宮城県庁 様の導入事例

宮城県庁

【業務内容】
市町村の行政運営支援
【利用用途】
情報共有基盤、調査・照会業務
  • 市町村との間で行われる行政文書のやり取りを効率化
  • 柔軟な情報基盤としてメールからの脱却を可能にしたkintone

宮城県において、市町村の行政運営の助言や広域行政の推進など市町村との行財政業務を担当している総務部 市町村課では、宮城県と県内市町村、一部事務組合などと連携し、新しいコミュニケーションの形をつくるべく、クラウド型情報共有基盤「コネミヤ(Connect-MIYAGI)」を活用している。その基盤にkintoneを採用した経緯について、総務部 市町村課 課長補佐 榊原 潤氏および同課 松木 聡氏にお話を伺った。

【課題】国と市町村との橋渡しで、欠けていた情報共有基盤

豊かな漁場と日本三景の一つ松島をはじめとする風光明媚な観光地を有する宮城県。現在は県政運営の指針である「新・宮城の将来ビジョン」において定める「県政運営の理念」を掲げ、被災地の復興完了に向けたサポートと県内産業の持続的な成長促進など「政策推進の基本方向」に沿って、さまざまな取り組みを行っている。

そんな宮城県において、市町村との行財政業務を担当しているのが総務部 市町村課だ。市町村の行政運営の助言や広域行政の推進など、所管する総務省が定めた制度に沿って市町村との橋渡しとなるさまざまな業務を推進している。この市町村課では、国と市町村の橋渡し役として、国から寄せられる通知だけでも日々数件ほど、調査・照会に関しては年間100を超える件数が発生しており、このやり取りを宮城県にある35の市町村や一部事務組合等も含めた52団体と連携している。

総務部市町村課 課長補佐 榊原 潤氏

この市町村との情報のやり取りにおいて課題が顕在化していたと榊原氏は振り返る。「近年ではメールでの施行が増えており、内容に応じて各団体に振り分けを行っています。しかし、団体ごとにメール環境が異なっているため、容量制限や拡張子の制約などでメールが受け取れない団体も。その調整も含めて、かなり煩雑な業務となっていました」と説明する。また、通知を各団体に展開するだけでなく、調査・照会業務に関しては各団体からの回答を取りまとめる作業も発生していた。「メールを1通ずつ開封して圧縮解凍し、しかるべき場所に保存したあとに集計を手作業で行う必要があります。このプロセスだけでも相当の労力がかかっていたのです

メールの場合は一方通行のために団体間での情報共有とならず、同じような問い合わせが何度も市町村課に寄せられてしまうなど、メール対応に多くの時間が割かれていたのだ。しかも総務省や県内各自治体から派遣された職員も多く、毎年半数以上の職員が入れ替わってしまうため、過去の貴重なノウハウを生かし切れていない状況もあったという。

そんな課題が顕在化するなか、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、全庁的に働き方改革の機運が高まっていた。そこで、市町村課が取り組む業務改善のひとつとして脱メールに向け、円滑に情報共有できる新たなコミュニケーション基盤を検討することになったという。

【選定】コミュニケーション含めた情報共有基盤として必要な機能だけが実装できる魅力

機能過多でなく必要な機能だけが実装できるのが大きな魅力

新たな情報共有基盤を整備する際に当初イメージしたのが、庁舎内でも利用していたグループウェアだった。「かつてサイボウズの製品を導入した経験があり、グループウェアが利用できそうだというイメージを持っていました。そこでサイボウズのオフィスに伺って話を聞いたのです」と榊原氏。

そこでファイル共有やプロセスの記録などが可能な仕組みとして紹介を受けたのがkintone。当初はサーバーを設置するイメージだったが、クラウドで利用できるkintoneの方が手軽に扱えるのではと考えたそうだ。また、ノーコードで柔軟にkintoneアプリを作れ、すぐに改善できる点もkintoneの大きな魅力の1つだった。「役所のシステムはどうしても重厚なものになりがちで、当初は必要だと思い設計実装した機能も、運用段階では使わなくなってしまうケースは少なくありません。kintoneであれば活用しながら必要な機能を追加できる。市町村との情報を取りまとめる役割として、利用者に使いやすい環境が柔軟に用意できると考えたのです」と榊原氏は振り返る。

課題解決に役立つ仕組みができると判断し、まずは始めてみることを決断

ただし、自治体の場合はLGWAN環境とインターネット環境にアクセスできる端末が分けられているのがほとんど。例えば県ではインターネット接続端末を利用する職員が多いものの、相手先となる各団体が同様の環境とは限らない。「確かに市町村課と同様の環境ばかりではありませんが、kintoneのような情報共有基盤があったほうが便利だという共通の認識を持つことができたことが大きかったです」と松木氏は力説する。

市町村との情報共有基盤は全庁的なプロジェクトではなく、あくまで市町村課が主導した取り組みだったことも幸いした。「環境が統一されていないことで導入を断念するところですが、対応できない部分は運用でカバーすることも念頭に、課題解決に役立つ仕組みが整備できると判断しました。まずはやってみようと決断できたのです

