ゆうぼく 様の導入事例

ゆうぼく

【業務内容】
牛や豚の飼育、食肉の加工、流通・販売
【利用用途】
従業員日報,牛管理台帳
  • 会社の情報を全てオープンにすることで、従業員の意識改革を実現。若き社長が挑戦した、6次産業を成功に導く情報共有とは

1980年、愛媛県西予市で創業した株式会社ゆうぼく。園芸用ハウスで牛2頭から牧場経営をスタートした同社だが、現在牛の飼育数は530頭にのぼり、創業当初から安心・安全にこだわった餌づくりや無添加加工を一貫する「はなが牛ブランド」として地元住民を中心に多くの人たちから愛されている。
ゆうぼくの事業の大きな特徴は、生産(1次産業)から加工(2次産業)、そして流通・販売(3次産業)まで、全て1社で行なっているという点だ。こういった事業形態は1×2×3=「6次産業」と呼ばれている。自信を持って育てた牛や豚を自分たちの手で加工し、顧客まで届けるという一連の流れが出来上がっているため、商品のクオリティが非常に高く、この事業形態こそが同社の強みだと言えるだろう。
しかしその裏で、各部門同士はまったくの異分野のためお互いの関心が低く、会社全体として決してモチベーションが高い状況とは言えなかった。2016年に代表取締役として就任した岡崎 晋也氏は、新店舗の出店や新ブランド「はなが豚(ポーク)」の立ち上げなど、事業拡大とともにさらに社内の情報共有の課題解決が急務になったと語る。
この状況を打破するべく、代表就任後に社内のIT環境を整備し、kintoneの導入を実施。現場からの反発がありつつも、各部門間の情報が行き交い、kintoneのデータを元に社員同士が議論できる風土を作り上げることに成功した。今回はkintone導入前の状況から導入後の効果について、岡崎氏に語っていただいた。

読まれない日報、無関心な従業員たち
データ不足により課題も不明瞭で、業績が伸び悩んだ

食肉の生産から加工、販売まで一貫して自社で行なっている株式会社ゆうぼく。このような経営の多角化を「6次産業」と呼んでいる。同社は創業から一貫して無添加の商品にこだわり、自分たちの手でお客様により美味しいお肉を届けたいという想いの中で経営してきた。その結果、品質の高い商品が評判を呼び、地元住民を中心に着実にファンを増やしていった。しかしその一方で、長年携わってきたスタッフの経験をもとにした勘や感覚に頼る部分もあり、社内のデータ管理や情報共有のやり方についてはいくつかの課題を抱えていた。

ひとつは、従来取っていたデータの曖昧さ。各部門では牛の管理や棚卸し管理、売上日報など、業務上さまざまな情報を管理しているが、当時はそれらを紙やExcelで管理していたという。しかし決まったテンプレートがあるわけではないため情報の不足や欠落が多く、データとしては不完全なものだった。またそういった情報は各部門の拠点で個別に管理されており、岡崎氏が確認するのは数ヶ月単位でまとめられた報告がほとんどだった。そのため、何か問題が起きた際も対策が後手に回ってしまっていたという。

代表取締役 岡崎氏

もうひとつは、各部門の事業の性質が異なりすぎているため、社内の情報がまったく共有されていないという点だ。例えば牧場で牛の飼育・管理を行なっているスタッフと、工場で食肉を加工しているスタッフと、レストランで接客をしているスタッフでは、同じ会社といえども日々の業務内容は全く異なる。そのため、紙に書かれた日報やExcelで作られた管理台帳はそれぞれの部門だけで管理されており、お互いの状況がまったく見えない状態だった。

また経営層も全ての部門の報告を毎日チェックすることは難しく、リアルタイムの状況をなかなか把握できなかった。状況を把握できないと現場の課題がなかなか見えてこない。課題が見えないと有効な対策も立てられないため、会社の業績は伸び悩んだ。

また、牧場・販売所・レストランと各部門の拠点が離れていることもあり、各部門同士はお互いの業務についてさらに無関心になっていったという。

現場からの強い反発、続出する退職者…
それでもkintoneの可能性を信じて、改革を推し進める

2013年に同社に入社し、2016年に代表取締役に就任した岡崎氏は、これらの経営課題をいち早く見抜き、早急に社内のパソコンやネット回線などのインフラ整備を行った。元々メーカーのIT部門で働いていた経験のある岡崎氏は、その頃すでにkintoneの存在を知っていたそうだ。たまたま知り合ったサイボウズ社員の勧めもあり、2018年、社内の情報共有の仕組みを改革するためkintoneの導入に踏み切った。

今までITとは無縁だった牧場で始まった改革。当時の状況を振り返り、岡崎氏はこう語る。

「まずは現場のスタッフに、データをためることの重要性を何度も説明しました。そしてkintoneへの情報入力を徹底するように指示しました。しかし古株のスタッフの中には突然の電子化に抵抗感を持つ人もいて、なかなか情報を入力してもらえないケースもありました。しかしそこは厳しく注意し『あなたが入力しないと業務が止まる』と伝え、kintoneをワークフローの一部として組み込んでいきました」(岡崎氏)

