中山靴店 様の導入事例

中山靴店

【業務内容】
靴(オーダーメイドインソール)の製作、販売
【利用用途】
各店舗からの日報、報告書
  • 上手くいかずに、一人で悩み抜いた30ヶ月
  • 何度も失敗を重ねた上で気が付いた、業務改善に本当に必要なこと

「職人が売る靴屋」というコンセプトのもと、靴の小売を中心とした事業を展開する有限会社中山靴店。一般的な靴屋と異なるのは、顧客の足を計測して―人ひとり足の形にあわせたオーダーメイドのインソールを提供している点だ。店舗は創業地でもある岡山県内に3店舗、京都府、大阪府、北海道にそれぞれ1店舗展開し、足や靴に関する悩みを持った人の心に寄り添い、顧客の歩く喜びと健康を支えている。高い技術と豊富な知識を兼ね備えた職人が多く在籍する同社だが、社内の情報共有や指標管理についてはかねてから様々な問題を抱えていたという。それらを解決するためにkintoneを導入したのだが、導入成功といえるまでには、長く、苦難の道が待ち構えていた。今回は中山靴店でkintoneの導入から運用まで担当している藤原靖久氏にお話をうかがった。

Excelを使った煩雑な情報の管理に限界を感じてkintoneを導入
しかしさまざまな工夫をしてアプリを構築するも、活用が全く進まなかった

kintoneを導入する前の中山靴店では、各店舗の業績を比べる指標として時間当たりの生産性をメールとExcelを使って管理していた。各店舗のスタッフが自身の日報を店舗責任者にメールで送り、その情報を元に責任者がExcelファイルにまとめ直し、ファイルサーバーにアップするというのが毎日の流れだ。しかし、Excelでの管理では「複数人が同時に編集できない」「データを上書きされてしまった」「誰かが数式を触ってしまいデータを修復できなくなってしまった」といった問題が日々発生していたという。こういった問題を解決するために選ばれたのがkintoneだった。

「kintoneは、サイボウズのオフィシャルパートナー企業からの紹介で知りました。オンラインでどこからでも入力できる利便性に惹かれ、パートナー企業の支援のもと、弊社のkintone運用が始まりました。当時は“とにかくExcelの作業を何とかしたい’'という一心だったので、出来上がったアプリもほとんどExcelをただkintoneに置き換えただけのものでした」(藤原氏)

導入当初のkintoneは情報を入力するだけの「箱」でしかなかったと語る藤原氏。しかし導入推進担当者として、様々な業務をkintoneに集約するためにネット上の情報を調べ、無料で使えるプラグインを駆使して様々なアプリを作っていった。しかし藤原氏の努力とは裏腹に、現場からkintoneへのデータ入力はほとんどされておらず、なかなか活用が進まない状況が続いたという。

初期の日報。細かく作り込まれているが、ほとんど入力されなかった。

Cybozu Days 2018への参加がきっかけで、自社の業務改善を決意
それでも自社での活用は進まず、とうとう挫折寸前に

熱心に社内のkintone活用を推し進めていた藤原氏。しかしなかなか思うように状況は好転せず、2018年11月、kintone活用のヒントを得るために東京で開催されていたCybozu Days 2018 に足を運んだ。

「あの時のCybozu Days は私にとって運命の出会いでした。とくにkintone AWARD 2018でファイナリストに選ばれた企業の発表はどれも衝撃的で、勇気をもらえました。私が“業務改善’'という言葉に出会ったのもこの時で“kintoneがあれば自分の会社でも業務改善ができるかもしれない!自分もやってやるぞ!”と決意し、翌月には社長を伴ってCybozu Days 大阪にも参加しました」(藤原氏)

中山靴店 藤原靖久 氏

同社ではExcelによる指標の管理だけでなく、店舗間の情報共有が上手くいっておらず、社員同士の関係性が希薄化する問題も抱えていた。他店舗の社員が何をしているのかほとんど見えず、気づかないうちに店舗同士のメンバーの関係性が悪化していることもあった。

「当時弊社では離職率の高さが問題となっていました。Excelによる煩雑な業務や社員閻の関係の希薄化など、直接の原因でなくとも多少は関係していたと思います。職人として経験を積み技術を習得して、さあこれからという時に退職してしまうケースが続いていました。その度に残された社員たちはどんどん疲弊していく。私自身、そんな現状を何とか変えたいという想いはありました。それが、Cybozu Days 2018に参加し、皆さんの発表を見たことで心を動かされ、kintoneで現状を変えてやるという思いにつながったのです」(藤原氏)

