瀬戸内市 企画振興課
- 【業務内容】
- 自治体業務
- 【利用用途】
- 遠隔地同士のテレワーク基盤,コミュニケーション,企業間のやりとり,進捗管理
岡山県瀬戸内市は、定住促進に向けた施策として、都心の仕事を地方移住者に委託するというテレワークに関するプロジェクトを株式会社富士通エフサス(以下、富士通エフサス)と共同で行った。このテレワークにおけるタスク管理やコミュニケーション基盤にkintoneが採用されている。
この実証実験の意義をはじめ、その成果やテレワークの基盤としてkintoneを採用した経緯、自治体としての今後の展開について、瀬戸内市 市長 武久 顕也氏および総合政策部 企画振興課 主任 松井 隆明氏、テレワーカーとして活躍している瀬戸内市 集落支援員 菊地 友和氏、そして富士通エフサス サービスビジネス本部 ソーシャルイノベーション推進室 室長 太田 裕子氏および同推進室 小山 美加氏にお話を伺った。
瀬戸内海に面した岡山県南東部に位置し、2004年11月1日に牛窓町、邑久町、長船町が合併し、誕生した瀬戸内市。中央部に広がる千町平野や瀬戸内海沿いの丘陵地、そして長島、前島などの島々からなる瀬戸内市は、自然に恵まれた美しい景観から「日本のエーゲ海」とも称されており、竹久夢二の生家や数多くの国宝を輩出した備前長船の刀剣など、インバウンドを含めた数多くの観光客が訪れている。武久市長は「岡山から近く、気候が温暖で災害も少なく生活するにもってこいの場所です。それでも、都会に出ていってしまう若者は少なくありませんが、瀬戸内市の良さを認め合って伸ばし、市民の皆さんに誇りや愛着を持ってもらえるような環境づくりに取り組んでいます」と語る。
そんな瀬戸内市も全国の自治体と同様、人口減少問題に直面しており、出生率向上につながる子育て支援に取り組みながら、移住をはじめとした人口を増やしていくためのさまざまな施策に取り組んでいる。この移住を現実のものにするためには、子育てを含めた教育環境やその土地に住むための住宅環境、そしてその土地で働くことができる労働環境に対する支援が欠かせないと武久市長は力説する。「企業誘致で働く場を確保することはもちろんですが、そもそも公共交通などの周辺環境が十分に整備されないと、そこで働いてもらうことは難しい。豊かな自然とともに仕事ができるような環境を考えると、テレワークが解決策の1つになりうると考えていました」。
そんな折、瀬戸内市と富士通エフサスが、在宅で働くことができるテレワーク環境を提供することで、移住者増につなげるプロジェクトを開始することに。その経緯について、地域活性化やソーシャルによる地方と都市の連携プロジェクトなどを手掛けている太田氏は「もともと企業や自治体とさまざまなフィールドワークを行うなかで、瀬戸内在住の方や地域おこし協力隊の方々と地域貢献について話し合う機会がありました。そこでアイデアとして出てきたのが、移住者の障壁の1つになっていた働く環境をテレワークによって生み出すプロジェクトだったのです」と語る。
現場で定住促進に対する施策に取り組んでいる松井氏は、「フェアへの出展など移住者を増やすための活動はこれまでも行ってきましたが、働く環境に関しては、関係機関の情報を提供する程度で独自の支援を行うことができていませんでした」と語る。今回の提案によって、スタートアップ支援も含めた他の選択肢も用意できると考えたという。移住する方の中には、仕事と住居が近い環境で暮らしたいという方も多く、「場所を選ばず仕事ができる、テレワークによる働き方支援が新たな移住先の選択肢になると考えたのです」と松井氏は語る。
今回のテレワークについては、富士通エフサスがテレワークに向けたIT環境の整備を行っているが、テレワーカーと仕事を依頼する富士通エフサス担当者との間では、仕事の打診から請け負ったタスクの管理、業務に関する相談、成果物の納品管理など、業務フローごとに何らかの仕組みが必要になる。また、遠隔地同士をつなぎ、業務の詳細な説明や相談のためのコミュニケーション基盤を整備することも必要だ。「実は事前にテレワークによる働き方をグループ内で試してみたところ、タスク管理や報告のための基盤、そして資料共有しながら業務の指示出しができるコミュニケーション基盤の必要性が確認できたのです」と太田氏。
