異動でリセットされる手続きナレッジ、kintone×AIで「人に貯めない」運用を考える
転入・転出、出生、おくやみ――住民のライフイベントが集中する3月末から4月は、自治体の窓口が一年で最も混み合う時期です。そしてその繁忙期は、人事異動で経験の浅い職員が最も多い時期でもあります。
「一番難しい時期に、一番多くの住民対応を、一番慣れていない人がこなす」―こうした場面に、心当たりのある方は少なくないはずです。その背景には、ノウハウが個人や紙のマニュアルに溜め込まれ、うまく引き継がれないという共通の構造があります。
この記事では、kintone×AIを活用して、窓口ナレッジを「人ではなく仕組みに貯める」運用へ移していく具体的な方法をご紹介します。
目次
1. 結論:異動と制度変更に強い窓口対応は「ノウハウを人に貯めない」発想で前に進む
2. よくある課題:異動でリセットされる窓口ナレッジと、他課の質問に"その場で答え切れない"壁
3. 具体例で見る kintone × AI の実現方法
4. まずはここから:問い合わせ・対応履歴を"AIが読める形"に整えることから始める
5. よくある質問
1. 結論:異動と制度変更に強い窓口対応は「ノウハウを人に貯めない」発想で前に進む
異動サイクルの短さと制度変更の速さに振り回されない窓口対応をつくる鍵は、「ノウハウを人に貯めない」ことです。具体的には、制度情報と過去の対応事例を、kintone上に「レコード」として登録します。そのレコードをAIが参照し、住民からの問い合わせに沿った案内文を、担当者に代わって下書きします。
この形にすると、効果は2つあります。1つは、制度が変わってもkintoneのレコードを更新するだけで、全窓口の案内品質が同時に更新されること。もう1つは、担当者が異動しても、ノウハウがkintoneの中に残り続けることです。経験の浅い新任者でも、ベテランが整理したナレッジを土台に、その場で根拠のある案内ができるようになります。
2. よくある課題:異動でリセットされる窓口ナレッジと、他課の質問に"その場で答え切れない"壁
まずは、多くの自治体の窓口で共通して起きている「あるあるの課題」を3つご紹介します。特定の自治体に固有の話ではなく、規模を問わず耳にする課題です。① 異動直後と繁忙期が重なる
転入転出・進学・就職が集中する3月末〜4月は、窓口が最も混雑する時期です。ところが同じ時期に人事異動があり、経験の浅い担当者が最も多くなります。「新任者が、一年で一番難しい時期に、一番多くの住民対応をする」という構造的なミスマッチが、毎年繰り返されています。② 制度改正にマニュアル更新が追いつかない
制度改正は4月・10月に集中します。しかし紙やWordのマニュアルは、「直す人が異動でいなくなった」「どれが最新版か分からない」という状態に陥りがちです。古い案内をもとに説明してしまい、後日訂正のご連絡を入れる――こうした事案は、多くの自治体で聞かれます。③ 他課にまたがる質問に「その場で答えられない」
「おくやみコーナー」に代表されるライフイベント単位のワンストップ窓口は、導入する自治体が年々増えています。一方で、日々の窓口や電話では、来庁した住民から関連する他課の制度を尋ねられる場面が必ずあります。たとえば転入届のついでに児童手当や就学について聞かれる、といったケースです。
担当者が自分の課の制度しか把握していないと、「持ち帰り・折り返し・別窓口でのご確認」をお願いすることになります。これは、ノウハウが個人と課の中に閉じてしまっていることが原因です。
これらの根っこには、共通する構造があります。電話問い合わせの対応記録が残らず「よくある質問」が見えない、担当者が作ったFAQも作った本人の異動を機に更新が止まる、会計年度任用職員やベテランの入れ替わりで引き継ぎが追いつかない――いずれも「ノウハウを人に紐づけて貯めている」ことの限界です。だからこそ、組織に残る形で貯める必要があります。
3. 具体例で見る kintone × AI の実現方法
