
日産自動車
- 【業務内容】
- 自動車の製造、販売および関連事業
- 【利用用途】
- 購買部門におけるナレッジ共有、業務効率化、AIによるノウハウ継承支援



日産自動車では、購買部門における属人化とノウハウ継承の課題に正面から取り組んでいる。業務の変化が激しい購買領域では、個人の経験や判断に依存しがちなプロセスが多く、ベテラン人材の退職や異動による“知の空白”が生じやすい。同社がその解決策として選んだのが、サイボウズの業務改善プラットフォーム「kintone」と連携して進化する「みんなで育てるAI」だ。AIを単なる自動化ツールとしてではなく、“現場とともに育てる存在”と位置づけ、ベテラン従業員=匠の知見を取り込みながら成長させていく。購買部門が自ら考え、磨き上げ、定着させてきた日産の試みは、製造業におけるナレッジ継承の新たなモデルと言える。この取り組みについて購買戦略統括部 戦略統括グループのメンバーに話を伺った。
自動車産業の競争が激化する中、グローバルな購買活動を担う日産自動車の購買戦略統括部では、部門内のナレッジ共有と業務効率化が長年の課題となってきた。多様な仕入先との調整や品質対応、コスト改善など、購買業務は日々変化への対応を迫られる領域である。日産自動車 購買戦略統括部 戦略統括グループの塩田千賀子氏は「購買部は業務の変化が非常に速い部門です。活動目標が変われば、それに追随するシステムサポートが求められます」と語る。
同部門がこうした課題に対して最初に導入したのが「kintone」である。塩田氏がkintoneを知ったきっかけは、身近なところからだった。「妹の会社がkintoneを使っていて、すごく良いと聞いたのです。それで自分でも調べて、2015年7月に日立ケーイーシステムズさんが主催するセミナーに参加しました。丁寧に説明してもらい、これは部門の課題解決に役立つと確信し、部内で相談して導入を検討しました」。その後、2016年4月に社内で正式導入。2019年には海外関連会社との連携にも着手するなど、着実に活用範囲を広げてきた。

購買戦略統括部 戦略統括グループ 担当 塩田 千賀子 氏
そして2025年、日産の購買部門は新たな挑戦として「みんなで育てるAI」のトライアルを開始した。これは、現場に蓄積されたノウハウをAIに学習させながら進化させていくというものだ。日産自動車 購買戦略統括部 戦略統括グループ 主担の根上崇氏は、その背景を次のように説明する。「購買部門では、ノウハウの属人化が進み、特定の人に聞かなければ業務が回らないという状況が生まれていました。さらに、経験豊富な人材の流出も進み、知見が失われる危機感がありました」。
こうした状況を受け、同部門では「知をつなぐ」ための新たなアプローチとして、AIを活用した検索・訂正機能付きの社内ナレッジ基盤の構築を決断した。
根上氏は「社内ドキュメントをAIが検索するだけでなく、先人のノウハウやデータを社員が確認・訂正できるようにして、全員でAIを“育てていく”仕組みをつくろうと考えました」と語る。その構想を体現したのが、「みんなで育てるAI」という名称に込められた思想だ。

購買戦略統括部 戦略統括グループ 主担 根上 崇 氏
名付け親である日産自動車 購買戦略統括部 戦略統括グループ 主管の吉村孝之氏は、その意図をこう説明する。「一般的にAIは『何でも答えてくれるもの』という印象がありますが、私たちはそうは考えていません。どの会社でもノウハウが人に偏って散逸していくという課題があります。だからこそ、人を育てるように、みんなでAIを育てていくことで、一人前にも百人前にも成長させていきたいと考えました」
AIを“育てる”という発想は、単なるデジタルツール導入ではなく、現場の知恵を次世代に継承するための文化的な挑戦でもある。

