年間約4万件にのぼる遺失物を手書きの台帳からkintoneでシステム化
路線バスから高速バス、バスツアーなどバス事業を中心とした交通事業を展開している京王電鉄バス株式会社様。京王電鉄バスグループ(以下、京王バス)ではグループ5社合計で10を超える事業所を抱えており、日々多くの利用客を目的地まで送り届けている。
京王バスでは、「常にお客様が主役です」「人にやさしい京王バス」をキャッチコピーに、心温まる接遇サービス、お客様にわかりやすいダイヤの提供など、サービスの向上に全社をあげて取り組んでいる。システム部門でも2012年の春にはすでに路線バス全車両にWiFi設備の導入を完了する等、より快適にお客様にバスをご利用いただくための施策を打ち出してきた。
そんな京王バスでは、車内で発見された遺失物や乗務員台帳をkintoneで管理しているという。今回はkintoneの具体的な活用方法や導入後の効果についてお話を伺った。
手書きの遺失物管理台帳を人力でExcelに転記。毎週、記入ミスチェックなど突合せ作業が発生しており、非効率な作業が重なっていた。
kintone試用開始から2週間程度でアプリの大枠が完成。営業所情報や警察用の遺失物コードなどは、kintone内で作成した別のデータベースから情報をルックアップする設定を組み、入力時のミスや手間を最小限に抑える工夫も加えた。
年間約4万件以上にのぼる遺失物の転記・確認作業が無くなり、営業所スタッフの負担が大幅に減った。またスタッフからも「kintoneは未来を感じるシステム」と評してもらえるほど、親しんで使いこなしてもらえるようになった。
課題
手書きの遺失物管理台帳を人力でExcelに転記。
毎週行われる記入ミスチェックなど、非効率な作業が重なっていた
kintone導入以前、京王バスでは車内で発見された遺失物の情報を紙の台帳で管理していたという。一見、単純そうに見える作業だが、裏側ではさまざまな問題を抱えていたそうだ。一つ目は営業所所員の作業的負担。遺失物の情報を紙に記入するだけでなく、その情報をまとめて警察に提出する必要がある。そのため毎週紙からExcelに情報を転記する作業を行っていたそうだ。転記作業はもちろん人力のためミスも発生しやすく、入力された情報に相違が無いか突合せの確認作業も発生していたという。
「週に数百件のデータをExcelに転記して、さらにそれを警察に届ける前に営業所長と一緒に突合せをしていました。これが営業所の一大イベントで...スタッフの負荷も非常に高かったです。この作業が毎週、全営業所で行われるので、全体で見るとかなりの工数が掛かっていました」(管理部 システム業務推進担当 課長 虻川氏)
二つ目の問題点は、お客様からの問い合わせ対応だ。お客様から遺失物に関する問い合わせがある度に紙の台帳をめくり、遺失物が届いていないか探していた。さらに遺失物はそれぞれの営業所ごとに別々に管理されていたため、お客様が乗っていた路線とは違う担当の営業所に問い合わせてしまった場合、該当の営業所の電話番号を伝えてかけ直してもらうというオペレーションを行っていた。
導入
2週間程度で遺失物管理の大枠を作成。
活用のアイデアが広がり、乗務員台帳や添乗員評価のアプリも構築
遺失物管理に関する人的工数や利用客からの問い合わせ対応に問題を抱える中、遺失物管理専用のシステムを導入することも話題に上がった。それとは別にNotesで管理しているバス乗務員台帳も専用のパッケージシステムを導入する計画が上がっていたが、それぞれのシステムを導入するには数百万円のコストが掛かってしまう。新しい"業務支援ツール"の導入について、虻川氏はこう振り返った。
「もともと業務アプリの作成プラットフォームとしてkintoneの存在は知っており、生産性が高く、データ連携も容易なシステムとして興味がありました。専用システム導入の話が出たときに『これはまとめてkintoneで構築できるのではないか』と考えたのが、導入のきっかけです」(虻川氏)
実際にkintoneを試してから2週間ほどで遺失物管理アプリの大枠は完成したという。ただ遺失物を登録するだけでなく、営業所情報や警察用の遺失物コードなどは、kintone内で作成した別のデータベースから情報をルックアップする設定を組み、入力時のミスや手間を最小限に抑える工夫も加えたという。さらに、アプリを設計していた時の話を虻川氏は次のように語った。