窓口対応のAI活用は、M-SOLUTIONS株式会社が提供する「Smart at AI for kintone Powered by GPT(以下、Smart at AI)」のようなプラグインを使えば、「調べる」から「案内文をつくって業務に組み込む」までを一気通貫で実現できます。ただ、いきなり全部を組む必要はありません。まず kintone AI で「調べる時間」を手軽に効率化するところから始め、案内文の生成や業務への組み込みはプラグインで、と段階的に進められます。ここでは、その順番で実際の使い方を見ていきます。
まず手軽に「調べる時間」を減らす──kintone AIによる横断検索・要約
kintone の「検索AI」では、複数アプリをまたいだ横断検索・要約ができます。自治体では「制度の正しい手続き」「過去の対応記録」「最新のお知らせ・通達」が、それぞれ別の場所に散らばりがちです。
こうした情報が別々のアプリに分かれていても、担当者が「どのアプリに何があるか」を把握しておく必要はありません。「子ども連れで市外から転入してきた住民に、必要な手続きをまとめて案内したい」と自然文で尋ねるだけで、AIが複数のアプリを横断して該当レコードを探し、根拠となるレコードを示しながら回答をまとめます。特別な検索テクニックは不要で、「調べる時間」を短縮できます。
※ kintone AIを利用するための条件はこちらをご確認ください。なお、kintone AIの利用にはシステム管理者による有効化が必要です。
kintoneのAIに自然文で質問すると、複数アプリを横断して検索し、それぞれの根拠レコードを示しながら回答をまとめる
検索AIを使う前に知っておきたいこと
なお、検索AIが回答の材料にできる範囲には制約がある点は知っておくと安心です。参照されるのは関連度の高い上位数件までのレコードに限られるため、多数のレコードを数え上げたり集計したりする使い方には向きません。また、検索の対象になるフィールドの種類にも一部制限があります。詳しい条件は公式ヘルプの「検索AIを利用するときの注意点」をご確認ください。
もう一点、コスト面も覚えておくと安心です。kintone AIは利用量に応じてクレジットを消費する仕組みのため、まずは「調べる」を手軽に試す入口としては最適ですが、窓口対応のように「毎日・全員・同じ型で」大量に回す業務に全面的に使うと、利用量が読みにくくコストの見通しが立てにくくなる場合があります。案内文そのものを自動で組み立て、業務フローに組み込み、対応記録として残す――そこまで踏み込みたくなったときは、次に紹介するプラグインの出番です。
「案内文をつくる」「業務に組み込む」まで踏み込む──プラグインで実現できること
Smart at AIは、問い合わせ内容を入力してボタンを押すだけで、先ほどの「制度マニュアル」などにまとめた制度ナレッジを根拠に、「①該当制度 ②必要書類 ③担当窓口 ④注意点」の構成に整った案内文そのものをドラフト生成します。生成結果はkintoneに自動保存され、対応記録として組織の資産に残ります。
ここで重要なのは、品質のばらつきを抑える設計です。Smart at AIは、管理者が設計したプロンプトを全員が同じボタンで実行し、根拠にするナレッジの範囲まで設定で固定できます。担当者はプロンプトを書く必要がなく、「誰が押しても同じ品質ルールで生成される」状態をつくれます。
問い合わせ入力から案内文生成までの手順(製品画面)
現場の操作は「問い合わせを入力する → ボタンを押す → 確認して案内する」の3アクションだけです。実際に構築した「窓口対応支援アプリ」の画面で、流れを見ていきます。Step 1 問い合わせ内容を入力する
窓口・電話で受けた問い合わせ内容を、担当者がレコードに入力します。入力するのは問い合わせの要旨だけです。
生成前:問い合わせ内容が入力された「窓口対応支援アプリ」のレコード画面。
Step 2 「AI案内作成」ボタンを押す
ボタンをクリックすると、AIが別アプリ「制度・手続きナレッジ」を参照し、問い合わせに該当する制度を特定したうえで、①該当制度②必要書類③担当窓口④注意点の構成で案内文を組み立てます。担当者が行う操作は、このボタンを押すことだけです。このボタンは管理者があらかじめプラグインに設定したもので、担当者が都度プロンプトを書く必要はありません。Step 3 生成された案内文を確認する
