信幸プロテック 様の導入事例

信幸プロテック

【業務内容】
オフィス、商業施設向けの空調設備の工事、点検、修理など
【利用用途】
物件情報管理、受付登録管理、見積り管理
  • kintoneを使って業務改善ができたと「思い込んでいた」
  • 現場の本音を聞いて気づいた、本当の業務改善とは

岩手県盛岡市に拠点を構える信幸プロテック株式会社。事業の8割は工場やオフィス、商業施設向けの空調設備の工事、点検、修理。今まではメンテナンスが中心だったが、近年では売り上げの6割程度を新規設置工事が占めているという。
同社で専務取締役を務める村松直子氏。大学卒業後は首都圏の通信会社に勤務していたが、16年前に家業を継ぐため岩手県に戻り信幸プロテックに入社。当時は経理部門に1台しか無かったパソコンを、社員に1人1台割り当てるなど、入社後から早速IT革命を起こして手腕を発揮した。そんな村松氏は、持ち前の行動力で社内にkintoneを導入し、見事に業務改善を成し遂げたが、同時に大きな困難にも直面した。今回は村松氏に、kintone導入をきっかけに気づいた「本当の業務改善」についてお話をうかがった。

長年使ってきたパッケージソフトが限界を迎えシステムの乗り換えを検討
しかしなかなか自社に合うシステムに出会えずにいた

信幸プロテックでは、過去に設備工事業向けのパッケージシステムを利用していたが、顧客の登録件数が4,000件、機器情報が10,000件を超えた頃からシステムのレスポンスが悪くなり、自社サーバーも限界を迎えていた。また、顧客からのクレームが起きた際に「誰がいつ何と答えたのか」「なぜそのようなことが起きたのか」という事実の見える化ができていなかったことも大きな課題となっており、既存のシステムから新システムの移行を検討し始めたという。

村松 直子 氏

「2016年から2017年ごろ、Salesforceを導入して改善を目指しました。私が自分で調べて導入したのですが、身近に詳しい人がいなかったこともあり、システムに仕事を合わせるというスタイルが信幸プロテックには合わず、結局すぐに元々使っていたパッケージシステムに戻してしまいました。しかし ‘‘このままではいけない” という危機感は常にあり、たまたま同業者の知人がkintoneを紹介してくれたことをきっかけにkintoneの自社導入を検討しました」(村松氏)

そんな折に、岩手県の事業で働き方改革モデル企業を募集していることを知り、応募したところ、取組事業所として選定を受けた。取り組みの一環としてスキルマップと手順書の作成を行い、1週間の仕事内容の棚卸しと時間測定を行ったところ“時間をかけたくないのに多くの時間をかけてしまっている業務’'が数種類あることに気がついたという。

「具体的には、受付処理と見積もり、請求書の社内システム登録に特に時間がかかっていました。このあたりの業務をIT化して対策を打てば大きな効果が見込めると踏んで、kintoneのアプリで業務改善を行うことを決めたのです」(村松氏)

kintoneの導入により受付業務の時間が80%削減、
見積もり、請求書の登録作業は93%削減
働き方改革の追い風もあり、自社の営業利益は過去最高を記録

まず作成したのは、物件情報アプリ、受付登録アプリ、進捗·履歴アプリ、機器管理アプリの4つ。中心となるのは顧客の基本情報を持つ物件情報アプリで、必要な情報が関連レコード一覧で表示される。新規の作業依頼がある場合にはアクションボタンを使い、受付登録アプリに作業内容を登録する。登録が完了すると社外で活動するサービスマンのスマートフォンに通知が届く仕組みだ。

物件情報アプリ

さらに見積作成の時間を短縮すべく、これもkintoneでアプリ化した。仕入れ先への問い合わせや注文の履歴を記録することで、他のサービスマンがどのようなものをどこに注文し、どのような対応を受けたかもわかるようにし、ノウハウを共有できるようにしていった。これらkintoneアプリの導入によって、受付時間は2分30秒から約30秒にまで短縮できたという。一見小さな数字だが、件数が多いので総合すると相当の時間削減につながった。実際、これらのアプリと見積書·請求書登録アプリを合わせて、年間27日分にもおよぶ作業時間を削減している。

