事業概要DeNA:グローバルでゲーム事業とプラットフォーム事業を展開
ゲーム事業やEコマース事業を手がけるDeNAは、日本だけではなく世界中にビジネス拠点がある。グローバル展開を進めるDeNAの競争力の源泉は、事業スピードの早さ。
その勢いをさらに加速するために取り組んでいるのが、「kintone」(キントーン)を使った、グローバル統一の業務プロセスの確立だ。
「kintone」導入の経緯や、導入効果について経営企画本部 IT戦略部 部長の村上淳氏、経営企画本部 IT戦略部の清川哲也氏にお話しをうかがった。
導入前の課題グローバル統一で全社最適なシステムをつくる
DeNAでは、これまでは国や地域ごとに利用する社内システムや、業務プロセスを決めていた。しかし、急成長を遂げる中で、様々な業務の依頼や案件の状況共有をグローバルで迅速に行うことが課題になっていった。
「変化の激しい事業を行っているため、組織変更が多いのですが、部署を異動するたびに利用するツールが変わることが課題でした。さらに、拠点を横断した業務が活発になるにつれ、地域ごとに業務プロセスが違うことによる非効率が散見されるようになり、グローバル統一の働く環境が求められていました。」(村上氏)
そこで、これまでバラバラだった既存の社内システムを、グローバルの各拠点で働く社員がワンストップで利用できるものに移行することになった。
経営企画本部 IT戦略部長
村上淳氏
導入の決め手世界で一番良いサービスを選んだ
①クラウドであること
グローバルで4,000名が利用する社内システムの統一は、2011年からの三ヶ年計画で進められた。スピーディーなシステム統一を実現するために、DeNAが選択した手法は、複数のクラウドサービスを組み合わせて利用することだった。
「グローバルで統一した、全社最適なシステムをつくることがIT戦略部のミッションです。世の中のスタンダードとなっているツールを選ぶ手法で、"早く標準化すること"を目指しました。」(村上氏)
各サービスの選定ポリシーは「世の中で一番良いサービス」であること。日本の製品にこだわらず世界中で提供されているサービスの中から、自社に合ったシステムを選定していった。
「グローバルで通用するBPM(ビジネスプロセス管理)を探していたときに、インターネットの検索で『kintone』を知りました。ファイル共有やメールなど他のサービスは全て海外の製品です。初めて日本のサービスとして『kintone』を選びました。」(村上氏)
統合の対象となったシステムは、経営管理やバックオフィス、サービスの開発など多岐に渡るが、「kintone」は社内システムの利用申請をはじめとした、BPM(ビジネスプロセス管理)として導入が決まった。
②柔軟なシステム連携
複数のクラウドサービスを組み合わせて利用するためには、システム間の連携が欠かせない。
「APIでデータを簡単に出し入れできると、他のツールとの連携が進みます。「kintone」には豊富なAPIがあるので、今後の発展性も非常に高いと評価しています。」(清川氏)
また、グループ全体4,000名のユーザーIDを効率よく管理するため、SAMLによる他システムとのID 連携も求められた。
経営企画本部 IT戦略部
清川哲也氏
③誰でも使える操作性
アプリの利用や管理の操作性の良さも、導入の決め手の一つだった。
「BPM(ビジネスプロセス管理)ツールは、できることが多い反面、設定が難解な製品が多いと思っていました。けれども、『kintone』は誰でも簡単に利用でき、パッと見て直感的に操作できるので、事業のスピードに柔軟に対応できそうだと感じました。グローバル、特にアメリカでは、UX(ユーザー体験)が悪いとなかなか浸透しないのですが、『kintone』は問題ありませんでした。」(清川氏)
さらに、スマートフォンからも見やすいUI(ユーザーインタフェイス)で利用できることも期待されていた。移動中でも申請や承認ができるため、利便性が上がっているという。
導入効果グローバル共通の業務プロセスで圧倒的な業務スピードを実現
いくつもあるビジネスプロセスの中でも、始めに着手したのはグローバル共通で利用が必要な社内システムのアカウントの作成や変更の申請だった。現在、グローバル全体で5つの「kintone」アプリを利用している。
アプリを構築する際、これまでのビジネスプロセスをそのまま「kintone」に移行するのではなく、 プロセスそのものの見直しも同時に行った。たとえば、アカウント付与に関するプロセス管理の目的は、証跡をとることに限定。これによって、これまで行っていた上長による承認を割愛し、プロセスを「申請→処理→確認(上長)」に短縮した。単なるシステム移行に留まらず、踏み込んだ業務プロセスの改革を行うことによって、申請してから処理が完了するまでのスピードが飛躍的に上がった。
また、「kintone」によるBPM(ビジネスプロセス管理)の運用では、申請内容のミスを防ぐ仕組みも、処理完了までのスピードに貢献している。
「これまで使っていたワークフローは入力項目が多く、多いときには10件に一回は、登録内容の不備による却下がありました。『kintone』では、ユーザーにわかりやすい画面を提供できるため、却下率が減りました。これは、システム担当にとっても、ユーザーにとってもメリットがあります。」(清川氏)
「kintone」のプロセス管理は、JavaScriptによる画面カスタマイズで、入力制御を自由に設定することが可能。ユーザーマスタの情報を自動的に登録させることや、申請内容に応じて必要な項目だけを表示させることによって、申請内容の間違いが格段に減っている。
さらに、申請のあったアカウントの追加や変更業務のスピードも向上した。申請プロセスをグローバルで統一にしたことによって、時差を活用した業務分担ができるようになったのだ。
現在、社内システムのアカウント作成や変更業務は、日本とアメリカの担当者で分担している。日本の担当者は、日本時間の9時から18時頃までの業務を担当。日本のビジネスタイムが終わってから世界中から集まる業務依頼は、日本時間の深夜にアメリカの担当者が処理する。このようなグローバルでのワークシェアリングが可能になったことにより、申請者の待ち時間が減っている。
「たとえば、日本の土曜日はアメリカではまだ営業日です。管理者が日本拠点だけだと、『すぐに新しいロールを付けてほしい』とか『アカウントを作成したい』という要望に応えられません。そこで、業務のプロセスは世界共通で、各リージョンや各拠点でその業務を回せるような仕組みをつくりたいと考えていました。」(清川氏)
今後の展望事業部門が自分たちでアプリをつくり、事業スピードをさらに加速させたい
グローバル全体で利用する、アカウント申請の統一を達成したDeNA。次に取り組んでいるのは、拠点独自で必要なビジネスプロセスの改革だ。
日本国内では、現在オンプレミス環境で運用している150種類ほどのビジネスプロセスを「kintone」に移行する準備を進めている。契約書のレビューや押印申請など、事業の要となるプロセスを、改善しながら「kintone」に移行する。さらに、国外の拠点でも「kintone」を活用した業務改革が進むよう、「kintone」のルールやナレッジの整備にも取り組んでいる。
「事業部門が勝手にデータをつくり、それがいつの間にか重要なツールになっていて、事業のスピードを加速できると良いと思っています。全世界のユーザーに使ってもらいたいです。」(清川氏)
「海外の各拠点が、自分たちのプロセスを自分たちで気軽に改善できる環境をつくりたいと思っています。そして、その様子がヘッドクオーターからも見て取れるのが理想です。海外はメールの文化なのですが、メールだと証跡が残らず、プロセスの状況が見えにくいという課題があります。日本発のワークフローという文化を広め、ビジネスの業務改善を『kintone』と一緒にやっていけたら面白いと思っています。」(村上氏)
グローバル規模での業務改革の成果に期待したい。
掲載日 2014年6月6日