塩野義製薬 様の導入事例

塩野義製薬

【業務内容】
医薬品、臨床検査薬・機器の研究、開発、製造、販売
【利用用途】
データ集積
  • 社内データの集積を担うツールとしてkintoneを採用
  • データウェアハウスに高品質なデータの投入が可能に

大手製薬会社の塩野義製薬株式会社では、企業内の多様なデータの有効利用を目的として社内のデータ活用基盤の構築を目指す「セントラルデータマネジメント構想」を掲げており、その環境づくりのためにサイボウズのkintoneを活用している。その経緯について、DX推進本部 データサイエンス部 データエンジニアリング1グループの新井 勇輝氏、DX推進本部 データサイエンス部 データエンジニアリング2グループの内藤 詩菜氏、医薬事業本部 営業推進部 営業推進グループ 兼 DX推進本部 データサイエンス部 データエンジニアリング1グループの小山 高史氏にお話を伺った。

【課題】事業部門で使える簡単さと効率的なデータ集積の仕組み化を両立するツールが必要

塩野義製薬株式会社では2021年、「セントラルデータマネジメント構想」のもと、データサイエンス部を中心に社内データの一元管理とデータ活用基盤の整備に着手した。狙いは、各業務で生まれる多様なデータを有効に活用し、経営層の意思決定を後押しするとともに、社内のイノベーションを加速させることだ。

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当時、各部門で扱うデータの多くはExcelで管理されていた。役割表や当番表、工場の環境データ、IT資産管理台帳など、業務に関わるデータの約8割がExcelで管理されており、収集、共有方法は主にメールでのやり取りであった。ファイルの保管場所も社内サーバーやクラウドストレージなどに分散し、バージョン管理が煩雑になっていた。さらに、長年メンテナンスされていないExcelファイルでは、開くのに数分を要するケースもあった。こうした状況は、データ収集や分析の妨げとなっていた。

DX推進本部 データサイエンス部 データエンジニアリング1グループ 新井 勇輝 氏

「これら社内のデータ化にまつわる課題を解決するために、事業部門がExcelの代替として使うことができて、データを効率的に集積する仕組みを作ることにしました。」と語るのは新井氏だ。

【選定】事業部門が求める直感的な使用感が決め手に。Excelの代替となるツールとしてkintoneを採用

社内データの集積管理のためのツールの選定にあたり、同社では「事業部門での使いやすさ」と「データ活用を見据えた要件」の両面から検討を行った。

事業部門の視点では、ツールの使いやすさが欠かせない要素となる。kintoneはマニュアルを参照しなくともアプリを作成できる直感性を備えており、そのシンプルさが導入を決める際のポイントとなった。さらに、Excelとの親和性が高く、既存のExcelファイルをアップロードしてアプリ化することもできるため、事業部門の担当者がこれまで扱ってきたExcelデータをスムーズにデータベース化できる点も導入のメリットとなった。

一方、セントラルデータマネジメント構想を推進する立場からは、データの一元管理と価値最大化に繋がるようなデータ集積管理ができる点が重要だ。kintoneは業務利用の過程で自然にデータが整理・クレンジングされる仕組みを持ち、さらに他ツールとの連携性にも優れている。Excel中心となっている社内データを効率的にかつ高品質に集積できることがkintone導入の決め手となった。

「私たちは3つのツールを比較検討しました。kintone以外のツールはアプリの作り方がやや複雑で、事業部門での普及が難しいだろうと考え、採用は見送ることにしました。」と選定の経緯を小山氏は教えてくれた。

導入当初は、kintoneを用いることで向上を図るデータ活用基盤の価値は、事業部門にとって直接的なメリットには感じにくい場面もあり、社内でのkintoneの浸透には課題感があった。

そこで塩野義製薬が取り組んだのは、事業部門の目線に立ったアプローチだった。事業部門にとってkintoneは「Excelの代替」であり「業務効率化のためのツール」だ。そこで「なぜリプレースが必要なのか」を明確に伝え、さらに「kintoneを活用するとどんな未来が開けるのか」をイメージしてもらえるよう努めた。そして事業部門のニーズを丁寧に聞き取り、「kintoneで何ができるのか」を具体的に提案し、業務効率化の手段として価値を感じてもらえるようサポートした。

医薬事業本部 営業推進部 営業推進グループ 兼 DX推進本部 データサイエンス部 データエンジニアリング1グループ 小山 高史 氏

こうして小さな成功体験を積むことで不安が解消されていき、事業部門から新しいアプリの活用アイデアが生まれるまでになった。事業部門とのコミュニケーションを大切にすること、データの価値を粘り強く伝え続けること、そんな事業部門と二人三脚で取り組む姿勢が、kintoneの社内定着につながっていった。

