日機装株式会社 様の導入事例

日機装株式会社

【業務内容】
製造業
【利用用途】
案件管理、工程管理、PLM
  • CRMやPLMなど業務に必要な環境づくりを全て内製化
  • 営業からアフターサービスまで全ての業務を支えるkintone

 産業用特殊ポンプ・システムを中心に事業を展開する日機装株式会社では、営業情報を工場に共有するためのCRMシステムから、精密機器工場における工程管理としてのPLMシステムに至るまで、業務に欠かせないシステム環境をkintoneにて構築している。その経緯について、インダストリアル事業本部 精密機器技術センター センター長の森 隆博氏にお話を伺った。

営業情報が工場に共有できていないことが大きな課題に

 1953年に特殊ポンプ工業株式会社として創立し、現在はアジアや欧州、北アメリカなど世界中でビジネスを展開するグローバルカンパニーとして業界をけん引している日機装株式会社。産業用特殊ポンプ・電子部品製造装置、システムや発電プラント向け水質調整装置などを手掛けるインダストリアル事業を中心に、血液透析関連製品や人工膵臓装置などのヘルスケア関連製品を手掛けるメディカル事業、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)製航空機部品を手掛ける航空宇宙事業など、幅広い事業を展開している。

 そんな同社の主要事業の1つを担うインダストリアル事業本部 精密機器事業では、各発電所の水質調整装置をはじめ、電子デバイスに欠かせないセラミックコンデンサーやフィルターといった電子部品の製造装置を手掛けている。

 kintone導入を考え始めた根本には、「受注生産に必要な情報が見えない」という問題があった。ポンプや半導体製造装置などを受注生産する事業では、本来は営業だけでなく、技術や工場が早い段階から案件に関わらないと受注を取りこぼしてしまう。しかし当時、工場側からは「営業がどの案件に注力しているのか」が見えず、気づいたときには失注していた、というケースが少なくなかった。技術や工場の担当者にとっても、どの案件が重要なのかが分からないため、「自分ごと」として動きにくい。「受注したが納期が合わない」「そもそも受注のチャンスに技術が間に合っていない」といったリスクを常に抱えていた。

精密機器技術センター センター長 森 隆博 氏

 営業情報のやり取りは、以前はExcelやメールなどを通じて議事録や報告書など担当者それぞれのフォーマット且つ担当者間で工場側に伝えられおり、ルール化された手法とはなっていなかった。そんな属人化された環境だったために具体的な要件定義に落とし込むことは現実的でなく、小さく始めて少しずつ周りを巻き込んでいくやり方で、営業情報の共有化を進めることを検討したのだ。

現場の要望をすぐ取り入れられるノーコードツールとして注目したkintone

 スモールスタートを前提に考えた場合、できる限り自分たちでその都度作り変えていき、現場の要望に沿った環境への改善が常に必要だと考えた森氏。そのためには、内製化可能な仕組みが理想的だったという。そこで、お客様情報や商談情報が管理共有できるCRMSFAツールなどを中心に、負担なく現場自ら変更できるノーコードツールを検討することに。

 そこで注目したのが、サイボウズが提供するkintoneだった。「迅速に展開でき、かつスモールスタートで進めていける環境としてクラウドが最適だと考えました。また現場で内製化できるノーコードツールとしてkintoneを検討したのです」。特にkintoneは数人からでも利用開始できるため、スモールスタートするには最適だったのだ。 

 他事業部ではSalesforceにて環境整備が進んでいたため、いったんはSalesforceも検討したものの、カスタマイズ性が乏しく、情報を入力する現場にとってハードルが高いと考えた。「どちらもトライアルで触れてみたものの、kintoneの方がフィットした印象でした。新たな仕組みの場合、どうしても現場は抵抗感を示しやすい。できる限り簡便で容易に入力できるものとして、kintoneであれば展開しやすいと判断したのです」。

 また、Salesforceを運用していた他事業部では、要件定義を行ったうえで外部パートナーに対して開発を委託せざるを得ず、内製化することが難しいと判断。「属人化した環境を同システムに落とし込むための要件が見えないなか、そもそも要件定義から始める従来のような開発スタイルでは時間もかかってしまう。スピード感を重視し、いったんは触りながら小さく始めていけるkintoneが最適だと考えたのです」と森氏。

