西海市 様の導入事例

西海市

【業務内容】
自治体業務
【利用用途】
議会答弁書作成、議事録作成、資料作成、AI活用
  • 議会での答弁書作成業務など自治体業務の変革を推進
  • 年間2,000時間超の削減効果を生むkintone×生成AI

 自然景観が魅力の長崎県西海市では、持続可能な自治体運営に向けた環境整備に向けてDXを積極的に推進しているが、その1つの取り組みが行政独自のモデルを適用した生成AIを活用だ。議会答弁書の作成補助や画像文字起こしなどの業務に活かしており、生成AI活用のための業務プラットフォームとしてkintoneを採用している。その経緯について、さいかい力創造部 情報推進課 DX推進班 課長補佐 熊本 英哲氏にお話を伺った。

【課題】生成AI活用で持続可能な自治体業務のあり方を模索

長崎県西彼杵半島に位置し、五島列島へと続く五島灘をはじめ、北の佐世保湾や東の大村湾など三方を海に囲まれた西海市。かつては捕鯨基地や炭鉱の町として栄えた歴史のある土地で、現在は風光明媚な自然景観を生かしながら、温州みかんをはじめとした多様な柑橘類を西海ブランドとして展開するなど、魅力あふれる街づくりを続けている。また2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロを目指すゼロカーボンシティへ挑戦するなど、脱炭素社会に向けた環境整備を地元企業と協力しながら進めている。

そんな西海市では、目指すべき将来像を「活躍のまち さいかい」と定め、「地域情報化の推進」や「市民に身近で効率的な行財政運営」などをデジタル化の側面から推進する西海市DX推進計画を2022年に策定。その推進役となっているさいかい力創造部 情報推進課 DX推進班が中心となり、職員数が減っても住民サービスを維持し続けられる自治体運営に向けてDX推進に取り組んでいるが、その施策の1つとして検討したのが、大きなトレンドとなっている生成AIの活用だった。「自治体として持続的な運営を行っていくためには、いずれ生成AIなどは使わざるを得なくなるのは間違いありません。できるだけ早い段階から触れてもらい、行政として実用に耐えうると判断したものは積極的に利用していくべきだと市長からも言及があり、その1つとして生成AIの活用を進めようと考えたのです」と熊本氏は当時を振り返る。

自治体情報システムのセキュリティ対策としての3層分離におけるαモデル(※)を堅持している西海市では、LGWAN-ASPを経由して利用できるChatGPTを使うべく、2023年にガイドラインを作成し、多くの職員に触れる機会を作ってきたという。「文章生成やアイデア創出など一般的なLLM(※)としての活用でしたが、利用した多くの方に有用性を感じていただけました。ただし、単一のモデルしかない汎用的なLLMだけに、答弁書を作成するといった職員の直接的な仕事に役立つかと言えば、融通が利かない部分もあったのが正直なところです」と熊本氏は課題を吐露する。

さいかい力創造部 情報推進課 DX推進班 課長補佐 熊本 英哲氏

※3層分離におけるαモデル
2015年に総務省が公開した「新たな自治体情報セキュリティ対策の抜本的強化に向けて」において示されたもので、自治体ネットワークを「マイナンバー利用事務系」「LGWAN接続系」「インターネット接続系」という3つの層に分離してセキュリティ強化を図る考え方。そのうち、3層での情報のやり取りを厳格に制限するのがαモデルで、それ以外にもβモデル、β´モデルなどが存在する

※LLM(Large Language Models、大規模言語モデル)
人間が読み書きする言葉や文章をもとに、単語の出現確率をモデル化する技術が言語モデルと呼ばれるもので、なかでも膨大なテキストデータと高度な機械学習技術を駆使し、高度な言語理解を実現する技術のことをLLMと呼ぶ

