
丸勢運輸
- 【業務内容】
- 運送業(幹線輸送・地場輸送)
- 【利用用途】
- 給与計算・歩合給計算の自動化、紙とExcelからの脱却による属人化の解消



福岡県北九州市を拠点に、チャーター便による幹線輸送・地場輸送を手がける株式会社丸勢運輸。紙とExcelに依存していた給与計算や歩合算出などのバックオフィス業務をkintoneで仕組み化した。その結果、給与計算関連で月140時間の削減、歩合計算では丸2日かかっていた集計作業を10分に短縮するなど、大きな成果を挙げている。導入の経緯と運用の実態について、システム担当の逸見氏に話を伺った。
◼️お話を伺った方
・システム担当 逸見 耀一氏
1969年創業の株式会社丸勢運輸は、倉庫を持たず1台のトラックを丸ごと1荷主に貸し出す「チャーター便」に特化した運送会社だ。合計80台前後の自社車両で幹線輸送(長距離輸送)と地場輸送を手がけている。同社が長らく抱えていたのは、バックオフィス業務にまつわる2つの課題だった。
まず、紙とExcelに依存した給与・歩合まわりの業務の重さだ。事務職員の勤怠管理では、本人が記入する紙のタイムシートを総務部の3名が毎日打ち込み、ダブルチェックしていた。1人あたり1日1.5〜2時間を要する作業が、月単位では大きな負荷となっていた。また、ドライバーの歩合給の計算は、長距離ドライバーだけでも70名超を対象に、複雑な計算ロジックをExcelで処理する必要があった。その算出に、毎月丸2日を費やしていた。
もうひとつが、業務の属人化だ。同社には給与計算のマニュアルが存在せず、体系的な引き継ぎが行われていなかった。「どういう計算をしているかが、担当者の頭の中にしか入っていない状態でした。運送業は人の入れ替わりもあるため、複雑な業務は長く勤めているスタッフにだけノウハウが蓄積されてしまっていたのです」と語るのは、同社のシステム担当である逸見氏だ。Excel運用にも危うさがあった。数式を修正できるのは実質的に作成者だけで、誰かが誤って書き換えて業務が止まっても、直せる人は限られていた。給与計算という間違いの許されない業務が、ガバナンスの効かない状態に置かれていたのだ。

こうした状況に、決定的な転機が訪れる。総務部の中核を担っていた担当者の休職が決まったのだ。「お金のことですし、給料のことなので少しでも数字がずれると社員からの信用がなくなる。休職予定の担当者自身も『下の人に任せるのは不安だ』と話していました」(逸見氏)。総務担当者が抜けても業務が止まらない、引き継ぎ不要な仕組みを、限られた期間で構築する。これが最優先のミッションとなった。
こうした課題の解決に向けて、逸見氏は当初、別の開発ツールでシステムの内製化を試みた。だが、細かな処理を実装するにはコーディングが必要で、運用や改修を担える人が限られていた。「本当に管理できるのは自分しかいないという状態でした。これでは引き継ぎが難しくなってしまうんです」(逸見氏)。自分が抜けたら誰もさわれない――それでは「属人化の解消」という当初の目的に反する。より柔軟で、かつ自社で運用し続けられるツールはないか。逸見氏の探索が始まった。
逸見氏は複数のサービスを比較検討した末に、kintoneを選んだ。決め手は大きく3つある。
1つ目は、ノーコードとコーディングのバランスだ。完全ノーコードのツールはつくれるものの幅が狭く、逆にコーディング主体のツールは開発に時間がかかる。その中間で、自社に合ったバランスでつくり込めると感じたのがノーコード・ローコードツールのkintoneだった。
2つ目は、カスタマイズに使う言語がJavaScriptである点。独自言語のツールは習得や後任育成に時間がかかるが、JavaScriptは教材も多く、人を育てやすい。将来の引き継ぎを見据えた選択だった。
3つ目は、商談の段階から自社業務での使い方が具体的にイメージできた点だ。「他社は『内部的にはこうなっています』という技術寄りの説明が中心でしたが、サイボウズさんは業務への適用の仕方をピンポイントで示してくれました」と逸見氏は振り返る。技術は自分で学べる。自社の業務にどう落とし込むかこそ、外部の知見が必要な部分だった。
ツールの選定と同時に、導入範囲も決めた。100名を超えるドライバー全員にkintoneを使ってもらうのではなく、まずは事務所の業務に絞る。ドライバーに関する情報は、事務方が取り込んで整理する方針だ。
運行記録にはデジタルタコグラフ(デジタコ)、運行前後の点呼にはAI点呼システムをすでに活用していた。「運行管理や点呼は専用の機器が得意とする領域です。それぞれの強みを活かして役割分担した方が、結果として全体の効率も上がります」と逸見氏は語る。運行・点呼は既存の専用機器に任せ、kintoneは給与計算などの事務所の業務に集中させる。この住み分けが、80台規模の運送会社にとっての現実解だった。
現在、同社ではマスター系のアプリも含めて108アプリ、20ユーザーでkintoneを運用している。標準機能を軸に、デジタコCSVの取り込みなど必要な部分だけJavaScriptによるカスタマイズで補う。この組み合わせで、運送業ならではの複雑な業務ロジックを自社仕様につくり込んでいるのが同社の特徴だ。
大きな効果としてまず挙げられるのが、給与計算まわりの時間削減だ。
事務職員については、紙のタイムシートを廃止した。総務のメンバー3名がパソコンに打ち込み、ダブルチェックしていた作業がまるごとなくなり、現在は本人がkintone上で直接打刻する運用になった。

