東急百貨店 様の導入事例

東急百貨店

【業務内容】
百貨店業
【利用用途】
顧客情報管理・日報報告書・受注管理・マーケティング施策管理・eラーニング
  • 百貨店がノーコードツールkintoneで顧客接点のデジタル化に成功
  • 本部 - 店舗スタッフ - 取引先を巻き込んだDXとは

東急百貨店は、2020年から業務のDX化を推し進め、外商営業の業務のデジタル化にも取り組んでいる。今回は、全社のDXを担う経営管理室 情報システム部 担当部長 光山氏、外商事業部 お得意様営業部 マーケティング戦略推進の岩井氏・辻本氏に、百貨店におけるkintone導入の経緯、活用法とその効果をうかがった。

【課題】 顧客情報管理のアナログな部分をデジタルで効率化したい

渋谷に本社を置く東急百貨店は、渋谷ヒカリエ ShinQs・吉祥寺店・たまプラーザ店やフードの専門店業態「東急フードショー」などのリアル店舗、ECサイトなどその販路は多岐にわたる。そんな同社では、2020年に「DXで百貨店をもっと効率的」にという号令とともにデジタル推進部が発足。情報システム部門と業務部門から集まったプロジェクトメンバーで、各部署から持ち寄られた業務効率化の悩みについて議論することになった。複数のDX推進プロジェクトが立ち上がる中、外商事業部の顧客情報管理のアナログな部分もその見直し対象となった。

外商員は店頭で接客する販売スタッフと異なり、個人や企業のお客様の元に出向いて、個別に物やサービスを販売する部隊である。そんな同社の外商事業部では、営業一人あたり100人単位のお客様を担当することもあるが、以前まで趣味嗜好や個別のやり取りなどのお客様情報を、各外商員が顧客台帳などに記録していたという。会社としてより詳細な顧客データを有効活用しにくい状況だったのだ。属人的でアナログな管理だったことで、担当変更になった際もお客様の情報を、購入データと合わせて顧客台帳を使用して次の担当に引き継ぎ行っていたがスピード感や柔軟性に課題を感じていた。

さらに、新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛をきっかけに、リアル店舗でお客様との接点が取りづらくなっていることも課題としてあがっていた。そこでアナログな営業活動の課題を解決する顧客情報管理システムと、スマートフォンやパソコンを利用したお客様とのデジタル接点を作るためのツール検討を始めることになる。

【選定】コスト・使い勝手・ノーコードツールならではの良さが決め手

ツール選定の際は、kintoneと競合製品が比較検討された。最終的に「手軽なコスト」「スマートフォンやタブレットからも利用できる点」「プログラミング知識のない現場担当者でもアプリを自ら作ることができ改善できる点」が決め手となり、ツールを使う外商事業部のメンバーがkintoneを選択した。

「実はkintoneは2018年頃に、当社の小型店舗において店内コミュニケーションや顧客カルテとして利用していた経験がありました。当時から『親しみやすい・使いやすい』と店舗の現場スタッフからの評判も良好だったため、外商事業部のDXを推進するツールとしてもkintoneはすぐに候補に上がりました。組織の成長や変化の度にシステム変更を外注していたら、コストや時間がかかってしまい大変です。kintoneであれば内製で柔軟な画面変更ができるポイントも高評価でした。比較検討した他社製品は高機能な商品ですが、使う側に高いリテラシーが必要な点が懸念としてありました」と、情報システム部門の光山氏は語る。

外商事業部 お得意様営業部 マーケティング戦略推進 岩井氏

「過去に外商事業部では、独自に開発したフルスクラッチに近いのツールを使っていましたが、画面が複雑で入力に手間がかかるものだったことで、最終的に使われなくなってしまうという経験がありました。そのため、新たに導入するツールが使いやすいかどうかは重要なポイントでした。実際にツールを使うことになるメンバーを何人か集め使用感を確認したところ、これならデジタルツールに不慣れなスタッフでも活用できそうと実感しました」とツールを使うメンバーの目線として辻本氏は語った。

さらに、ノーコードツールならではの良さについても辻本氏は「ITの専門家ではない自分たちでもアプリを改善できるkintoneは魅力的だと思いました」と付け加えた。

外商事業部 お得意様営業部 マーケティング戦略推進 辻本氏

【効果】営業行動の見える化や多部門連携アプリで、業務効率化に成功

顧客カルテアプリで営業の動きの見える化に成功

外商事業部がまず取り掛かったのは、営業体制のデジタル化だ。「顧客カルテ」はお客様の情報を一元管理できるアプリだ。お客様ごとに購入履歴、イベント参加履歴、お問い合わせ履歴、好きなブランド、趣味嗜好といったパーソナルな情報を登録している。担当の外商員やその時々に対応したスタッフが、日々のやりとりも含めて記録できるようになっている。

顧客カルテアプリによって、今までは台帳で管理していたお客様情報が、部全体で共有・見える化され、営業効率が格段に上がった。さらに、お客様の担当が変更になる際の引き継ぎも正確かつスムーズになった。外商員一人が担当する100人単位のお客様情報は、すべて顧客カルテアプリ上で確認できる。アナログだった営業管理はkintoneによってデジタル化され、百貨店の外商営業が効率的に生まれ変わったのだ。

