自治体の紙業務をkintone×AIでデータ化する方法|ペーパーレスの第一歩
庁内の申請書や報告書が紙のまま回ってきて、その内容をシステムに手で打ち直す...。こんな作業に、毎日まとまった時間を取られていないでしょうか。
職員数は年々減っているのに、業務量はむしろ増えている。住民サービスの質を落とさずに効率化を進めたい。多くの自治体が、この板挟みのなかで「何から手をつければいいのか」と立ち止まっています。
この記事では、紙中心の庁内業務をkintoneとAIでどう変えていけるのかを実際の画面を交えてご紹介します。読み終えたとき、「自分の課のあの帳票なら、ここから始められそうだ」という最初の一歩が見えるはずです。
目次
- 結論:自治体のペーパーレスは「紙をなくす」より先に「紙で届いた情報をデータ化する方法を考える」と前に進む
- よくある課題:庁内申請・報告書・相談票が紙のままで、書類探しや転記に職員の時間が消えていく
- 具体例で見る kintone×AI の実現方法
- まずはここから
- よくある質問
- 監修
結論:自治体のペーパーレスは「紙をなくす」より先に「紙で届いた情報をデータ化する方法を考える」と前に進む
「ペーパーレス」と聞くと、紙そのものをなくすことを目標にしがちです。しかし、制度上の様式が紙を前提にしていたり、住民が紙で提出してきたりする以上、紙を完全に廃止するのは簡単ではありません。
自治体ペーパーレスの第一歩として大切なのは、はじめから「紙をなくすこと」を目指すのではなく、「紙で届いた情報を、いかに早く・正確に・あとから使える状態にするか」を考えることです。次の二段構えで考えると整理しやすくなります。
入口は、紙やPDFの情報をkintoneに取り込む工程です。ここでは、AI-OCR(手書きや印刷された文字を読み取ってデータ化する技術)を使い、紙の帳票をkintoneのデータに変換します。本記事では、その一例としてk&iソリューションズ株式会社の「AI-OCRプラグイン for kintone」を取り上げます。
集約できたあとは、kintoneの基本機能で、情報を探したり読み解いたりできます。
まずは「紙をデータ化する方法」を考え、その後に「データを活かす方法」を考える。フェーズを分けて考えることで、紙文化の残る自治体業務のペーパーレスを前に進めます。
よくある課題:庁内申請・報告書・相談票が紙のままで、書類探しや転記に職員の時間が消えていく
これは多くの自治体に共通する課題です。各種申請書、アンケート、相談票、報告書など対象となる帳票は幅広く、手書きを含むものも少なくありません。
過去の対応履歴を探すのに時間がかかる、担当者の異動で判断の経緯がわからなくなる、必要な情報へすぐ辿り着けない----検索性の低さや属人化は、住民対応のスピードと質そのものに関わってきます。
また、職員の負担として特に重いのが「転記」です。紙を見ながらシステムへ入力する作業は時間がかかるうえ、入力ミスとその確認作業も生みます。紙のままなら発生しなかったはずの作業に、本来は住民対応や判断に充てたい時間が奪われてしまうのです。
こうした負担を減らそうと従来のOCRを導入したとしても、設定に時間がかかりがちです。様式がばらばらな帳票の種類ごとに、「どこに何が書かれているか」を当てはめて設定する必要があるためです。また、住所の分割やフリガナの付与、表記の統一といった整形は、結局あとから手作業で直すことも少なくありません。手書きの読み取り精度にも限界があり、「OCRを入れたのに、確認と手直しに追われている」----そんな心当たりのある方もいるのではないでしょうか。
このように、本当の課題は、「紙をデータにすること」そのものよりも、「どれだけ手をかけずに、使えるデータにするか」にあります。
具体例で見る kintone×AI の実現方法
ここからは、紙の帳票がkintoneのデータに変わるまでの流れを、実際の画面で見ていきます。
紙・手書きの帳票をデータ化し、整形まで済ませてkintoneに集約する
紙やPDF、画像の情報を読み取ってkintoneに登録する部分は、現状kintone AIだけでは実現できません。ここを担うのが、「AI-OCRプラグイン for kintone」のようなサービスです。
実際の操作はシンプルです。まず、kintoneのレコードに、紙をスキャンした帳票ファイルを添付します。今回はデモとして手書きの「市民相談受付票」を使います。
kintoneのレコードに、紙の相談受付票を画像ファイルとして添付した画面。
次に、レコード詳細画面の「AI-OCR実行」ボタンを押します。確認画面が表示され「Yes」を押すと、添付した帳票がデータ化されます。
レコード詳細画面の「AI-OCR実行」ボタンを押すと、確認画面が表示されます。対象は添付した帳票ファイルです。
実行が終わると、氏名・住所・生年月日・相談内容などが各フィールドに自動入力されます。職員が手で打ち込んだ箇所はありません。
OCR実行後、氏名・住所・相談内容などがkintoneの各フィールドへ自動で入力された状態。手入力した箇所はありません。
