医療法人社団福寿会はくちょう訪問看護リハビリステーション 様の導入事例

医療法人社団福寿会はくちょう訪問看護リハビリステーション

【業務内容】
訪問看護
【利用用途】
顧客管理、訪問実績管理、コミュニケーション
  • 訪問看護の現場で根強く残る手書き業務をデジタル化。緊急対応時にも状況確認がスムーズな情報基盤を整備

足立区や北区、葛飾区に医療介護施設を展開する医療法人社団 福寿会において、訪問による看護・リハビリを手掛けるはくちょう訪問看護リハビリステーションでは、患者を訪問する看護師に対する情報提供のための基盤としてkintoneを活用し、過去の訪問実績報告や利用者情報などがいつでも入手しやすい環境を整備している。情報活用基盤としてkintoneを採用した経緯について、所長の前田 智美氏およびシステムを担当する株式会社プライムワークス ヘルスケアサービス部 IT事業課 課長 川名 聡一氏にお話を伺った。

【課題】現場に残る手書き業務のデジタル化を目指す

転記作業だけで1日1時間、転記ミスのリスクも

 医療施設や介護施設、リハビリステーション施設など30を超える事業所を展開している医療法人社団 福寿会が運営する、はくちょう訪問看護リハビリステーション。看護師をはじめ、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士など各分野の専門家を揃えている同施設では、24時間体制で訪問看護に対応できるだけでなく、精神科訪問看護も可能な体制を整備しており、今後は小児向けの訪問看護の対応も検討し、機能強化型の体制づくりを目指している。北区だけでなく、台東区や荒川区、豊島区、文京区などへのアクセスが容易な立地条件を生かし、広域でのサービス展開も行っている。

同施設に限った話ではないが、日常業務の多くに紙が用いられている医療・介護業界において、現場ではアナログな運用が行われていると前田氏は語る。「カルテをはじめ、各種報告書や医師の指示書などあらゆるものが紙で運用、管理されています。特に訪問時の記録については訪問先にも情報を残しておく必要があり、どうしても紙での運用が欠かせません」。

実際には、血圧や体温、脈拍といったバイタルサインだけでなく、普段の生活や健康状態にする状況などさまざまな情報が記録されるが、手書きにて記録された情報は事務所に戻ってきてからPC上に転記することになる。1日5~6件訪問する看護師であれば、毎日1時間程度の時間は転記だけの作業に充てざるを得なかったという。「入力作業の負担軽減はもちろんですが、転記ミスなどが発生するリスクも。現場で得た正確な情報が管理できる環境づくりが急務だったのです」と前田氏は当時の課題を吐露する。

はくちょう訪問看護リハビリステーション所長の前田 智美氏

患者の訪問記録へ外部からアクセスする手段が必要だった

 また、1度の外出で複数の訪問先を回ることになるため、カルテなどの情報がまとめられたファイルを訪問する件数分持ち出す必要があった。しかも、24時間体制での運営のため、夜中は自宅にて待機している看護師もいる。急な連絡の時には、当日の昼間に訪問したときの状態が把握できていないケースもあり、担当者から情報を得るだけでも時間がかかっていたという。

「その日の状況が把握できていれば、電話対応でいいのか、往診医に連絡すべきなのかといった判断も可能です。そのためにも、情報のデータ化とともに外部から閲覧できる環境づくりが必要だったのです」と前田氏。病歴などセンシティブな個人情報が詰まった紙のファイルを持ち出すことについても、情報統制上課題があったと当時を振り返る。

【導入】クローズな環境を維持したまま手軽に外部公開できる

CamiAppS & kintone連携で、情報のデジタル化とセキュアな環境での情報共有を実現

グループ内でシステムの開発や運用を手掛けている川名氏は、当初は現場での手書き報告書をデジタル化するべく、コクヨ株式会社の『CamiAppS』を導入し、プライムワークスが提供する情報管理基盤『Pnote's』へ報告書を投入、請求に必要な情報をPrimeCareシリーズの介護・医療請求ソフトに投入するフローを検討したという。しかし、Pnote'sに登録された情報を現場から閲覧できる環境とはなっておらず、新たな環境を模索することになる。そこで出会ったのが、サイボウズが提供するkintoneだった。

「Pnote'sは情報セキュリティの観点からクローズな環境で運用しており、外部に公開するための仕組みが別途必要でした。クラウドサービスであるkintoneであればCamiAppSとの連携実績があり、Pnote'sとしてもkintoneを相手にするだけでスムーズに情報公開できる環境が整備できる。

APIが公開されていることで開発しやすく、情報セキュリティを担保した状態で、外部に必要な情報だけを提供することができます。自前でクラウドサービスを構築するよりも、kintoneなら同じ環境が迅速かつ安価に用意できると考えたのです」と川名氏はその経緯を語る。

株式会社プライムワークス ヘルスケアサービス部 IT事業課 課長 川名 聡一氏

情報が整理しやすく必要な情報にたどり着きやすい

 実際には、Dropboxをはじめとしたストレージサービスも検討したが、情報の探しやすさに課題があったと川名氏は説明する。
「CamiAppSで作成された報告書の画像情報だけでなく、患者の入院歴や病歴を記したアナムネーゼの聴取情報や訪問・褥瘡の計画書、褥瘡そのものの詳細情報、医師の指示書などを患者に紐づけて管理する必要があります。Dropboxなどでは情報管理に手間がかかり、スマートフォンでは情報にたどりにくいと考えたのです」。kintoneであれば患者の情報をキーに必要な情報が簡単に紐づけられるだけでなく、手軽にアプリ作成できることで外部公開の際にも容易にインターフェースが用意できると考えた川名氏。

