益田市 様の導入事例

益田市

【業務内容】
自治体業務、ソーシャルコミュニティ業務
【利用用途】
防災対策、野菜の出荷管理、鳥獣防除
  • “無理強いしない”ICTで住民主体の持続可能な地域づくりを推進
  • 島根県・益田市が取り組む地域運営組織によるkintone活用の今

 島根県益田市では、2013年に地域自治組織モデル地区を選定したことを皮切りに、地域づくり振興の中核を担う政策企画局 人口拡大課が中心となって、地域が一体となり課題解決に向けて取り組む地域自治組織の設立ならびに運営支援を進めている。
 その活動の一環として、ICTを活用して持続可能な地域運営のモデル構築の実証実験を2016年7月より行っており、現在でも地域が抱える課題解決に資する仕組みとして、kintoneが地域自治組織の活動を下支えしている。
 その取り組みの成果について、政策企画局人口拡大課および総務部 危機管理課、そして益田市の地域団体である「真砂の食と農を守る会 大地」と益田市の地域自治組織である「二条の里づくりの会」それぞれにお話を伺った。

市と地域運営組織が一体となって推進する取り組み

中山間地域における持続可能な地域づくりに向けた実証実験を推進

 島根県の西部に位置し、島県県内で最も広い面積を誇る益田市。総面積の大半を森林が占める中山間地域の1つで、ほかの中山間地域同様に、人口減少が大きな課題となっている。人口問題などについての政策提言を行う日本創成会議が2014年に発表した報告書のなかでは、「消滅可能性都市」の1つにとして挙げられており、農業の担い手不足による不耕作地の増加や、山林や里山の荒廃がもたらす鳥獣被害の増加といった、さまざまな課題が顕在化している状況だ。

 そこで、2013年には益田市の20地区のうち、真砂・種・二条・都茂・匹見下の5地区を地域自治組織のモデル地区として選定し、持続可能な地域づくりへの積極的な取り組みを行うことに。活動が拡大していくなかで、「地域魅力化応援隊員」と呼ぶ集落支援員をはじめとしたサポートスタッフへの負担が大きくなっていた。そこで、市の人口拡大課や、中山間地域を中心に小さな拠点の形成支援を行っている一般社団法人小さな拠点ネットワーク研究所、そして地域自治組織などが官民一体となって、ICTを活用して運営業務の効率化に向けた実証実験を行うことになったのだ。

情報活用の基盤となるクラウド上のデータベースとしてkintoneに注目

小さな拠点ネットワーク研究所 檜谷 邦茂氏

 この実証実験に参加したのが、現場の業務を支援するためのツールとしてkintoneを提供しているサイボウズだった。益田市とサイボウズとの出会いは、小さな拠点ネットワーク研究所に所属し、中山間地域のコミュニティ支援をおこなっている檜谷 邦茂氏がきっかけだという。

 kintoneを檜谷氏が知ったのは、災害時に社会福祉協議会が設置するボランティアセンターに参加したことがその契機だった。「全国から参加いただける多くのボランティアを受け入れているボランティアセンターでは、現場の状況や活動報告などあらゆる情報が電話やペーパー、ホワイトボードなどで共有されており、新たに参加するボランティアの人では地元の状況が正確に把握できず、結局指示を待つしかない。的確な指示を出すためにも、現場を統括する社協の担当者には本来余裕がないといけないはずが、日々ボランティアスタッフが増えれば増えるほど管理の負担が大きくなっていく。そんな状況を改善する必要があると痛感したのです」と檜谷氏。

 タブレットなどを使って現場の状況や進捗などの情報がセンター側でリアルタイムに把握できれば、翌日の予定が立てやすくなり、効率的になると考えた檜谷氏。そんな環境を整備するために、クラウド上で容易に情報が蓄積できる仕組みを探しており、そのソリューションの1つとしてkintoneを知り、今回の実証実験を行うための基盤としてkintoneが選ばれた。

