西予市地域包括支援センター 様の導入事例

西予市地域包括支援センター

【業務内容】
自治体業務(地域包括支援)
【利用用途】
情報共有、データ管理、コミュニケーション
  • 組織・職種を超えた効率的な情報共有で 1 つのチームに
  • 地域の高齢者福祉を支える kintone

愛媛県西予市は県の南部に位置し、多彩な自然を抱える街。2004年に5つの町が合併して誕生した。西は宇和海に面し、東は高知県に接し、東西に広い。総面積は514.34平方キロメートル、東京都の1/4ほどの広さがある。海と里と山があり、標高差は1400メートル。特産品はみかんのほか、魚介類、農産物、酪農まで実に豊富だ。各地域には歴史的建造物や古墳など数多くの文化遺産があり、民俗芸能や伝統行事も多く保存・伝承されている。

全国的に過疎化、高齢化が課題となっているが、西予市もその例外ではない。全国の各「市」には高齢者の心身の健康維持や生活相談に応じるための場所として、地域包括支援センターの設置が義務付けられている。地域包括支援センターは保健師や社会福祉士、主任介護支援専門員がチームとなり、現場にいる介護支援専門員(ケアマネージャー、以下「ケアマネ」)を通じて相談支援を進め、各種機関と連携しながら解決へと努める役割がある。西予市では西予市社会福祉協議会に地域包括支援業務を委託することで、地域包括支援センターが運営されている。

東西に広がる西予市、情報共有や状況把握に課題
ケアマネの多くがデジタルな情報共有に親しんでいない

西予市の人口は4万人弱で、高齢化率は41.5%(2017年末現在)。そのため高齢者支援サービスの充実は、同市の重要な課題だ。西予市は高速道路の整備が進んだことで県都松山には1時間程度で着くものの、東西に広がる市内の移動にはどうしても時間がかかる。端から端まで自動車で移動すると、4時間かかってしまうことも。これは関係者が顔合わせて情報共有や状況把握を行うことの難しさにつながっている。

 kintone導入前、高齢者支援サービスでは効率的な情報共有ができていないことで、さまざまな不便を抱えていた。例えば介護する人が急病になると、介護される人を預かるショートステイ先を探さなくてはならない。しかしショートステイ先の空き状況を一覧できるシステムはなく、介護する人は連絡先一覧からステイ先を管理する各事業所へ、片っ端から電話で順番に問い合わせて確認する必要があった。これだけでも相当な時間をとられてしまう。

市役所や地域包括支援センターからケアマネへの一斉連絡は電話、文書(郵送)、FAX、あるいは月次のケアマネ会となっており、デジタルな情報共有手段がなかった。アナログな情報共有は基本的に一方通行で、時間や手間が多くかかっていた。

職種を超えた情報共有ができていないことも課題だった。高齢者支援では、市や地域包括支援センター、ケアマネだけではなく、保健所、警察、消防、調剤薬局など幅広い組織や職種が連携している。職種を超えた情報共有の場が必要とされていた。

また、デジタルな情報共有の場を作るとしても、情報を必要とするケアマネの多くが40代以上。パソコンやスマートフォンを日常的に活用する機会も少なく、デジタルな情報は普及しないのでは、という懸念もあった。

地方の課題を抱えるモデル事業としてスタート
デジタルになじみのない世代がグループウェアに挑戦

2013年、サイボウズは西予市地域包括支援センターのケアマネジメント支援事業を、地方自治体が抱える課題を解決するためのモデル事業として支援することを決めた。モデル事業期間(2014年度)においては、軌道に乗るまでの支援として、コアメンバーとの運営協議、主なユーザーとなるケアマネを対象とした説明会、市の情報推進課とのセキュリティ検討、主要なkintoneアプリのひな形作成などを進めた。

デジタルな情報共有手段がないところにグループウェアを導入することになるため、ユーザーにはグループウェアそのものに慣れてもらう必要があった。当初、ケアマネの多くから「私にはムリ」という声もあったという。そんなケアマネを西予市地域包括支援センターの網干氏が「大丈夫よ、こんな私でも使えるのだから」と親身になって励ました。