 選択にあたっては、kintoneパートナーの存在も大きかった。実は基幹システム周りで支援を行っていたNDIソリューションズ株式会社がkintoneを扱うディベロッパーの1社で、基幹システムとの連携も含めたkintone支援の期待もあった。そこで、営業部門が持つ案件情報を工場側に共有するための基盤として、kintoneが採用されることになったのだ。

CRMからPLMまで現場業務に必要な環境を全てkintoneで実装

 スモールスタートした当初は、案件情報をまとめたうえで日々の営業活動が集まる案件管理アプリを作成、わずか2か月あまりで運用をスタートさせることに成功する

▼案件管理をkintoneでデジタル化

 その後は、工場サイドの技術部門がお客様と共に行う開発品の試作テスト情報の紐づけや議事録アプリなどを構築、今ではCRMによる顧客管理の基盤としてだけでなく、工場における全ての工程管理を担うPLMProduct Lifecycle Management )としての機能が全てkintone上に実装されている。具体的には、精密機器関連の事業に関わる営業部から技術部、製造部、品質管理部、アフターサービス部のメンバー含めたおよそ200名全員がkintoneを活用しており、アプリの数は全体で880、実運用では400ほどが日々の業務に利用されている状況だ。

 アプリ自体は、マスター系のアプリとともに、案件情報を管理するフロント系のアプリ、開発・設計などのプロセスを管理するアプリ、受注後の工程管理や出荷後の問い合わせ管理などアフターメンテナンスのアプリまで、あらゆる業務がkintone内に実装されており、業務に必要なワークフローも全てkintoneが使われ、受注状況などもグラフを用いて可視化できるようになっている。

▼ 出荷数もグラフで可視化

全社でkintoneの定着が進み、次の段階として基幹システム連携に踏み出す

 以前は、基幹システム(AS/400)では受注後のモノやカネに関する数値情報のみを管理していた。受注前の案件情報や見積内容、仕様検討・テスト結果、営業と技術の動き、トラブルやノウハウといった「現場の情報」は、Excelやメール、紙、個人PCなどにバラバラに散らばり、他部門からはほとんど見えない状態だった。

 そこでkintoneを「全業務・全情報の入り口」と位置づけ、ユーザーがkintoneに案件・活動履歴・テスト・トラブル・ワークフロー情報などを登録・閲覧できる形にした。受注後の数値情報は従来通り基幹システムが持ちつつ、DataSpiderという連携ツールで基幹システムとkintoneをつなぎ、基幹データをkintone側から参照できるようにしている。見た目としては「kintoneだけ見れば、案件の最初から最後まで追える」というような構造である。

 これにより、ひとつの案件について、営業提案から仕様検討・テスト、受注、生産、納入後のトラブルやメンテナンスまでをkintone上で一元的に追跡できるようになった。調達はkintoneで営業案件や生産フォーキャストを見て在庫・発注を判断でき、サービスのトラブル情報も設計・開発が同じ画面から確認可能になっている。

▼基幹システムとのデータ連携図

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年間23,000時間の削減や改善スピードの大幅アップなどさまざまな効果を実感

 紙のワークフローをほぼ廃止し、kintone上のデジタルワークフローに置き換えたことで、年間約23,000時間もの業務時間を削減している。従来は紙の申請書が人や部署の間を行き来し、その移動・保管・検索に多くの時間が奪われていた。現在は、全事業部約200名がkintoneを業務インターフェースとして利用し、申請から承認、記録までをオンラインで完結させているため、物理的な「人と紙の移動時間」がほぼ消えた。また、毎年約200件の業務改善アイデアが現場から上がり、その多くがkintoneのアプリ改良やフロー見直しによって実装されており、それだけで年間およそ2,000時間の追加削減につながっている。

 kintoneの魅力については、ワークフローが組めることが大きな価値の1つだと力説する。「組織横断的な仕組みでは、やはり承認や確認が必ず付きまとうもの。それが簡単に作れることが、展開を一気に加速させる原動力になっていると考えています」。承認のエビデンスが確保できることでトレーサビリティが容易なため、ガバナンス面でも効果が高いという。アプリ作成の面でも、多くのメンバーに初期の段階でアプリ開発に慣れてもらったことで、ITスキルがさほどなくとも必要なアプリがその場で作成できる点は大きい。「アシスタントの方は今まで負担のかかる無駄なコピー業務や配布作業などがなくなるため、皆さん積極的に取り組んでいただいています」と森氏。