距離の離れた地域との情報共有に紙やFAXでは限界も

人口拡大課 地域振興係 副主任主事
岩﨑 俊也氏

 今回の実証実験を契機に、さまざまな場面でICTを活用した取り組みが進められてきた。その1つが、地域振興を行っている人口拡大課と地域魅力化応援隊員との情報共有だ。

 人口拡大課では、益田市20地区それぞれに配置している地域魅力化応援隊員から月1回の業務報告を受け取っているが、紙やメールに添付されたExcelなど報告する手段やフォーマットがバラバラで、1か月のタイムラグがあるなど古くなった情報が報告されてしまうことも。「報告書の作成に時間がかかるだけでなく、単なる事後報告になってしまうなど、得られた情報が生かしきれないこともあったのです」と人口拡大課 地域振興係 副主任主事 岩﨑 俊也氏は語る。

 紙やFAXなどアナログな報告にまつわる課題は、実は総務部 危機管理課においても顕在化していた。大雨や台風など災害発生時には庁内に災害対策本部を立ち上げることになるが、設置された避難所からの情報は電話やFAXで寄せられるため、迅速な避難所の状況把握が困難な場面もあったという。「災害が少ない土地だけに慣れていない面もありますが、災害発生時に寄せられる電話やFAXからの情報だけでは、状況を整理するだけで多くの時間を費やしてしまうケースもあったようです」と語るのは危機管理課 課長補佐 篠原 利幸氏だ。

kintoneが地理的な制約に課題を持つ行政の弱みを補ってくれる

 kintoneを活用した人口拡大課と地域魅力化応援隊員との情報共有では、これまで月1回のタイミングで応援隊員が活動報告するようにしてきたが、今ではスマートフォン等を活用して文字や写真を使って随時簡易的な報告をしてもらうなど、できるだけ鮮度の高い情報を入力してもらうようにしている。

 「報告書作成の手間が軽減できるようになり、今では応援隊員同士のやり取りもkintone上で行うなど、コミュニケーションも活発になっています。地理的に距離が離れていることで情報が得られにくい状況でしたが、今では応援隊員からの報告も迅速に行われるようになるなど、kintoneが行政の弱みを補ってくれる存在となっています」と岩﨑氏は評価する。ただし、応援隊員のメンバーは20代から70代と幅広い年齢層のため、一気に環境を変えてしまうとうまく使いこなせないことが懸念された。そこで、Excelなどで作成してきた報告書の簡易版をそのままkintoneにて行ってもらうことを意識し、現場に無理なく浸透させていくことができているという。

現場や避難所の状況を登録、災害対策本部での迅速な情報把握が可能に

危機管理課 課長補佐 篠原 利幸氏

 危機管理課では、避難勧告が出た際に、災害対策本部と現場の避難所との情報共有にkintoneを活用した実績がある。「もともと災害時の情報共有基盤としてkintoneを利用していたため、29年度に発生した大雨の際に活用したのですが、避難所の状況を写真なども含めて迅速な情報共有を行いました。次年度は、事前に決められていた災害時に20地区に派遣する担当職員のメンバーを教育し、増水しやすい出水期に現場の状況把握が必要な場面で、避難者の人数や避難所の実情を画像や文字で報告してもらうことにkintoneを活用してきました」と篠原氏。

 できれば情報を共有する場として一元管理したいものの、ICTだけに頼ってしまうとインターネットが使えなくなった場合にアナログで対応できる職員がいなくなってしまう。「つながらなくなった時に備えて、従来通りホワイトボードを使ったりFAXでやり取りしたりといったフローは維持しておくべき。無理して全面的にICT化しないことは防災上重要です」と檜谷氏は語る。

