サイバーエージェント 様の導入事例

サイバーエージェント

【業務内容】
インターネット広告事業、スマートフォンゲーム事業やAmeba事業、投資育成事業、メディアその他事業
【利用用途】
販売管理、購買管理、登記簿管理、有価証券管理、リスク管理など
  • ガバナンスの効いたバックエンド業務のプロセスをパッケージ化
  • 迅速なビジネス展開に不可欠なインフラ整備をkintoneで実現

「21世紀を代表する会社を創る」ことをビジョンに据え、インターネット広告事業、スマートフォンゲーム事業やAmeba事業、投資育成事業、メディアその他事業など幅広い事業を展開している株式会社サイバーエージェント。インターネット総合サービス企業として確固たる地位を築きながらも、ベンチャースピリットを常に持ち続けながら、インターネットを介して消費者や生活者に大きな影響を与えるべく新たな事業を創造している。

すでにグループ会社が70を超えるまでに拡大している同社では、販売管理や購買管理などバックエンドを支えるインフラの強化が課題であり、サイボウズが提供する「kintone」を導入し、柔軟な業務プロセスへの対応を可能にした基盤作りに成功している。

その経緯について、内部監査の視点から業務プロセスの見直しを行っている内部監査室 鹿倉 良太氏と、経営管理を中心に業務システムの開発および運用管理を手掛ける経営本部 経営システム室 西村 壮礼氏にお話を伺った。

バックエンド業務の中心にあったExcel
ガバナンス強化に向けた新たなプロジェクトが始動

新たなビジネスが次々と産声をあげるインターネット関連事業を数多く手掛けている同社では、様々な領域に投資を行いながら新たな事業を次々と立ち上げており、そのスピード感はわずか半年の間に15社もの子会社を設立するほどだ。そのため、業務を支えている管理部門としては、新規事業が立ち上がった段階で業務に必要なバックエンドの仕組みを現場へ迅速に展開していくことが求められている。

ただ、事業の内容によって業務フローが異なるだけでなく、なかには急速に事業規模が拡大するものもあり、例えば販売管理や購買管理などを標準的なシステムとしてフルスクラッチで構築していくのが難しい場面も。それゆえ、ビジネススピードを落とさずに事業を軌道にのせるためには、管理しやすく展開が容易なExcelを用いて業務管理を行うことがこれまで通例だった。

しかし、自由度の高いExcelではガバナンスを効かせながら業務システムとして利用することに対して課題があったと鹿倉氏は当時を振り返る。

「Excelは手軽に活用できて自由度の高い反面、属人化しやすく人によってローカライズされてしまうことも。可能な限りガバナンスの効いた形で業務システムを提供できないものかと思案していたのです」。

なかでも急速な事業拡大で規模が大きくなる事業子会社のバックエンドプロセス改善は急務だった。サービス開始当初から、売上や原価をまとめて請求を立てるプロセスを1つのExcelファイルで管理していたが、売上が拡大する中で管理項目のフィールドが90を超え、その行数は数千にまでの大きさに膨らんでいるものもあったという。

「開くだけでも時間がかかり、月次の締め処理にかなりの工数を要していました。また、複数人で共有しながら入力するため、正しいバージョンがどれにあたるのか、請求がきちんと行われているかどうかなどの確認に多くの時間と手間がかかっていたのです」と西村氏はその苦労を吐露する。

マクロの範囲がずれたことで過去のバージョンにデータを差し戻して請求処理を再度実施する事態も発生していたというのが現実だった。「事業のバックエンドを支えるインフラとしてExcelを利用するには限界を迎えていたのです」と鹿倉氏。

そこで、Excelに代わる新たな業務インフラの整備に向けて動き出すことになったのだ。

プロセスを十分理解している現場が使えるkintone
わずか2ヵ月あまりで業務システムの構築に成功

以前からExcelによる管理に現場も課題を感じていたものの、「なかなか最適なソリューションが見つからなかったというのが正直なところでした。グループの中でも勢いのある企業であり、よほど使いやすい仕組みでないと現場に展開するのは難しいと経営層からも指摘があったほどです」と鹿倉氏。