では、どうやって項目を読み分けているのでしょうか。従来のOCRは「この位置に氏名」「この位置に住所」と帳票ごとにレイアウトを設定する必要がありましたが、AI-OCRプラグインでは抽出したい内容を自然な言葉で指定するだけです。
抽出したい項目を自然な言葉で指定する設定画面。「氏名_姓と名の間に半角スペースを挿入」のように、欲しい値と加工の仕方をことばで指示できます(赤線部)。
たとえば「申請者氏名」「住所の市区町村以降」といった抽出に加え、「都道府県を除く」「株式会社を除く」「電話番号のハイフンを除く」といった整形まで、同じ仕組みで指定できます。
読み取りと加工がAIが解析する段階で同時に処理されるため、OCR結果を整え直す手間がなく、整形済みのデータがそのままkintoneに登録されます。帳票ごとのレイアウト設定が不要で、様式がばらばらな自治体の帳票でも扱いやすいのが特長です。
なお、OCRの実行方法は、ボタンを押す操作だけでなく、複数の帳票をまとめて処理する一覧画面での「一括実行」や、条件に応じて自動で処理を始める「Webhook(自動連携)」にも対応しています。たとえば、複合機やWebフォームと組み合わせれば、届いた書類を人の手を介さずデータ化を完全に自動化することもできます。まずは手動でのボタン操作から始め、慣れてきたら自動化を検討する、という段階的な進め方ができます。
たまったデータを検索・集計・引き継ぎに活かす
紙の情報がkintoneのデータになると、活用の幅が広がります。たとえば市民相談の窓口部門。相談票をファイルに綴じていたころは、「今月どんな相談が何件あったか」を数えるにも紙を一枚ずつめくっていました。
kintoneにデータがたまっていれば、受付から対応完了までの進み具合を一覧で把握できたり、相談の種類ごとにグラフ化したりすることもできます。「いま誰が、どの相談を抱えているか」が見え、対応漏れも防げます。さらに更新の履歴が残るため、職員の異動が多い自治体でも過去の対応経緯を引き継ぎやすくなります。紙の台帳では難しかった「探す・数える・引き継ぐ」が、データ化で大きく楽になります。
kintoneの一覧画面で、未処理・処理中・完了などのステータスを確認できます。
相談の種類や件数に応じて、適切な形式(縦棒・円・折れ線など)でグラフ化できます。
さらにkintoneの検索AIを使えば、「子育てに関する相談で、過去に似たケースはあった?」のように自然な日本語で尋ねるだけで、市民相談受付や福祉相談受付など、あらかじめ設定された複数のアプリを横断して、関連レコードを探し要点をまとめて返してくれます。
※ kintone AIを利用するための条件はこちらをご確認ください。なお、kintone AIの利用にはシステム管理者による有効化が必要です。
必要な情報に自分でたどり着ける環境が整うと、配属されたばかりの職員でも過去のノウハウを引き出せるため、異動による対応品質のばらつきや属人化といった悩みにも効いてきます。
kintoneの検索AIに自然な日本語で質問すると、複数のアプリを横断して関連レコードを探し、要点をまとめた回答を表示しています。
こうしてkintoneに集約したデータは、集計・検索・引き継ぎから検索AIによる横断的な問い合わせまで幅広く活用できるようになります。データ化はゴールではなく活用の入口です。AI-OCRで紙を「使えるデータ」に変えてはじめて、転記からの解放だけでなく、これまで埋もれていた情報が組織の資産となり、より良い住民サービスを提供するために使う時間も生まれてきます。
まずはここから
最初の一歩は、帳票の棚卸しです。具体的には、対象帳票の種類と月間件数、手書きの比率、kintoneに登録したい項目、人による確認が必要な項目、個人情報の取り扱いルール----このあたりを整理しておくと、検討がスムーズに進みます。
また、最初から100%の精度を求めすぎないことも重要です。「すべてを完全に自動化する」のではなく、「転記を大きく減らし、人は確認と判断に集中する」と考えるほうが現実的です。最初の設定で完成とせず、実際の帳票で読み取りながら指示を少しずつ調整することで、現場に合った運用に近づいていきます。
進め方で見落としがちなのが、庁内をどう巻き込むかです。初期はkintoneの環境設定やセキュリティの確認が必要になるため、情報政策部門には早めに相談しておくとスムーズです。一方、どの項目をデータにするかといった日々の設定は、業務を最もよく知る原課が主導したほうが現実に即します。
まずは一つの帳票で小さく試し、削減できた時間や手間を目に見える形にすること。その実績が、「前例」を重んじる庁内で、次の帳票、次の業務へと活用を広げる際の説得材料になります。比較的小さな費用から始められ、大きな予算化を待たずに試しやすい点も、最初の一歩を踏み出しやすくします。
目の前の一枚をデータにするところから、自治体のペーパーレスは着実に前へ進んでいきます。どの帳票から始めるか迷ったときは、AI-OCRやkintone AIに詳しいパートナーに相談してみるのも、近道のひとつです。
よくある質問
手書きの申請書や相談票は、どこまで正確に読み取れますか?