しかし、決してこのやり方で順風満帆に事が進んだわけではなかった。若き社長の経営方針についていけなくなったスタッフもおり「社長1人で頑張ってください」と、ゆうぼくを去っていった人も少なくない。しかし岡崎氏は「たとえ自分が嫌われたとしても、目の前に見えている問題を見過ごすことはできない」と、自身が信じる改革を推し進めていった。

「2013年当時のスタッフは、数名を残してほとんど辞めてしまいました。ここ数年では新卒採用を始めたこともあり、社員の平均年齢もかなり下がりました。デジタルネイティブ世代が中心なのでkintoneのようなツールに抵抗が無い人が多いです。しかし生産や加工については昔からいたスタッフに比べるとどうしても技術レベルが劣っているため、新人教育に注力するなど、さまざまな対応策を検討しました」(岡崎氏)

一方、具体的にkintoneをどのように活用し始めたかというと、まずは飼育している牛に関する情報をひとまとめにした「牛管理台帳」をkintoneで作成した。今までは牛の導入の記録・肥育期間の記録、販売の記録・死亡の記録など、それぞれ紙やExcelを使ってバラバラに管理していたという。中には担当者の記憶に頼った管理をしている項目もあったそうだ。これらの情報を全てkintoneに移行し、細かく記録し始めた。

現在、牛管理台帳には牛の生年月日や導入価格、肥育の履歴から、最終的には販売日や販売価格まで全ての情報が記録されている。これらの情報が、スマートフォンでいつ、どこからでもすぐに確認できるようになった。

「今まではデータ管理が曖昧だったので『なぜ牛が死んでしまったかわからない』『なんとなく損失が出てしまった』という状況だったのです。現在は牛1頭1頭に向き合って管理しているので、いつ・いくらで販売されたのかという収益情報だけでなく、いつどういう病気になってどういう処置をしたのかという情報もきめ細かく記録しています。飼育中の牛が死亡してしまった際には、私のスマートフォンにすぐに通知が来るようになっていますよ」(岡崎氏)

また、レストランや販売店舗の日報も、今まではノートに売上のレシートを貼り、手書きで日報を記録する形式だったため、全ての日報を毎日チェックすることはできていなかったという。しかし現在は全ての日報をkintoneに移行し、いつどこでも手が空いた時に各部門の日報をチェックし、リアルタイムに現場の状況を把握できるようになった。またコメント欄で日報についてのフィードバックを伝えることもあるという。

kintoneを使うことで報告や議論の質が大幅に向上し、課題をいち早く見つけられる環境に
情報をオープンにすることで部門を超えてお互いを意識しあい、スタッフの士気向上にもつながった

kintone導入後、岡崎氏が各部門から上がってくる日報をはじめとした報告をリアルタイムに受け取れるようになったことで、さまざまな改善がみられた。たとえば、売上が落ち込んだ際kintoneに登録されているデータを元に要因を推定して対策を実施。すぐにデータ分析が実行されるため、問題に対して立てた対策に効果があったかどうか、数字をもとに正確に判断できるようになった。

また、事故(牛の死亡など)が多い、という課題に対して過去のデータから推定要因を割り出してデータ分析を行った結果、自社だけでなく周辺地域の牧場や農場にも関わる要因であることが判明。kintoneのデータがきっかけで、地域レベルでの改善活動にもつながったそうだ。

そして何より大きな変化は、社内のスタッフの意識が大きく変わったということだ。岡崎氏は、kintoneに登録された情報を敢えて社内の誰でも見られるような仕組みにしたという。各拠点の売上状況や報告書、岡崎氏からのフィードバックも、当然全てのスタッフが見られる状態だ。

牛1頭1頭の情報を、細かい数字まで緻密に管理している

各部門の日報は社内の誰でも閲覧可能に。岡崎氏自らコメントすることもある

「ある時、店舗のスタッフから『〇◯店は客単価が羨ましいですね、うちは客数では2倍勝っているのに…』と言われました。本人は何気なく言った一言ですが、これはつまりkintoneにアップされている情報を自主的に確認し『自分の部門ももっと頑張らなくては』という、良い意味でのライバル意識が芽生えたということです。他にも『お客さまからこんなご意見があったみたいですね』と、まったく別の部門の担当者から声をかけられたこともありました。これは、社内で情報が往来しているという何よりの証拠でした」(岡崎氏)

その他にも、kintoneにアップされたお肉の写真を店舗のスタッフがSNSに掲載して宣伝したり、他の部門の活躍を見ることによって自分たちもモチベーションを上げたりと、さまざまな効果を発揮した。岡崎氏はこの事象を「kintoneによる化学反応が起きた」と語る。

過去のkintone導入事例をみても牧場での活用例は非常に珍しい。しかしゆうぼくでは自社のやり方にあわせたkintoneアプリを作成し、実際に業務改善の効果を体感している。

最後に岡崎氏は今後のkintone活用について次のように語った。

「牧場や6次産業という特殊な事業形態だからこそ、kintoneの『うちの会社ならでは』の使い方をこれからもっと追求していきたいです。そしてその仕組みを他の牧場でも使ってもらって、ゆくゆくは業界全体に広まっていったら嬉しいなと思います」(岡崎氏)

畜産業界では、まだまだITやシステムの普及が発展途上にあるという。ゆうぼくのkintone活用事例をきっかけに、いつかは日本全国の牧場でkintoneが活用される日が来るかもしれない。