主任介護支援専門員 網干 由美子氏

網干氏は「kintone導入に携わったメンバーの中で私は劣等生でした。理解が遅くて」と肩をすくめて言う。苦手意識を克服した網干氏だからこそ、多くのケアマネに「あなたもできる」と励ますことができたに違いない。そんな網干氏も最初は挫折しそうになったことがあるそうだ。そんな時、網干氏を支えたのが西予市の担当者のバックアップだったと振り返る。縦割り組織ではなく、現場を支える風土がそこにはあった。

全員が参加するkintoneスペースのトップページには、月替わりで季節の花などの写真を掲載。ユーザーの目を和ませる、親しみやすいインターフェースづくりに貢献している。

kintoneスペースのトップページ

運用にあたって、いくつかのルールも定めた。ユーザーの表示名は「所属名(氏名)」とし、アイコンには本人と分かる顔写真を使うようにした。例えば網干氏なら「西予市地域包括支援センター 支所(網干)」となる。これは閲覧者に誰が投稿しているか分かるようにするため、投稿者が自分の発言に責任を持つためだ。中には例外として、組織の窓口として短期間で担当が入れ替わるようなユーザーでは、組織を示すアイコンが使われている。

職種をまたぐ約250ユーザー、あらゆる情報共有kintoneを活用
介護に関わる多くの人がつながり、仕事の安心感へ

2018年10月時点で、スペースは28個、スレッドは30個、アプリは37個、市や地域包括支援センター、ケアマネ等の福祉事業者、保健所、警察、消防、調剤薬局などの255ユーザーで運用されている。これまで文書やFAXで配布していた連絡事項はkintoneで共有するようになり、配布の手間が減り、オンラインですぐに閲覧できるようになった。

スペースは全員が参加するスペースのほか、「kintone運営協議会」や「認知症対策」など情報を共有するメンバーや目的に応じて作成している。スレッドは「包括から」や「病院から」など情報発信元や、「相談コーナー」や「緊急連絡」など目的ごとに分けている。

主任介護支援専門員 西梅 正綱氏

スペースとアプリは「サービスガイドブック」「ショート空き情報」など目的に応じて作成し、必要な情報がすぐにオンライで入手できるようになった。もうショートステイ先を探すために、電話を片っ端からかける必要はなくなった。

「ガイドブック」スペース画面

「ショート空き情報」アプリ詳細画面

人気アプリの1つが「せいよ旬菜旬食レシピ」で、地元の食材、旬の食材を生かしたレシピが掲載されている。西梅氏は「kintoneのアプリは自分たちで考えたものを、カンタンに追加できるところがいいです」と話す。

「せいよ旬菜旬食だより」スペースで情報共有

2016年にユーザーを対象としたアンケートによると、kintoneで役立ったこととして77%が「今までより、情報が多く入るようになった」と回答した。グループウェアでは誰かが情報を発信することで、メリットを享受する人が生まれ、次第に場としての評価が高まり、より情報が発信されるようになるなど好循環が生まれていく。網干氏は「今では毎日誰かが情報を投稿してくれています。」と喜ぶ。

kintone導入により得られたのは、情報共有の場だけではない。網干氏によると、多くのケアマネが強い責任感を持つあまり、全てを1人で抱え込んでしまいがちだそうだ。しかしkintoneで幅広い組織や職種と接点が持てるようになったことにより、先述したアンケートでは17%が「つながっている感で、安心して仕事ができた」と回答している。網干氏は「この回答が、私には一番うれしかったです」と話す。

2018年度から、西予市地域包括支援センターのセンター長に稲垣氏が新たに着任した。kintoneは操作性がシンプルなのですぐに使いこなせるようになり、これまでのやりとりが蓄積されているため、すぐにセンターの状況をキャッチアップできたという。「まだ私から投稿することは少ないですが」と笑いつつ、力強く「これからも、もっと幅広く使っていこうと思います」と意気込みを語った。

稲垣 佐穂氏 センター長 介護予防支援事業所管理者・保健師