生成結果は「AI案内」フィールドに自動保存されるので、担当者は内容を確認して住民に案内します。転入のような複合ケースでは、転入届 → 国民健康保険 → 児童手当 → 小学校の転校 → 保育所の転園と、世帯の状況に応じた複数の手続き・窓口が、順序付きで1つの案内文にまとまります。
生成後、「AI案内」フィールドに①該当制度②必要書類③担当窓口④注意点の構成で案内文が保存された状態。複合手続きは回る順番付きで提示される
品質のばらつきを抑える裏側:プロンプトと参照範囲の固定
「誰が押しても同じ品質」を支えているのが、管理者があらかじめ設定するプロンプトです。ここに「登録済みの制度ナレッジのみを根拠にする」「ナレッジにない事項は答えず窓口確認を促す」「解釈が分かれる場合は断定しない」「案内文の末尾に必ず『個別の状況により異なるため窓口で確認』の一文を入れる」といった、自治体窓口ならではの品質ルールを固定します。
Smart at AI のプロンプト設定画面。出力構成や断定回避などのルールを管理者が設計し、ボタンとして固定する
AIが参照するナレッジ範囲の設定画面。どのアプリのどのレコードを根拠にするか(表示フィールド・絞り込み・ソート)を、管理者があらかじめ固定できる。
※AIに自組織のデータを参照させて回答させる仕組みを「RAG(検索拡張生成)」と呼び、製品画面上もこの名称で表示されます。
なお、担当者が住民に案内した後は、実際にどう案内したか・住民の反応・補足した内容を「対応メモ」に記録することで、AIの下書きと実際の対応が同じレコードに残り、「現場が下書きのどこを直したか」が管理者に見えます。修正の多い箇所が、そのままプロンプトやナレッジの改善ポイントになり、使うほどナレッジが現場の実態に近づいていきます。
4. まずはここから:問い合わせ・対応履歴を"AIが読める形"に整えることから始める
ここまで見てきた仕組みは、実は小さく始められます。特別なデータベースを新たに作る必要もなく、「制度1つにつき1レコード」のテキストデータをkintoneに用意することがスタートラインです。おすすめの進め方は、次の3ステップです。Step 1:よく聞かれる質問トップ20を書き出す
窓口・電話の問い合わせを1〜2週間、簡単にでも記録し、件数の多いテーマ上位20件を特定します。全制度の網羅から始めようとすると、整備だけで力尽きてしまいます。まずは「何がよく聞かれているか」をリストアップするところから始めてみましょう。
※ 先ほどご紹介したAI案内文も、制度マニュアル18件+過去対応事例4件、あわせて約20レコードの規模で生成できています。まずは上位20件を押さえるだけで、十分に実用的な案内文がつくれます
Step 2:ナレッジを整理する
「対象者・条件/手続きの概要/必要書類/担当窓口/注意点・よくある誤解」の5項目で、1制度1レコードに整理します。文章は完成された文書である必要はなく、箇条書きで十分です。特に「注意点・よくある誤解」(例:出生届を出せば児童手当も自動で始まる、という誤解)は、ベテランの暗黙知が最も詰まる項目で、AIの案内品質を大きく左右します。直近でその窓口を離れたベテランに「よくある誤解」を書き出してもらうと、新任者向けの生きたナレッジになります。Step 3:1つの窓口で試行する
全庁一斉ではなく、問い合わせが多く困り度の高い1窓口から始めます。異動直後の新任担当者に2〜4週間使ってもらい、試行の前後で「持ち帰り・折り返しにした件数」と「1件あたりの調べる時間」を、簡単にでも記録しておきましょう。「持ち帰りが週◯件から◯件に減った」という形で示せると、庁内展開や予算化の説得材料になります。新任担当者の「その場で答えられた」という実感と、この2つの数字は最もわかりやすい成果指標になり、庁内展開の説得材料になります。最初はやらない方がよいこと
一方で、避けたい始め方が2つあります。1つは、いきなり住民向けチャットボットとして外部公開すること。誤案内時の影響が大きく、表現・網羅性への要求水準も一気に上がります。まず職員支援で品質を育て、外部向けは運用が安定してからの検討で遅くありません。
もう1つは、給付の可否判定など「判断」をAIに任せること。AIの役割は「制度・書類・窓口の案内という事実情報の整理」までとし、個別事情に踏み込む判断は人の領域として明確に残してください。この線引きが、住民からの信頼と職員の安心の両方を守ります。
