医療法人清水会 京都リハビリテーション病院
- 【業務内容】
- 回復期リハビリテーション
- 【利用用途】
- 転院調整、患者情報管理、データ集計、コミュニケーション
地域医療構想の枠組みのなかで、回復期リハビリテーション病棟のみを運営する病院として急性期の医療機関からの患者を受け入れている京都リハビリテーション病院では、転院患者の早期受け入れを実現するべく、病病間連携の情報共有基盤としてkintoneを導入している。kintoneを採用した経緯と現状の運用について、京都リハビリテーション病院 地域医療連携室 室長補佐 瀧村孝一氏にお話を伺った。
1953年に清水診療所として開業、脳神経外科を中心とした医療法人清水会京都伏見しみず病院を経て、2016年には64ある一般病床を全て回復期リハビリテーション病床に機能変更し、京都伏見深草の地で新たなスタートを切った京都リハビリテーション病院。同じ敷地内に介護老人保健施設や特別養護老人ホームが併設されているなど、医療と介護の垣根を超えた有機的な連携を実現。病床機能の細分化が進められている地域医療構想のなかで、急性期以降の患者を総合的に支援できる医療介護グループとして、重要な役割を果たしている。
この病院内において、急性期病院からの患者受け入れから患者情報の院内共有、機能回復後の自宅療養に向けた退院支援までを手掛けているのが、地域医療の中核となる地域医療連携室だ。「通常の病院であれば救急や療養病床などが併設していますが、回復期リハビリテーション病床のみで運営している病院は全国的に見ても珍しい。外部の医療機関からの紹介率は99.5%となっており、経営的な視点から見ても外部の医療機関との連携は極めて重要です」と瀧村氏は説明する。そのため、入退院の手続き支援はもちろん、外部医療機関への営業活動や病病間連携の仕組みづくりも、地域医療連携室としての重要な役割となっている。
通常、急性期病院からの受け入れ依頼や患者情報は、電話や手紙、FAXにより通知が行われ、それをもとに院内の病床状況を確認したうえで、医師や看護師に判断を仰くごとになる。そして、最終的な受け入れ可否の判断を急性期病院に伝え、受け入れ可能であれば入院手続きが取られるようになる。しかし従来のフローでは、患者情報をExcelに転記したうえで医師や看護師に紙で情報共有していたため、受け入れ可否の判断までに多くの時間がかかっていた。
「急性期病院としては早期に回復期への移行が求められることも少なくありません。実際には患者や家族の希望を聞いたうえで、それらの病院に患者情報を共有し、迅速な受け入れが可能な病院に依頼することになります。つまり、できる限り迅速に受け入れ可能かどうかの表明をすることが、経営上重要になってきます。しかし、受け入れ可否を判断するまでの転院調整日数は、これまで15-16日と全国平均で見ても長くかかっていたのが実態だったのです」と瀧村氏は当時を振り返る。
患者情報及び受け入れ判断のためのExcel管理から脱却すべく、新たな仕組みを検討した瀧村氏。実際にはGoogleやAWSなどクラウド上で共有しやすい仕組みを検討したものの、病院内に適した形でのカスタマイズが必要だったという。また、将来的には介護施設も含めて自由なフォーマットで情報管理ができる基盤を希望した瀧村氏。「グループ内にIT部があるわけではなく、私が中心となって仕組みを構築していく必要がありました。ITの専任者でなくとも運用できる基盤が欲しかったのです」。
そこで目に留まったのが、サイボウズが提供するkintoneだった。「実は宇治徳洲会病院の職員と地域における医療連携をどう高めていくのかについて話をしているなかで、宇治徳洲会病院の情報共有基盤として活用しているkintoneの話題になりました。kintoneであれば、Excelに近い形で医師や看護師にも情報共有できますし、フィールドに項目を追加するだけで何となく形になる。kintoneなら私でもアプリが作成できるため、グループ内に展開していくには最適だと考えたのです」と語る。
患者の個人情報をクラウド上で扱うことに関しては、kintoneであれば十分なセキュリティが確保できると判断した瀧村氏。「二段階認証はもちろん、IP制限をかけてアクセス元を限定し、さらに訪問リハなど外出先で情報を閲覧したい場合でも、セキュアアクセスによって安全な形で運用できると考えました。そもそも個人のPC内にあるExcelで管理している方が間違いなくリスクは高い。最近では電子カルテもクラウドで利用する時代ですので、十分クラウドでも運用できると判断したのです」。
そこで、当初は同病院がkintoneのライトプランを契約し、宇治徳洲会病院が契約しているドメインに参加したうえで、患者情報の共有や病床の空き情報、患者受け入れに関するコミュニケーション基盤として「病病連携ポータル」の運用を開始。実際に使ってみると自身の病院でも活用できるシーンがたくさんあることが分かり、1か月後には無償でのトライアルを経てスタンダードプランへの変更を実施。以降は宇治徳洲会病院との間でゲストドメインの共通化を行うことで、病病連携に向けた宇治徳洲会病院との間の情報共有、コミュニケーション基盤としてkintoneが活用されている状況だ。
「病病連携ポータル」画面
現在は、地域医療連携室のメンバーや各施設にいる相談員など事務方を中心に、看護部長なども含めて10名ほどが利用しているが、今では訪問リハの報告内容もkintoneにて記録され始めている。また、一部の特養や老健などの申込管理もkintoneにて行われている。すでにkintoneでのアプリが数多く作成されており、当初の病病間連携のための使い方だけでなく、従来Excelで行われてきた病院内のさまざまな情報管理にkintoneが活用されている。
