瀬戸内市役所 様の導入事例

瀬戸内市役所

【業務内容】
自治体業務
【利用用途】
要望書管理、移住定住相談フォーム、空き家物件情報ページ、窓口受付QR
  • 全庁的に広がるkintoneが現場の業務改善に貢献。24時間オンライン受付可能な「空き家バンク」の実現など市民サービスの向上につながるDX

岡山県 東南部に位置する瀬戸内市では、DX戦略の基本理念に基づいて国と連動しながら市独自のDX施策に取り組んでおり、職員が手掛ける日常業務におけるデジタル化を強力に推し進めている。このデジタル化に向けた環境整備の基盤としてサイボウズの「kintone」を活用しているが、その経緯について、武久 顕也市長や総務部DX戦略室のシニアディレクター 太田 裕子氏、同室 主事 森木 悠太氏、同室 主事 二丹 涼子氏、そして実際にkintoneを現場で活用している各課の担当者にお話を伺った。

「DX推進都市」を目指し、まずは職員業務のデジタル化を推進

岡山県の東南部に位置する瀬戸内市。「人と自然が織りなす しあわせ実感都市 瀬戸内」を目指した第3次瀬戸内市総合計画に基づいて、これからの10年を見据えたまちづくりを進めていると語るのは武久市長だ。岡山市への通勤圏内という立地を活かしながら、定住促進支援や子育て支援に注力することで、近年は転入超過に転ずるなど、魅力あふれる自治体として注目されている。

そんな瀬戸内市では、「誰からも利用され、喜ばれる、身近なデジタル化(DX)推進都市を目指して」を基本理念に、自治体の情報システム標準化・共通化など国と連動した戦略とともに、独自のDX戦略を推し進めている。なかでも2022年に策定された瀬戸内市DX戦略方針に基づいて、電子申請や会議のスマート化、市民・連携先・関連部門との情報共有、そして業務の効率化を進めており、その手始めとして職員業務のデジタル化を推進するためのさまざまな施策に取り組んでいる。 

この一連のDX推進を主導しているのが、2021年に設置されたDX戦略室だ。「最終的には市民の皆さまに向けたサービスにも貢献するDX化を進めたいと考えていますが、まずは職員同士の情報共有や業務改善に役立つプラットフォームづくりに集中しようと考えました。そこで各課の職員に対して課題感や必要な機能をヒアリングしたうえで、それらの機能が実装できるようなシステム基盤を検討したのです」と太田氏は説明する。

総務部DX戦略室 シニアディレクター 太田 裕子氏

決め手は、現場職員が使えるシンプルな操作性と自治体での導入実績

庁内へのシステム導入を検討するなかで、満たすべき主な要件は次の2点だった。

1つ目は、現場職員の業務効率化に役立つシステム基盤であること。数あるサービスのなかでも、現場職員が自身でシステムを作り込んでいけるものを希望した。「業務アプリケーションの部分については、基本的にドラッグ&ドロップのようなマウス操作で設定でき、一から開発せずとも機能を部品化して活用できるものを念頭に検討しました。」と森木氏は説明する。

2つ目は、セキュアな環境で利用できること。具体的には自治体専用閉域ネットワーク「LGWAN」からの接続が可能であることだった。kintoneはこれらの要件を満たしており、また多数の自治体で導入実績があることも後押しとなり、総合的な情報システム基盤の一部として選択されることになった。

全庁的に広がるkintoneが現場の業務改善に貢献。市民サービスの向上につながるDX

紙の台帳やExcel、メールや郵送。バラバラだった業務がkintoneで一気通貫

現在、kintoneで活用されているアプリ数は250個を超えており、庁内の情報共有や業務改善を支えている状況だ。

道路や河川などの管理や工事の監督を担当する産業建設部の建設課では、『要望書管理アプリ』を利用している。「私たちの課には道路の補修などの要望書が年間500件ほど届きます。これまでは土木委員さんに手書きの要望書を作成いただき、職員がExcelの受付台帳に転記していました。この時、要望の種類によって何種類もの台帳を目視で確認したり、職員それぞれがExcelで作業するので入力形式のバラつきや表記ゆれがよく起きていました。さらに、過去の要望書を参照するにも、大量の紙ファイルの中から探すので一苦労でした。」と同課 課長補佐 近藤 淳氏は当時を振り返る。

現在は、『要望書管理アプリ』を利用することでこれらの手間が大幅に解消している。申請書や各種台帳をアプリにしたことで、必要情報の参照が1クリックで完了。入力形式のバラつきや表記ゆれもなくなり、対応ステータスも細かく管理できるようになった。また最も効果を感じているのは、過去の要望書の探しやすさと現場状況の写真の確認のしやすさだという。「アプリの絞り込み機能を使えば、資料をすぐ見つけられるようになりました。写真の見やすさについては、従来であれば要望書の現地確認を行い、撮影した写真については各職員の個人フォルダで管理されていましたが、現在はkintone内で案件ごとに写真を格納できるので、職員であれば誰もが写真を見たい時に見ることができます」と同課 主事 立花 由依氏は評価する。

