北九州総合病院 様の導入事例

北九州総合病院

【業務内容】
急性期医療から慢性期医療・介護までを一貫して提供する医療機関
【利用用途】
電子カルテから患者データ取得とレジストリ入力
  • 分断されていた電子カルテ情報をスムーズに共有 
  • kintone×AI-OCRによる医療情報プラットフォーム構築

健全な地域社会の実現に貢献する北九州総合病院。同院では、骨折患者のレジストリ登録業務における深刻な負担軽減を目指し、サイボウズのkintoneを基盤とした医療データ登録ソリューション「MEDITAL」を、日本メディカル情報サポートとの連携のもと開発した。AI-OCR技術を組み合わせることで、1症例あたり30分かかっていた入力作業を5~6分に短縮。今後は整形外科を突破口に全国の医療機関への展開を見据えており、日本の医療DXを牽引する取り組みとして期待が高まっている。この取り組みについて、同院副院長の福田文雄氏と医師クラークの川井美咲氏に話を伺った。

深刻化する高齢者骨折問題とレジストリ登録の課題

福岡県北九州市小倉北区に位置する北九州総合病院。西日本有数の規模を誇る病院グループ、社会医療法人北九州病院が運営する同院は、「信頼・協調・貢献」というグループ理念のもと、「安全かつ適切な医療」「患者本位の医療」を実践し、健全なる地域社会の実現に貢献している。24時間体制の救命救急医療、質の高い根拠に基づく医療、地域社会に開かれた医療とともに、次代の医療を担う人材育成にも力を注いでいる。 

同院副院長として整形外科を統括し、特に大腿骨近位部骨折をはじめとする骨粗鬆症関連の骨折治療を専門とする福田氏は「大腿骨近位部骨折は『骨卒中』とも呼ばれ、患者さんの人生を大きく変えてしまう重度の疾患です」と語る。この骨折により肺炎、心不全、認知症、廃用症候群などを引き起こし、寝たきりになるケースも少なくない。統計では、骨折から1年後に10人に1人が亡くなり、3人に1人は歩けなくなるという。 

高齢化の進展に伴い、この問題は今後さらに深刻化する。大腿骨近位部骨折に関連する医療費は年間約3,293億円、介護費用を含めると約1兆円規模に達すると推定され、2040年頃にピークを迎える見込みだ。こうした状況を受け、国は20224月から緊急手術加算を導入し、海外並みに2日以内の手術実施を推進している。 

同時に2022年、診療報酬制度の変更により緊急整復固定加算・緊急挿入加算に関して診療報酬が付き、FFN-J(日本脆弱性骨折ネットワーク)のレジストリ登録が要件に入った。患者データをレジストリに登録する本取り組みは、術後30日、120日、365日時点での日常生活動作(ADL)など、診療の質を多角的に評価するデータを収集。現在では年間4.5万件以上の症例が登録されており、日本における脆弱性骨折診療の実態を可視化する基盤として大きな役割を果たしている。 

北九州総合病院 副院長 福田 文雄氏

一方、この意欲的な取り組みをさらに発展させるには、運用面やデータ活用の在り方を改善する必要があった。

医師クラークとして実務を担当する川井美咲氏は「データ収集のためには必須な作業とはいえ、電子カルテを見ながら、医師や看護師、薬剤師などが記載したカルテ、リハビリの経過など、さまざまな場所に散在する情報を拾い集めて入力するのは非常に大変でした」と振り返る。慣れない医師クラークの場合、入力時間は1症例あたり最大30分かかることもあり、年間250症例を処理する負担は相当なものだった。また、データの欠損が生じることもあり、特に大腿骨近位部骨折において重要な指標とされる「術後365日後のフォローアップ」が困難という課題も抱えていた。

北九州総合病院 医師クラーク 川井美咲氏

kintoneを基盤に、現場の声から生まれた「MEDITAL」

このような課題を解決するため、北九州総合病院は2024年後半から日本メディカル情報サポート(NMIS)とともに新たなソリューション開発に着手した。

福田氏は「現場では『こういうものがあったら』という思いを持つ人は多いのですが、誰と組んでどう実現すればよいかわからない。だからこそNMISが手を差し伸べてくれたことは大きかったですね」と語る。 

