ANA成田エアポートサービス
- 【業務内容】
- 旅客ハンドリング事業、運送・貨物事業、エンジニアリング事業、その他附帯事業
- 【利用用途】
- 運送業務及び貨物の搭載実績入力
全日本空輸株式会社(以下、ANA)の成田空港支店の機能を継承し、グループ3社が統合して誕生したANA成田エアポートサービス株式会社。国内・国際線のカウンターチェックイン業務や旅客の荷物ケアなどの旅客ハンドリング事業をはじめ、航空機グランドハンドリング業務などの運送・貨物事業、車両整備を中心にしたエンジニアリング事業など、成田空港に就航するANAや他社キャリアを含めた各種空港ハンドリング業務を手掛けている。
そんな同社では、従来から空港ハンドリング業務の作業実績投入を中心とした広範な業務を可能にする生産管理システムを運用してきたが、ハードウェアおよびソフトウェアの保守切れに伴い、「kintone」を用いることで新たな基盤への刷新を実施。作業実績の入力をはじめ、幅広い業務にも適用可能な情報収集基盤の構築に成功している。
そのシステム導入の背景について、業務を請け負う航空各社に対する請求業務や業務の生産性向上に向けた様々な施策を展開する業務部生産管理課の長谷川 純子氏と、ANAグループ内のIT化を推進しているANAシステムズ株式会社 グループIT推進部 第二チームの廣田 智生氏にお話を伺った。
新東京空港事業株式会社と株式会社ANAエアサービス東京、ANAエンジニアリングサービス成田株式会社の3社が2013年10月に経営統合し、ANAの国際線事業を担う総合空港運営会社として新たに始動したANA成田エアポートサービス株式会社。安心と信頼を基礎に、各種ハンドリングサービスを提供しており、急増する訪日旅客に日本が誇る“ホスピタリティ”を積極的に発信している。
そんな同社では、以前から空港内の請負業務に関する作業実績入力や作業者の勤怠情報管理、実績をベースにした請求業務など広範な業務を取り扱う「NTON(ニュートン)」と呼ばれる生産管理システムをクライアントサーバ型の構成で運用してきた。 このNTONが導入後10年を経過し、ハードウェアや基盤となるソフトウェアの保守切れを迎えるにあたり、新たな基盤への刷新を提案したと語るのはグループ内のIT化を推進しているANAシステムズ株式会社の廣田氏だ。
「以前のシステムは構築から10年が経過し、業務の変化に対応できなくなった機能が多数存在していました。また、すでに別のシステムで代替えしている機能も数多くあることが事前の分析で明らかになっていました。そこで、最小限のコストで必要な機能だけにフォーカスしたうえでシステムの再構築を図るという方針が示されたのです」。
投入された作業実績をもとに請求業務を行っているANA成田エアポートサービス株式会社の長谷川氏は「当初はNTON上で様々な業務を行ってきましたが、グループ再編による企業統合などで、勤怠システムなど一部の機能はANAグループ共通の基盤を活用するという流れが出てきました。様々な事情で使われていない機能がNTON内には数多くあり、その機能を洗い出したうえで必要な機能だけを新たに刷新することにしたのです」と語る。
巨大なシステムを構築することで硬直化し、柔軟な対応が困難だったこれまでの状況を反省しつつ、できる限りコストをおさえることを前提に、人手で可能な範囲は無理にシステム化しないという方針も定まった。
「従来のシステム開発手法ですと、画面や帳票のレイアウトをちょっと変更するだけでも多額の改修コストがかかっていました。今回は帳票部分については自社でExcelマクロを利用した帳票機能を作成・保守する方針とし、画面部分(実績データの入力から蓄積)とマクロ用データを出力する部分をクラウドサービスを利用して構築する方針としました。」と廣田氏。
実際の現場では、間接部門の依頼で入力が必要な項目や作業工程ごとに出力しなければいけない情報などがあり、現場での入力作業に多くの手間と時間が発生していた。
「例えば何月何日の何便というフライト情報を、現場は何度も入力しなければいけない場面もあります。古いOSでしか動かないクライアントアプリだったこともあり、入力端末が限られていたのも1つの原因です。現場で紙に書いて、一度Excelに転記し、その後NTONに入力、なんていう運用を行っている現場もあるほどです。だからこそ、どんな端末でも利用できる環境が我々の希望でした。また、1度入力してもらえば様々な帳票に展開できる環境を作ることで、現場の負担軽減につながる仕組みが必要だったのです」と長谷川氏。
新たな仕組みを検討する過程で廣田氏の目に留まったのが、Webデータベース製品のkintoneだった。
「一般的なWebデータベース製品では、テーブル設計などデータベースの専門的な知識がないと使いこなすことが難しい面があります。kintoneであれば、専門知識がまったくない現場の担当者でも思い描いた画面のイメージをもとにアプリの作成や修正ができるので、現場主導でシステムを改善し続けたいという我々のニーズにマッチしていました」。
