堺市役所
- 【業務内容】
- モバイルワーク(庁外業務)
- 【利用用途】
- 指導監査記録・工事検査記録・現地調査記録・施設修繕管理ほか
大阪府南部に位置する政令指定都市・堺市では、自治体職員が庁外で業務を実施する「モバイルワーク」の環境整備を推進しており、そのプラットフォームとしてkintoneを活用している。導入までの経緯や活用方法について、ICTイノベーション推進室 ICT推進担当 紙谷 昭氏および同担当 阪井 志帆氏、建築課 安井 裕雅氏にお話を伺った。
約83万人の人口を有する政令指定都市として大阪府南部の中核に位置づけられている堺市。2018年にはSDGs未来都市として認定されるなど、持続可能な開発目標であるSDGsを強力に推進している。また、市民サービスの向上や行政運営の効率化を加速させるべく、2020年に「堺市ICT戦略」を策定。「ICT を使いこなす自治体」へ変革させるための「5つの戦略」に基づいた取組みを着実に進めており、デジタルファーストの推進や新たな技術とデータの積極活用を推し進めるなど、先進的なICT活用に取り組んでいる。
そんな堺市では、庁内における働き方改革の一環としてテレワーク環境の整備を以前から進めてきた経緯がある。「在宅勤務が可能なテレワーク環境整備にも取り組んできましたが、庁外で業務を行うモバイルワークへの要望も以前からあがっていました。そこで、モバイルワークとは具体的にどんな環境が必要なのか、業務改革の一環としてニーズを掘り起こしていくことになったのです」と紙谷氏は説明する。
当初は「庁外アクセス」等のテレワーク環境をモバイルワークに活用する案が出たものの、そのままでは根本的な業務改善には繋がらないと判断。そこで、モバイルワークを導入したいと声を上げている各課の担当者を中心に、ワークショップを開催することに。「このワークショップを通じて、何のためのモバイルワークなのかという目的を再確認しながら、どんな環境が必要なのかを洗い出していったのです」と紙谷氏。
実際のワークショップでは、スムーズな情報共有や資料のペーパーレス化といったさまざまな要望が挙がってきた。「会議録をその場で作成したい、現場写真をその場で共有して、緊急工事が必要か課内で判断したい、業務の進捗状況を外出先からでも確認したいといった、さまざまな声が寄せられました。」しかし、モデルケースとなる業務をいくつかピックアップしたところ、モバイルワーク化するために必要な機能がそれぞれ異なっていた。個別のシステムを導入すれば初期費用が膨らむだけでなく、システム改修のたびに費用が発生し、運用もバラバラになってしまうことが懸念された。「内製化とまではいきませんが、手軽に項目追加ができるようなプラットフォームを求めたのです」と紙谷氏は説明する。そんな中、要件を満たしたプラットフォームとして選ばれたのが、kintoneだった。
まずはモバイルワーク導入に意欲的な一部の課を対象に、kintoneを利用したモバイルワークの検証を行うことに。各課のメンバーと、kintoneの開発パートナーである大塚商会が一堂に会して要望を洗い出し、その場でアプリ開発を行う「訪問開発サービス」を利用してアプリ作成を進めた。現状は、健康福祉総務課や生活援護管理課、建築課、スポーツ施設課など15課に在籍するおよそ100名がkintoneを活用しており、アプリ数は100を超えるほどにまで増えている。
たとえば健康福祉総務課では、これまで手書き作成していた「監査報告書」をkintoneでアプリ化した。「これまでは、監査の指摘事項を法令の例文集から探し出し、そのたびに紙に手書きする必要がありました。kintoneなら法令文を事前にマスタアプリに登録でき、資料作成時にボタンを数回クリックするだけで引用できます」と阪井氏。さらに報告のために書類をExcelに転記しメールで共有していた作業もkintone内で完結でき、時間短縮に大きく貢献しているという。
「指導監査アプリ」では、数クリックで指摘事項を入力、訪問現場で作業を完結できる
建築課では、「写真の添付機能」を活用しながらベテラン職員の経験を共有できる「工事指摘事項アプリ」や、施設利用者の意見や工事を行う現場周辺環境などを写真に収めて共有する「現場調査記録アプリ」、現場の関係者からの質問やその回答を一元管理する「調整事項一覧表アプリ」などを使っている。「写真を使った情報共有がかなり便利だと感じています。また、もともとアプリを構築した経験のなかった私ですが、対面開発時にアプリを作る様子を間近で見ることで、kintoneの操作方法を学ぶことができました。たとえば現場調査アプリは、対面開発で得たノウハウを他の業務にも展開できると考え、自分の手でコツコツと作り上げました。対面開発だからこそのメリットの1つです。」と安井氏は評価する。
