京セラ 様の導入事例

京セラ

【業務内容】
産業・車載用部品、電子デバイス、情報通信事業など
【利用用途】
ワークフロー、生産管理、在庫管理、帳票作成
  • 出戻り可能な社内公募で多くのDX人材創出に成功
  • 多くのメンバーで使うことで青天井の効果が得られるkintone

情報通信や自動車関連、環境・エネルギー、医療・ヘルスケア分野など多岐にわたって事業を展開している京セラ株式会社。経営基盤の強化に向けてDX推進プロジェクトを進めており、さまざまな工具を扱う機械工具事業本部でも現場主導でのDX施策を進めている。そのDX施策における業務基盤の1つにkintoneが採用され、帳票など紙で管理していた業務やメールやエクセルを使ったアナログなワークフローからの脱却を推進している。その経緯について、機械工具事業本部 事業本部室 DX推進部 DX推進課責任者 木下 順氏にお話を伺った。

【課題】売上拡大を目指すために必要だったDX推進

 京セラ株式会社はグループ従業員数8万3,000名を超え、アジアや米国、欧州をはじめグローバルに事業を展開している。現在は、2029年度3月期にグループ売上高3兆円の達成を目指し、売上拡大や収益性向上に資するさまざまな取り組みを進めている。

 社内においてDXを推進する活動としてデジタルビジネス推進本部内にDX推進センターを2019年に設置し、全社横断的に活用できる汎用性の高い分野におけるDX推進を進めると同時に、事業に直結した形で現場主導でのDXも事業本部ごとに推進している。そんな同社では、現場が必要なものを必要な分だけ購入する『当座買いの原則』という考え方が根付いており、その考え方はシステムにおいても尊重され「トップダウンでシステムを導入するのでなく、現場主導で仕組みを導入しています。DXに関しても、事業に最適な仕組みを現場主導で導入しながら、全社展開に向けてIT部門と連携して進めています」と木下氏は説明する。

 現在木下氏が所属する機械工具事業本部では、5ヵ年計画でDX戦略を策定し、営業・製造・開発の3つの部門を軸にDXを推進しており、この戦略の1つの機能が、 “工場電子化”と呼ばれるものだ。「工場電子化におけるDX推進のコンセプトは、脱紙での業務推進と脱メールによる承認プロセスの確立です。工場では、製品に紐づけられた管理票や作業日報など多くの帳票が手書きの紙やエクセルで運用されており、システムに転記するなど二重入力が至る所で発生している。さらに情報交換のやり取りもメールが使われてきました。確かに紙やメールは即効性があって便利なのですが、後からトレースすることが難しい。いつ誰に承認されたのかを確認する時間なども無駄が多い。それらを解消するための仕組みづくりを目指したのが“工場電子化”です

機械工具事業本部 DX推進部 木下 順氏

【選定】豊富なプラグインと周辺システムとの連携が柔軟な点を評価

 新たな仕組みづくりでは、自社工場だけでなく、協力会社もあわせて活用できる仕組みを目指した。また熟練のメンバーが多い工場だけに、シンプルな操作が可能なシステム選定が求められた。そのためには、クラウドサービスでオペレーションがシンプルに実現できるUIを備えているものを軸に検討。「紙の種類が膨大にあるため、私一人では作り込むことは到底難しい。現場でも開発できるツールであることも重視したポイントの1つ。また、製造現場として大きな拠点が中国にあることから、中国でも活用できることも条件でした。」と木下氏は説明する。

 そこで注目したのが、kintoneだった。元々別のプロジェクトでkintoneの存在を知っていたことから、今回の工場電子化においても必要な要件を満たしていたことで候補の1つに挙げたという。「当時のプロジェクトでは導入には至りませんでしたが、調べてみると柔軟性があって色々なことができるおもしろいツールであることを知ったのです」

 kintone以外にも、自前での開発はもちろん、他のノーコードツールや生産管理システムなど複数のソリューションを候補に挙げたという。「現場主導のボトムアップで部分最適を求める企業文化のため、現場に適したシステムもたくさん選択肢に加えましたが、どうしても外注部分と社内を分ける必要があり、汎用性に乏しいことがネックでした。開発から製造、営業、そして取引先も含めてフレキシブルに使えるものが欲しかったのです。その点、kintoneであればプラグインが豊富に用意されているだけでなく、実績豊富なETLツールを含めた他システムとの連携も柔軟です。情報そのものは別の基幹システムに集約する構成を検討していたため、それらとうまく連携できるkintoneが最良だと判断しました」と木下氏。