そこで注目したのが、サイボウズが提供するkintoneだった。「社外の方と利用する情報基盤になるため、クラウド環境で活用できることが要件の1つでした。また、質問はメール、作業の進捗はExcelなど、ツールを使い分けずに済むものが必要でした。kintoneであればクラウド環境で利用できますし、コメント欄を使って気軽にやり取りでき、履歴を含めた情報が案件ごとにきちんと管理できます。まさに、フローとストックを兼ね備えたツールで、テレワークに向けた環境づくりには最適だった」と太田氏は語る。もちろん、新たな機能を追加していくことも想定されるため、常に改善できるような仕組みとしても魅力的なツールだと評価する。
また、テレワーカーごとに異なる環境であっても安全に仕事ができるよう、セキュアな仕組みであることは重要だ。普段の質問から成果物の納品までをすべてkintone上で行うことで、メールなどによる誤送信などが防止できるだけでなく、テレワーカーごとにアクセスできる環境を制御することで、情報管理の徹底が容易になる。「セキュアな基盤づくりもテレワークのためには必要不可欠です」(太田氏)。
他にも、負担なく利用できることが大きな要件として挙げられた。テレワークに参加する方は、当然ITに詳しい方ばかりではない。だからこそ、使いやすい仕組みが何よりも求められていたのだ。「kintoneであれば直感的に何をしたらいいのかが分かりやすく、さほど詳しくない方であってもすぐに使ってもらえると考えたのです」と太田氏。
結果として、請負業務の依頼やタスク管理、納品物管理など、業務の要となる情報基盤としてkintoneが採用され、テレワーカーの業務を支援するインフラが整備されることになる。
2015年8月からの実証実験を経て、現在も継続してテレワークが運用されており、主な仕事は富士通エフサス社内で制作している顧客向けの月次報告資料や提案書、マニュアルといった資料作成をはじめ、開発したプログラムのテストやプログラム開発そのものなど、以前から外注していたものの一部をテレワーカーに依頼している状況だ。ログの解析などを依頼する際には、分析用のスクリプトをテレワーカー向けに用意して仕事を依頼するといった進め方も行われている。「現在は、3年以内に移住してきた方を前提に6名ほどのテレワーカーに対して仕事をお願いしています」と語るのは、富士通エフサスにてテレワーカー支援を行っている小山氏だ。
運用フローについては、富士通エフサス社内にて仕事が発生した段階で、小山氏が適任者と思われるテレワーカーに対して仕事を依頼、依頼を受けた段階でタスク管理アプリに起票し、タスク管理がスタートする。「例えばPowerPointで資料を作って欲しいという仕事があれば、その概要を事前に作成し、Web会議にて画面共有しながら仕事の進め方などを相談するといった流れです。納品物もタスク管理アプリ上に貼り付けて納品するものもあれば、別の情報基盤にアップしてもらうものなど、仕事の内容によって変わってきます」と小山氏。守秘義務の関係もあり、テレワーカー同士で仕事内容や進捗状況は共有されておらず、IDの権限設定によって自分のタスクのみ確認できるようになっている。タスク管理以外のアプリについては、進捗状況を報告する作業日報アプリをはじめ、作業予定を書き込む就労予定アプリ、そして、Windowsアップデートやアンチウイルスでのスキャンなどが行われているかどうかを報告するセキュリティチェックアプリなどが用意されている。「スキャンしたことのエビデンスをキャプチャし、kintoneに貼り付けて報告してもらうことも時には行っています」と小山氏。
kintoneを利用した「タスク管理アプリ」のレコード画面
テレワーカーと一緒に仕事を進める上では、とにかく話をすることが大事だと小山氏はその工夫を語る。互いに顔の見えるコニュニケーションもテレワークにおいては円滑に業務を進めるための重要な基盤の1つだという。「一人の作業なので心細さを感じている方もいますし、質問すること自体が恥ずかしいと躊躇してしまう方もいます。だからこそ、気軽に質問してもらえるよう、仕事と関係のない話もWeb会議を通じて積極的に行うようにしています」。また、実際に仕事がうまくいかなくても必ず1つは褒めるようにするなど、テレワークで業務を進めるコツについて小山氏は力説する。顔を見ながら直接テレワーカーとコミュニケーションする仕組みに、音声品質などを考慮してシスコシステムズのWebEXを採用している。
今後はkintoneと連携し、kintone上からWebEXのテレビ会議を予約できるように実装予定だ。よりシームレスに業務を進めていけるインフラが整備されることになる。
WebEXを利用したテレビ会議の様子