手書きの帳票も読み取りの対象にできます。精度は文字の読みやすさやスキャン品質によって変わりますが、k&iソリューションズの検証では平均95%前後が確認されています。ただし帳票によって結果は変動するため精度を保証するものではなく、極端に崩れた手書き文字などは人による確認が必要です。AIが誤字脱字の検出や表記の補正も行えるため、「AIが補正し、人が最終確認する」という運用が現実的です。
住民の個人情報を含む書類をAI-OCRで処理しても問題ありませんか?
「AI-OCRプラグイン for kintone」は、個人情報を含む帳票の取り扱いにも配慮した構成です。解析にはMicrosoftのAIサービスを利用しますが、処理は東京で行われ、データが国外へ移転されることはありません。送信データはAIの学習に使われない契約で、さらにk&iソリューションズはMicrosoftとオプトアウト契約を結び、監視の対象からも除外しています。通信はTLSで暗号化され、解析後のデータは削除されます。 AIサービス側にデータが保持され続けることはなく、個人情報は最終的にお客様のkintone環境にのみ保存される仕組みとなっているため、この点でも安心してご活用いただけます。同社はISMS(ISO/IEC 27001)認証も取得しています。導入時は、自治体それぞれの情報セキュリティポリシーと照らし合わせて確認するとよいでしょう。
導入・運用にどのくらいの費用がかかりますか?
「AI-OCRプラグイン for kintone」 は、年額6万円(税抜)から利用できます。料金は年間の読み取りページ数に応じたプラン制で、プランごとの機能差はありません。OCRエンジンや生成AIの利用料も含まれるため、別途AIサービスを契約する必要がなく、費用を見積もりやすいのもポイントです。kintoneの価格については料金ページをご確認ください。
すべての帳票を一度に電子化する必要がありますか?
その必要はありません。むしろ最初は対象を絞るのがおすすめです。件数が多い、転記項目が多い、入力ミスが起きやすい帳票が適しています。逆に、複雑な表や自由記述が非常に多い帳票、判読しづらい手書き帳票は、検証が難しいので後回しが無難です。小さく始めて効果が見えた帳票から横展開するほうが、現場にも定着しやすくなります。
LGWAN環境でkintoneを利用している場合でも、AI-OCRプラグインは使えますか?
「AI-OCRプラグイン for kintone」は、kintone上のプログラムと、外部のクラウドおよびAIサービスとの通信によって処理を行います。インターネット接続系の環境でkintoneを利用している場合は、通常どおり問題なく動作します。一方、LGWANのようにインターネットから切り離された環境では、利用する外部通信先へのアクセスが許可されていることが前提です(IPアドレス制限がある場合は許可リストへの追加が必要です)。現在の導入もインターネット接続系が中心で、LGWAN接続サービス経由での可否は接続サービス事業者のネットワーク構成によって異なります。検討の際は、情報システム部門・接続サービス事業者・サービス提供元の三者で通信要件を確認しながら進めるとよいでしょう。
監修
k&iソリューションズ株式会社
代表取締役 村上 啓一
kintone連携ソリューションの企画・開発を手掛ける。AI-OCRプラグイン for kintoneをはじめ、生成AIやOCR、電子契約を活用した業務効率化・データ活用支援を推進。自治体や民間企業における帳票業務のデジタル化・自動化に取り組んでいる。
※本記事の内容は、2026年7月時点の情報です。最新情報は各製品サイトをご確認ください。
