタンダードとなっているといっても過言ではありません」。
今回のプロジェクトでは、JBCC株式会社が初期の事業会社導入からDXタスクフォースを中心としたグループ全体の展開まで継続的な支援を行っている。「グループ全体への展開に向けては、ドメイン統合も含めてJBCCにバックアップいただき、移行支援や開発に関して継続サポートいただいています。市民開発コミュニティにおける課題に対してご意見いただくなど、適切なアドバイスがいただけており、とても助かっています」と髙橋氏は高く評価する。
現在はPoC的に業務アプリを自由に作成できる運用にして利用拡大を促進している状況にあるが、基幹システム周辺の共通業務をkintoneに移管し始めていることもあり、ガイドラインの整備や開発および運用ルールの整備も含めて進めていきたいという。「利用拡大を目指してある程度自由に使ってもらっていますが、数が多くなれば同じようなアプリも増えてきますし、属人化したものも出てきやすい。既存アプリの整理も含め、ガイドラインやルール作りをこれから進めていきたい」と髙橋氏は意欲的だ。また、グループ内に大きく広がってきているkintoneだけに、ユーザー同士が自発的につながるような社内コミュニティなどの仕組みづくりについても取り組んでいきたいという。
グローバルにビジネスを展開する同社だけに、海外においても情報共有基盤に対する要望は出てきているという。「我々としては現場の業務課題を解決する環境のグローバル展開を考えていきたい。加えてセキュリティやガバナンスを考慮した環境の提供も我々の重要な役目と考えています。また生成AIとの連携など、kintone内のデータを活用して、業務の効率化や新たな価値創造に貢献する仕組みも検討したい」と中野氏に今後について語っていただいた。
(2024年11月 取材)
※プラグイン・連携サービスはkintoneスタンダードコース以上でご利用いただけます
JBCC株式会社は、全国のエンタープライズ企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援するITサービス企業です。
グループ2,000名での運用ノウハウや、インフラ企業・金融業・製造業などのEP企業様導入事例の実績を元に、全社導入に向けた運用ガバナンス支援や、マルチクラウド利用での全体最適提案を実施しております。クラウドセキュリティにも強みがあり、安全なクラウド活用を提案します。豊富な事例を持つ弊社にお気軽にご相談ください。
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