避難所の状況をkintoneのスレッドで共有

地域住民を主体とした食育活動・鳥獣被害防除活動における取り組み

地域団体の活動における作業負荷増大と情報伝達の手法に課題あり

社会福祉法人 暁ほほえみ福祉会 真砂地区統括 専務理事 本田 行尚氏

 地域団体における活動についても、ICT化が求められていた。真砂の食と農を守る会 大地が行う活動の1つに、地元の生産者から野菜を仕入れて保育所の給食食材として生かす食育活動がある。同会に参加し、4つの保育所と2つの介護施設、そして放課後児童クラブなどを運営している社会福祉法人 暁ほほえみ福祉会 真砂地区統括 専務理事 本田 行尚氏が以前から課題に感じていたのは、野菜の集出荷に関連した業務の膨大な作業負担だった。

 「週に2回の出荷に合わせて、生産者との調整と保育所から公民館に寄せられる注文書の整理、そして月ごとの請求・支払い業務など、すべて手作業で行っていました。しかも、生産者は農家の方ではなく一般の方で、生産計画通りに野菜が届かないことも、計画にない食材も突発的に持ち込んでいただけることもあるなど、現場では柔軟に対応せざるを得ません。実際に集出荷を行うメンバーの負担が大きくなっていたのです」と本田氏は当時の課題を振り返る。

紙での運用を継続しながら、kintoneが請求業務などの負担軽減に貢献

 野菜の集出荷における事務作業や請求支払業務などにkintoneを活用している真砂地区では、保育所の職員が公民館に対して必要な野菜をkintoneにて発注し、地域にいる生産者から公民館に納品される野菜を週2回のペースで保育所に出荷している。毎週1回生産者との会議を通じて保育所の要望や集荷できる野菜の状況などを確認し、各生産者に野菜の種類やその量を委託。kintone上には出荷履歴が金額と共に記録されており、その情報をもとに請求書を作成、支払業務に役立てている。一方で生産者は年配の方が多く、紙媒体での運用が続けられており、ICTを無理に活用することはしていない。週1回開催する生産者とのミーティングや月1回開催される生産者と保育所職員、そして同法人との打ち合わせでも、ホワイトボードに書き出して打ち合わせするなど、アナログな方法を継続している。

 「保育所の職員はいつでもネットから発注できるようになり、公民館のスタッフはアナログな請求業務から解放されたことで業務の効率化に大きくkintoneが貢献しています。ただし、生産者は80代など年配の方が中心であり、ICTを全面的に導入するとかえって混乱する可能性も。そこで、無理せずこれまで通り紙を使って生産物のお願いなどをしています。公民館にもってきてもらった生産物の情報は我々がkintoneに打ち込めばいいわけですし、データ化しておけば、去年と比べて今年はどんな状況なのかということも分かります。地域の方にも広く参加してもらうためには、これまでのやり方を残すことも必要です」と本田氏は語る。

野菜の出荷を管理するアプリで、要望数と出荷数の状況をグラフで可視化

鳥獣発見の情報共有が遅れ、実質的な対策が進まない

二条里づくりの会 鳥獣被害防除隊捕獲班 竹田 尚則氏

 二条里づくりの会で鳥獣被害防除隊捕獲班として活動している竹田 尚則氏は、猪や猿、鹿、熊といった鳥獣から農作物や地域の人を守る活動を行っているが、なかでも注力すべきは、人身被害につながる熊への対策だと指摘する。

 「熊は保護動物のために、発見した場合は県に連絡する必要がありますが、以前は電話連絡が中心。連絡した1時間後に県職員と待ち合わせ場所で合流し、そこから出没場所まで数十分かけて移動せざるを得ず、すでにあたりは暗くなってしまい、すぐに撤収せざるを得ないことも。多くの場合が単なる事後報告となってしまい、対策も後手に回らざるを得なかったのです」と竹田氏は以前の状況を語る。電話連絡であるがゆえに目撃場所も正確に伝えることが難しく、情報をうまく活用することが困難な状況が続いていたのだ。

