アルペン 様の導入事例

アルペン

【業務内容】
小売業・EC事業
【利用用途】
顧客管理、発注管理など
  • IT未経験者でもわずか2か月で業務アプリ構築、何でもできる想定外の機動力
  • 内製化に向けた強力な基盤として採用したkintone

スポーツ用品店を全国に展開している株式会社アルペンでは、小売業に求められる環境変化のスピードに追従するべく、システムの内製化を強力に推進。そのための重要な基盤としてkintoneを採用している。その経緯について、執行役員 デジタル本部長 兼 情報システム部長 蒲山 雅文氏および情報システム部 デジタルプランニンググループ チーフ 武田 誠司氏にお話を伺った。

【課題】現場のノウハウを可視化、集約する顧客管理の基盤が必要に

1972年に15坪の小さなスキーショップからスタートし、2022年には創業50周年を迎えた株式会社アルペン。スポーツデポなどの総合スポーツショップやゴルフ5などのゴルフ専門店をはじめ、アウトドア専門店やプライベートブランドショップを運営し、全国約400店舗を展開している。“スポーツをもっと身近に”をパーパスに掲げ、誰もがスポーツを楽しみ、健康で充実した日常を送ることができる世界を目指している。

そんな同社に蒲山氏がジョインしたのが2019年。当時は社内システムの開発を外部ベンターに依頼していたが、小売業における業界変化の激しさに柔軟に対応できる環境を模索。稼働までに数か月から1年以上を要するウォーターフォール型の開発から脱却し、素早く環境整備できる内製化に取り組むことを決断したと蒲山氏は当時を振り返る。ただし、店舗で一定年数の販売経験を積んだ従業員が情報システム部などの本社部門へ配属されるキャリアパスを基本としている同社では、ITの専門家が育ちにくく、高いスキルが無くても開発しやすいノーコード・ローコードツールような開発ツールの導入が、システム開発の内製化には不可欠だったという。

そんななか、フィッターと呼ばれるクラブ販売に特化した専門スタッフを多く抱えるゴルフ5では、顧客情報の管理が属人化しており、担当フィッター不在時に接客が滞ってしまうといった課題が顕在化。過去の注文情報も把握しづらい状況にあり、顧客情報を店舗全体として把握・共有する仕組みが求められていた。また、商談の中でどういった情報を顧客から引き出して成約に繋げているのかという接客ノウハウを共通化、標準化して横展開できれば全体の販売力の底上げに繋がるという仮説はありつつも、なかなか実現まで漕ぎつけることができていなかった背景もあった。

「フィッターそれぞれが独自に工夫を重ね自分達のスタイルを磨き販売力を向上させ、顧客との信頼関係を大切にしてきたことで今のゴルフ5のシェアがあるのは間違いありません。しかし、フィッターが店舗を異動してしまうとそのお客様との過去のやり取りを調べることが困難で、フィッター不在時には紙の注文書を探し出すのに膨大な時間を要するなど、属人化した管理が続いていました。現場が持っているノウハウを一元管理して共有する様な仕組みを実現できないかと相談を受けたのです」と蒲山氏は説明する。

執行役員 デジタル本部長 兼 情報システム部長 蒲山 雅文氏

【選定】内製化に不可欠な “開発ツール”として最適だったkintone

システム検討当初はCRMという言葉が浮かんだものの、対法人の営業が利用するような営業支援系のソリューションには高機能なものが多く、ITに不慣れな現場のフィッターが使いこなすにはハードルが高いことを危惧したという。また、導入後にも多くの仕様変更、機能追加が発生することが考えられるなか、情報システム部のリソースではそれらを運用していくことが難しく、「結局高単価なベンダーに依存してしまいコスト体質が悪化してしまう懸念もあった」と蒲山氏。そこで、現場にとって使いやすく、かつ自分達でアジャイル的に機能改修を繰り返していけるような開発ツールを中心に候補を検討することに。また、店舗への展開が容易なWebブラウザと操作性が高いスマートフォンアプリ双方で利用できるものを候補に挙げるなか、白羽の矢が立ったのがkintoneだった。「使う側も作る側もそれほどITリテラシが高くない状況でも、kintoneであれば導入も定着もさせていけそうだと考えました」と蒲山氏は当時を振り返る。

