業務改革プラットフォーム「kintone」を導入して三年。
株式会社 日阪製作所様
業務内容:衣食住に関わる産業機械の製造
利用用途:CRM(顧客関係管理システム)他多数
1942年に大阪で創業した日阪製作所は、ユニークな産業機械を製造するメーカー。三つの事業部からなるが、今回取材した生活産業機器事業本部は、衣食住に関わる装置を展開している。衣食住の"衣"にあたる染色機の分野では、日本でトップのシェアを占める。また、"食"の分野では、業界の先駆けになったレトルト食品の殺菌装置が、大手食品メーカーに多数導入されている。
その生活産業機器事業本部では、間接業務の効率化のため「kintone」(キントーン)を導入した。製造から営業まで複数の部門が一体となって、業務改革に積極的に取り組んでいる。
業務改革のプラットフォームとして活用する「kintone」について、生活産業機器事業本部を率いる、本部長の竹下好和氏、製造・サービスを中心に、事業部全体の業務改革を統括する製造部長の足立昭仁氏、現場で「kintone」アプリの作成や運用を担当する製造部 サービス課の後藤美穂子氏と食品機器営業部大阪営業課の彌榮さくら氏、そして、「kintone」の導入や運用をサポートする技術部 情報システム課の佐々江宏明氏の5名にお話しをうかがった。
事業部統合後もデータが混在。
間接部門の業務の合理化が課題に。
決め手はコストとスピード。
スモールスタートで成功した「kintone」を事業部全体で活用。
情報の一元化に成功。現場主導の業務改革を実現し、常に改善して進化する組織に変化。
課題
事業部統合後もデータが混在。
間接部門の業務の合理化が課題に。
売上増を狙い、事業部を統合
生活産業機器事業本部は、2009年に染色と食品・医薬の2つの部門が統合して誕生した。それぞれが主力としている染色機器と食品殺菌装置は、用途こそ異なるが、どちらも圧力をかけて100℃を超える熱湯や蒸気を作り出す高圧容器。もともと扱う技術や業態が近かった。
「2つの部門の統合は、似通った業務を一元化して合理化を図り、余力のマンパワーを売上げ拡大や新商品開発につなげる狙いがありました。限られた人数で売上げを伸ばしていくために、間接業務の改善・合理化が喫緊の課題です。」(取締役生活産業機器事業本部長 竹下氏)
事業部の統合は、これまで2拠点に分かれていた工場や事業所を1ヶ所にまとめることから始まった。営業を除く設計、製造/サービス、品質保証の部門を統合したが、本質的な業務の統合には時間がかかった。それぞれの事業で、すでに仕事の流れが確立されており、データ管理の方法や利用システムの統一が難しかったためだ。
食品の殺菌装置(上)と染色装置(下)。
どちらも圧力をかけた熱湯を使う高圧容器で、共通の技術が使われている。
取締役生活産業機器事業本部
本部長 竹下好和氏
業務の一元化を目指すプロジェクトが始動
事業部統合後のこうした非効率な状況は、特にアフターサービスの業務へ大きな影響を及ぼしていた。
「同じ納入台帳でも、染色、食品、医薬の3つに分かれていました。そのほかにも、トラブル対応履歴、定期点検の管理、営業の要となる引き合い案件の情報など、すべてにおいて情報が一元化されておらず、Excelやアクセスで管理されていました。Excelは、誰でも簡単に帳票が作れるところは便利ですが、複数のメンバーで同時入力ができず、検索機能も使いづらい。そんな状態でアフターサービスの仕事をしていたので、お客様から電話を受けて、すぐに対応しないといけないという場面でも、過去の類似のトラブルを参照することが難しい状況でした。」(生活産業機器事業本部 製造部長 足立氏)
このような課題を解決し、製造から販売まで一体になって業務を進められるよう、システムの統合を行うことになった。
生活産業機器事業本部 製造部
部長 足立昭仁氏
導入
決め手はコストとスピード。
スモールスタートで成功した「kintone」を事業部全体で活用。
当初、サービス業務のシステム統一には、CRM(顧客関係管理)のパッケージソフトを検討していたのだという。顧客情報や、それに紐づくトラブル対応、定期点検、部品の見積りなどの履歴を管理できるパッケージソフトへの期待は高かったものの、コストや運用の煩雑さがネックとなり導入を断念した。