総務部市町村課 松木 聡氏

そこでkintoneの30日の無料試用期間を利用して市町村側の担当者に触れてもらうことに。「メールでもそれほど困っていないという感覚の方も多い。それでも、検索すれば必要な情報が探し出しやすい、過去の通知ややり取りも見つけやすく、ファイルもサイズを気にせずにやり取りできるなど、多くのメリットが提示できた。使って初めてわかってもらえる部分が多いと実感しました」と榊原氏。そこから市町村課のなかでテスト運用を実施したうえで市町村側にも展開、kintoneをベースに県と市町村との情報共有基盤として「コネミヤ(Connect-MIYAGI)」を整備することになったのだ。

kintoneで作成された「コネミヤ」。トップ画面のお知らせ欄は最新情報の共有として活用

【効果】メールから脱却、情報共有の基盤整備を実現させ職員のマインドにも変化が

50を超える団体との効率的な情報共有を実現

kintoneは国からの通達や通知を各団体に展開する「書庫アプリ」や「担当者名簿アプリ」をはじめ、調査・照会業務に使う「調査取りまとめアプリ」といったデータベース的な使い方がその中心だ。現状は全体で170名の情報共有基盤となっており、ポータル上で各担当者がやり取りできるなど、活性化につながる場づくりも意識されている。

稼働当初から3か月あまりでkintoneへのアクセス数は2倍ほどになりました。kintoneを使えば仕事が進められるという理解が深まっていることの現れだと考えています」と松木氏。なお、日々行う必須業務ではないものの、毎日さまざまな情報が寄せられるため、日々のルーチンワークとしてkintoneを利用して団体への通知や調査・照会業務を行っている状況だ。

「書庫アプリ」では、送られてきた通知を蓄積していき、タグ付けなどを行ったうえで必要な団体に通知。添付の資料があれば各レコード内に情報を張り付けて閲覧できるような形で情報を展開している。shoko_ichiran.png

「担当者名簿アプリ」は、これまでExcelで管理していた名簿情報をkintone上に移行したもので、異動が行われる春先に各団体に直接メンテナンスしてもらっている。まさに毎年異動が発生する自治体ならではの運用だろう。meibo2.png

他にも、Web会議を開催する際の日程調整や研修会の出席報告、ミーティングに関する事前回答などの情報共有などにkintoneを利用している。

メールでは難しかった、市町村と議論するマインドチェンジも

今回のプロジェクトでは、わずか6か月という短期間のうちにkintoneを展開・浸透することに成功している。特に複数班に分かれている市町村課では当初から前向きな意見が多く、コロナ禍のなかで検温記録を蓄積して可視化できるアプリを試験的に作成したところ多くのリアクションがあり、課内で利用していくモチベーションを高めるきっかけになったと振り返る。なお、各班から松木氏と同年代の若手が集まって管理チームを結成し、毎週共有の時間を設けて新たな活用方法などについて今でも議論を重ねている状況だ。

team.jpg

kintoneにて情報共有基盤を整備したことで、メールを中心とした通知、照会業務から解放され、情報の取りまとめが容易になったという。また、様式の差し替えや回答時の注意事項などのアナウンスも負担なく実施できるだけでなく、他団体の回答を参考にできるなど情報共有が進んでいるという。

さらに、市町村課にいる職員のマインドが変わってきたことも効果の1つに挙げている。「共有した情報をベースに市町村を巻き込んで何か議論しようという意識の変化が生まれてきています。情報共有基盤をベースに議論するための場づくりが醸成されつつあります。情報が一方通行に流れていたEメールではできなかったことです」と松木氏は評価する。

団体間での情報のやり取りやFAQ、災害時の情報共有など活用の幅を広げたい

現在kintoneアプリ作成は市町村課だけが行っているが、今後団体間のつながりのなかで業務に利用したいという声が上がってくれば、基本的な操作手順などの説明会を通じて、さらにkintone活用を進めていきたい考えだ。また、松木氏は、「現在は相談を受け付ける業務も市町村課で行っていますが、その情報をうまくkintone上に整理し、FAQのような使い方ができてくるとより便利になるはず。そのあたりの環境整備も進めていきたい」と期待を寄せている。さらに、災害現場などから写真やテキストで状況を伝えていくような使い方も検討中。kintoneを使うことで、安否確認や応援状況の把握などクリティカルな状況下でもオートマチックに情報共有できるような環境を整備したいという。

最後に、自治体が取り組む今回のような新たな試みについては、ぜひ進めてみるべきだと榊原氏は指摘する。「Web会議も当たり前に利用するなど、自治体における仕事の仕方もこれまでとは大きく変わってきていることは多くの職員の方が実感しています。その意味でも、kintoneのようなツールを活用して、身近なところからやってみることをオススメします。確かにセンシティブな情報も扱っているため、多方面に配慮も必要ですし、時にはいろいろお叱りをいただくことも。しかし、役所であっても新しい世界を目指すことはいいことです。ぜひやってみて欲しい」と最後に語っていただいた。(2021年9月取材)