【選定】LGWAN-ASPで利用するkintone×生成AIが自治体に最適な環境づくりに必要

そんな折、以前から西海市との協働を継続的に行ってきた地域商社から提案があったのが、自治体向け生成AIサービス「ばりぐっどくん」だった。「地元企業と一緒にという思いが市長含めた上層部の意向としてあって早い段階から紹介を受けていたのですが、当初はインターネット環境に接続できる端末でないと利用できない状況でした。普段多くの職員が業務で利用している、LGWAN接続系のネットワークに接続するPCで利用できるものが理想的だったなか、ちょうどLGWAN-ASPへの申請が通り、自治体の業務に適したモデルを組み合わせた生成AIが活用できる環境が整ったのです」と熊本氏。汎用的なLLMと違い、事前に収集した学習データを利用してより精度の高い生成AI活用が可能になるRAG(Retrieval Augmented Generation:検索拡張生成)技術が生かせる点を評価したのだ。

そして生成AI活用の基盤として注目したのが、サイボウズが提供するkintoneだった。LGWAN-ASPを経由してkintoneにアクセスすることで生成AIサービスが安全に利用できるだけでなく、業務改善に必要な業務アプリの開発展開も可能になるため、DX推進として庁内にプラットフォーム展開するツールとしても好都合だった。「生成AIを使うことでkintoneに慣れていけば、その後の業務改善に貢献する各種アプリを利用するハードルも下がります。kintoneの有用性を現場の人たちに刷り込んでいけるという期待もあったのです」と熊本氏。

職員の数が少なくなっても持続可能な自治体運営が可能な、生成AI活用および業務改善のためのプラットフォームとして、LGWAN-ASP経由で利用可能なkintoneが選択されることになる。

【効果】kintoneと生成AIの組み合わせによって持続可能な自治体運営づくりに貢献

■業務特化モデルで生成AI活用が拡大、使い勝手を高めるkintone

現在は、株式会社両備システムズが提供するLGWAN-ASPとネットワーク連携できるR-Cloud Proxy for kintoneを利用してkintoneにアクセス、kintoneをインターフェースとして株式会社西海クリエイティブカンパニーが提供する自治体向けAI「ばりぐっどくん(AI職員ばりぐっどくん for kintone)」(※)をベースに、複数のLLMモデルが活用できるようになっている。それぞれのLLMでは基本的なプロンプトが設定されており、一部のモデルではRAG技術を使って議会議事録や総合計画といった自治体としてオープンにしている過去の情報を追加学習し、より精度の高いアウトプットが可能になっている。

※AI職員ばりぐっどくん for kintone
自治体向けAIばりぐっどくんのLGWAN-ASPサービスとしての正式名称。kintoneを通して、生成AIを使った文書作成、文章の要約や翻訳、文字起こしを行うことができ、作成した文章は、kintone上にて編集と保存が可能。

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議会答弁に適したモデルでは、質問を投げかけることで事前に設定されたプロンプトをベースに、RAGによって蓄積された過去の議事録含めた公開情報を活用して生成AIが回答を返してくれる。画面では、生成AIが回答した内容が左側に表示され、右側のスペースで自由に編集しながら微調整を繰り返し、議会答弁を作成していくことが可能となっている。

「実際のQAがレコードとして保存でき、周りの活用例が確認できるようになっています。業務プラットフォームであるkintoneだからこそ、データベースとして情報蓄積が可能になり、編集エリアの設置など作業しやすいインターフェースが展開できています」と熊本氏は評価する。いずれは、市長含めた答弁書に関連したメンバーがそれぞれアクセスしたうえで共同編集し、最終的には承認を行っていくようなプロセス管理の機能も実装していきたい考えだ。「今は時間と場所を決めて集まり、紙をベースに答弁書を作り上げています。kintone上でできるようになれば、市長含めた忙しい方の時間も融通しやすく、業務の効率化にも大きく貢献することになるはず」と熊本氏。

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■半数以上がログインして活用、年間で2,000時間越えの業務削減効果を達成

