富士電子工業 様の導入事例

富士電子工業

【業務内容】
高周波誘導加熱装置の設計・製造・販売・高周波焼入の受託加工
【利用用途】
設備管理、AI-OCRによる作業記録の自動化、工程進捗をリアルタイムで見える化
  • 写真1枚で30分の記録作業を自動化。
  • AI-OCR × kintoneで既存の設備を活かした工場DX

高周波誘導加熱装置のリーディングカンパニーの富士電子工業株式会社。モノづくりの中核を担う加工部では、30台以上の設備が稼働している。設備ごとに記録項目も異なるなか、紙への手書き記録と、Excelや工程管理ソフトなどへの入力という二重作業が、現場の大きな負担となっていた。そこでkintoneを採用し、タブレットで設備のタッチパネル画面を撮影するだけでAIが自動で読み取り・データ化する仕組みを構築。既存の設備でも大規模な投資なしにデータを収集できるこのアプローチで、製造現場のDXを着実に前進させている。加工部、システム開発室、生産技術課、加工課のキーパーソンにお話を伺った。

◼️お話を伺った方
・加工部 部長 中井靖文氏
・加工部 生産技術課 主任 梅川倫永氏
・加工部 加工課 主任 堀貴宏氏
・システム開発室 室長 柳康裕氏
・システム開発室 主任 松下泰裕氏

【課題】設備ごとに違う記録項目、統一できないフォーム。紙とパソコン入力の二重作業が現場を苦しめていた

高周波誘導加熱装置の設計・製造・販売や高周波焼入の受託加工を展開する富士電子工業株式会社。2014年には経済産業省が定める「グローバルニッチトップ企業100選」に選定されるなど、その卓越した技術は業界内外から高く評価されている。

加工部 部長 中井氏
加工部 部長 中井氏

そんな同社の加工部では長年、設備管理における記録作業が紙によるアナログな運用に依存してきた。加工部の工程は、受入検査から段取り・焼入・工程内検査・焼戻し・最終検査・出荷梱包まで多岐にわたる。現場で稼働する設備は30台以上。しかも同じ設備は1台もなく、各設備のPLC(製造設備の動作を制御するコンピューター)に表示されるデータの種類も設備ごとに異なる。同じ品物でも工程の順序や有無が受注内容によって変わる複雑さも抱えていた。

こうした現場の実態が、記録作業に深刻な問題を生み出していた。加工部 部長の中井靖文氏は当時をこう振り返る。「多い日には数百枚単位で作業記録が発生します。設備ごとに記録すべき項目が異なるため、統一フォーマットには書ききれず、別紙に手書きで補記するのが常態化していました。さらに、その手書きの紙をあとでパソコンに再入力するという二重作業が現場の大きな負担になっていたのです」

当時、紙で管理していた大量の作業記録
当時、紙で管理していた大量の作業記録
生産技術課 主任 梅川氏
生産技術課 主任 梅川氏

問題はそれだけではなかった。現場のパソコンは台数が限られており、記録のために入力順番を待つ時間ロスも生じていた。その結果、作業直後に記録するのではなく、複数の作業をまとめて後から入力するケースが多発。時間が経って記憶が薄れた数値を「微妙にさじ加減で調整」して入力してしまう実態が生まれていた。

加工部 生産技術課 主任の梅川倫永氏はその弊害をこう語る。「書く人によって入力精度にもばらつきが出ます。私たち生産技術課は現場データをもとに設備の改善や標準化を進めるのですが、データが不正確では分析の根拠が揺らいでしまいます」。

加えて、工程進捗の見える化も長年の懸案だった。受注から出荷まで進捗が紙で管理されているため、顧客から急な問い合わせが入った際には、営業担当者が製造現場まで足を運んで確認するしかなかった。出荷状況や納期の問い合わせへの対応が後手に回ることで、顧客満足度への影響も課題となっていた。「受注案件のスケジュール状況をリアルタイムで共有できる仕組みが、営業と現場の双方から求められていました」と中井氏は言う。

原料・消耗品の価格上昇が続く中、加工費の値上げだけでは対応しきれない局面が増えたことも、DX推進を本格化させるきっかけとなった。

【選定】kintoneの柔軟性とAI-OCRの自動化。自社の複雑な工程に応えた組み合わせの選定

DX推進の実務を担ったのは、システム開発室 主任の松下泰裕氏だ。まず着手したのは、業務フローの徹底的な洗い出しだった。

システム開発室 主任 松下氏
システム開発室 主任 松下氏

「大量生産型のラインとは異なり、弊社の工程は設備・品物・加工条件の組み合わせが複雑で多様です。現状の業務を一工程ずつ細かくヒアリングして、何が課題で、システム化に何が必要かを明らかにするところからはじめました」と松下氏は振り返る。