また、同社は2018年には岩手県働き方改革アワード個別プロジェクト賞を受賞。ルールや時短ありきではなく、スタッフが主体となって続ける効率化の取り組みが評価されたのだと思う、と村松氏は振り返る。

「3年間にわたるこれらの取り組みにより、時間外労働が22%減少しました。その一方で依頼件数は増加し、売上は1.4倍、利益は8倍に向上しました。もちろんkintoneだけではなく、働き方改革を含めすべてを合わせて得られた成果です」(村松氏)

進捗管理アプリ

結果を出しているのに「以前のシステムの方が良かった」という辛辣な声
自分の思い込みに気づき、自社の良さとkintoneの良さを改めて思い知る

社内でkintoneが定着し、残業時間の削減や売り上げの増加などさまざまな効果を出して順風満帆に事が運んでいたと思われたある日。社内からも信頼の厚いベテランサービスマンから言われた言葉により、村松氏は大きな衝撃を受けた。

「彼は"前のシステムの方がずっといい"通知が来すぎて鬱陶しい'’“とにかくkintoneは使いにくい’'と、厳しい意見を私に正直に伝えてきました。しかし、こんなにも頑張って実績を出せているのに以前の方がマシだったと否定的な言葉をかけられ、内心は非常に落ち込みました」(村松氏)

ショッキングな言葉を受けた村松氏は、一度自身の考えや行動を見直すことにしてみた。その時のことを次のように振り返る。

「私は自分が誰よりも会社が大好きで、誰よりもよく知っているからこそkintoneを使ってベストな仕組みを作れているはず、と思い込んでいました。しかしよく考えてみると"どうせ現場の人は難しいことは覚えたくないだろう"、“きっと社内のシステムに関心なんて無いだろう’'と諦めて、否定されることを避けて通ってきたことに気付きました。kintoneが使いにくいと意見をくれたメンバーも、外回りから帰った後に、教えていなかった機能も使いこなそうと努力したり、履歴や機器の情報を自ら入力して意味のあるデータベースにしようとしてくれていたのです。しかし私が現場で使うメンバーの気持ちに寄り添えていなかったために、現場にとっては使いづらいシステムになっていました」(村松氏)

村松氏が改めて周りを見渡してみると、さらなる気づきがたくさんあった。パソコン初心者の若手メンバーが、自らkintoneの名刺管理アプリを改良し、与信調査をアプリでステータス管理できるように自分で考えて設定をしていた。その他の社員は委員会活動にスペースを活用するなど、まるで小さな花が少しずつ咲くように、社内のメンバーが自主的にkintoneの使い方を工夫し、kintoneを利用した業務改善が広がっていたのだ。

「それ以来、私は“自分が一番良い仕組みを作れる”という思い込みを捨てました。kintoneも現場のメンバーに一部の基幹アプリ以外は自由に触っていいよと伝え、私は見守る立場に回りました。もちろん現場の要望があればその声を吸い上げながらアプリを作ったり、アプリを改良したりもしています。厳しい意見をくれたサービスマンは、人一倍仕事を良くしようという意欲が強いので、今ではkintoneアプリに対して的確なフィードバックをたくさんもらえて助かっています」(村松氏)

働き方改革からkintone導入までの一連の出来事で、大きな成功と挫折を味わった村松氏。自身の経験について、最後にこのように語った。

「働き方改革を推し進める中で、みんながお互いに関心を持ち、自分たちの手でもっと業務を良くしていこうという意識が芽生えていました。これはつまり、仕事を自分の手で変えられて、仲間同士でノウハウを共有できて、小さな改善を積み重ねられるkintoneの良さと自社の強みがマッチしていたということです。この経験から、私も色々と学ばせていただきました」(村松氏)

システム導入に成功し、安心しきっているIT担当者も数多くいるだろう。しかし本当にそのシステムが現場のメンバーにとって使いやすいのか、現場に寄り添って設計されているのか。今一度冷静になって見直すことで、次の大きな一歩につながるかもしれない。