 機械工具事業本部 DX推進部は、事業本部内から公募した現場業務に精通したメンバーが中心で、ITのスキルはさほど高くない。だからこそ、ノーコードで業務アプリを簡単で直感的に作れ、高度なシステム開発スキルの有無を問わず、管理コストをおさえながら、すべてプラグインで対応できる環境が理想的だと判断。結果として、工場電子化に貢献するための業務基盤の1つとして、kintoneが選択されることになったのだ。

【効果】現場への展開に一工夫、kintoneをサブ基幹システムへ

あえて野良アプリ化させることで現場への浸透を優先

 現在、機械工具事業本部にて800ほどのアカウントで、600を超えるkintoneアプリが運用され、現場ごとで自由にアプリ作成が可能になっている。「独自で実施しているkintoneの勉強会に参加してノウハウを吸収したメンバーには、自由にアプリ作成できる権限を渡しています。個人情報など触れてはいけないデータはきちんと権限やアクセス制限を設定しており、規定の範囲で自由に触れてもらっています。電子化の文化をどんどん現場に根付かせていくためにも、現場主導で野良アプリはあえて作っていいという運用です」と木下氏。

 なお、Excelライクなインターフェースを提供するkrewSheetやアプリ間連携を支援するkrewData、kintoneとExcelの連携を可能にする楽々Excel連携ツール、帳票出力プラグインのRepotoneU、様々なシステムやサービスとノーコードで連携できるASTERIA Warpなど、利用しているプラグインや連携サービスも多岐にわたっている。

 アプリを大きく分けると、各種マスター系アプリとともに、承認作業を含めたワークフロー系アプリ、そして紙でエントリーしていたものをシンプルにkintone化する入力デバイス系アプリ、そして検査情報など品質改善に繋げるための検査系アプリの4つに大別できる。

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 ワークフロー系アプリの一例となるのが在庫移動アプリだ。同じ商品であっても国内向けと海外向けの在庫を別倉庫で管理しており、たとえば国内向けの商品在庫が足りない場合は、海外向け倉庫から商品を移動させて出荷引き当て処理を行う必要がある。以前は商品移動に関する承認をメールや電話で実施したうえで、紙の伝票を作成して物流担当者に依頼。全国にいる40名ほどのアシスタントが毎日電話し、在庫マスターを参照し、出荷作業を実施していた。

「今は基幹システム側の在庫情報をkintone内の在庫マスターに反映し、在庫移動の申請をkintoneにて実施しています。kintoneだけで、在庫の参照、申請、承認が自動的に完結できるようになり電子化に成功しました。このアプリ1つで、年間780時間程度の工数削減につながっています」と木下氏は評価する。なお、ワークフロー内には自動承認機能が組み込まれており、しきい値を越えない小ロットの在庫移動などは上長の承認なく移動が可能で、承認履歴だけを後から上長が確認するなど、効率的に運用できる機能も実装している。

 他にも、部門間の電話やメール、紙によるワークフローで運用されていたものを次々とkintoneで電子化することに成功しており、今では100以上のワークフローがkintoneの業務アプリによって運用されている。

 たとえば、入力デバイス系アプリの一例として紹介する原料ロットカードアプリでは、従来紙で工程ごとに必要な情報を手書きしたうえで、システム登録していた環境から脱却し、工程ごとでkintoneに直接入力するアプリを用意。検査実績のデータ化を実現することで、検査実績の情報が手軽に共有でき、かつ品質保証のレポートに添付する資料としても役立っているという。さらに、検査系アプリについては、位置ごとの収縮率などがマトリクスで表現されていたExcelでの検査データを、kintoneのプラグインである「楽々Excel連携ツール」を活用してアプリ化。Excelで表現していた見た目そのままで、kintoneにて管理できるようになっている。金型設計の変更など、材料品質保証業務の電子化にも大きく貢献している状況だ。

紙でないといけないという先入観を払拭、定量効果は青天井

 kintoneによるDX化を推進している同社だが、アプリごとに工数削減の効果が得られているだけでなく、紙で残さないといけないという考えが払拭できたことが大きな効果の1つだという。「『紙なら消えないので確実だ』という強い先入観から、『紙でなくても良い』という発想に変えられたのはとても大きい。定量的な効果も、1つのアプリで数百時間の工数削減はよくあることで、効果は計り知れません。kintoneは使いこなしてなんぼで、アイデア次第でその効果は青天井です。しかも、私だけが作っているのではなく、DX推進部のチーム全員で作っていることで、とんでもない効果が得られています」と木下氏は高く評価する。