プロジェクトは北九州総合病院が医療現場の課題を提示して実装を検証し、NMISが課題解決と実装技術を開発するという体制で進められた。

「データ入力の負担を減らし、データの質を高めること」を目標にして開発されたソリューション「MEDITAL」は、kintoneをプラットフォームとして活用している。実は、FFN-Jのレジストリそのものがすでにkintoneで構築されており、病院施設ごとのデータを集約・管理できるだけでなく、他院のデータと比較できる機能を持っていた。これは、単なるデータ保管ではなく、現場の医療データを“活きた情報”として活用するための基盤が、すでに整っていたことを意味する。 

「それなら、最終的な集計や分析だけでなく、日々の入力段階からkintoneを使えるのではないかと考えました」と、福田氏は語る。入力画面を現場の業務フローに合わせて最適化でき、入力チェックや選択式項目によって記載漏れや表記揺れを防げるkintoneを使えば、医療従事者の入力負担を軽減しながら、データの正確性と標準化を同時に実現できる。さらに、入力されたデータはそのままレジストリに連携され、他院との比較や経年変化の把握にも即座に活用可能だ。 

こうしてMEDITALは、「入力しやすい」「間違いにくい」「すぐに活用できる」というkintoneの特性を最大限に活かし、現場の負担を減らしながらデータの価値を高める仕組みとして形になっていった。 

MEDITALでは5つの技術を組み合わせて入力負担を削減している。(1)生成AIによるベース機能、(2)既存データを活用するファイルインポート機能、(3)他施設とのデータ連携を可能にするスマートフォローアップ機能、(4)ユーザー操作を簡素化する電子フォーム(e-Form)、(5)学会レジストリとの半自動連携機能だ。特に重要なのがAI-OCR技術の活用である。

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従来は、電子カルテの各所に散在する情報を手作業で転記する必要があった。しかしAI-OCRを使えば、電子カルテの画像から必要なデータを自動で読み取り、kintoneのデータベースに入力できる。川井氏は「紙のデータもスキャナーで画像として保存されているだけだったのが、AI-OCRでデジタル化してデータを整理しつつ読み込めるようになりました」と語る。 

実証実験は2025年初頭にスタートし、その後は週1回という頻繁なペースで改善を重ねてきた。現在は北九州総合病院での検証を進めながら、他施設での実証実験も計画している。「日本中で様々な電子カルテが使われているので、それぞれに対応できるよう、汎用性を高めていく必要があります」(福田氏)

作業時間6分の1、心理的負担も大幅に軽減

MEDITALの導入による、実務面での効果は劇的だった。川井氏は「慣れない医師クラークの場合1症例あたり30分かかっていた入力作業が、MEDITALでは誰でも56分で完了するようになりました」と説明する。作業時間が80%短縮になったことで、年間250症例の処理に要する時間は大幅に削減された。 

効果は時間短縮だけではない。データ登録以外の業務も抱えているため、1件あたりの時間短縮はすべての業務の効率化につながる。「AI-OCRで画像を読み込んでその場で比較できるため、ミスへの不安という心理的負担も軽減されました。CSVから直接アップデートできたり、データとして院内に残せたりする点が特に効果的だと思います。また、グラフ化機能もあるので、全国のデータを見て当院のデータと比較して状況を把握できるのも役立っています」と川井氏は評価する。 

福田氏は医療現場全体の課題も指摘する。「自治体病院の9割、公的病院の7割が赤字経営にあるのが実情です。一般の企業の「売り値」である診療報酬(病院の収入)は国が定めていますが、人件費や薬品費は上昇しているのが要因としてあります。このため業務効率化なしでは、質の高い医療を提供し続けることはもはや困難です」 