iPadで撮影した写真に直接メモを書き込み共有することで、
ベテラン職員のノウハウ蓄積・共有にもつながっている
安井氏が作成した「現場調査記録アプリ」では、一画面内に必要な情報を集約可能
スポーツ施設課では、Excelにて属人化していた施設修繕などの進捗管理をkintoneに移行。「アプリに用意された共通の項目に沿って入力すれば、フォーマットが統一でき、リアルタイムで情報共有できます。また、「フェンスの腐食状況」などは言葉だけでは程度が伝わりにくいものですが、写真で残せるようになったことで過去の経緯も分かりやすく共有できるようになっています」と阪井氏は評価する。
kintoneを導入後、社外からでも写真や文書などが一元管理でき、情報が探しやすくなったことで、本来やりたい業務に使える時間も増えたという。「庁舎に戻らずとも情報入力できるモバイルワークが実現したことで、可処分時間の創出に役立っています。事務処理の効率化やシンプルな情報管理、そして隙間時間の活用など。導入した所管課からの報告によれば、おそらく10%程度は新たな業務に時間を割けるようになっています」と紙谷氏は評価する。
また、現場に書類を持ち出すことなく必要な情報にアクセスできるようになるなど、ペーパーレス化にも貢献している点も見逃せない。「雨の日には、現場に持ち込んだ工程管理のチェックシートがボロボロになってしまうこともありましたが、今はそんなこともなくなりました。活用している係の現場では、8~9割ほどは紙が減らせている印象です」と安井氏。
今回は現場にパートナーである大塚商会が赴いて実装する対面開発スタイルの「訪問開発サービス」を採用している。実装方法が分からずに諦めていた現場の課題に柔軟に応えることができたと評価の声が寄せられている。「課題の解決方法が分からず、できることだけしか取り組めなかった現場に対して、その要望に応えることができたのは対面開発というスタイルを採用したからこそ。変更の方法もその場で学ぶことができ、自分たちで改善していける環境が整備できたのは大きい」と阪井氏。
紙谷氏も「要望をうまく聞き取っていただき、現場がすぐに使いたいと思うアプリを次々と開発いただけています。一度完成したとしても、トライ&エラーしながら最適な環境に改修していける点も大きな魅力の1つ。」と評価する。
実際には、対面にて開発を行ったアプリを2か月ほど職員が活用したのちに、再度パートナーが訪問。アプリに対する要望をその場で反映していくプロセスを続けることで、現場の業務にぴったりなシステムを実現している。対面開発のプロセスを続けていくなかで、各課の職員自らがアプリ作成を行う機会も増えており、各業務でのアプリ活用意欲が高まっている。
モバイルワークに関しては、活用の幅はさらに広がると見込んでおり、今はようやくICT活用の芽が出てきた状況にあると紙谷氏は見ている。「所管課のニーズにこたえるだけでなく、さらに現場に気づきを与えていければと考えています。それが全体に広がっていくことで、本市のモバイルワークが完成していく」と期待を寄せている。すでに現場の業務を実装している建築課では「内製できるものは作っていきたいと考えていますが、他のデータとうまく連携させようと思うと難しい部分もあるため、その都度相談できれば」と考えている。
今後は、アプリ相談会などを庁内で定期的に開催し、すでにkintoneを使っている庁内の事例を共有しながら活用用途を広げていく計画だ。「すでにkintoneが生かせそうな業務について検討を進めており、全庁に説明を行っている状況です。来年度はさらにkintoneを活用する所管課が増える見込みです」と阪井氏。
なお、内製化にトライする一方で、現場からはアイデアを数多く出してもらったうえでパートナーに開発してもらう対面開発のスタイルは維持していきたいと紙谷氏。「内製化に時間を割くよりも、自分たちの業務に向き合って効率化を進めていくためのアイデアをたくさん出してもらえればと考えています。もちろん、ちょっとした改修には自分たちで対応できるよう、内製化に向けた取り組みは少しずつ進めていきたい」と最後に語っていただいた。
(2020年12月 取材)
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