試験運用を開始して2ヶ月ほどで生成AIに関する全庁アンケートを実施したところ、半数以上の57%の職員がログインを経験し、部署や役職に縛られることなく多くの職員が利用している状況にあるという。なかには毎日アクセスするヘビーユーザーもいるほどで、例えば議会答弁であれば答弁書の作成を行う役職者が多く利用しているなど、モデルの利用状況は部署や役職によって差が出ている。

有用性という視点では、「大いに役立ちそう」「それなりに役立ちそう」の回答を合わせるとおよそ9割に達しており、生成AIに対する評価は高い状況にある。「時間削減の効果としては、それぞれのモデルの合算で年間2,072時間、一人1日あたり12分ほどの削減効果が出ています。当初設定した年間削減目標の6割に相当する成果を利用開始2ヶ月ほどで達成しており、なかでも議会答弁の関係が多い本部セクションを中心に高い効果が得られています」とその効果を実感している。

生成AI活用のインターフェースとしてのkintoneに関しては、特段利用者から不満の声が寄せられることもないという。「インターフェース自体は色々変更することもできるのですが、将来的な活用を視野にkintoneに慣れてもらうべく、ポータル画面はあえてデフォルトのまま使ってもらっています。DX推進としてkintoneのさらなる活用は避けて通れないと考えており、生成AIをきっかけにできるだけkintoneに馴染んでもらえるように意識しています」と熊本氏は将来像を見据えた展開のポイントを披露する。

生成AIのみならず、kintoneにて業務改善につながるアプリの運用も目指している。市長や副市長へのアポイントを希望する現場と秘書課によるスケジュール調整のためのアポ取りアプリや、残業申請を行うワークフロー機能を実装した時間外勤務命令簿アプリなどがその一例だ。  業務アプリ作成のアイデアについては、自治体に所属するkintoneユーザが集う行政職員限定コミュニティ会員サイトである「ガブキン」にある「自治体・省庁kintoneずかん」を参考にしているという。「ガブキン」では実際に自治体職員が作成したアプリサンプルが公開され、担当者同士で情報交換もできる。「同じ課題を持つ各自治体の担当者が交流できるサイトだけに、その情報から着想を得てアプリを作成するケースは多い。多数のテンプレートがあることでとても助かっています」と高く評価する熊本氏。

業務アプリ作成のアイデアについては、自治体に所属するkintoneユーザが集う行政職員限定コミュニティ会員サイトである「ガブキン」にある「自治体・省庁kintoneずかん」を参考にしているという。「ガブキン」では実際に自治体職員が作成したアプリサンプルが公開され、担当者同士で情報交換もできる。「同じ課題を持つ各自治体の担当者が交流できるサイトだけに、その情報から着想を得てアプリを作成するケースは多い。多数のテンプレートがあることでとても助かっています」と高く評価する熊本氏。

■活用の幅をさらに広げながら、住民サービスなどフロンドヤード改革への展開も

現在は運用を開始したばかりで現場としても手探りの状況ではあるものの、DX推進班としては生成AI含めたkintoneの利用率をさらに向上させていきたいという。汎用的な生成AIの試験導入段階で基本的な考え方は現場にも伝わっているものの、具体的な操作方法も含めたオンラインでの研修などは今後も継続的に実施していく計画だ。「これからは幹部向けの研修などターゲットを絞った形での研修なども企画しながら、多くの人に利用してもらえるような環境づくりを引き続き行っていきたい」と熊本氏。使いこなせるメンバーが増えてくれば、現在はDX推進班にのみアプリ開発権限を集約しているが、現場にも権限を委譲することでkintone活用をさらに加速させていきたいという。

また、現在は庁内の業務効率化にkintoneおよび生成AIサービスを利用しているが、DX推進としては住民サービスに対する貢献度も高めていきたい方向にあることは間違いない。「今は自分たちの足元をしっかり鍛えている段階ですが、当然住民の方との接点となるフロンドヤード改革にも取り組んでいくなど、活用の幅はさらに広げていきたい」と熊本氏に今後について意欲的に語っていただいた。