何よりも担当の営業部員だけが把握していた情報をデータベース化できたことは大きな変化。東急百貨店の外商事業部として顧客データを活用し、お客様一人ひとりのニーズに合わせたサービス提供が可能になったことに、とても価値を感じます」と外商事業部の岩井氏。

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外商員はkintoneでお客様情報を確認してから営業に臨む(※画面はイメージです)

外商・売場・配送業者がkintoneで連携して電話注文と配送を可能にし、お客様の要望を実現

同サービスを本稼働させる際に、興味を持っていただいた特定のお客様から電話注文された食品を、翌日までにご自宅までお届けする「食料品即配システム」は外商事業部のメンバーも積極的に参画し、情報システム部の担当者がkintoneで構築した。外商員が電話で注文を受け付けkintoneに注文情報を登録する。登録された受注情報をもとに、商品をピッキングして発送までを行うのは渋谷 東急フードショーの店舗スタッフだ。その後、商品を配送する東急グループ会社のドライバーに連携。kintoneのステータス管理機能を用いることで「配車予約→ピッキング→配送」までが滞り無く流れる。部署や所在地、会社が異なる3者が連携してスムーズにサービスを提供している。

アプリ誕生秘話とその効果を教えてくれたのは辻本氏だ。「2023年1月に営業終了した東急百貨店本店では、お客様が購入した食品をご自宅まで即日お届けするサービスを実施していました。同様のサービスを求める声をお客様からいただいていたので、対応を検討していたところ、この仕組みが解決してくれました。「食料品即配システム」では、お客様はお電話をするだけで、外商員は事務所からお客様が求めるサービスを提供できるようになりました。また、外商事業部だけではなく他部署や他企業様とも関わりながら業務を進めるこの仕組みには、色々な可能性を感じています」。

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デジタルによる顧客接点を多数創出し、潜在的なお客様へのアプローチも可能に

kintoneでお客様情報を一元管理できるようになったことによる効果は、業務効率化だけでにとどまらない。メールマガジンの配信やアンケート調査など、新しいマーケティング施策の実行も可能になった。コロナ禍で顧客とのリアルな関わりを持ちにくくなる中、デジタル接点が増え、顧客満足度に寄与したことには価値がある。

例えば、あるブランドの一押し情報をお客様にご案内したいとなった場合、購入履歴がある方へのアプローチがメインになっていましたが、顧客カルテデータにお客様の趣味嗜好を登録することで、潜在的なニーズをもつお客様へのアプローチが可能になりました。それにより、お客様に寄り添ったご提案をできるようになりました」と辻本氏。

内部統制系のテストをeラーニング化で受講率が100%に

外商業務部でのkintone活用効果はすぐに口コミで社内に広がった。中でもeラーニングでのkintone活用は効果が大きい。内部統制部門では、これまで紙ベースで実施していた教育マニュアルの展開やテストをkintoneでデジタル化した。店頭勤務者を含む社員1000人以上を対象としたテストは以前から受講率が上がらないことが課題だったが、kintone移行後に受講率100%を達成した。

隙間時間にスマートフォンから受講できることや、受講状況をkintoneで可視化できるようになったことが受講率アップにつながったとのだと思います」と光山氏。

なお同アプリは情報システム部門が最初にひな形を作り、学習内容に合わせて簡単に応用できるようにしたので、今では情報セキュリティ・人事・ハラスメント教習・店舗運営教習・スマホ操作教習などのeラーニングにも横展開されている。eラーニングやテストを滞りなく実施できるようになったことで、DXを推進するうえで必須となる社員の情報セキュリティーリテラシーの底上げも同時に達成したというわけだ。

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【展望】口コミでkintoneが全社的に拡大。さらなる活用を目指す

最後に、情報システム部門の光山氏がkintoneが社内に広がった経緯と社内浸透の秘訣を語ってくれた。

外商事業部の顧客情報管理や、内部統制部のe-ラーニングの取り組みによるDX成功は、社内報などを通じて社内に広がりました。業務の困り事をkintoneで解決したいといった問合せが情報システム部に入っています。

kintoneの浸透は小さく始めて段階的に拡大していくことが大切だと考えています。まずひとつの部署の案件を小さく実施して、業務フローを相互で可視化して関係者と密なコミュニケーションを図りながら、彼らのニーズに合った業務アプリを共に構築します。この進め方なら全体への影響が少ないので思い切り取り組めますし、失敗や課題があっても修正や改善も簡単です。利用者の満足度と業務の改善思考も高まります。

同時に現場部門にkintoneの仕組みを理解いただくための取り組みも欠かせません。仕組みを覚えていただければ、アプリの作成を各部門にお任せします。

最後に、kintoneで業務効率化に成功した部門にはアンバサダーのような存在になっていただき、他の部署に口コミで良さを伝えてもらいます。この流れで業務をアプリ化・効率化することができました」。

百貨店におけるkintone活用の展望をうかがうと「今後はB2B、B2Cの領域拡大やkintone保有データのAI分析などさらなる用途拡大もしてみたいと思っています。非IT部門が使ってこそのkintoneなので皆さんのkintoneリテラシーがあがるような取り組みや、社内体制整備にも取り掛かる予定です」と光山氏は話してくれた。

(2023年12月18日公開)