Excelのブラッシュアップも検討したが、インプットした情報の統制が効かないために入力精度が低くなりがちで、データとしての矛盾が発生してしまう可能性が捨てきれなかったという。 現場からは別の事業で活用していたSalesforceをベースにしてはという声も挙がっていたが、実際に使いやすい形で作り上げるまでには至らなかった。

また、販売管理パッケージも検討したが、販売する商品のビジネスフローに適していなかったこともあり断念。フルスクラッチによる開発も検討したものの「現場が新しい商品を考えるたびにシステムの追加や改変が必要になるため、ランニングコストやシステムの柔軟性という観点から最適な選択肢には成り得ませんでした」と西村氏。

そこで最適なソリューションとして候補に挙がったのが、サイボウズが提供するkintoneだった。

「情報を集約するDBとして活用できることを前提に、非言語で開発できるという点がkintone最大のポイントです。機能の追加や項目の組み替えなどの際には、そのプロセスを十分理解している現場の人間が直感的に修正でき、エンジニアに頼る必要がないところが魅力だと感じています。さほどプログラムが書けない私にでも変更ができるというのは大きな選定の決め手になっています」と鹿倉氏。

株式会社サイバーエージェント 内部監査室 鹿倉氏

株式会社サイバーエージェント 経営本部 経営システム室 西村氏

将来フルスクラッチで構築する場合でも、「kintone」によってある程度業務フローを整理しておくことで、概要設計のひな型として活用できるという思惑もあったという。

また、数年前より社内で議論を積み重ね、業務システムのクラウドシフトを進めていた動きともリンクした。

「最初からセットアップされている状態であれば容易に他の事業にも展開しやすい。もし容量が足りなくなれば簡単に増設できるという、クラウドならではのメリットも享受することができると考えたのです」(西村氏)。

ただし、どれだけ管理しやすい仕組みであっても、現場に受け入れてもらえなければ意味がない。

「現場は今までの使いやすさを踏襲したいという希望があり、できる限りその意に沿うように検討しました。ただ、実際にExcelの入力とは違いますし、ドラッグしてコピーするといった使いやすい機能ほど、実はヒューマンエラーを招く元凶でもあるわけです。入力は多少大変になりますが、入力タイミングを切り替えたり不要な項目を非表示にしたりなどプロセス全体でカバーすることを念頭に現場を説得していきました」と鹿倉氏。

実際に現場も課題を感じていたため、全員で解決すべき課題であることを説明した上で、半ば強引に受け入れてもらうことに成功したのだ。

もちろん、導入後の現在でもUIを改善し続けているという。 現場に提案を行う前にkintoneでプロトタイプを作成しプレゼン、導入決定後わずか2週間の間にシステムの原型が構築でき、現場とのすり合わせやテスト、現場への導入説明会まで2ヵ月余りの間に行うことができたと鹿倉氏は驚きを隠せない。

「システム規模で考えれば数ヶ月はかかるようなものでしたが、他の業務と並行しながらわずかな期間で環境整備を行うことができました」とkintoneを鹿倉氏は高く評価している。

ガバナンスが効いた状態でプロセス提供が可能に
締め処理の1日前倒しを実現、業務改善にも大きく貢献

当初は、課題のある事業領域のみkintoneによって整備したが、今ではkintoneで構築した業務システムをパッケージ化し、新規事業が立ち上がった段階でマスター投入するだけですぐに現場に展開できるようなインフラが作り上げられている。

事業モデルに応じて複数のインターフェースを用意し、営業の読み管理からスタートしたり実績から始めたりなど段階に応じたテンプレートも準備。「事業が立ち上がった段階ですぐにバックエンドシステムが提供できる環境を整えることができました」(鹿倉氏)。

現在ではおよそ20社のグループ会社でのべ250名ほどがkintoneを利用して業務システムを運用しており、当期中にすべての事業子会社でバックエンドを支える基盤としてkintoneを展開していく方針だ。

実際の用途としては、案件発生から請求処理、会計への仕訳データを作成するまでの販売管理だけでなく、備品や業務委託費などすべての請求書を一括で管理する購買管理、そして登記簿管理、投資部門における有価証券を管理する仕組みにもkintoneが利用されており、その他にも個人情報の管理台帳やグループ全体のリスク管理など様々な情報管理にkintoneが活用されている。

