東急 様の導入事例

東急

【業務内容】
交通事業、不動産事業、生活サービス事業、ホテル・リゾート事業、国際事業
【利用用途】
全社での市民開発、AI活用(検索、アプリ作成)
  • 現場主導×伴走支援で、市民開発を全社に展開
  • kintone AIで実現する迅速・安心・安全な業務効率化

鉄道事業をはじめ、不動産、生活サービス、ホテル・リゾートなど多岐にわたる事業を展開する東急株式会社では、AI活用を段階的に進める方針のもと、市民開発を推進している。その中で利用されているのがサイボウズの「kintone AI」だ。検索AIによる会計論点の迅速な検索、アプリ作成AIによる開発支援など、既に現場主導の業務効率化を実現。市民開発事務局による伴走支援体制と組み合わせることで、IT人材に依存しないアプリ開発を全社に広げている。この取り組みについて、デジタルプラットフォームITソリューショングループ参事の千野陽太氏と財務戦略室 主計グループ参事で公認会計士の熊井佑一氏にお話を伺った。

「3つの段階」で進める東急株式会社のAI活用

東急株式会社(以下東急)は、鉄道・バスなどの交通事業を基盤に、渋谷をはじめとする沿線開発や生活サービスを幅広く手がける総合企業だ。多角的な事業展開を行う組織において、業務の効率化やデジタル活用の推進は全社的に推進すべき経営課題である。東急では20252月に市民開発事務局を設置し、IT人材ではない社員でもkintoneを用いてアプリを開発し業務改善に取り組める体制を構築した。市民開発しようにも課題がわからない、困っている業務を効率化したいという声に対し、市民開発事務局が伴走支援しながら課題を明確化していく。また、AI活用では同年11月から高機能なSaaS型生成AIも導入し、全社的なAI活用の取り組みが本格化している。

東急が掲げるAI活用は三段階で構成されている。第一段階は「AIに日常的に触れる機会を拡大し、活用イメージを育む」こと。第二段階は「AIを業務に組み込んで定着させる」こと。そして第三段階が「AIで事業を高度化する」ことだ。

この背景について、市民開発を推進するデジタルプラットフォームITソリューショングループ参事の千野氏は「AIを導入して業務効率化や新規ビジネスを考案するには、まず触れてもらい、こういうことができる・できないを知ってもらう必要があります。これまでの取り組みを通してユースケースは既に出てきているので、今後はそれをどう社内へ広めて、能動的なAI活用を促していくかを考えています」と説明する。

東急株式会社 デジタルプラットフォーム ITソリューショングループ 参事 千野 陽太氏

「検索AI」と「アプリ作成AI」で現場の課題を解決

東急ではkintone AIの「検索AI」と「アプリ作成AI」が主に使われており、特に効果を上げているのが、財務戦略室 主計グループ参事で公認会計士の熊井氏が導入した検索AIだ。

熊井氏は東急の単体決算の取りまとめを担当している。

「これまでは、各担当者が検討した会計論点※を共有フォルダに入れておくだけで、誰も体系的に管理していませんでした。過去にどんな検討があったかを調べるには、記憶に頼って年度ごとのフォルダを1つずつ見に行くしかなかったのです」と熊井氏は課題を振り返る。

東急株式会社 財務戦略室 主計グループ 参事 熊井 佑一氏

東急では、様々な事業を営んでいるため、毎年、特有の会計処理が頻繁に発生する。過去の判断経緯をたどれないことは、業務品質にも影響しかねない。この課題を解決したのがkintone AIの検索AIだった。「検索AIを主計グループ全体で活用することで、欲しい情報へすぐにたどり着けるようになりました。会計論点は言い回しや用語の揺れが多く、従来のキーワード検索だと目的の情報にたどり着けない可能性がありますが、自然言語で検索できるAIであればこの問題を解決できます 」(熊井氏)

現在、同アプリには560件を超えるレコードが蓄積されており、単体決算の予決算チームだけでなく連結決算チームも含めた主計グループ全体の横断的な活用が進んでいる。主計グループ内の評判も高く、チームメンバー全員が日常的に活用しているという。

さらに熊井氏はナレッジ共有アプリもkintoneで立ち上げた。「対応メンバーの交代が多く、ナレッジが定着しにくいのが主計グループの課題でした。そこで社内用語や不動産用語の説明、それに関連するパワーポイントなどの資料を登録しました。検索すると用語を解説してくれるだけでなく、検索AIが資料の中身まで読み取り、『何ページに書いてあります』と出典元を提示してくれます。不動産用語は経理担当者には本来馴染みが薄いものですが、これにより新人育成が効率化されました。 」(熊井氏)

kintoneの活用を財務戦略室全体に広げようと考えているところです。そうすれば皆でナレッジ共有できるようになりますからね」と熊井氏は期待を寄せる。

財務_検索AI.png

一方、アプリ作成AIは市民開発事務局で活用されている。事業部門からの相談時に、ヒアリングした要件をその場でアプリ作成AIに入力し、即座にアプリの雛形を作成して見せるという手法だ。