「サービスの支援ソフトが各社から販売されていますので、自社で使えるものはないかと探していました。パッケージだけだと安価ですが、必要なカスタマイズを加えると導入費用は1,500万円くらいになりました。保守費も毎年数十万円かかります。さらに、パソコンのOSが変わるたびにバージョンアップの費用もかかるため、パッケージソフトの導入は無理だと判断しました。そこで、情報システム課の佐々江に相談したところ、『kintone』を紹介されました。」(生活産業機器事業本部 製造部長 足立氏)
日阪製作所では、上海拠点の案件管理システムとして数年前から「kintone」を利用しており、その操作性や、コストメリットが評価されていたのだ。
「サービス業務に使うシステムの統一に、既存のExcelやAccessでメンテナンスしていくという方法は考えられませんでした。かといってもっと大きなシステムをつくるにも、コストがかかりますし、スピード感もありません。中国で実績をつくれた『kintone』を、生活産業機器事業本部でも使いたいと考えていました。」(技術部 情報システム課 佐々江氏)
導入後は、見積り依頼、トラブル対応、トラブルシューティング、契約先の管理など、サービスの業務で必要なシステムはすべて「kintone」でアプリがつくられた。現在では、営業やサービスを中心に、製造部門などでも利用され、利用範囲は日々広がっている。
「初めて『kintone』を見たとき、『これは使える!』と思いました。最初は貸し出し品の管理をしたくて相談したところ、『kintone』を紹介してもらったのですが、貸し出し品の管理はもちろん、ほかのことにも使えそうだと思いました。」(生活産業機器事業本部 製造部 サービス課 後藤氏)
効果
情報の一元化に成功。
現場主導の業務改革を実現し、常に改善して進化する組織に変化。
「見える化」でチームワークが良くなった
「kintone」の導入で、バラバラだった情報を1つにまとめることができた日阪製作所。その結果、同じ部門内はもちろん、部門間で連携して仕事を進めることができるようになった。足立氏は、「私たちはチームワークで仕事をしています。『kintone』はチームワークで仕事をする上でかなり使いやすいソフト。」と評価する。
「『kintone』は『見える化』ができるところがいいですね。今までは担当者間だけで、NotesやEメールでやりとりをしていましたが、その方法だとほかのメンバーには見えません。だから他のメンバーをフォローしたくてもフォローできない状態でした。『kintone』なら担当者以外も進捗が見られるので、以前よりチームワークは良くなったと思います。」(生活産業機器事業本部 製造部 サービス課 後藤氏)
さらに、クラウドサービスは、場所や時間を問わず活用できるところがメリットの一つ。国内外を飛び回る営業社員やサービススタッフが、いつでも、どこでも、必要な情報にアクセスできることはもちろん、多様化する働き方をサポートしている。
「私は、育児のため会社にいられる時間が限られます。『kintone』はタブレットやiPhoneからも閲覧できるので、ちょっと後ろ髪引かれながら会社を出たときにも、帰宅途中に簡単な返事や通知の確認ができます。日阪でも仕事と子育てを両立する女性社員が増えていますし、将来は男性も介護で休職する方が増えてくると思いますが、こういうクラウドサービスがあると助かります。」(生活産業機器事業本部 食品機器営業部大阪営業課 彌榮氏)
現場主導の業務改革で、これまでと段違いのスピードを実現
情報システム課の佐々江氏は「kintone」導入前から、「この使い勝手の良さなら現場でシステムがつくれる」と確信していたという。その狙いどおり、情報システム課が「kintone」アプリを作成したのは導入当初だけ。今では様々なアプリが、現場部門の手でつくられている。
「『kintone』の導入前は、課題があっても悩んでいるばかりで、改善ができませんでした。『kintone』は、こうしたいと思ったときにすぐに改善できるところが魅力的です。お金もかかりませんし、人に頼まず自分でできるので、助かっています。」(生活産業機器事業本部 食品機器営業部大阪営業課 彌榮氏)
これまでのシステムは、情報システム課で設計からメンテナンスまですべてを行わなければならなかったため、システムの改修には時間がかかることが多かったのだが、『kintone』の導入でこの状況が一変。現場部門が自分たちでアプリの改善や、業務内容の変化に合わせた修正を柔軟に行えるようになった。このような、現場主導でシステム開発を行う体制になってからは、これまでとは段違いのスピードで業務課題を解決している。
