クラウドサービスで実現する新しい"はたらく"形
株式会社仙拓 様
業務内容:ウェブサイト制作、デザイン名刺やチラシ・パンフレット制作、ゲームアプリ制作、kintoneを使用したシステム開発
利用用途:名刺発注から納品・請求に関わるデータ・プロセス管理
株式会社仙拓様(以下、仙拓)は、10万人に1人の難病「脊髄性筋萎縮症」を患う佐藤仙務が同病の松元拓也と立ち上げた企業。動くのは親指や顔だけではあるものの、ITを活用し独自の勤務体制で障害者雇用を進め数々のメディアから「寝たきり社長」として注目を浴びている。現在では総理大臣など、多くの著名人の名刺制作も行なっており、安倍昭恵夫人がボランティアの宣伝部長として、「仙拓」の認知を広げている。
そんな同社が、障がい者雇用の促進と障害福祉サービス事業所のスタッフの工賃向上を目指して、「kintone on cybozu.com」(以下「kintone」)を活用した新規事業「仙拓レンジャーズ名刺制作部」を立ち上げた。この事業に賭ける思いと「kintone」の活用状況について、代表取締役社長佐藤仙務氏、取締役副社長兼デザイナー松元拓也氏、作業療法士として本事業コンサルティングに携わる青山 敬三郎氏、常滑市社会福祉協議会「ワークセンターしんめい」の仙拓レンジャーズ名刺制作部の皆様にお話を伺った。
背景
名刺制作を通して働きたい障がい者が働ける社会をめざして
厚生労働省が発表の日本の社会福祉法人(就労継続支援事業所)が障がいを持つ通所者に支払う工賃は全国平均で14,838円(平成26年度実績)。段階的に増えているものの経済的自立に向けては程遠い水準にあるのが現状だ。
このような状況の中、名刺制作を通して幅広い人たちから応援を募ることで障がい者雇用や工賃アップにも貢献するーーそんな画期的なプロジェクト「仙拓レンジャーズ名刺制作部」を始めたのが「仙拓」だ。背景には、重度障がい者へ就業機会を提供したいと考える佐藤氏の想いが込められている。
「以前より政治家や自治体職員の方などから依頼を受けていた名刺制作の事業を拡大しよう考えていたのですが、それだけではありません。今回は市の社会福祉協議会と協力してこれまで培った名刺制作ノウハウを障がい者作業所の通所者(作業スタッフ)の方々にも展開することで、名刺注文を頂くごとに作業所の収益・工賃アップにつながる仕組みとして事業化しました。世の中には、障がいがあって働きたいのに十分には働けないと思う人たちが多くいるのが現状です。そういった人たちが仕事をして、新たな収入を得る手段のひとつとなればと考えました。」(佐藤氏)
代表取締役社長
佐藤仙務氏
「仙拓」ではこの新事業をよりインパクトが大きな形で広めるため名称にもこだわった。名刺制作を依頼して応援してくれる人=入隊と見立て「レンジャーズ」というネーミングを取り入れ、Webページや名刺デザインもそのコンセプトを取り入れた。デザインを担当した松元氏は当時の状況をこう語る。
「社長の佐藤と打ち合わせをする中で『レンジャーズ』というアイディアを聞いた瞬間は『はぁ?!』という感じで正直驚きました。しかしよく考えてみると奇抜ながらコンセプトは面白く、結果的にキャッチーで印象にも残りやすいクリエイティブに仕上げることができましたね。」(松元氏)
導入
クラウドを活用し導入コストは最小に抑え、最大の効果を狙う
「仙拓レンジャーズ」のユニークな工夫はネーミング・クリエティブ面にとどまらない。作業療法士の青山氏のアドバイスも受けながら、実際に制作に携わる常滑市社会福祉協議会「ワークセンターしんめい」に通う現場のスタッフが快適に業務に取り組めるよう業務フローを一から見直し、運用サポートまでに携わった。
「業務フローは名刺発注を受けてから納品まで、現場のスタッフが自律的に進めやすい運用を意識しました。具体的には、1クリックでできる作業を増やし、入力が必要な項目に関しては同じ画面上にマニュアルを差し込むなど作業ミスのリスクを極力減らす仕組みを採用しています。また、業務のイメージをより具体的に持っていただけるよう、ユーザーマニュアルは手作りの字幕・音声つきのムービーを作成しました。」(松元氏)