「新たな企業が立ち上がった段階で、業務に必要なPCの手配やインフラ整備などの情報がインフラ部門にリストアップされる仕組みなどもkintoneで作っています。様々な用途に広がっています」と西村氏はkintoneの使い勝手を評価する。

実際の仕組みについては、インフラ層およびネットワーク層、アプリケーション層と3階層の考え方でソリューションが導入されており、1つの事実を1度の入力で完結する“ワンファクト・ワンタイム”の状態をkintoneによって実現している。

インフラ層はAWSをはじめとした各種クラウドサービス、ネットワーク層はすべてネットワーク化された状態、アプリケーション層にはアステリア株式会社が提供するETLツール「ASTERIA WARP」が導入されており、kintoneによって構築された販売管理や購買管理のデータは裏側で仕訳データに変換され、そのまま財務会計ツールに投入されるようになっている。

なお、請求書については日本オプロ株式会社が提供する「OPROARTS」とkintoneが連携して帳票作成を行っている。

kintoneを活用した業務プロセスの整備によって、会計への仕訳データがすべてkintone上で作成されるようになり、経理部門はデータを財務会計システムにアップロードするだけで仕訳処理を行うことが可能になった。

その結果、データ精度が向上したことで締め処理を1日程度短縮することを実現した事例もあり、1人の経理担当者が担当できるグループ企業も増えた。

人を増すことなく規模を拡大することが可能になっています。実は年間1万時間を削減するという業務削減プロジェクトが社内で進行していますが、十分達成できる見込みです。この業務削減時間のおよそ半分はkintoneのおかげといっても過言ではありません」と西村氏は高く評価する。「決算時期などの繁忙期は、経理の知識があまりない法務部門のメンバーにも締めの処理がお願いできるようになりました。人手が倍に増えることで決算処理も迅速に行うことが可能になっています」とその効果を実感しているという。

また、最初からガバナンスが効いたプロセスをインフラ提供できるメリットも鹿倉氏は強調する。

「ガバナンスを意識することなくきちんと統制がとれた状態で事業がスタートできる点はとても大きい」。データもオープン化されていることで、事業ごとのモニタリングも容易に行うことができるという点も大きな効果に繋がっていると評価する。

「Excelで管理していた以前の状態では、情報がばらばらで再利用も難しい状況でした。今ではkintone上にデータが統合され、ETLを使って経営管理としてのデータを抽出し、売上ランキングなどの形で現場に提供することも行っています。データの再利用が容易になりました」とその効果を鹿倉氏は力説する。

現場からも新たなフローへの対応要望など前向きな意見が数多く寄せられるようになり、kintoneが現場の意識改革にも大きく貢献していると鹿倉氏。

「事前レビューを前提に、本体のデータに影響がない範囲で項目追加なども現場主導で行っています。活用のアイデアが広がっているのは大きな変化です」(鹿倉氏)。

今後について鹿倉氏は「読み管理や与信管理、経費精算などバックエンドに必要な業務をkintoneですべて行っていけるよう、現在プロジェクトが進行しています。最終的には案件管理や請求だけでなくあらゆるバックエンド業務を一気通貫で行っていけるようにしたい」と語る。

また、現在パッケージとして用意したバックエンドの仕組みを少しずつ事業の上流にもオーバーラップさせていき、広告の配信管理をはじめとして様々な業務に応用していくことで、これまで以上に“ワンファクト・ワンタイム”環境を整備していくことができると期待している。「できるかぎり人の手を介在させずに業務プロセス全体が機能する環境にしていきたいですね」と今後について語っている。

最後にkintoneについて西村氏は「モックアップまでがとても簡単で、プロセスを設計しながら作っていくことができる優れものです。初めて使う人が面白がって盛り上がる姿を見るにつけ“楽しいおもちゃ”のような感覚」と表現する。また鹿倉氏は「私にとっては、欲しい未来を作っていけるツールであり、まさに“未来を構築していく階段”というイメージです」とkintoneを評していただいた。

70社を超える同グループのバックエンド業務に欠かせない強力なインフラの要として、kintoneがこれからも活用されていくだろう。