「はじめは遺失物の写真を載せる項目も作ろうかと考えたのですが、写真を撮って載せるという作業も、何百件、何千件...となると大変な作業です。そこで、まずは写真を載せる項目は作らずに、運用していく中で必要だと判断したら項目を追加しようと思いました。専用システムでは添付ファイル欄を追加するだけで大掛かりなカスタマイズになりますが、kintoneではドラッグアンドドロップだけですぐに追加できますからね。こういった柔軟性は、kintoneの最大の強みだと思います」(虻川氏)
また、今までNotesで管理していた乗務員台帳では乗務員の基本的な情報しか管理されていなかったが、kintoneのアプリには健康診断の結果などもあわせて登録できるように設計したという。
「Notesのデータベースには乗務員の基本的な情報しか載っておらず、それとは別にExcelで健康診断の結果など管理していました。kintoneを導入する際の狙いのひとつとして『1度入力した情報は2度と登録させない』というポリシーで、既に登録されている情報同士をうまく連携させていくようにしたいと考えていました」(虻川氏)
管理部 システム業務推進担当 課長
虻川氏
効果
「将来を感じるシステム―」抵抗感を乗り越えて
今では現場スタッフから喜ばれるシステムに
まずkintone導入の一番のきっかけになった遺失物管理については、遺失物が営業所に届いた時点でkintoneへ登録する運用に変わった。今までは営業所ごとに管理していた遺失物も、現在は営業所を超えて全てkintoneの同じアプリに登録されるようになったので、お客様から問い合わせがあった際には、日時や特徴などの条件で検索をすれば他の営業所に届いた遺失物でも見つけられるようになったという。
またkintoneに登録されたデータをJavascriptで直接警察に提出できる形式で出力するようにしたため、今まで紙の情報をExcelに転記していた時の入力ミスを防止するダブルチェックを行う作業が無くなった。
「kintoneを実稼働してから2週間ほどですが、既に1営業所で300件ほど遺失物が登録されています。過去の傾向から、年間4万件以上登録される見込みです。これだけ膨大な量の転記・確認作業は、営業所スタッフの大きな負担になっていたと改めて感じます。これが無くなっただけで業務全体がかなり効率化されました」(管理部 システム業務推進担当 課長補佐 菅原氏)
「もちろん最初は慣れ親しんだ紙の運用から突然のクラウド化で、現場からの抵抗感もありましたが、2週間も経った頃には作業の効率化から逆に喜ばれるようになってきました。普段はパソコンを使わないようなスタッフもいるのですが、そういう人から『(kintoneは)将来を感じるシステムだね』と評してもらった時はとても嬉しく感じましたね」(運輸営業部 営業企画担当 主任 五味氏)
さらにkintoneに登録された情報をカード化して印刷できるようにカスタマイズをしているので、印刷したラベルを遺失物に貼付して管理を行っている。
「お客様に遺失物を引き渡す際には、このラベルにお名前等の記入をお願いしています。これが引き渡し済みの証跡になり、システム側も引き渡し完了のステータスへ変えます。あとはこのカードをファイリングすればクローズです」(五味氏)
その他、遺失物管理以外の情報も順調にkintoneへと移行されつつある。Notesで管理していた乗務員台帳は、別々にExcelで管理していた健康診断の結果もまとめてkintoneで管理できるようになった。また、より安全な走行のための取り組みとして、添乗評価指導もkintoneアプリを使って体系的管理とフィードバックの迅速化を実現しているそうだ。
「ユーザーからのkintoneでアプリを作ってほしいという依頼には、作成依頼用アプリを作成しており、誰が使うのか、どういう改善を目的としているのか、希望期限などを入力してもらって管理しています。入力後、システム部門がヒアリングをしてアプリを設計・構築しています。他の業務パッケージのデータも、kintone上で利用できる環境を増やしているので、今後も社内でkintone活用の幅はどんどん広がっていくと思いますよ」(虻川氏)
東京都内の重要な交通インフラを支える京王バス。その裏側では、今日もkintoneが活用されている。
管理部 システム業務推進担当 課長補佐
菅原氏
運輸営業部 営業企画担当 主任
五味氏