「導入初期の段階では、基本的な使い方のアナウンスを行ったうえで、データサイエンス部のメンバーが事業部門の相談に乗る形で一緒にアプリ開発を行っています。kintoneの使いやすさから、事業部門主導でアプリ開発を進めていただくシーンも増えてきています。」と内藤氏は語る。

DX推進本部 データサイエンス部 データエンジニアリング2グループ 内藤 詩菜 氏

【効果】事業部門主導でデータウェアハウスに高品質なデータを投入する仕組みが完成

Excelファイルのkintoneアプリ化で、脱Excel

kintoneアプリは、既存のExcelファイルをkintoneにアップロードしてアプリ化したり、事業部門のニーズをもとにアプリを一から作成したりする方法で日々増加している。これにより社内で脱Excelできるシーンが増えてきている。

 また従来のExcel管理からkintoneへ置き換えることで、入力項目への制御などを行い、データ入力時点で一定の品質をそろえることが可能になった。

kintoneを挟むことで事業部門のデータ管理者がデータウェアハウスにデータ投入可能に

塩野義製薬のセントラルデータマネジメント構想においては、各事業部門からデータをデータウェアハウスに持ち込み、各自でデータの管理を担ってもらう分散型のデータコミュニティを形成している。kintoneにためたデータは、ETLツールで加工して、そのままデータウェアハウスに投入することが可能であり、この仕組みによって事業部門からデータを持ち込むハードルを下げることができた。ETLツールの機能で定期的にデータを連携することもできるため、質に加えて「鮮度」の高いデータを投入できる点も利点である。

また、従来はExcelでデータを管理していたため「誰がデータを管理しているのか」という意識が薄く、責任の所在が不明確になりがちだった。この課題もkintoneを活用することでkintoneアプリ管理者=データ管理者」という役割が明確化し、データ活用における責任と体制が強化された。

kintoneを間に挟むことで、事業部門のデータがよりスムーズにデータウェアハウスに流れるようになり、セントラルデータマネジメント構想を一歩前進させることができました。」と小山氏

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業務データをデータウェアハウスとつなぎ活用の幅も拡大

kintoneで集積した業務データの有効活用は、様々なシーンで進んでいる。また、データウェアハウスとつなぐことで、最新データの可視化も可能になるなど、活用の幅も広がっている。以下はkintoneアプリで集積したデータの活用事例だ。

①会議体へのエントリーとエントリー内容の蓄積を両立
会議体での審議枠確保のため、提案者はkintoneでエントリーする。
会議のスムーズな運営をサポートするだけでなく、kintoneはエントリー内容の蓄積先としても機能。

②プロジェクトの活動管理での利用
kintoneから様々なプロジェクトの活動を申請して承認されると活動コードを発番する。
活動コードを別の活動管理システムに取り込み、活動計画、実績を登録できるようにすることでタスクの一元管理が可能に。

③工場の環境系データを素早く可視化
kintoneで集積した最新データをBIツールで可視化し各部門に共有。素早い意思決定に寄与。

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事業部門のデータリテラシーが向上

kintoneの導入は、事業部門のデータリテラシー向上にも寄与している。アプリ設計時は事業部門が「やりたいこと」を反映したアプリを自由に作成してもらう一方で、分析や可視化のためのデータ加工を容易にするため、入力規則やデータ属性など最低限押さえるべきポイントは意識してもらうようにサポートしている。

また、アプリ作成の過程では、Excelをアップロードすれば必ずしもそのままアプリ化できるわけではなく、保存形式によっては修正が必要になることもある。こうした場面を活かし、データクレンジングなどの基本知識をOJT形式で伝えることで、自然と事業部門の理解度を高めることができた。事業部門が自らアプリを作りながら学ぶプロセスを通じて、全社的なデータリテラシーの底上げにも繋がっている。

業務効率化のサポートで、より価値の高いデータ活用基盤の構築を目指す

塩野義製薬では社内でのkintone利用シーンの拡大に伴って、アプリの種類や数が着実に増えているが、一方で利用用途が発散したりメンテナンスが行き届かないといったリスクも存在する。この点を社内方針やガバナンスを踏まえて検討しつつ、kintoneをより価値の高いデータ集積ツールとして育てていくという。

kintoneによる業務支援が、結果的に整った活用可能なデータ集積につながり、セントラルデータマネジメント構想の進展に寄与すると考えています。今後、ユーザーの縦横のつながりを深め、社内外での事例紹介や成果発表の機会を増やすことで、より価値の高いデータ活用基盤の構築を目指していきます。」と小山氏に今後について語っていただいた。(20258月末取材)

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