阿智村 浪合地区 様の導入事例

阿智村 浪合地区

【業務内容】
自治会業務
【利用用途】
鳥獣被害対策、防災対策、災害対応
  • kintoneとLINEを連携した通報システムで、サルなどによる鳥獣被害が1/10に激減
  • 防災対策、災害対応など将来的な活用も見据えた情報共有基盤としてkintoneを採用

長野県下伊那郡の西部に位置する阿智村では、鳥獣被害対策として、鳥獣の目撃情報や被害状況をリアルタイムに通報する仕組みに、LINEと連携させたkintoneを活用。蓄積された目撃情報をもとにパトロールを強化して被害軽減に向けた活動を推進しながら、防災対策など自主防災組織を整備するための基盤としての期待も高まっている。
この鳥獣被害対策を主導的に行う阿智村 浪合自治会の自治会長 稲垣 孝光氏、副自治会長 伊藤 今朝文氏および川口 秀夫氏、そして地域おこし協力隊として参加している伊藤 志野氏にお話を伺った。

【課題】鳥獣被害の対策に欠かせない情報の集約が急務に

長野県の南端、下伊那郡の西南に位置し、山間地に56の集落が点在している阿智村。1956年に町村合併推進法の適用を受けて旧阿智村が誕生し、その後2006年には浪合村、2009年には清内路村と合併することで、現在の阿智村が形成されており、世帯数の多い伍和自治会をはじめとした8つの自治会に分かれている。

その自治会の1つである浪合地区は、標高1,000m近くある環境を活かしながら、トウモロコシなど高原野菜を多く栽培している。一方で、サルを主とした農作物に対する鳥獣被害が近年増えており、その対策に苦慮していた。
「私が浪合地区に着任する前からサルの被害が増えており、自治会としても対策に向けたさまざまな取り組みが検討されてきました。その対策に向けて、まずは被害に関する情報を集約すべく、野生動物の生態を学びながら皆さんからのお話を集めて情報を共有していく試みを始めたのです」と伊藤氏は当時を振り返る。

当初は目撃情報や被害状況を大きな地図にメモするなど紙ベースで情報集約を進め、その後はExcelなどを駆使して情報を整理していったが、着任したその年に大きな被害が発生することに。「パトロールを強化したことで一定の効果は得られましたが、次年度に向けて効率よく情報を集めて皆さんに通知していく仕組みが必要だと考えたのです」と伊藤氏。

阿智村 浪合自治会 地域おこし協力隊 伊藤 志野氏

【選定】情報共有基盤としてのkintoneが山間地域の課題に応える

他の山間地域で鳥獣被害対策に活かされていたkintoneに興味を持つ

鳥獣被害を防ぐための活動は、自治会による活動はもちろん、電気柵などの資材補助や駆除に向けた猟友会への依頼など自治体からの手厚いサポートも継続して行われている。それでも、現場にて収集した情報をうまく活用する手立てについては具体的な方策が見えない状況が続いていた。

そんな状況のなか、地域おこし協力隊の研修に参加した伊藤氏が聞きつけたのが、他の山間地域で鳥獣被害対策として情報集約に活用していたkintoneだった。「kintoneにて被害状況をリアルタイムに記録し、具体的な対策に役立てるという取り組みが話題になっていました。お話を聞いたときは面白そうな試みだと考えましたが、私自身ITに詳しくないため、具体的にイメージがつかめなかったのが正直なところです。そこで、少しでも前に進めようとサイボウズに直接連絡したところ、kintoneの導入支援をしているTWORKSの筒井さんをご紹介いただいたのです」とそのきっかけについて語る。

kintoneによる鳥獣被害対策に関して自治会長も含めて話をしたところ、すぐに了承されることに。「猟友会も含めて被害対策に取り組んでいるため、多くの人に広く情報共有できるのであればぜひやってみようという話でまとまりました。私自身、会社勤めのころに情報を集めることを仕事にしていた経験から、情報がないと有効な対策も実施できないことは認識していました。伊藤さんからの提案にすぐに賛成したのです」と稲垣氏。