要件定義はすべて自社で行った。外部のシステム会社に委託せず、自分たちの言葉で仕様を定めることにこだわったのは、工程の複雑さゆえの判断だ。「工程の細かい差異や業務上の例外パターンは、外部の方にいちから説明するのが難しいほど複雑です。また将来的に自分たちで改修・拡張していくことを考えると、要件を自分たちで握っておくことが不可欠でした」と松下氏は言う。

洗い出しの結果、いくつかの要件が浮かび上がった。設備ごとに異なる多様な記録フォームへの対応、工程ステータスのリアルタイムでの見える化、複数人の同時アクセスへの対応、そしてパソコンではなくタブレットで現場入力できる環境だ。梅川氏はタブレット対応の重要性をこう補足する。「機械の近くはスペースが限られ、水を使う工程もあるため、大型のパソコンは置けません。片手で持てるタブレットであることが現場では必須条件でした」。

システム開発室 室長 柳氏
システム開発室 室長 柳氏

これらを満たすプラットフォームとして選ばれたのがkintoneだった。「帳票管理に特化したシステムも候補にありましたが、工程ステータスの管理など帳票管理以外の業務全般までカバーするには難しいと判断しました。kintoneはカスタマイズできる幅が広く、将来的な他部署への横展開や基幹システムとのAPI連携を見据えたときにも、クラウドで拡張性があるkintoneが最も弊社には合致していました」と松下氏。

システム開発室 室長の柳康裕氏も、少数精鋭体制で社内システムを管理するうえでの内製化のしやすさを評価する。「システム開発室は4名という体制です。スクラッチでいちから開発するとなると、1人がそこに専任になってしまう。kintoneであれば内製化できる範囲が広く、外部への委託コストも抑えながら自分たちでコントロールできる。QCDの観点でもkintoneが最も合理的な選択でした」。

kintone用ERPシステム「kinterp」で複雑な工程管理に対応

そのうえで、品物ごとに工程の有無や順序が変わる同社独自の複雑な工程管理にも対応できる仕組みが必要だった。kintone上にJavaScriptなどで独自の仕組みをいちから構築する選択肢もあったが、4名体制のシステム開発室で開発・保守まで担い続けるのは現実的ではないと判断したという。「いちから作り込むよりも、製造業の基本的な工程管理の仕組みが最初から備わっていて、自社の業務に合わせてカスタマイズしていける仕組みがほしかった」と松下氏。

そこでサイボウズ オフィシャルパートナーを調べる中で出会ったのが、日本ラッド株式会社が提供する「kinterp」だ。工程管理・出荷・発注管理など基幹業務の機能がパッケージとしてそろい、かつkintoneの柔軟性を活かして自社業務に合わせた作り込みもできる点が、「複雑な工程にも対応できるはず」という期待につながった。

さらに、AI-OCR(AIを活用した光学的文字認識技術)との連携が可能な点も大きな決め手となった。設備の加工データ表示画面をタブレットのカメラで撮影すると、APIを経由してクラウド上でAI-OCR処理が実行され、周波数・電圧・時間などの数値が自動的にkintoneのフィールドに書き込まれる仕組みだ。加工データ表示画面の四隅にはARマーカーを配置し、クラウド上で画像位置を自動補正する前処理を組み込むことで、撮影者の角度や精度を問わず安定して読み取れるよう工夫している。この画像処理・AIに関するノウハウは、kinterpを提供する日本ラッド株式会社からの知見も得ながら構築した。

梅川氏はその意義をこう語る。「弊社内の高周波誘導加熱装置はすべて自社製のため、加工データ表示画面の内容を自分たちで調整してAI-OCRで読みやすい状態に整えられる強みも活かせました。画面を写真で撮るだけでよいので、設備を一新するような大きなコストをかけずに対応できます」。

加工部 加工課 主任 堀氏
加工部 加工課 主任 堀氏

また、現場での使い勝手という観点から、加工部 加工課 主任の堀貴宏氏も導入前からポジティブな期待を持っていたという。「パソコンが少ないので、手書きしてまとめて入力するのは時間がもったいないと感じていました。写真1枚で記録できるなら再現性も高いですし、タブレットがあれば待ち時間も減る。現場にとってメリットが大きいと思っていました」と語る。