特に病病間連携での活用については、宇治徳洲会病院が用意しているスペース「病病連携ポータル」上で、病床の待機情報を地域医療連携室の職員が入力することで、宇治徳洲会病院側で連携病院の待機情報が確認できるようになっている。
「病床の待機情報アプリ」の一覧画面
また転院相談の一覧アプリにて転院対象者となる患者の情報がレコードとして記録されており、各病院での受け入れ可否の判断や簡単なコミュニケ―ションがコメント欄を活用して行われている。他にも、ファイル管理内には各病院のパンフレット情報が管理されており、宇治徳洲会病院のほうで患者に転院先の情報を紹介する際にいつでもデータ活用できるようになっている。
「転院相談アプリ」の詳細画面
一方病院内では、転院相談のあった患者情報を各課で受け入れ可能か判断してもらうために「紹介患者情報アプリ」に情報を展開している。「紹介患者情報アプリ」では、地域医療室やリハビリテーション科、医事課、看護部長などが患者を受け入れ可能かどうかを判断し、その理由をコメント欄に残すといったことが行われている。「それぞれの課でしっかり判断したというエビデンスを残すことができるようになっています」と瀧村氏。
「紹介患者情報アプリ」の詳細画面
なお、宇治徳洲会病院以外の急性期病院からの依頼については、現在でも電話やFAXで行われており、それらの情報もkintoneにて管理されている。電話で相談が来た場合はその場でkintoneに手打ちし、FAXであればPDFをkintoneに張り付けて各部署の判断を促している。添付のPDFは個人情報も記載されているため、閲覧のみで運用できるよう、PDFプレビュープラグインを導入している。
プレビューでPDFを確認
受け入れを承諾すれば、今度は入院患者アプリに情報が展開され、その中でリハビリ記録や退院日の調整などが行われる。「受け入れや退院などには前後でさまざまな調整が必要になるため、カレンダーを見ながら1日の入退院数を調整することも行っています」と瀧村氏。この入院患者に関する情報は、患者家族に相談するケアマネジャーなどが使いやすいようプリントクリエイターにて簡単に出力できるだけでなく、外部にFAXを送る場合もボタン一つでFAX送信できるようになっている。
カレンダービュー
退院後は、患者の個人情報は別のシステムに移行し、kintone内には名前などの個人情報は残していない。ただし、統計情報として活用できるよう、管理データアプリ内に統計として必要な情報のみが保存されることになる。「会議で戦略を練るときには、新規の申し込み件数や病気別の在宅復帰率、入院日数平均といった数字が必要です。そのための情報だけが集計できるようにしています」。
データを集計して統計情報として活用
なお、同病院はもちろん、グループ内の特養や老健では、kintone内に病床の空き情報を入力しているが、HP上からその待機情報が確認できるようにしており、相談員が持つ名刺内にあるQRコードからも最新の待機情報がすぐに確認できるようになっている。営業担当が現場にいても病院の最新情報がすぐに把握できる仕掛けとなっている。
ホームページから病床の待機状況を確認できる
kintoneにて病病連携の基盤を整備したことで、当初課題となっていた転院調整日数は、最短で8.9日にまで短縮することができ、業務効率化によって削減できた時間を患者との時間に充てることができるようになったという。
「以前は患者照会のFAXが1度に10枚ほど届き、その情報をコピーして受け入れ可否の判断に必要な10ほどの部署に配布していました。1か月で80人ほどの紹介がくるため、1月でトータル8000枚の紙が発生していたのですが、今ではその紙は一切不要になっています。配布の作業も含めて業務負荷が軽減し、各部署の判断も早くなったことで転院調整の日数を大幅に短縮させることに成功しました」と瀧村氏は評価する。
会議の多い業界だけにさまざまな資料づくりが求められるが、情報そのものがkintone内にあるため、画面を共有するだけで済むだけでなく各部署が事前に確認できるなど、資料のまとめ直しなどデータの再構築という負担は大きく軽減できているという。「実は病院情報や疾患情報などをマスターとして用意し、他のアプリからルックアップにて参照することで、選択形式で記載できるようになっています」。しかも、マスター内にルールも定義されており、誰でも間違えることなく情報が入力できるようになるという。「例えばラクナ梗塞では60日以内でないとリハビリ病院に入れないというルールがありますが、疾患情報のマスター内にその情報を用意しておけば、リミットの日が自動計算されて患者情報の画面に表示できるようになります」と瀧村氏。営業訪問履歴から効率よく営業活動を行ったり、加算申請を行う際にも面会記録がkintone上から簡単に作れるようにしたりなど、さまざまな業務の効率に生かされているという。
リミット情報が自動計算で表示される
現在は宇治徳洲会病院を含めた数か所との間だけでkintoneによる病病連携が行われているが、今後は他の病院も含めて効率的な地域医療連携の姿を模索していきたいという。「我々の収入が増えるわけではありませんが、対外的にこの仕組みを伝えていくことで、仲間を増やしていくことで仕事がしやすい環境を整えていきたい」と宇治徳洲会病院の担当と話をしている。
また、kintone内の貴重な情報を患者やその家族、そしてケアマネジャーにも含めて還元できるような仕組みも検討したいという。「待機情報をご家族にも直接確認してもらえるようにしたり、日々の血圧や体温などの記録をスマートフォンで遠隔地にいる家族の方が確認できるようにしたりなど、利用者の方に有効に還元していきたい。必要な手続きを踏んだ上で、ケアマネジャーに情報共有することで質の高い医療につなげることもできるはず」と瀧村氏に語っていただいた。
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