取締役副社長兼デザイナー
松元拓也氏
効果
作業所スタッフが自信を持って仕事に向き合える環境に
現場目線の様々な運用サポートが功を奏し、「仙拓レンジャーズ名刺制作部」の本格運用はスムーズに展開されたという。その仕組みについて詳しく見てみよう。
① 名刺の注文を受ける
Webページの申し込みフォーム画面は「kintone」の連携製品「フォームクリエイター」で設計されており、顧客が記入した情報は「kintone」に自動に登録される。重複して登録する必要がないため、ミスや現場負担の軽減にもつながっている。
② 名刺の制作・顧客への連絡・デザイン調整をする
以降の工程もシンプルだ。「kintone」上の情報をもとにスタッフが名刺のデザインを選択すると、こちらも連携製品「プリントクリエイター」を経由して1クリックで名刺に必要な個人情報も入った形でデザインが出力される。最小1クリックで名刺データ完成するという画期的な活用と言えるだろう。また、その後顧客とのやり取りについても「メールワイズ」のプラグイン機能(複数のJavaScriptやCSSをパックで適用できる追加プログラムでアプリの機能拡張や他のクラウドサービスとの連携を、ノンプログラミングで実現することができる。)を活用することで、定型文が1クリックで作成され、顧客へ名刺デザインの確認が出来る仕組みとなっている。
これらの工程は「ほぼ自動化」されているが、実際には顧客からデザインの微調整など要望を受け手作業が必要な場面もあるという。そんな場合にも複数名でEメール対応ができる「メールワイズ」を活用し、送受信履歴を関係者で確認しながら、適切な顧客対応を実現している。
③ 顧客への納品・請求
最後の名刺の印刷・納品と平行しての請求業務では請求業務に特化したクラウドサービス「Misoca(ミソカ)」が活用されており、顧客への代金請求もPC上からスムーズにやり取りできるようになっている。
受注から請求まで一貫してクラウドサービスが活用されている点も見逃せない。運用メンテナンスの負担がなく初期投資も不要という、クラウドのメリットを生かしたからこそ、事業サポートをする「仙拓」、業務に取り組む社会福祉協議会「ワークセンターしんめい」ともに事業参入の障壁を下げ、その結果新たなチャレンジの後押しにつながった。さらに、システム面だけではない現場の嬉しい変化も見られていると「ワークセンターしんめい」スタッフの池原美和氏は語る。
「運用を始めたころは現場のスタッフも少し不安そうな表情が見られていたのですが、興味を持ち工夫をしながら取り組んでいるうちに、自信を持っていきいきと業務に取り組めるようになってきました。少し前、全国放送のテレビ番組で『仙拓レンジャーズ』について取り上げられたことで申し込みが一気に増えたことがあったのですが、大きな混乱もなく対応することができましたね。最近では、全国各地からEメールで応援のコメントなどもいただき、閉鎖的になりがちな作業所でも社会と関わりながらモチベーション高く取り組むことができています。『仙拓レンジャーズ』に参加したことで、金銭面だけではないやりがいを感じています。」(池原氏)
今後の展望
スタッフを増やし新たな事業にもチャレンジ。
継続性のある事業モデルを追求してゆく
このように「仙拓レンジャーズ名刺制作部」の取り組みが軌道に乗る中、「ワークセンターしんめい」の別業務にも「kintone」を展開する話が持ち上がっている。
「現在、『仙拓』に入社予定の女性スタッフが、作業療法士の青山さん指導のもと『kintone』アプリ活用方法について研修中です。紙で運用している施設内の業務は『kintone』に置き換えられることも多く、アプリを使いこなせるスタッフが増えることが業務改善につながると考えています。彼女も障がいを持っていますが自信をもって業務に取り組んでもらいたいですね。」(佐藤氏)
事業拡大はとどまることなく、企業や個人の名刺情報の入力代行を行う新規事業の検討も進んでいるという。クラウドサービスを活用し、障がい者雇用促進という新たな価値提供を続ける「仙拓」の取り組みは続いてゆく。