特に看護師不足は深刻で、看護学校の廃校も相次いでいる。「そうした状況で、本来は患者さんのケアに専念すべき看護師の方々に、事務作業まで担わせるわけにはいきません。つまり、もはやDXを推進しなければ医療の効率化は実現できないのです」と福田氏は力説する。 

多くの病院では、看護師や薬剤師など複数の職種がすべてのデータをそろえなければレジストリに登録できない決まりとなっている。しかしMEDITALAI-OCR機能を用いれば、そうした病院でも必要な数値を効率的に拾い上げることができる。「多職種にデータ入力をお願いできず、医師自らがデータを入力することが起きています。治療に専念するのが我々医師の本来の仕事であり、データ入力は別の専門職が担うべきですが、一般的にはそうした人材が存在しない病院が多いのが現実です。そうした中、MEDITALは医療DXとして多くの病院を支える、意義ある取り組みだと考えています」(福田氏)

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整形外科から全国へ、医療DXの新たな地平

 

MEDITALの展開計画は明確だ。第一段階として、緊急整復固定加算・緊急挿入加算申請済みの700施設強の施設への導入を目指している。さらに福田氏は「JOANRJapanese Orthopaedic Association National Registry:日本整形外科学会症例レジストリー)という整形外科の全国2,000施設が登録するレジストリにもMEDITALを展開できればと考えています」と語る。 

将来的には整形外科を突破口に、他の診療科へも拡大していく計画だ。「がん登録も含めて、さまざまな診療科に広がれば、全国の施設で質の高いデータと人的負担の軽減、そして医療の質向上が実現できるはずです。医療は根本的に科学であり、データの解析や分析、学会発表などデータが重要です。しかし従来は、医師が仕事外の時間にコツコツとデータを集めて発表していました。ワークライフバランスの観点からも、医師以外でもできることは他の専門家に任せて、医師は医療の質を高めることに注力すべきです」(福田氏) 

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現在、国は疾患の80%以上の精度を持つデータをナショナルデータベースとして登録する方針を進めている。「データベース自体が増えることは良いことですが、現場に入力負荷がかかるのが問題です。MEDITALはその解決策になるでしょう」と福田氏は強調する。 

また、福田氏は医療DX推進における構造的課題にも言及する。「医療は他の業界と比べて大幅にDXが遅れています。なぜなら、DX化しても診療報酬(病院の収入)に結びつかず、出費だけが増えるからです。今回補正予算が組まれていますが、国がDX化した施設に診療報酬で加算しなければ、DXはなかなか進まないでしょう」 

その上で福田氏は、「医療分野では、患者情報を扱うシステムに対して、セキュリティや個人情報保護の観点から非常に厳しい安全基準が求められており、これらは国や厚生労働省が定めるガイドラインによって細かく規定されています。サイボウズが、このガイドラインを満たしつつ安全性が高いプラットフォームを提供していることは、『安全に運用できる実例』として、今後のガイドライン変更にも影響を与える可能性が高いと考えています。信頼性の高いプラットフォーマーから国や厚労省に働きかけていただければ、医療DXの新しい世界が開けるでしょう」と期待を寄せる。 

MEDITALは、kintoneというクラウドプラットフォームとAI-OCR技術などを組み合わせることで、医療現場の切実な課題に応えるソリューションとなった。北九州総合病院での実証実験の成果を踏まえ、今後は全国の医療機関へと展開していくだろう。 

福田氏は最後にこう語った。「多くの現場は、課題感こそ抱きつつも、なかなか解決策へと結びつけにくい状況にあります。アイデアはあるが、どうすればよいかわからない。そこに、今回のNMISのような仲介役が手を差し伸べることで、DXによる新しい医療の世界が実現できると信じています

20261月取材)

【この事例の開発パートナー】
株式会社日本メディカル情報サポート(NMIS)

E-mail:info@nmis.jp

日本メディカル情報サポート(NMIS)は、医療データの標準化と活用を推進し、現場の負荷を軽減。kintoneベースのデータ入力・集約プラットフォーム「MEDITAL(メディタル)」で医療機関のDXを加速します。