 さらに、案件情報、活動履歴、生産フォーキャスト、トラブルやメンテナンス情報などが一つにつながったことで、情報の活用方法も変化した。営業のフォーキャストを工場がリアルタイムで確認し、生産計画や調達を前倒しで調整できるようになった結果、「受注したけれど作れない」「納期が合わない」といったリスクも低減している。サービス現場でのトラブルはkintone上で共有され、設計・開発が次の製品改善に活かす、といったPLM的な循環も回っている。

 こうした流れの中で、社員の意識は、「自分の担当分だけをこなす」から、「組織全体として受注を取りにいく」「全体最適のために情報を出し、改善する」という方向へシフトしており、マインド面の変化も後押ししている。

 また、ゲストスペースを使ってパートナー企業との間で発生する見積書や図面などの情報のやり取りや問い合わせ応対などコミュニケーション基盤としても活用している。パートナーとのやり取りが一元管理できるだけでなく、未回答案件も可視化できるなど、パートナーとの信頼関係醸成にも一役買っている状況だ。

 上記のような様々な創意工夫の取り組みから、受注は約1.5倍に伸びている。

【運用】プラグインで属人化を防止、全て内製化することで使い勝手を最大化

 kintone展開に向けては、デジタル化に向けたプロジェクトチームを組んだうえで全てのアプリを内製化し、現段階で3年ほどかけて構築してきた。「以前は紙やExcelでそれぞれの工程が管理されていましたが、今は案件情報を登録した段階で付与される管理番号を軸に、設計・製造の工程管理や検査プロセスを連携させるなど、全ての情報がつながっています。受注できなかった案件も分析を行うため全て管理できるようになっています」と森氏。

 kintoneアプリについては、できる限りプラグインを活用して属人化を防ぐように工夫している。「我々は技術者であるため、kintone上でJavaScriptを駆使できますが、できるだけプラグインを利用して属人化を防いでいます」と森氏。工程作成のガントチャートプラグインやタグ表示プラグイン、Excelライクなインターフェースで情報が簡単にコピー&ペーストできるkrewSheetなど、多くのプラグインを適用している状況だ。

 アプリを作成する際にも、利用者に必ずテスト入力してもらい、事前には見えていなかった要望をうまく取り入れていくことで、使いやすい環境づくりに取り組んでいる。「要望があればその場で私が直してしまうこともしますし、要望アプリによって改善要望があれば、アプリを作成した本人に直接連絡が入り、対応してもらうことも可能です。情シスに依頼した場合、申請の手続きから承認、聞き取り調査、そして実際の開発など、多くの時間がかかってしまう。kintoneであればその場で修正できるため、スピード感が全然違いますと森氏は評価する。

kintone×AIによる更なるデータ活用フェーズへ

 kintoneにAI機能が実装されてからは、kintoneに蓄積されたデータを用いた実験的な活用が始まっている。新卒や中途の営業担当向けには、装置Q&Aアプリやカタログアプリを参照するプロンプトを用意し、AIに装置のPR文を書かせている。主力装置である温水ラミネーターについても、特徴や強みを押さえた紹介文を自動生成できるようになった。

▼kintone × AI活用画面

251203_nikkiso_2.png 現時点では、社員全体で見るとAI活用はまだ試行段階にあり、プロンプトの工夫や参照データの調整を繰り返しているフェーズにある。それでも、「kintoneに蓄積された知見に関して質問すればある程度引き出してくれる」状態は整いつつあり、今後は受注活動の振り返りや製品開発の検討など、意思決定の場面への本格的な展開が期待されている。(更新日:2025/11/28) 

【記事内で登場したプラグイン・連携サービス】

krewSheet(メシウス株式会社)

・DataSpider Servista kintoneアダプタ (株式会社セゾンテクノロジー)


※プラグイン・連携サービスはkintoneスタンダードコース以上でご利用いただけます

【この事例の販売パートナー】
NDIソリューションズ株式会社

担当部署:
ソリューション戦略部マーケティング課
E-mail:ndi.info@ndisol.com

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