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移住や定住支援に向けて、空き家バンクの運用やお試し住宅の管理などを行っている総合政策部 企画振興課では、移住や定住を希望する人が記載する手書きの相談シートや申請書をオンライン化し、24時間受付可能な環境を実現した。「これまでは、移住や定住の支援メニューの利用を希望する場合、庁舎や移住イベントに来ていただき、手書きの書類をもって相談するなど、利用者に負担がかかっていました。職員も都度、紙の書類をExcelに転記する作業が発生していました。」と同課 主事 岸本 有喜氏は言う。また、Webサイト上に公開されている空き家情報の更新作業の負担も大きかった。「紙やメール、郵送やFAXなどさまざまな形式で届く申請書の内容をExcelにまとめ、空き家情報をPDF化し、それを市のWebサイトにアップロードしていました。」と同課 定住支援員 大森 紀子氏は言う。

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現在は、kintoneと連携可能なフォームシステム『フォームブリッジ』を併用することで、利用者からの申請情報がそのままkintoneアプリに入力される。24時間Webフォームから受付が可能で、職員も転記作業が不要となり、本来の相談業務に注力できるようになったという。「バラバラだった管理が一つの業務としてつながったと思います。また、利用者からも利便性が向上されたとの声が上がるようになりました。」空き家情報の更新も、kintone上に登録した空き家の紹介テキストや写真、360度カメラの画像などを使い、公開フラグにチェックを入れるだけでWebサイトに自動で掲載できている。「価格や条件の変更といった情報更新もkintone上のマスタ情報を修正するだけ。手間が減っただけではなく、リアルタイムで情報がWebサイトに表示されるのが嬉しいです。」

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総務部 契約管財課では、各課が製本した設計書などの分厚い紙の資料や契約管財課が製本した公開入札情報の資料をPDF化し、窓口にPCを設置して各資料をデータで閲覧できる仕組みを用意している。「業者の方など資料閲覧を希望する人が受付時にQRコードを読み込み、Webフォームに入力することで各種PDFの情報が閲覧できます。誰がどの情報を閲覧したのかkintoneにて管理できるようになりました。以前は紙の受付台帳で運用していましたが、用紙の補充漏れがなくなり、各課での製本業務もゼロになっています。現場の業務効率化やペーパーレス化に大きく貢献しています」と同課 課長補佐 赤木 裕之氏は評価する。

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庁内の先行事例を積極的に公開。「隣の課も使っている」が全庁展開の後押しに

kintoneの全庁的な展開については、各課の困りごとをヒアリングしたうえで、kintoneと相性のいいと思われる業務から置き換えていくことから始めたという。「各課の業務担当は、システムを十分理解しているわけではありませんし、我々も現場の業務を詳しく把握していません。その溝を埋めていくためにコミュニケーションを大切にしながら進めていきました」と森木氏は振り返る。しかし、従来のプロセスを変える過程でシステム化できる部分が出てくるものの、プロセスを変えること自体が大変な労力を必要とした。長年続けてきたそのプロセスが効率化できることに気づいてもらえるよう、コミュニケーションを重ねていったという。

またDX戦略室のリソースが限られていることから、具体的にアプリとして反映させていく際にも苦労を伴ったと当時を振り返る。「ヒアリングして業務を理解したうえで、我々でアプリを作成していきますが、このまま進めていくと負担がどんどん増えてしまいます。普段の業務とDXを並行していくのはとても大変で、コミュニケーションを取る時間を確保するのが厳しい状況も。そこで、勉強会や庁内の先行事例を積極的に公開していくことで、少しずつ自分たちでもやってみようと考えてもらえるような環境づくりを心がけました」と森木氏は説明する。

当初は興味を示さなかった部署にも積極的に声をかけ、説明会にて時間削減の効果を示していくことで、自分たちの業務でも使える部分がありそうだという声が少しずつ積み重なっていったという。「改善意欲の高い現場のメンバーと一緒に作ったアプリを紹介するなど、とにかく粘り強く紹介していきました。すぐ隣の課が実践している事例を目の当たりにしていくなかで、だんだん興味を持ってもらえるようになりました」と二丹氏。その結果、他の課の業務についても意欲的に提案してくれる担当者が現れるなど、現場主体で改善提案が出てくるケースが増えていったという。「kintoneの機能に制約があるからこそ、業務改善のためにどう工夫できるのかという発想が芽生えていった気がします。アプリ開発とともに、DX人材の育成にもつながっていると感じています」と二丹氏は評価する。

総務部DX戦略室 主事 二丹 涼子氏

kintoneが活躍できる用途をさらに広げていきたい

すでにkintoneを全庁的に展開している瀬戸内市だが、今後は紙で運用している支払い処理のフローを電子請求や支払業務のkintoneを含めたデジタル化を進めることで、現場の業務効率化につなげていきたいという。「請求書が全て紙のため、電子決裁の仕組みを導入しているもののいまだにアナログな部分が多く残されています。財務会計などと連動させるべく、フォームブリッジやOCRの仕組みと連動させることでkintoneにて情報を受け取り、RPAなどを使って財務会計や電子決済とつなげていけるような環境を整備していきたい」と太田氏。また直近では、防災関連情報としての浸水区域や避難経路、都市計画を進めるための情報もkintoneを活用しながら市民にリアルタイムに公開できるようにしていきたいという。

また、kintoneが活躍する場面をさらに増やしていくための人材育成にも積極的に取り組んでいきたいと話す。「kintoneのおかげでDXに貢献できる人材は増えてきているのは間違いありませんが、kintoneが活躍する余地まだたくさんあるはず。自分たちの使いやすいように作っていける人材を今以上に増やしていきたい」と武久市長は力説する。多くの自治体で情報がシェアできるようなプラットフォームとしてkintoneが広がっていく未来について期待を寄せていると武久市長は締めくくった。

20231月取材)

武久 顕也市長