購買戦略統括部 戦略統括グループ 主管 吉村 孝之 氏
日産自動車 購買戦略統括部で進められた「みんなで育てるAI」の開発は、いきなり高度なAIを導入したわけではない。ユーザーが自然に慣れ、現場で使いこなせるようになることを第一に、段階的に進化させていったプロセスがある。中心となって構築を進めた根上氏は「Step1では、まずサイボウズがβ版として試供しているkintone AIラボの機能を使ってトライアルを行いました。ユーザーがチャット形式でAIに質問し、社内ドキュメントやデータとやり取りして回答を得る仕組みです。最初の目的は、AIとの対話に慣れてもらうことでした」と振り返る。
続くStep2では、kintoneでAIの学習データを整備し、AWS上にAIを置く形に組み換えることでAIの機能拡張の基盤を構築。さらにStep3で、AIの回答精度を高めるための検証・学習プロセスを追加し、利便性と信頼性の両面を強化した。「ベテラン社員、つまり“匠”がAIの回答をチェックし、正しい内容を反映させるようにしました。匠のノウハウを吸い上げ、AIの応答の信頼性を高めていく取り組みを続けてきました」と根上氏は説明する。
現在、同社ではAIと匠とのやり取りを通じてノウハウを蓄積する仕組みが動いている。匠がAIの回答内容を確認し承認すると、その情報が自動的にkintone上へ整理・登録される。こうしてベテラン社員の経験知をAIが学び取り、次回以降の回答に反映していく。現場で蓄積された“生きた知見”が、AIによって可視化・再利用されるプロセスが形成されたのだ。
こうした取り組みの成果はすぐに現れた。利用開始からわずか10日間で400件の質問が投稿され、購買部員の約8割が早速ツールを使い始めたという。ITスキルの差が大きい購買部門でも、AIに質問するという行為が自然に浸透していった背景には、現場主導の“育てる文化”があった。
「購買の人たちは大半が初心者レベルのITスキルです。しかし、人を育てるようにAIを育てようという考え方を匠に提案したところ、共感してくれて『こうしたほうがいいのでは』と改善提案まで出してくれました」と吉村氏は語る。このように、従来は属人化しがちだった業務にも、AIを介して知見を共有する新しい流れが生まれた。中には、会社を離れる際に自分の知識をAIに託した匠もいたという。
さらに、AIの成長を支えるのは、匠からのフィードバックだけではない。吉村氏は「複数のAIを使い分けています。例えば一般的な調べ物にはCopilotを使い、業務ノウハウの蓄積や共有には“みんなで育てるAI”を活用しています。Copilotは学習しませんが、このAIはノウハウが蓄積していく。だからこそ使うほど価値が高まるのです」と強調する。
塩田氏も「UIを工夫し、匠や一般ユーザーにとって使いやすい設計にしたことがポイントでした」と振り返る。技術導入にとどまらず、利用者の心理や操作性まで考慮して“育てる仕組み”を整えたことが、成功を支えた大きな要因となった。
「みんなで育てるAI」の構築は、順調に見えてその裏に多くの試行錯誤があった。とくに課題となったのが、AIが参照する情報の整理とカテゴリ設計である。根上氏は「どのようなカテゴリを設定すれば使いやすいのかを検証しながら再構築を進めました。情報を整理することで検索性が高まり、AIの回答精度も向上しました」と振り返る。
また、現場では“空白地”と呼ばれる知識の空白も課題として浮かび上がった。「人がいなくなると、その人が持っていたノウハウごとなくなってしまう。そこで新しい“匠”を設定して、教育や指導を通じて次の世代に知をつなぐ取り組みを始めました」(根上氏)。AIの学習だけでなく、人の成長を支える仕組みを同時に整えていく、そのバランスこそが、日産が掲げる“みんなで育てる”思想の核心にある。
一方で、AIの活用を進める上で欠かせない要素として挙げられたのが「HITL(Human In The Loop)」の考え方だ。根上氏は「購買業務では、法令遵守やコンプライアンスなど、信頼性の確保が不可欠です。AIに任せきりにするのではなく、人の目で検証し、誤りがあれば修正していく。そのプロセスを通じて信頼性を高めています」と説明する。HITLとは、AIの学習や判断のプロセスに人が介入し、精度を補正する仕組みのこと。AIの便利さを最大限に活かしつつも、人の経験と判断が必ず介在する体制を築いている。
こうした地道な改善を積み重ねながら、チームは今後の定着化に向けたサイクルを描いている。「モニタリングしながら機能拡張を行い、説明会や勉強会で理解を深めるという流れを継続したいですね。まだ始まったばかりの取り組みですが、使えるAIに育てていきたい。精度を8から9割まで高めるのが目標です」と根上氏は意欲を見せる。
塩田氏は、長年にわたるkintone活用の経験から次のように評価する。「親しみやすいシステムであることが大きいですね。購買部でkintoneを使って10年になりますが、初めて使う人にも分かりやすく、AIもkintoneをベースにするのは自然な選択でした。今後は海外拠点や連結会社との連携を視野に、活用の幅をさらに広げていきたいと考えています」
吉村氏もまた、AIの成長を温かく見守っている。「最初のAIは“赤ちゃん”のようなもので、正答率は40%ほどでした。最初から完璧を期待せず、みんなで育ててきたこと、プロンプトの書き方などの工夫することで70%まで上がっています。この数字をこれからさらに高めていきます。悩みを共有しながら解決し、成長していく姿を見るのは、まさに希望の光です」
こうした挑戦を支えたのが、開発パートナーである日立ケーイーシステムとサイボウズだ。根上氏は「伴走してシステムづくりに取り組んでくれたおかげで、半年ほどで立ち上げることができました。まずはAIを使ってみて、一緒に経験を積んでくれたことが、頼もしい力となりました」と感謝を述べる。吉村氏も「“みんなで育てるAI”という発想が生まれたのは半年前で、短い期間でここまで来られたのも、両社が寄り添ってくれたことが大きいと実感しています。これからも共にAIを大切に育てていきたいですね」と結んだ。
(2025年10月 取材)
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弊社はプログラム開発が得意分野であり、kintoneではお客様のご要望に合わせて
汎用プラグインの提供からお客様専用のプラグイン開発まで、広く対応させていただいております。
本件は扱うデータ量が非常に多かったため
速度に関する問題の解決に力を入れました。
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