阿智村 浪合自治会 自治会長 稲垣 孝光氏

将来的な活用も見据えた使いやすい基盤が必要、開発支援パートナー企業の存在が大きな後押し

kintoneで環境整備する決断ができたのは、隣村に在住しているTWORKSの筒井氏の存在も大きかった。「デジタルに詳しくない我々にとって、偶然ではありますが身近に相談できる方がいたことは幸いでした。やりたいことをお伝えしたときに、それを具体的な形にして提案をいただけたことが大きかった」と伊藤氏。他の自治体が行っていたような情報共有のアプリをすぐにプロトタイプとして筒井氏が作成したことで、全員に具体的なイメージが伝わったことも、周りの共感を得ることにつながったという。

具体的な要件としては、年配の方も少なくない浪合地区だけに、ITに詳しくない方にも使いやすいものが大前提だった。そこで、多くの人が日常的に活用しているLINEと連携し、目撃情報や被害内容が報告できるような仕組みを希望した。「スマートフォンを持っている方であれば直接情報が登録しやすいことが大切です。もちろん、支所に直接お越しいただいて被害に関してご連絡いただく方も少なくないため、浪合振興室でも簡単に入力できるものが必要でした」と伊藤氏。

TWORKS 筒井 康仁氏

使いやすさにこだわったのは、鳥獣被害の状況把握という使い方だけで終わらせるつもりがなかったためだ。伊藤氏が意識していたのは、この地区で課題となっている防災などの仕組みにも将来的に応用できるのではという思いだった。「鳥獣被害対策として多くの人とともに一緒に作り上げていくことで、他の目的に利用する際にもすぐに扱えるようツールに慣れてもらいたいという思いも強かった。その意味でkintoneは最適だと考えたのです」と伊藤氏は力説する。特に山間部においては、万一の災害発生時に自治体の支援がすぐに行き届かないケースもあるため、自治会のなかだけでも迅速に災害対応できる環境づくりが必要不可欠だった。安否確認などの通報システムへの展開も含め、分かりやすい基盤が求められたのだ。

その結果、誰でも使えるシンプルな仕組みで情報が通報できる仕組みとして、kintoneが採用されることになった。

【効果】現場の一体感を醸成し、効率的な鳥獣被害対策として貢献するkintone

LINE Botを経由して情報を入力、効率的なパトロールの一助に

現在は、非営利団体向けの取り組みとしてサイボウズが提供しているチーム応援ライセンスを活用し、自治会の役員含めて6名ほどがkintoneに直接アクセスできる環境となっている。現場で鳥獣の目撃情報などを入力する際にはLINE上で稼働するLINE Botの問いに答える形で情報が簡単に入力できるようになっている。実際にパトロールを行うメンバーを中心に20名ほどがLINE経由で情報を報告している状況で、ピーク時には1日6件ほどの通報が寄せられている。

「浪合鳥獣対策bot」と呼ばれるLINE Botでは、鳥獣の種類や被害状況の内容などを一問一答形式で回答し、位置情報や画像情報もbotの指示通りに進めていくだけで簡単に情報登録できるようになっている。その情報がkintoneにレコードとして記録され、ポータル上で鳥獣の種類別の統計が簡単に可視化できるようになる。

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必要に応じてkintone側からbotに対して一斉通知を行い、現場に向かってもらうような仕組みも実装済みだ。普段から自治会運営においてもLINEを活用していたこともあり、負担なく情報共有できているという。

改善しやすいプラットフォームとしてのkintoneがメンバーの一体感を醸成

今回kintoneにて情報共有が可能になったことで、自治会のメンバー含めた参加者の一体感が醸成されたことも大きな効果だと伊藤氏は評価する。「1回のパトロールで平均45kmほど車で巡回、必要であれば見張りを行うこともあります。シーズンを通し多い方では860kmもパトロールを行うことになりますが、位置情報の共有によってサルなどの鳥獣が目撃された場所を中心に重点的かつ効率的なパトロールが可能になりました。闇雲に歩き回らずとも楽しく巡回できるようになるなど、モチベーションの向上にもつながっています」。

副自治会長の伊藤氏も「これまではサルを脅すための花火しか持っていませんでしたが、スマートフォンでkintoneを使うことでパトロールしているメンバー全員が情報を持つことができています。まさに現場に一体感を生み出しています」と評価する。共有された情報をもとにパトロールを効率的に行った結果、被害は10分の1までに抑え込むことに成功しているそうだ。