また、開発を進めていく中で徐々に明らかになる細かな機能要件に適したプラグインが豊富にあることも、当初感じていなかったメリットの1つだと評価する。「バーコード出力や帳票作成、kintoneアカウントのない方からのアンケート式のフォーム入力など、その都度発生するビジネス要件に対応できるプラグインが豊富に存在している。結果的に振り返ると、プラグインの提供がここまで揃っていなければkintoneのカバー範囲がここまで拡がることもなかったのではないかと感じています」と蒲山氏。

従来のウォーターフォール型の開発が中心だったところから、アジャイル的に内製化していくというアプローチの変化については「確かに開発手法の違いを大きく感じたのは正直なところです。それでも、スピード感を持ってやり方を変えていけるのではという大きな期待を持つことができました」と武田氏は評価する。

結果として、顧客情報を管理、共有するための顧客カルテ基盤として、kintoneが採用されることになったのだ。

情報システム部 デジタルプランニンググループ チーフ 武田 誠司氏

【効果】内製化に向けた欠かせない基盤として情シスに成功体験をもたらすkintone

店舗を中心とした業務活用に広がるkintone、わずか2か月でローンチできたアプリも

現在では、社員やアルバイトを中心にkintone活用が進んでおり、現場スタッフ含めた全国400店舗の従業員が日々kintoneにアクセス。本社側では、店舗のオペレーションを支援する店舗サポート部の従業員が利用するなど、基本的には店舗を中心とした業務活用が主な用途となっている。新たなプロジェクトが発足するごとにスペースを用意しており、その中に作られたアプリは大小合わせてすでに30を超えた。「物流などの基幹系やバックオフィス領域の管理系の仕組みを除き、顧客との接点に関わる仕組みの6割は、kintoneにて内製化できている状況です」と蒲山氏は見ている。

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同社が最初に手掛けたのは、先述した「ゴルフ5プレステージ」での顧客管理の基盤となる「顧客カルテ」アプリだ。顧客カルテは、購買履歴やゴルフクラブのフィッティング結果、接客履歴などを記録管理するアプリで、顧客マスターは別の会員管理システムとAPIにて連携。なお、現在は全国200店舗を超える通常のゴルフ5店舗向けの顧客管理システムも別途kintoneにて構築しているが、店舗から異動してきてわずか数ヶ月の従業員がゼロからほぼ一人で構築するなど、今や内製化を強力に後押しする存在となっている。

▼顧客カルテアプリ

また、新たな事業としてスタートさせた、中古のキャンプ用品を店舗で買い取って販売する「中古買取システム」アプリもkintoneにて開発。この仕組みには、買取時の査定金額算出や在庫管理など、事業運営に必要な機能が備わっているが、わずか2か月ほどで内製化し運用をスタートすることに成功している。「当初はExcelで買取品を管理し、事業の拡大を見極めながらシステム化していくという経営側の方針でしたが、中古品は同じ商品でも状態が異なるため、単品管理が必要不可欠です。店舗従業員がExcelで管理していては業務が回らなくなることを見越して、我々の方からkintoneでのシステム化提案しました。2か月足らずでkintoneの標準機能だけで業務基盤が整備できたことは、情報システム部門にとって大きな成功体験でした」と蒲山氏。

▼中古買取システムアプリ

成功を機にPOSシステムや発送システムも組み込んだ受注管理システムを構築

そして現在取り組んでいるのが、店舗における受注管理システムだ。店舗に在庫がない場合や自宅への配送を顧客が希望した場合、従業員専用のECサイト経由で注文を登録し、kintoneで構築した受注管理システムに連携。その注文データを店舗のPOSシステムから呼び出し、店舗レジにて会計を実施。会計後は、受注管理システムからEC側の基幹システムに出荷指示データを送り、商品手配が完了するOMOの仕組みだ。