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 また、セキュリティの面でも担当者が退職したあとの情報管理などの点で不安を持っていた川名氏だが、調査をする中でkintoneであれば強固なセキュリティを担保できると確信することに。

「kintoneであればセキュリティは強固ですし、CamiAppSを提供するコクヨさんからも連携について太鼓判を押していただけました」と川名氏。特に長年グループウェアを国内で提供しており、セキュアな情報を長年安全に運用していることが最終的に川名氏の背中を押すことになったのだ。

 スピード感をもって情報閲覧するための環境が構築できることを評価し、kintoneを看護師が外部から閲覧するための情報公開プラットフォームとして採用することになる。

【効果】訪問看護の現場にデジタルな世界を持ち込むことに成功したkintone

転記作業を不要にし、分厚いファイルも持ち歩かずに済むように

 現在は、CamiAppSを使って訪問時の状況を手書きにて記録し、スマートフォンのアプリを経由してkinotneにアップロード、その情報がそのままPnote'sに記録される。もし情報の修正などがあれば事務所に戻ってからPnote's上で修正し、確定した段階でほぼリアルタイムにkintoneへアップロードされ、看護師が持っているスマートフォンから訪問看護に必要な情報が閲覧できるようになっている。同時に、請求に必要な情報だけをPnote'sからPrimeCareに送ることで、情報登録から請求までのフローを効率化している。なお、今では同法人が運営する『つばめ訪問看護ステーション』にも同様の仕組みが導入されており、今後は『かもめ訪問看護ステーション』にも展開予定となっている。

 今回の仕組みでは、kintoneとCamiAppSを連携させたことで報告書の転記作業が不要になり、1日1時間以上の工数削減に成功。また、訪問時に必要な情報がすべてkintone上に格納されていることで、分厚いファイルを持ち歩くことなく、資料を集めるといった事前準備も最小限で済むようになった。

「訪問看護の現場では、血圧計や処置のための物品、入浴介助が必要な方がいればエプロンを持参するなど、とにかく荷物が多いのが実情です。当然持ち込んだものは紛失する恐れも出てきます。荷物はできるだけ少ない方がいい」と前田氏。

CamiAppSでの手書き資料

Pnote's取込画面

情報漏えいリスクも軽減、画像データなどの共有もスムーズに行えるように

また、ファイル紛失などの情報漏洩リスクが軽減できたことで、情報統制の面でも強化されているという。
「この業界はパソコンに慣れていない看護師も多く、データ化が遅れがち。この仕組みによって情報が拾い上げられ、可視化が進みました。医療看護の分野は、これからデータ化を加速させて数字で利用者の評価をしていく必要があります。その土台となる仕組みができたと考えています」と前田氏は評価する。kintoneが情報基盤となったことで、例えばスマートフォンで褥瘡をはじめとした皮膚の状態も的確に記録、閲覧できるようになっているという。

「褥瘡(じょくそう)の発生から途中経過、改善まで、鮮明な画像で確認できます。以前は写真を印刷して現場に紙を持ち込んでいましたが、今では撮影時間の記録もしっかり取得できており、経過確認が確実に行えます」と前田氏は評価する。なお、入力や書類を準備するために、お昼もあわただしく済ませて次の現場に行く看護師もいたという。管理監督者の立場からすると、時間にゆとりが持てるようになったのはありがたいと前田氏。

kintoneがクラウドとの垣根を取り払ってくれた

システムの面からは、川名氏が提供しているソフトウェアの弱い部分がkintoneによってフォローできるようになり、提案の幅や活用シーンも広がったと評価する。
「AWSのようなクラウドを利用してPrimeCareをクラウド化する方法もありますが、当然データ量によってコストが積み上がるなど、後々利用者に負担を強いてしまうことも。個人情報管理を徹底しながら、kintoneが外部とのインターフェースとなってくれたことで、大きな負担なく外部から閲覧しやすい環境をつくることができました。kintoneがクラウドとの垣根を取り払ってくれたのです」と川名氏は評価する。

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介護・医療請求ソフトPrimeCareの詳細画面

新たな仕組み作りへの展開とともに、現場の情報化・可視化を積極的に進める

 当初は訪問看護における情報閲覧のツールとしてkintoneを採用したが、今では同法人の人事採用課にて新卒学生の採用活動の情報基盤として、そして法人全体のIT資産管理の基盤としても活用されているという。「主にExcelで運用していた業務をkintoneに置き換えることが増えています。何か相談があると、kintoneが解決策として提示できるようになりました」と川名氏。

今後は居宅での利用や福祉用具の貸し出し管理、契約書管理など、業界内で必要なアプリケーションを商品化していく際にもkintoneの活用を検討しているという。「厚生労働省が進める地域医療連携システムについても、kintoneをインターフェースとして連携できるような世界が構築できればと考えています」。

前田氏は、現状Excelで行われている訪問スケジュールの管理をkintoneに置き換えることはもちろん、バイタル情報をはじめとしたデータ化を進める中で、その経過をチャート方式にして可視化していくなど、情報化と可視化を積極的に進めていきたい考えだ。「すでにベッドに寝ていれば脈拍などの情報が取得できる時代です。IoTの環境がこの業界にもやってきており、それらの情報をkintoneに集めて可視化できるような環境ができることを期待しています」と最後に語っていただいた。