また、被害状況の把握についても、これまでは自治体に設置された農業委員会から被害に関するおおよその時期とその状況が報告されていたが、kintoneによって情報が蓄積されたことで、どんな作物がどこでどの程度の被害だったのか正確な情報が把握できるようになったのも大きな効果だという。

鳥獣による被害状況をグラフで見える化


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kintoneとLINEを使った情報共有については、新たな可能性に期待しているようだ。「使ってみると、これまで思いもしなかった使い方にも広がる可能性を感じています。この仕組みをきっかけにいろんな目的に応用できそうです」と川口氏は期待を寄せている。なお、現在は自治会独自での導入となっているが、自治体である阿智村としても、防災対策の一環として期待される安否確認のインフラとしてkintoneに興味を持っている状況だという。

kintoneの魅力は、現場の意見を取り入れながらプロトタイプを練り上げていき、誰にでも使えるレベルまで改善を進めていきやすい点だと伊藤氏。「筒井さんが寄り添っていただき柔軟に対応いただけたことはもちろん、すぐに改善できるプラットフォームとしてのkintoneがあったからこそ。非常に使いやすい仕組みが整備できました」と高く評価する。

なお、kintoneの展開については自治会を中心に説明会を何度も行い、その都度改善を進めていきながらアプリを完成させている。
実際にアプリの提案から開発を手掛けた筒井氏は「シンプルに目撃情報を入力するだけでなく、画像や位置情報、被害状況なども簡単に入力したいなど多くのご意見をいただき、その都度ブラッシュアップしていきました。当初はkintone単体での運用をイメージしてプロトタイプを作成しましたが、スマートフォンの画面サイズでkintoneにアクセスするのは大変だというご意見から、LINEとの連携を進めていきました。私自身LINEとの連携は初めての試みで、LINE APIなどの情報を探しながらのスタートではありましたが、自分で調べながら、サイボウズにも協力を仰いだ結果、使いやすい環境が整備できました」と説明する。

阿智村 浪合自治会 副自治会長 伊藤 今朝文氏

阿智村 浪合自治会 副自治会長 川口 秀夫氏

村民含めたkintoneの啓蒙活動を続けながら、自主防災組織に向けた環境を整備したい

現在は鳥獣被害対策アプリを中心に運用しているため、自治会役員やパトロールを行ったメンバーのみが活用している段階だが、今後は村民にも広く利用してもらえるような啓蒙活動を強化していきたいという。「鳥獣被害対策については今後も継続して行っていくことになりますが、来年以降はさらに人数を増やして多くの方に利用していただけるよう普及活動に取り組んでいきたい」と伊藤氏。

また、阿智村では村内の各自治会ごとに自主防災組織を立ち上げていくことを求めていて、浪合自治会では、行政区分にとらわれない独自の組織編成をする中で情報共有基盤としてのkintoneの活用を広げていきたいという。「安否確認などすでに地区において課題となっているテーマに向けた環境づくりにも取り組んでいきたいと考えています。スマートフォンを持っている方であれば自分で安否が通知できるようになり、その分ほかの要支援者に手を回せるようになる。自主防災組織づくりの基盤として拡張していきたい」と稲垣氏はkintoneに期待を寄せている。

すでにサイボウズにて用意している安否確認のテンプレートをダウンロード済みで、自治会メンバーから意見を聞きながら、使いやすい仕組みを整備していく計画だ。他にも、役場から自治会向けに送られてくる情報を集約して周知するなど、自治会運営の仕組みとしてもkintoneを応用していきたいと語る。

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安否確認以外にも、災害時の情報共有には崖の崩落状況や半壊全壊など家屋の状態といった情報が、実際の画像と位置情報を合わせて通報できるようになる。「我々のほうでいち早く情報収集できれば、役場側でも状況に応じて動けるようになるはずです。この地区で運用が進めば、村としても1つのモデルとして他の地区に展開していくという流れも作りやすい。我々がモデルケースとして進めていけることが重要です」と稲垣氏。

情報がいち早く蓄積、共有でき、コミュニケーションツールとしても活用できるkintoneの利便性を自治体にも理解してもらうことで、いずれは役場主導でもkintoneを利用してもらえるような流れを作っていきたいと今後について語っていただいた。(2021年11月取材)