Cybozu Daysで得た知見を自社に持ち帰り、さっそく社内の業務改善に取り掛かった藤原氏。まずはコミュニケーション促進のため、日報アプリヘのコメントを社員に促したという。
さらにkintoneのアプリをどんどん作り込み、より利便性の高いアプリヘと進化させた。しかし藤原氏の努力も虚しく、その後もkintoneの活用は思うように進まなかった。

「その時私の心の中は”なぜ?”という気持ちでいっぱいでした。ならばもっと便利にしてやろうとさらにカスタマイズを重ね、機能を増やし、無理やりにでも共感させようとして、それでもやっぱり使われなくて。そんな悪循環を繰り返し、気付けば1年が経週していました。何度も“やっぱりうちの会社で業務改善は無理だ’'と諦めそうになりましたが、一緒にCybozu Daysに行ってくれた社長が”もっとkintoneを使おう”と言い続けてくれたことだけが、唯一の支えでした」(藤原氏)

kintoneですごいアプリを作ることがゴールではなく、
一緒に働く仲間が幸せになることがゴールだと気づくことができた

必死にアプリを作り、アップデートするものの社員に使ってもらえず、どんどん人が辞めていく。そんな状況の中、最終的に藤原氏はあるサイボウズ社員に相談のメールを送ったという。

「地元、岡山県でリモートワークをしているサイボウズの松森さんという女性に、迷惑を承知の上で長文の相談メールを送りました。すると松森さんから”kintoneは現場レベルからじわじわ使いこなされていくもの。そこには親場を回ってしつこく使い方を啓蒙していくような、泥臭い努力も必要です”と教えられました。そこで私は、はっとしました。弊社の平均年齢は30歳と比較的若いため、ITに苦手意識なく、便利なツールがあれば勝手に使ってくれるはず、と思い込んでいました。私は自分の思い込みで空回りしていた事に気付けていなかったのです」(藤原氏)

当時を振り返り「あの頃はまだ業務改善のスタートラインにすら立てていなかった」と話す藤原氏。それからはアプリの完成度を高めることではなく、社内でkintoneのハンズオンセミナーを実施するなど、kintoneの有意性を啓蒙する活動に力を入れてきたという。すると、今まで見向きもされなかった社内のkintoneに新しいアプリを作る人が現れ、徐々にkintoneに情報が集まり始めた。特に本店から最も遠い札幌店の社員達はどのツールよりも一番kintoneを活用し、積極的に他店舗の情報を取り入れようという姿が見え始めたという。

「指標の共有だけでなく、少しずつですがkintoneを通じたコミュニケーションも増えてきました。ある店舗にたくさん受注が入った際、kintoneに上がっている受注状況を見て、他店舗のスタッフが“うちも手伝うよ’'と声を掛け合う動きも出てきました。また、職人気質の人が多く、自分の仕事ぶりを他人に見せびらかすようなことはしない方が多いですが、kintoneの報告に他の社員からいいねやコメントがつくことで自分の仕事を見てもらえている、認めてもらえているというモチベーションアップに繋がるそうです。実は先日、社長のある投稿に対して普段は反対意見など声を上げない人が、kintoneのコメントで反諭し、社内を巻き込んだ議論に発展した事がありました。これは弊社初の炎上事件と言われています(笑)」(藤原氏)

現在の日報には、気づいたことなども細かく記載されている。

何度も挫折を味わい、約2年半悩み続けた藤原氏。自身はこの話を「失敗談」と言うが、同時にこれからkintoneを導入する人、今kintoneの社内浸透に悩んでいる人の為になるのではと話す。

「kintoneはあくまで選択肢の一つ。手段であって目的ではない。kintoneですごいアプリを作ることがゴールではなく、その先にある理想に近づくことが大切なのです。100社100通りの働き方があるように、kintoneの在り方もその会社によってさまざまです。弊社のように何度も失敗を重ねても一緒に寄り添ってくれるのがkintoneの良さだと思います。私たちは、これからもkintoneと一緒に成長していきたいと思っています」(藤原氏)