住民同士の協力で、獣道を可視化し対策しやすい環境へ

 二条里づくりの会で行われている鳥獣に関する情報共有では、鳥獣を住民が目撃した段階で公民館に報告をしてもらい、公民館で鳥獣の種類や位置情報をkintoneに入力することはもちろん、スマートフォンを持っていればその場で位置情報をkintoneに入力することでより正確な位置情報が記録できるようになっている。目撃情報が蓄積されたことで、鳥獣が通る獣道が見える化でき、猪などの捕獲率が格段に向上しているという。また、移動距離の長い猿などはセンサーをつけて放獣することで移動経路が特定でき、近隣の地域や自治体と情報共有しながら、電気牧柵の設置など事前に対策が打てるようになっている。

 現在は人身被害が想定される熊に絞って目撃情報を収集し、記録された位置情報がkintone上でリアルタイムに県の担当者に通知され、初動対応が迅速になっている。「年配の方が多く住んでおり、全員がスマートフォンを持っているわけではありません。そこで目撃したら公民館に電話連絡してもらえれば、二条地区に20名ほど在籍している捕獲班のメンバーの誰かが現場に急行し、目撃した現場でスマートフォンにてkintoneのアプリに記録するような形で運用しています。全員が入力できなくても、みんなで協力しながら進めることで、鳥獣被害の軽減につなげることができています」と竹田氏は語る。

鳥獣の目撃情報を記録するアプリ。位置情報を地図にプロットして表示

地方自治体におけるkintone活用のコツ

地域のニーズと属性にマッチした運用を前提にkintoneのさらなる活用を模索

 今後については、例えば人口拡大課ではそれぞれの地区の活動を住民が主体となってkintone上で共有し、地域運営の実効的な活動に役立ててもらいたいと岩﨑氏は語る。

 また、保育全般という意味では、紙媒体中心で運用しており、職員の交代も含めて情報共有が十分でないケースもある。そこで、保育所内の業務をkintoneによって効率化することで、子供たちに向きあう時間をさらに増やしていきたいと本田氏は期待を寄せている。

 二条里づくりの会では、出産の関係で偶数年に活発化する熊の動向やほかの鳥獣などの動きを把握する意味で、2020年には大きな見直しをかけていく段階にある。「鳥獣も3年ほどすると学習し、これまでとは違う獣道を通るようになります。今年は熊が出やすい偶数年でもあるため、注意が必要です。親御さんであればスマートフォンを持っていることが多いため、なるべく目撃情報を迅速に通知できるよう、勉強会を開催してkintoneの使い方を広めていきたい」と竹田氏は意気込みを語る。

現状を生かした“無理強いしない”ICT活用が現実的な運用に欠かせない

 ICTを活用して持続可能な地域運営のモデル構築を目指した今回の取り組みでは、kintoneを活用することで、住民が抱えるそれぞれの課題に対する1つの解決策を示すことに成功している。ただし重要なのは、これまでの取り組みをすべてICTに置き換えるのではなく、あくまで現場ごとの状況に応じて住民のニーズに合った“無理強いしない”形で仕組みに落とし込んでいくことだ。そして、ICTを導入することが目的ではなく、あくまで手段として活用することが重要であり、なんとなくICTを導入したいというぼやっとした目的では長続きしないと檜谷氏は指摘する。

 「明確に問題意識があって、そのアプローチの1つとしてICTを考えることができるかどうか。益田市ではいろいろな取り組みにkintoneを活用してきましたが、すでに使われていない現場も正直あります。問題意識が薄いところに無理やりICTを導入しても、あまりうまくいかないというのが経験則から得た知見です」。

 住民が自律して活動する持続可能な地域づくりへの積極的な取り組みを進めている益田市。今後も地域における課題解決の手段の1つとして、地域の人が無理なく参加できるような環境を残しながら、情報共有や業務効率化のツールとしてkintoneを上手に使っていくことだろう。