
檜垣造船
- 【業務内容】
- 船舶(主に近海船)の開発/建造
- 【利用用途】
- ワークフロー、プロジェクト管理、問い合わせ管理
スマートフォンが普及し、誰もがITに触れるのが当たり前になっていた2018年。 それでも紙やFAXが業務の中心を占め、書類の承認には10個以上の押印が必要なことも珍しくなかったのが、愛媛県今治市の檜垣造船株式会社だ。
造船業を営み、100名強の社員が設計や製造管理に従事。 高い技術力を背景に、貨物船・タンカー・LNG 船など、多種多様な船舶の建造を手がける一方、「紙こそ正義」の文化が根強く、業務改善の動きは起きにくかった。そんな同社でkintone導入を進めたのが経営管理部総務課に所属する吉井美佳氏と喜多椋平氏。 kintone導入・浸透に立ちはだかる荒波をどう乗り越えていったか、二人に伺った。
檜垣造船の社員たちには、これまでの仕事のやり方に対する強い誇りがあった。それを言葉にするならば「造船所は紙こそ正義」。船の設計図面はもともと紙。それなしで船は作れない。デジタルにする必要はない。その意識は強かったと吉井氏と喜多氏は振り返る。
実際、同社は確かな実績を残してきた。中小型輸送船の分野では業界トップクラスのシェアを誇り、日本初の内船LNG船やLNG燃料内航貨物船など、最新の技術で多種多様な船を手がけている。実績を出し続けているからこそ、いまの業務を変えようという動きは起きなかった。
「相当なアナログ企業でしたね。紙やFAXが中心で、パソコンを支給されるのは一部だけでした。」(吉井氏)
2018年、産休から現場に復帰した吉井氏は、この状況を変えたいと考え出す。そして、東京事務所の林由紀子氏(現取締役DX推進担当)も自分よりももっと前から同じ思いを持っていたと知り、2人は意気投合、変革に向けて動きだした。とはいえ、会社の文化を考えるとIT導入の提案を受け入れてもらうのは難しい。悩んでいると、しばらくして転機が訪れた。
「現社長が、DX化推進を前面に打ち出したことで、IT化を進められる雰囲気になったのです。セミナーに参加し、そこで知ったkintoneとGaroonを2018年5月に導入。紙で管理していた社内の情報の一部を情報ポータルとして展開すべく、イントラネットをつくりました。まずは30人ほどにアカウントを付与して、その後徐々に広げる考えでしたね」(吉井氏)
しかし、社員からは不満が続出。アプリがあっても紙を使い続ける状況で「勝手に変えられても困る」という声も聞かれたという。
「使い方がわからないというよりは、使いたくないという気持ちが強く、デジタルアレルギー状態でしたね。そこでいくつかの解決策を用意し、浸透を図っていったのです」(吉井氏)
まず行ったのは、社内説明会の実施や独自マニュアルの配布だ。説明会は導入から約1年の間に複数回に分けて少人数で実施したという。あわせてパソコンの全員支給や無線LANの構築など、環境も整備。それでも、当時のアンケートでは90%近くがデジタルに否定的という反応だった。
「次は、強制的にkintoneに触れなければいけない状態を作ろうと、稟議書や有給申請、支払い請求等のアプリを開発しました。実際に使う中で、デジタル化のメリットを感じてもらおうと考えたのです」(吉井氏)
ここで社員に変化が現れた。デジタルにすると業務が早くなること、いつでも進捗が確認できることなど、その利便性に気づき始めたのだ。さらに吉井氏は次の作戦を実行する。部門間共有が必要な業務をアプリ化していった。その代表例が「式典予定表アプリ」だ。造船業では、起工式や進水式、竣工式など、1隻の船を作る上でさまざまな式典があり、月2〜3回ほど開かれるという。その式典には、総務から営業まで多数の部門が関わる。日程調整、出席者の確認、会場の手配など、以前はExcelや紙で管理していた情報をkintoneでアプリ化したのだ。
「式典は滞りなく進めなければなりません。そのために必要な情報を、紙をめくって探したり、他部門に電話で問い合わせたりするのが手間でした。kintoneのアプリにしたことで、知りたい最新情報にいつでもみんながアクセスできるようになり、期日の管理もスムーズになりました。それまで経験に頼っていましたが、合理的かつ確実に進めることができるようになり、顧客満足度もUPしています」(喜多氏)
さらに会社のマスタや外部関係者の名刺データ、船の情報などもアプリで共有するようにしていった。
「ここまで来ると、社員の約8割はデジタルに前向きになっており、あとは2割のデジタル拒否軍にどう振り向いてもらうかでした。でも周りを見ると、打ち合わせ内容はkintoneに入力し、印刷やハンコも使われていません。『デジタルを使わない』とは言いにくい状況です。次第に意識も変わり、ついに全社員がkintoneを使う方向になったのです」(喜多氏)
紙こそ正義の文化からここまで来るのは大きな改善だったが、実はまだ導入から1年ほどの出来事。凄まじいスピードで起きた革命といえる。
この革命はまだ終わらない。全社員がkintoneを使うことで、日々データが蓄積されるようになると、今度はそれを活用する試みが始まったのだ。たとえば、竣工した船の不具合やクレームに対する「苦情処理」と、建造中の船の不具合に関する「品質異常報告書」をアプリ化し、そこに蓄積されるデータを分析していった。すると、クレームや不具合の原因として多いものが明確になり、社員はそれらを予防するために先手を取るようになった。主に事務業務を効率化していたkintoneが、いよいよデータ活用から事業に直接貢献しはじめたのである。さらに各部門から「こんなアプリが欲しい」とたくさんの要望が来るようになった。そこで社内のIT人材育成にも乗り出した。
「これまでは林と私でほとんどのアプリを開発していましたが、ここからはITやkintoneの知識を持つIT管理者を各課で育成し、その人にアプリ作成権限を付与して開発してもらう形に移行していきました」(吉井氏)
IT管理者になるには、今治市でkintone導入サポートを行っているケーオー商事の研修を受けることが必須で、現在は社内に20名ほどいるという。IT管理者同士も情報交換を行っているとのことだ。この制度ができてアプリ開発は一気に加速。現在までに作られたアプリは、なんと5600を超える。そのうち400ほどが使われており、どんどん現場で作って使えるものを残すスタイルで進んできた。
「kintoneでいろいろな効果が生まれましたが、あれだけこだわっていた紙がなくなったことが大きかったですね。そして、絶対にできないと言われていた在宅勤務も可能に。私は子ども2人がまだ小さいので、夏休みなどの長期休暇、午前中は在宅勤務をしています。これがなかったら、会社を辞めて育児に専念しなければならなかったかもしれません」(吉井氏)
同社の取り組みは現在、次のフェーズへと移行した。
それはkintoneと社内にもともとあった他システムを連携すること。すでに図面や膨大な部材の在庫管理などを行う自社基幹システムとkintoneをAPI連携して一元化を行った。
「kintoneで実績ができたことにより、会社全体にデジタルへの抵抗感がなくなり、経営側の投資も積極的になっています。ここまでできたのは、膨大なアナログデータをデジタル化するなど、取り組みに尽力してくれた先輩方がおられたからこそだと思っています」(吉井氏)
2018年からスタートした檜垣造船の取り組み。同社が造る船と同じように、kintoneによる業務改善という名の航海も力強く、猛々しく進んでいく。
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