Uターンを認める組織で現場主導のDX人材を多く創出

 事業本部内でのDX人材育成にも大きな役割を果たしているという。「DXのITシステムの研修では、kintoneに対して多くのメンバーが参加してくれており、とても反応がいい。工場では、多くのPC画面でkintoneが表示されていますし、単に入力する画面ではなくアプリ作成画面を多くのメンバーが開いています。日常的に使っている製造システムかkintoneかというぐらいで、意欲的に新たなアプリ作成を行っているのが実態です」と木下氏。

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 事業本部内でDXを推進するべく、その組織づくりについて工夫を凝らしている。DX推進部は、機械工具の開発や製造現場、営業アシスタントなど各現場を経験してきたスペシャリストが集まっているが、将来的にはDX人材として現場にUターンすることを前提に社内公募にて自ら手を挙げたメンバーばかりだ。

 「DXを推進するにも、現場との乖離はどうしても発生します。そこで、技術的な部分は私が支援していく前提で、OJTのイメージで参加してもらうよう社内公募を行いました。ボトムアップが企業文化にある我々だけに、現場みずからDX推進できる環境づくりが必要だと考えたためです。私が作成したアプリを現場に展開してしまうと小さなトップダウンになってしまうため、あえて1年ほどの期間限定でメンバーに学んでもらい、現場に戻ってもらう人事異動を保証したことで、多くのメンバーがDX推進チームへの参加の手を挙げてくれています」と木下氏。テクノロジーを学んで現場に還元する人材循環を繰り返すことで、DX人材を多く育てることに成功しているわけだ。その結果、現場からさまざまなアイデアが生まれ、新たなツール導入に対する要望も次々と寄せられているという。

 同時に、OJTでDX推進部に来るメンバーだけでなく、kintoneを扱えるメンバーを育成するべく、事業本部のHPにてkintoneの説明会を告知し、自由に参加できる環境整備を進めている。その結果、積極的にメンバーが勉強会に参加しており、業務改善のツールとしてkintoneの認知度も高まってきている。「事業本部のメンバー約200名がkintoneアプリを作成できる計算で、DX人材としてのメンバーがどんどん増えている状況です

現場に展開しやすい画面パターンを用意、継続には大義が必要

 現場にkintoneを展開する際には、UIに関して2つのパターンでモックアップを作成するなど、スムーズに展開できるよう工夫している。「kintoneの画面をそのまま見せてしまうと、現場には受け入れてもらいづらい。そこで、最初から複数のパターンのモックアップを作り、現場ごとに最適なものを選択してもらうことで展開しやすくしています」と木下氏。

 また、kintone活用も含めたDX推進には、大義が何よりも欠かせないと木下氏は力説する。「効率性だけを考えると、紙が一番だという人は実は多いものです。仕組みを変えることで不具合のリスクが高まると考える方もいるため、それらを払拭するためには大義の存在が欠かせません。私たちは『売上高倍増』を大義に、10年後も紙での作業を続け、将来入社してくる若手に同じことをさせ続けることが果たして良いことなのかと問いかけながら、将来を見据えたときに今こそやるべきだと投げかけを行っています」

kintoneをサブ基幹システムとして次元の高い基盤へと昇華させていく

 現在は現場にkintoneを普及させていくために、木下氏がお墨付きを与えた多くのメンバーに対してアプリ作成の権限を付与している。ある意味で野良アプリ化することを是としているが、今後は業務の整理を行っていきながら、アプリの数をきちんと絞っていくという。

 「費用対効果を気にせず、まずは現場ごとのローカルルールでkintoneによる業務の見える化を進めてきました。今度はそれらの業務を仕分けていくことで、同じ業務フローがあれば統合させるだけでなく、そもそも必要な業務かどうかの議論も進めていき、業務の標準化を進めていくつもりです。アプリ作成権限を持つメンバーを絞りながら、部署ごとに管理権限を委譲していくなど運用体制やルールブックの整備なども含め、準基幹システム的な業務を動かす一段高い次元のシステムにkintoneを高めていきたいと考えています。」と木下氏は意欲的だ。「標準化が進むことで、機械工具事業本部以外への展開も十分可能な仕組みに昇華できるはずです」と最後に語っていただいた。(2023年3月取材)