kintoneについては、仕事の内容によって使い方が異なるものの、タスク管理のコメント欄を活用し、詳細な指示や質問などがやり取りされるなど、頻繁に活用している状況にあるという。「メールでのやり取りでは誤送信などのリスクも。kintone内で意思の疎通ができるのはとても助かっています」と小山氏は評価する。また普段からテレワーカーとkintoneを通じてコミュニケーションを行っているが、テレワーカーの方に操作手順をレクチャーすることがないほど操作が簡単だという。「このURLでログインしてという基本的なことはもちろんお伝えしますが、何をするべきなのかが画面を開いただけで誰にでもイメージしやすい。ITベンダの我々が言うのも変なのですが、営業事務を長年やっていた私のような素人でも本当に使いやすい」と力説する。実際にテレワーカー全員に共有したい操作マニュアルなどがあれば、作業マニュアル用のアプリを自身で作成し、全員に共有するといったことも容易だという。「エンジニアの力を借りなくても、簡単なアプリであれば私でも作ることができます」と小山氏は驚きを隠せない。
数年前に瀬戸内市に移住し、このプロジェクトに参加しているテレワーカーの菊地氏は、「私の場合、ネットワークのログをもとに報告書を作成するという仕事を定期的に請け負っています。kintoneを活用するのは、ログデータの破損など問い合わせが必要な時にコメント機能を利用することが中心ですが、特に使いづらさを感じたことはありせんし、他のテレワーカーの方からもそういった声は出ていません。kintoneであれば誰にでも負担なく使えるはず」と語る。
なお、現状、瀬戸内市のテレワークではタスク管理や作業日報を中心に kintone を活用しているが、更に kintone を活用し、テレワークだけで食べていけるような仕組みにまで成長させていくことに期待を寄せている。「報告書などの作成だけでなく、例えば営業を行うといった、単なる下請けだけの仕事ではない業務にも挑戦したい。そうなれば、顧客管理やCRMなどの仕組みとkintoneを連携させるといったことも出てくるはずで、柔軟に機能が追加できるkintoneのよさがさらに出てくる」と菊地氏は語る。
今回のプロジェクトでは、定住促進に向けた働く環境づくりをテレワークによって提供できるかどうかだが、仕事量や仕事の幅などまだ課題は残っており、参加している方は他にも仕事をこなしながら兼業でテレワークを行っている状況だ。それでも、移住のための労働環境についての選択肢が増えたことは高く評価できると松井氏。「移住したいという方からの相談時には、選択肢の1つとして話ができるようになっています」。武久市長も、「なかなか決め手のない人口減少問題の中で、距離や立地条件を選ばずに仕事ができることは、生活重視の暮らしをしていくための1つの手段になりうるのではと考えています」と語る。今回のテレワークに関する取り組みについては、実際に他の地方自治体からの問い合わせなども増えており、先駆け的な取り組みとして注目されていると松井氏。
現状は移住者に限定した形でテレワーク環境を提供しているが、今後は子育て支援も含めた形でテレワークへの参加枠を増やしていきたい考えだ。そのためには、依頼する仕事の量やその幅を広げていく必要がある。「今は富士通エフサス社内だけで仕事を探していますが、例えば瀬戸内市役所内の業務や富士通グループ全体での業務を請け負うなど、仕事の幅を広げていくようにしていきたい。ある意味クラウドソーシング的な形で広がっていくことで、地域にきちんとお金が落ちる、そして地域の人が幸せになるような形で今後も支援してきたい」と太田氏。目標としては、まずはテレワーカーを20名ほどまで拡張していき、このテレワークをきっかけに移住を決めたという人が1人でも増えればと松井氏は思いを語る。「実際に移住の相談は多く寄せられています。その決定打の1つになるようテレワークの環境を育てていきたい」。
自治体としての活用については「今後うまく回っていけば、瀬戸内市に移住する人にとっての1つの魅力に繋がるはず。移住や定住施策として働く環境に関する課題は必ず出てきますが、テレワークと瀬戸内市の良さ、これをどう組み合わせていくのかも含め、地域の皆さんと協力しながら行政としてバックアップしたいと考えています。特にkintoneをはじめとしたITを積極的に活用することで、地元で働ける環境を整備していくことを今後も続けていきたい」と武久市長に最後に語っていただいた。
本動画に関する著作権をはじめとする一切の知的財産権は、サイボウズ株式会社に帰属します。
kintoneを学習する際、個人や社内での勉強会のコンテンツとしてご利用ください。
データを変形 ・加工せず、そのままご使用ください。
禁止事項
ビジネス資料や広告・販促資料での利用など
商用での利用は許可しておりません。