「例えば『ESG関連でこういうことをやりたい、項目はこんなものが必要そうだ』という文章をアプリ作成AIに入れると、その内容にあわせてAIがすぐにアプリを作ってくれます。それを見せて『合っていますか』と聞くと、大体合っていますという話になる。『こんなすぐに作れるんですね』という"WoW体験"ができるのです」と千野氏は手応えを語る。

要件をヒアリングした後に『一度持ち帰ります』と対応していたのでは、相手の熱量が下がってしまう。その場ですぐにアプリの形を見せられる手段が欲しかったのです。アプリ作成AIはまさにそのニーズへジャストフィットしました」(千野氏)

(注釈)※会計論点 会計処理や財務諸表作成における、一意な判断はできず検討や監査法人との合意が必要になる事項のこと。

東急様_経理関連アプリ作成AIイメージ図

※インタビューを参考に作成した「アプリ作成AI」のイメージ画像です

AI活用推進における課題と、それでも実感する手応え

AI活用を推進している東急だが、順風満帆なわけではない。千野氏は3つの課題を挙げる。第一に、利用ユーザーの教育不足だ。「kintone AIについては学習されないので、安心して配布しています。ただし、AIの回答精度を高めるためのデータの整え方について、社内での共通ルールやコツの共有がまだ追いついておらず、アプリ作成者それぞれの判断に委ねられている点が課題です。kintone AIに特化した事例発信などを行い、啓蒙したいと考えています」

第二に、社内データ整備の不足がある。市民開発で課題をヒアリングすると、 どこに何があるかわからないという状況が多いのだという。「これはkintoneにとどまらず、全社的な話です。自分たちの担当範囲から効率化していきたいと考えています」と千野氏は語る。

第三の課題は、「今のままで業務が回っている」という意識だ。「このままでいい」となりがちなことが課題だという。ただし、熊井氏は「時代的にもそうは言っていられません。素晴らしい技術が続々と開発されているなかで、kintoneAIなどを活用して業務を効率化していくというのが会社の目標として設定されていますし、それが文化にもなっていますから」と指摘する。

そのような課題がありながらも千野氏は「例えば、今までアプリを作ったことがない部門でkintoneでアプリを作って業務効率化できたという事例があります。現場からは自分達でアプリを作れたことが自信につながったという声があがっていて、ポジティブな目標に変わりました。 それができれば、自然と活用が進んでいくはずです」と、前向きな変化を実感している。熊井氏も「kintoneの研修会から『こういうのができるんだ』とわかって導入できたので、とりあえず使ってもらうことが最大の教育だろうと考えています。そのためにも、まずはkintoneに触ってもらうことが大切ですね」と強調する。

  

WoW体験をしてもらいつつ、情報発信と実際の活用の循環で全社展開を目指す

kintone AIの活用を今後どのように広げていくかについて、千野氏は明確なビジョンを示す。「主計グループのような市民開発に成功した部門が出てきているので、そのことを広く発信していくのが重要だと考えています。いかに自分事としてもらうかがポイントです」

さらに、「こんなふうに使えますよ」という具体例を示すことで、「こんなふうに使えるのか」と理解してもらうことも、自分事にしてもらうためには重要だという。「現在伴走支援しているプロジェクトは60を超えています。実際に使っている部門の社員もスペシャルゲストとして巻き込みながら、成功体験だけでなく失敗事例も共有してもらうなど一緒に積極的に推進していきたいですね」(千野氏)

まず情報発信の土台を作り、次に自分事にしてもらうための濃い説明、その後に実際に使ってもらう。このプロセスを小さく回しながら広げていく。「課題感も大事ですが、『こんなふうに使えばいいのか!自分でもできそう!』というWoW体験をしてもらい、ポジティブに使ってもらうようにしていくことを目指しています」(千野氏)

 AI活用全体としては、ITソリューショングループが進める全社的なAIガイドラインとの連携を維持しつつ、kintone AIの機能については現場主導で迅速に展開していく。セキュリティガバナンスを確保した上で、安心・安全な環境の中で社員がAIに触れ、自ら活用方法を見出していける状態を目指している。 千野氏は「生成AIを推進しているチームと全面的に一緒になって進めていきます」と語る。

熊井氏は、検索AIの活用がRAG(検索拡張技術)の実践的な入り口になっていると指摘する。「普段使っているkintoneにデータを入れておくだけで、AIが答えてくれる。この体験を通じて、データを蓄積することの重要性を理解してもらえる。将来的にAI活用が当たり前になった時、今この段階でデータを入れ始めていることが大きな差になるはずです」

東急のAI活用は、「まず触れてもらう」という第一段階から、「業務に組み込み定着させる」循環を生み出し、全社展開へと着実に進んでいる。kintone AIは、その推進力として重要な役割を果たし続けているのだ。

20262月取材)