また、同社が出店しているYahoo!ショッピング上で商品を注文した際には、受注管理アプリと連携して店舗側の在庫を確保する指示を出し、顧客が店舗で商品を受け取ることができるようになっている。 「従来はこのようなお客様からの注文を管理しPOSシステムに連携する仕組みは、全てベンダーに依頼してスクラッチで構築していましたが、今回旗艦店となるAlpen TOKYO向けの施策として新たな受注管理システムをkintoneで構築しました。現在全社的な見直しを進めている次期店舗システムにおける受注管理はすべてkintoneに置き換えていく計画で、kintoneがカバーする範囲が一気に拡大していくことでしょう」と蒲山氏は力説する。

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情報システム部一人あたりの影響度が増大、現場に眠る貴重なデータを全てkintoneで拾い上げたい

kintoneの採用によってアジャイル開発のアプローチが可能になり、業務アプリの構築に劇的な変化をもたらした。「kintoneのおかげで、画面を見せながら要件を詰めていくことが可能になり、ローンチ時点でのユーザー部門側の納得感も飛躍的に向上し、要件定義不備による品質悪化も回避できるようになりました。」と武田氏は評価する。逆に、最初の取り掛かりの部分に重きを置くことの重要性を体感しているという考え方の変化も、良い方向に向かっていると分析する。

また、情報システム担当が管轄可能だったシステム領域の幅が、以前に比べて広がったことも大きな効果の1つだと評価。「内製化をきっかけに、情報システム部メンバーが会社に与える影響度や、活躍の幅はどんどん大きくなっています。その結果、社内の他部署から情報システム部に対する見え方も変わってきており、評価の声も寄せられています」と蒲山氏。現場業務を改善していくための情報システム部の武器として、kintoneが大きく貢献している状況にあるわけだ。

それ以外にもkintone導入による副次的な効果として、コスト削減への貢献が非常に大きいという。「これまでシステム開発には億単位の費用をかけ、年間数百万から数千万単位でランニングコストが発生してきました。それらをkintoneに置き換えた領域では、kintoneのユーザー利用料金だけで済みますし、さまざまな業務に広げていけばいくほど1アプリあたりのコストは下がっていきます。経営的な観点から見ても、このコスト圧縮には圧倒的なインパクトがあります」と蒲山氏。仮にkintoneで構築してきたアプリを全てスクラッチで作った場合と比べると、おそらく10分の1以下のコストで実現できているのではと試算する。

ローコードツールとしてのkintoneについては、たとえシステム開発経験のない店舗出身の従業員であっても、数ヶ月後には全店舗で活用されるようなアプリが開発できるなど、その操作性の高さを高く評価している。「受注管理システムのような事業の中心を担う基幹系の仕組みに採用できたのも、kintoneの開発ツールとしての高い有用性があったからこそ。初心者にも使いやすいシンプルな画面構築の機能に加え、クラウド上のDWHや会員管理システムとAPIでつなげたり、ETLを駆使してデータ連携したりすることで、大規模な仕組みが構築できる高い拡張性を備えていることもkintoneの特徴だと感じています。使えば使うほど無限に可能性が拡がっていくと実感できているのは事実です」と蒲山氏。

受注管理の安定運用とともに、新たな領域にもkintone活用を広げたい

現時点では、2022年4月の「Alpen TOKYO」オープンに合わせて、受注管理システムの一部の機能を全店舗で本格的に稼働させた段階にあり、これから受注管理システムのカバー範囲を一気に拡げ、スクラッチで開発された現行システムからkintoneに置き換えを進める計画だ。「当面の間は、プロジェクトリーダーを務める受注管理システムの構築を成功させていくことに注力しています。これが軌道に乗れば、kintoneの使い方の幅もさらに広がるはずですし、情報システム部としての自信にもつながり、さまざまな業務への提案もしやすくなると見込んでいます」と武田氏。

受注管理システムを軌道に乗せていくことはもちろんだが、現時点で各部門の課題も顕在化しており、新たな展開についても検討していきたいという。「kintoneのおかげで各部署からの相談や悩み事を情報システム部が直接的に解決できる環境が整いました。当社ではいろいろな種類の内製化ツールを活用していますが、使いやすいインターフェースを持つ業務アプリが構築でき、かつデータが蓄積できるのはkintoneだけ。特に店舗の幅広いスタッフが活用するツールの構築は、今後もkintoneに頼っていくことになるのは間違いありません。」と今後について蒲山氏に語っていただいた。(2022年7月取材)