また、長谷川氏は「実際の現場からの要望で修正することがありますが、kintoneであれば現場自ら業務改善に向けてシステムを作り変えることができると感じました 」と振り返る。 新たな企業としてスタートしたばかりだということもkintoneが選択された背景にある。
「統合して2年しか経過しておらず、まだ整理すべき業務も多くあります。新たな指標を定めるといったときに、まずみんなが入力でき、簡単に仕組みが用意できるということに多くの人が興味を持ち、私自身可能性を感じました」と長谷川氏。
また、クラウド環境という面でも大きな可能性を見出しているという。「ラインで働いている人は常に動いており、特定の場所に設置された固定端末での入力は時間と手間がかかります。将来的にはタブレットなどで仕事の合間に入力できる環境にしていくためにも、クラウドのような柔軟なサービスを活用するメリットは高いと考えました」(長谷川氏)。
ANAグループにおける厳格なセキュリティポリシーにサービスが適合しているかどうかも重要なポイントだった。
「サイボウズの技術者の方にも多くの時間を割いていただき、セキュリティポリシーに適合していることを事前に確認することができたので、スムーズに導入することができました」と廣田氏。
さらに、フル機能を体験版として30日間利用できたことも大きかったと廣田氏。「30日間あれば、今回の業務に適した使い方ができるかどうか試すことができ、自信をもってお勧めできました」と評価する。例えば基幹システムとのデータ連携について、従来のシステムでは自動連携を実現していたが、今回はダウンロードしたCSVファイルを必要なときに都度手作業で取り込む仕組みにすることで、事前に利用者の了承を得るべく調整を行った。「kintoneのREST API機能を活用した自動連携の実現も検討しましたが、費用対効果を鑑み、あえて手作業による連携方式としました。無理にシステム化せず人手でカバーする部分を模索することも、ITコストの最適化を実現する上で重要であると考えています」。
その結果、同社の業務実績収集プラットフォームとしてkintoneが採用されることになったのだ。
kintone採用が決まる前には業務要件が固まっていたこともあり、製品選定は1か月もかからず、決定後のキックオフからわずか2か月で本稼働を迎えるという異例のスピードでシステム刷新が行われた。「これだけ短い期間にやりきったのは初めての経験」と廣田氏は驚きを隠せない。
「作成中の実際のアプリケーション画面を現場と確認しながら開発を進めていけるのはkintoneならでは。従来の開発手法で言う”受入テスト”にあたる工程でも、画面の項目やレイアウトの調整を現場のニーズに沿って妥協なく追求することができます」と従来の開発プロセスとの違いを廣田氏は語る。実際には本稼働の2日前まで画面を触っていたというから驚きだ。
具体的な活用としては、現場が手掛ける貨物や手荷物の搭載や航空機のけん引などの作業実績を、およそ200名の作業者がkintoneに入力し、航空会社への請求や業務委託先との検収業務、ハンドリング業務の振り返りなど様々な用途に実績データを活用している。
「現場では、各航空会社との契約に沿った内容で、トラックで運ばれてきた手荷物や貨物を組み付け、機内に搭載します。搭載実績や貨物重量の入力をはじめ、なかには特殊車両に関する資格維持のために、作業担当者の実績情報をkintone上に入力することも」。
以前のNTONの仕組みでは、作業者の入力項目数に制限があり、正確な作業者の把握が難しい場面もあったが、今はkintoneで柔軟に項目数が追加でき、正しい人数及び作業の把握が可能になっている。
「1便あたりの投入人数などがきちんと把握でき、生産性を前提にした最適な人員配置の基礎データとしても活用できます」と長谷川氏。
運用しているアプリは、運航情報などのマスター管理用のアプリをはじめ、貨物搭載の実績入力用アプリや飛行機をけん引するトーイング作業実績用のアプリなど、生産管理に用いる基本のアプリは10個程度。それが業務を請け負っている航空会社ごとに作成されており、わずか導入後2か月で、50近くものアプリが運用されている状況だ。
「入力内容の異なる航空会社ごとにアプリを用意したほうが教育コストもかかりませんし、現場でもスムーズに入力できます。中にはコピーしただけのものもありますが、現場で自由に触ってもらえるように開放しています」と長谷川氏は現在の利用状況を語る。
今回のkintone導入では、基本的には標準機能だけを使っており、JavaScriptなどを使った作り込みは一切行われていない。
「いずれはシステムのアップデートなどが必ず行われますが、極力影響を最小限におさえる意図もあり、標準機能だけでノンカスタマイズな状態です。それでも製品の完成度が高いこともあり、日常の業務に十分活用できています。標準機能だけで使えるというポテンシャルがあるからこそ採用したともいえます」と廣田氏は評価する。