【効果】たった1枚の写真で30項目が自動記録。データ精度の向上が現場の改善を加速させる

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富士電子工業のkintone活用の全体像。設備の加工データ表示画面を撮影するとAIが数値を読み取り、作業記録アプリに自動入力される。データは生産技術課の改善活動、営業部の進捗確認、部長の出荷承認にも活用されている

要件定義に始まり、社内承認・製品選定・開発・テストと段階を踏んだプロジェクトは、2024年5月のキックオフから約1年を経て2025年4月に本番稼働を迎えた。現在は加工部を中心に営業部も含めた約30名が利用し、24個のアプリを運用している。

加工データの表示画面を撮影するだけで自動記録

稼働後、最も実感できた変化として梅川氏が挙げるのは、記録作業の劇的な省力化だ。「以前は1枚の作業記録に手書きしてパソコンへ入力するまでに、多い場合で30分ほどかかっていました。それがいまはタブレットで加工データ表示画面を撮影するだけで、30項目ほどの数値が自動的にkintoneに記録されます」。こうした効率化を加工課・品質保証課・業務管理室の3部署で積み上げると、年間およそ6,800時間の工数削減になると同社は試算している。入力のための待ち時間もゼロになったことで、本来の作業に集中できる環境が整った。

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実際の加工データ表示画面。写真1枚で、電圧・電力・周波数など30項目のデータが自動記録できるようになった

記録の正確性向上は、生産技術課の業務そのものを変えつつある。従来は記憶頼りで後からまとめて入力していたため、粗い精度でしか記録が残らなかったが、AI-OCRによって設備から正確な加工データを記録できるようになり、データの信頼性が飛躍的に高まった。「設備ごとの条件を比較したり、不良が発生した際に加工条件を遡って原因を追いやすくなりました。これまでデータのばらつきに悩まされていた改善活動が、やっと本格的に動き出せる手応えを感じています」と梅川氏は言う。現場に行かずともタブレットやパソコンからデータを確認できるようになったことで、生産技術担当者が分析・検討に充てられる時間も大きく増えた。

受注品の工程ステータスをリアルタイムで見える化

工程進捗の見える化も着実な効果をもたらしている。工程管理アプリには受注品の工程ステータスがリアルタイムで反映されており、各受注品の進捗状況もアプリ上から確認できる。

「顧客からの急な問い合わせにも、営業担当者が現場に確認しに行かず即座に回答できるようになりました。出荷アプリでは出荷可能な品物の一覧が確認でき、承認フローもアプリ上で完結するので、私が出張中でも社外から対応できます。意思決定のスピードが格段に上がりました」と中井氏は言う。

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工程管理のポータル画面。受注から出荷までの工程進捗を、この画面から誰でも見にいけるようになった

現場の堀氏も、実際に使いはじめてからさらなる可能性を感じているという。「自分でこういうことできないかなと思うことも出てきましたし、改善案をシステム開発室に相談するとすぐに反映していただける。タブレットを持つことで、こういうふうに見える化したい、という声が現場から自然と出てくるようになりました」と語る。

組織的な効果について、柳氏はこう評価する。「デジタル化の成功事例が社内にできたことは大きい。kintoneの知名度が上がり、何かあれば試してみようという雰囲気が生まれてきています。今後は社員のITリテラシー向上につなげながら、自分の課題を自分で解決できる成功体験をさらに積み重ねていきたい」。

システム開発室では今後、脱Excelに向けた取り組みや、基幹システムとのデータ連携自動化なども視野に入れながら、kintoneの活用範囲をさらに広げていく計画だ。

「既存設備を入れ替えないとDXは難しい、スクラッチで作る予算はない、自社の工程が複雑すぎてパッケージでは無理。そういった思い込みを、今回の取り組みが一つひとつ覆してくれました。どのような設備でもkintoneなら自分たちの工程に合わせてシステムを作り込める。製造業のDXに対する向き合い方が、確かに変わったと感じています」と梅川氏は締めくくった。

(2026年2月取材)

【この事例の開発パートナー】
日本ラッド株式会社

kintoneとERPを組み合わせた「kinterp」による基幹システム構築をお手伝いしています。長年培ったノウハウを生かし、要件定義から設計・開発・保守までワンストップで対応します。製造業向けには設備保全管理パッケージ「Fabriko設備保全」も提供しており、IoT連携による予兆保全まで実現可能です。