5. よくある質問
Q. 制度が変わったとき、AIの回答はどうやって最新に保つのですか?
A. kintone上のレコードを修正するだけで、次の生成から即座に反映されます。AIの再学習やベンダーへの改修依頼は不要です。生成のたびに最新のナレッジレコードを読みに行く仕組みのため、レコードを直した瞬間が反映の瞬間になります。レコードに『最終更新日』を持たせて更新漏れを一覧で確認できるようにし、改正が集中する4月・10月に所管課ごとの見直しをルーティン化するのがおすすめです。Q. AIの案内をそのまま住民に伝えて大丈夫ですか?誤案内のリスクにはどう備えますか?
A. 「そのまま伝える」のではなく、「職員が確認して伝える」を前提とした設計・運用にしてください。登録済みのナレッジのみを根拠に生成し、ナレッジにない事項は『窓口で確認』と答えさせる、解釈が分かれる場合は断定させない、案内文末尾に必ず確認を促す一文を入れる――こうしたルールをプロンプトで設定しておくのがおすすめです。職員の確認ポイントを『対象者の条件・期限・必要書類の3点』と決めておくと、確認は1〜2分で済みます。生成された案内文と実際の対応記録がレコードに残るため、万一誤りがあっても原因を特定してナレッジ・プロンプトを修正できる、改善可能な仕組みです。Q. 個人情報を含む問い合わせでも安全に使えますか?
A. インターネット接続系で扱える業務であれば、お使いいただけます。kintoneおよびSmart at AIはインターネット接続系での利用が前提となるため、対象としたい窓口業務がどのセグメントで運用されているかを、まず各団体のセキュリティポリシーに照らしてご確認ください。そのうえで、Smart at AIには次の4つの安全策があります。
①生成は法人向けAPI(OpenAI社のAPI等)を経由して行われ、APIを通じて送信されたデータをAIモデルの学習に利用しない方針が、提供各社の利用規約で明示されています(2026年8月時点)。
②機密フィルタ機能(有料版)で指定フィールドをマスキングして送信できます。
③IPアドレス制限を設定したkintone環境でも利用可能で、セキュアアクセス・SAML認証・2要素認証にも対応します。
④最も効果的なのは、そもそも問い合わせレコードに氏名・住所を書かない業務設計です。窓口案内に必要なのは『問い合わせの内容』であって『誰が聞いたか』ではありません。
Q. 小さな自治体・少人数の窓口でも始められますか?何から準備すればよいですか?
A. 始められます。むしろ1人が幅広い制度を担当せざるを得ない自治体ほど、効果を実感しやすいはずです。必要なのはkintoneとSmart at AIだけで、追加サーバーや専門人材は不要です。準備は、①よく聞かれる質問トップ20を書き出す、②5項目の型で1制度1レコードに整理する(20件程度なら数日)、③1窓口で試行しながらナレッジを追記する、の3ステップ。初期のプロンプト設計やナレッジ項目設計はパートナーが伴走して立ち上げるケースが多く、庁内に専門人材がいなくても始められます。
Smart at AI の費用はプランごとに月間の生成回数が定められた月額制で、無料プランや小さなプランから段階的に始められます。まず1窓口・上位20件で精度を確かめてから予算化を検討する、という進め方がおすすめです。
監修パートナー
M-SOLUTIONS株式会社
代表取締役社長CEO 植草 学
M-SOLUTIONSは、長年のSI技術と豊富な kintone開発実績を基盤に、kintone×AI連携サービス「Smart at AI」を展開。1,500件以上に利用されるサービスとして、安全かつ実践的なAI活用で、業務効率化とDX推進を支援しています。また、2024年度から開始した自治体向けkintone業務アプリ「Smart at 自治体DX」により31自治体68業務でのDX支援を実施しています。
▶ サービスURL:https://smartat.jp/kintone-solution/ai/
※本記事の内容は、2026年8月時点での情報です。最新情報は各製品サイトをご確認ください。