アプリの作りやすさを支えている1つに、その表現のやさしさがあると評価する廣田氏。 「“はじめから作成”“フォームの編集”など、とても表現が易しく直感的に作りやすいという印象です。海外の製品だと無理やり翻訳したような日本語のものもあり、正直わかりづらいものも。kintoneはすごく言葉に気を使って作られていることを実感しています」。
実際に得られている効果について長谷川氏は「業務整理が進んだことも含め、残業時間は大きく減っていると実感しています。例えば請求明細を出すにあたっては、kintone上で作った複数のアプリをつなげて表示するためのアプリを作ることで、そこだけ見にいけばすべて確認できるようになっています。1枚ずつ画面を確認するような手間がなくなり、おそらく2割程度の業務負担を削減できています」と評価する。
フライトの内容をマネージャがチェックする際にも、その情報がまとまったアプリをクリックして確認するだけ。作業負荷の軽減に大きく貢献している状況だ。 また可能な限り業務の無駄を省くBPRも継続して行っていく予定だが、毎回改善に多くの費用がかかっていては進まないケースも。
「kintoneは現場サイドで画面が変更できますし、業務に合わせてチューニングが柔軟に行えます。現場だけで変えていけるのは大きなメリット」と長谷川氏はkintoneの使い勝手を高く評価する。
できる限り現場にkintoneの存在を波及させていき、内発的に変えていきたいという意欲を掻き立てていきたいとも語る。 「kintoneがいかに面白いのかを知ってもらえれば、現場の人にも興味を持ってもらえるはず」(長谷川氏)。
なお、実際の現場にオペレーション教育を行ったのは、各部門のチーフを集めて行われたが、実質的には1人1時間程度。それだけで実績入力が簡単に行えるようになったという。 コストの面では、クラウド化したことで基盤の運用保守費用も大きく削減できた。
「ハードウェアと業務のライフサイクルは本来異なっているものの、老朽化によって入れ替えが必要なタイミングがどうしてもやってきます。今回はその強いつながりを断ち切ることができ、ハードウェアにシステムが引きずられることがなくなったのは大きい」と廣田氏はシステムの新たな姿についても高く評価する。
なお、今回は株式会社内田洋行が開発パートナーとして参加しているが、「開発実績も豊富でハンズオンのセミナーでもお世話になりました。セキュリティポリシーの確認時などサイボウズの技術者にも協力いただくよう動いていただくなど、しっかりと対応いただきました。いろいろ助けていただいて、内田洋行にお願いしてよかったと実感しています」と廣田氏は高く評価する
今後については、まだ請求に必要な情報がExcelや手書きで行われているところが残っており、これをkintoneに移行していくように計画している。同社のパートナー社にも一部開放し、実績入力を行ってもらえるような環境づくりを整備していきたいと長谷川氏。
また、来年以降はハンドリング業務を行う現場にもタブレットが広く配布される計画となっており、どこからでも入力できる環境が整うことになる。「例えば何か不具合があれば、タブレットで写真を撮ってkintoneを経由して情報を報告するといったことも可能になります。いろいろな応用が期待できます」。
ほかにも、ANAが保有するシステムを利用して業務改善のためのデータ分析に活用しているが、そのためにはANAの情報と同社固有の情報をうまくミックスする必要がある。 「ANAから出力されたレポートとkintone上で持っている情報を合わせ込むことで、我々に必要なレポートが作れるようになるのでは、といったことも社内では話が出ています」と長谷川氏は今後の応用にも期待を寄せている。
最後に、kintoneについて長谷川氏は「様々なアイデアが生まれてきますし、みんな楽しみながら作っていけるという喜びがあるものです。私はシステムに絡むことが初めてでしたが、自分で作れる、変えられるという気軽さはとても面白いと感じています。そういう意味では自由という言葉がしっくりきます」と表現する。
また廣田氏は「とても柔軟で自分のイメージが形にしやすく、色付けも自由で形が決まったあとはしっかり固まってくれます。私には“紙粘土”というのがぴったりくる言葉です」とkintoneについて表現していただいた。
サイボウズのクラウド・パッケージ製品全般に関するご相談から導入まで一貫して対応。グループウェアとしての単独利用から、基幹業務システムを始めとした他システムとの連携ソリューションなど、お客様のご要望に応じた最適なソリューションを導入実績を基にご提案いたします。
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