「『kintone』は、何かあれば次の日には直してもらえるというほど、改善がスムーズで速いというところがメリットです。パッケージソフトの場合は、すぐに改善できません。費用対効果で、その改善提案が却下されることもあります。『kintone』の場合、費用対効果を考えるまでもないほど簡単にシステムを修正できるので、現場の改善意欲がかなり変わりました。」(生活産業機器事業本部 製造部長 足立氏)
生活産業機器事業本部 製造部
サービス課 後藤美穂子氏
生活産業機器事業本部 食品機器営業部 大阪営業課
彌榮さくら氏
アプリの変更画面。ドラッグアンドドロップで操作できるため、アプリの改善や業務の変化に合わせたアプリの変更を、事業部門の担当者が簡単に行える。
今後の展望:売上拡大を見据えたグローバル展開を「kintone」で支える
「kintone」を導入して3年になる日阪製作所。今後は、業務改革の効果を最大化するため、利用範囲の拡大を予定している。
「『kintone』を採用することによって、問題があれば改善しようという風土になってきましたし、これからもそうしていきたいと思います。また、これまでの業務は、部門単位の最適化になってしまいがちだったのですが、『kintone』の導入をきっかけに横のつながりができました。コミュニケーションがとれた、良い関係をさらに広げていきたいと思っています。」(生活産業機器事業本部 製造部長 足立氏)
そして、「kintone」は、グローバル化を進める中で、海外拠点の業務を支援する役割も担う。
「売上を伸ばしていくために、 国内では各営業部で新市場の拡大を図っています。あとは、なんといっても海外に力を入れていきたい。近年、海外にも関連子会社を立ち上げて拡大を目指しています。」(生活産業機器事業本部長 竹下氏)
「グローバル化を考えたときは、『kintone』のようなクラウドに頼るのがベストな選択だと考えています。日阪製作所では中国、サウジアラビア、韓国の三つの海外拠点ですでに『kintone』を活用しています。今は拠点ごとの業務を支援していますが、今後はオール日阪として情報を一元化していきたいと考えています。」(技術部 情報システム課 佐々江氏)
「kintone」を業務改革のプラットフォームとして活用する好事例だ。
運用のポイント
①情報システム課のプロジェクトマネージメントで事業部の全体最適を目指す
日阪製作所が、「kintone」による業務改革で数々の成果をあげた背景には、適切な役割分担があった。アプリの作成や運用は、現場部門が担当。情報システム課は、複雑なアプリの作成支援や、他のアプリとの重複チェックなど、全体を判断している。
「業務には流れがあります。単に『kintone』に情報を入れて、見るというだけでは、活用が進みません。業務フローを意識して、それに合わせて情報を流すことが活用のポイントです。また、『kintone』は誰でも簡単にアプリが作れるので、『kintone』内で情報が乱立してしまう恐れがあります。情報システム課としては、ガバナンスを効かせながら、大きなコンセプトに基づいて『kintone』内のアプリをつくることを意識しています。」(技術部 情報システム課 佐々江氏)
②月に一度の「kintone」プロジェクト会議
日阪製作所では、月に一度の「kintone」プロジェクトという会議を行っている。参加者は、情報システム課と、アプリ作成を担当している各課の代表者。
「『kintone』プロジェクトでは、新機能の紹介や、新しくつくったアプリケーションの紹介、既存のアプリケーションの改善内容の発表をしています。事業部全体で業務効率を上げるため、アイデアを出し合い、情報共有をし合う場にしています。」(技術部 情報システム課 佐々江氏)
月に一度行っている「kintone」プロジェクトの会議風景。プロジェクターを使って、アプリを紹介しながらアイディアを出し合う場になっている。
会社情報 株式会社日阪製作所様
本社所在地:大阪
URL:http://www.hisaka.co.jp/
業務内容:熱交換器事業本部、生活産業機器事業本部、バルブ事業本部の3つの事業本部で構成し、「熱・エネルギー・環境・染色・食品・医薬・バルブ」などに関する産業機器の専門メーカーとして多彩な事業を展開している。