事務所スタッフが日々打刻するタイムシートの画面。本人がこの画面に直接入力することで、総務による転記・ダブルチェックが不要になった
ドライバーについては、従来デジタコの情報をExcelに転記していたが、デジタコから出力されるCSVをkintoneに直接取り込む仕組みに切り替えた。有給取得や連勤管理などデジタコでは判別できない情報を補う「出勤簿」アプリと組み合わせ、給与集計アプリに自動反映させている。

給与計算まわりのシステム構成図。ドライバーの勤怠や手当は、デジタコや運行管理システムのデータを取り込んで自動算出。事務所スタッフの分と合わせ、給与計算をkintone上で完結させている
加えて、雇用形態によって異なる計算式が複数のExcelシートに分かれていた点も、kintoneに集約した。こうした一連の取り組みを合わせて、給与計算まわりの作業で月140時間以上を削減できた。
属人化の解消も大きな成果だ。給与計算のロジックそのものは、kintoneの標準機能である計算フィールドで組み込んでいる。Excelのように誰かが誤って数式を書き換えてしまうリスクがなくなり、「数値がずれる」心配からも解放された。担当者の頭の中にしかなかった計算ロジックが、誰でも参照できる仕組みになった意義は大きい。
もうひとつ、劇的な効果が出たのが、ドライバーの歩合給計算だ。長距離ドライバー70名超を対象に、運行ごとに異なる手当を計算する複雑な処理が、従来Excelで丸2日かかっていた。それが、運行管理システムからデータを取り込んでボタン1つで自動計算する仕組みに切り替わったことで、確認を含めて10分程度で完了するようになった。
また、ドライバーから「自分の手当の内訳を見たい」という要望が以前から出ていたことを受け、PDFを一括生成して各従業員のメールアドレスへ自動送付する機能まで実装している。「以前はExcelの画面をスクリーンショットで撮ってチャットツールで送っていたので、その手間も大幅に削減されました」(逸見氏)。
ここで注目すべきは、同社ならではの歩合ロジックをkintoneで仕組み化できている点だ。「歩合給は会社によって決め方が違うので、既製のパッケージソフトでは対応しきれない。kintoneだと独自の計算方式を組み込めるのが良いんです」と逸見氏は語る。「うちは特殊だから」と諦めがちな給与・歩合まわりの計算にも、対応できるということだ。

ドライバー別に手当を算出する画面。運行ごとに、荷主や区間、品目に応じて異なる手当が自動で計算される(画面はデモデータ)
燃料費集計も大きく効率化された領域だ。集計には、各石油会社の請求書から燃料代だけを抜き出す必要がある。だが請求書のCSVデータには、排気ガス浄化剤のアドブルー費や洗車料金などが混在しているうえ、商品名の表記も石油会社ごとに異なる。従来はこれらを手作業で1件ずつ仕分けたうえ、燃料費をグループ会社と按分する処理も人手で行っていた。同社はこの一連の処理をkintone上で自動化。「毎月『これをやらなきゃ』と頭の片隅で抱えていた、複雑な按分作業の負担がまるごとなくなりました」と逸見氏は語る。
効果を支えた背景には、移行の進め方がある。たとえば朝夕のドライバーへの定時連絡記録や夜勤の動態管理など、事務所側で電話対応しながら記録する業務は、今もあえて紙で運用している。「電話で会話しながらkintoneに入力するのは厳しいので、手書きの方がやりやすい。事務方の年配メンバーに慣れてもらうまでのつなぎとして、紙を残しています」(逸見氏)。
また、既存の業務フローを活かしながらkintoneへつなぐ工夫もある。運送業の要である配車表は、Excelでの運用を続けながら、そのデータをkintoneに取り込んで他のアプリのマスターデータとして活用している。「一気にデジタル化すると現場の負担も大きくなる。だから移行段階を置くようにしています」と逸見氏は語る。
定着促進のため、人事評価の目標に「なるべくkintoneの活用を推奨する」という項目を組み込むなど、組織的な工夫も取り入れている。社内からの評価も良好で、「最初は抵抗もありましたが、使ってもらううちに使いづらいという声はほぼ聞かれなくなりました」と逸見氏は話す。
すでに事務業務の中核をkintoneに集約した同社だが、構築中の業務アプリがまだ複数控えている。
ひとつは事故報告アプリだ。事故発生時には運輸支局への報告義務が生じるほか、賠償金の進捗管理や再発防止のための傾向分析など、対応すべき業務は多い。同社では現在、これらを一元管理するアプリを準備中だ。「総務系の対応を優先してきたので、これから本格的に運用していく予定です」と逸見氏は語る。もうひとつは燃費管理アプリ。現在は運行履歴と燃料代をExcelで紐づけて燃費を算出しているが、いずれはkintoneに統合し、個人別の燃費分析まで踏み込みたい考えだ。
ここまで見てきたように、同社は紙やExcel、デジタコなどに散らばっていた情報をkintoneに集め、給与や歩合の計算までを自動化してきた。属人化していたバックオフィス業務は、誰もが扱えるものへと変わった。まずは事務まわりから手をつけ、限られた人手でも経営に必要な数字を整えていく。属人化に悩む運送会社にとって、ひとつの実践的なモデルケースとなりそうだ。
(2026年5月取材)
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